魔法使いゼノン、脱走する
第3話
魔法とは、魔力を媒介にさまざまな事象を操ることである
時として魔法は使用者に莫大な富と名声をもたらす豊穣の力となることもあれば他者から富も名声も命も何もかも奪い去る破壊の力にもなる
魔法に罪はない
罪深いのはいつだって魔法に取り憑かれた者である
魔法大全 32ページより引用
「と、このように!魔法とは使用者によってもたらす結果が違う!たとえば火の魔法。」
そういうと先生は指先に火の玉を発生させ生徒たちに見せる
「この火、善なる者が使えば暗闇に明かりを灯し、凍えた体を暖め安らぎを与える。だが悪なる者が使えば…恐怖を与える」
次の瞬間教室に入ってきた羽虫に向かって火を飛ばし一瞬で焼き殺した
騒然とする生徒たち
「よいか未来の魔法使い達よ。決して魔に飲まれるな!魔法は偉大なる神々が我々に与えてくれた豊穣と調和の力だ!己の快楽と他者への恐怖のために魔法を使えば、それは罪だ。裁かれなければならない。」
ゴグり…と唾を飲み込み生徒たちが緊張する
「我々が使う魔法は普通の魔法とは違う。神代魔法と呼ばれる神の魔法だ。先ほどの火魔法よりもずっと強力で与える影響力は計り知れない。だから…善きことのために魔法を使いなさい。私が若い頃に祖父から聞いた偉大な格言がある。」
「それは…何ですか先生…?」
「大いなる力には、大いなる責任がとも…」
ドガーン!!!!
その時、空中から何かが高速で飛来し先生に衝突した
「せ、先生いいいいいいいいい!?」
「先生が死んだ!?」
「この人でなし!!」
突然の出来事に驚愕を隠せない生徒たち
「勝手に殺すでないわ!!」
「よかった!先生無事d…うわああああああああ!!」
「ワイバーンだあああああああ!」
どうやら先生に衝突したのは竜種のワイバーンだったようだ
「ぶはあ!はあはあ…くそ!やっぱり上手くいかねえ!新しい精神操作の"印"!どうしても上手く制御できねえ!くそったれがあ!」
衝突して倒れたワイバーンの背中から目付きと口調の悪い少年が這い出てきた
「あははwやっぱりオセロットには精神操作系の魔法は無理だってwその直情的な性格じゃ向いてないよ~。」
目付きの悪い少年を小馬鹿にする声が
ワイバーンが降ってきた方向から聞こえてきた
そこにはニコニコと笑う少年が空中に浮遊していた
「うるせえぞゼノン!俺はどうしてもあの洗脳イカれ魔女に一泡吹かせてえんだ!あいつの頭いじくって恥ずかしいポーズとか取らせてやる!
おい!いつまでそこで傍観してる気だ!このワイバーン消せ!邪魔だ!」
「はいはい。まったく怒りやすいんだから。イレイズ。」
少年がそう唱えるとワイバーンが光に包まれて消滅した
「おい!続きすっぞ!ついてこい!」
「了解。次はどんな生き物で試す?グリフォン?ペガサス?あ、難しすぎるからスライムとか~w」
「お前で試してスライムを食わせてやる!」
「いやーんwこわーいw絶対にできないだろうねw」
ッキ!!とオセロットが獣の形相でゼノンを睨んだ
ゼノンは気にも止めずニコニコしていた
「おいコラバカ者ども!なにやっとるか!」
「あ!お祖父様!いたんだ。」
「あ?じじい?いたのかよ。」
「ああいたよずっとな!お前らのせいで傷も"いた"いよまったく!」
「………」
その時、教室全体が静まり返り、温度が2度低下したらしい
「さすがお祖父様!魔法を使わなくても部屋を涼しくできるんだね!あと1度下げてもらっていい?」
「くっ!殺せえ!」
教室は冷えたが心は恥で燃えたぎったようだ
「ってそんなことはどうでもいいんじゃ!せっかくの授業を台無しにしおって!しかもまた魔法を悪用したな!洗脳の練習のために現実を歪め、生き物を生み出し身勝手に殺した!なんたる非道なふるまいか!」
先生が少年らに激昂する
「ありゃりゃあ~これは長くなりそ。」
「おいゼノス。」
「分かってる。」
「あ!待て!まだ説教が…!」
「ジャンプ」
そう唱えたとき、既に二人の姿は無かった
「………」
「あの…先生?」
「…ちょっと2人とも殺してくる」
その時の先生の顔をみて生徒ギユウは思った
この男は修羅だ
戦うこと以外全て捨てた男だ
これが、魔に取り憑かれた魔法使いなのだと
あと普通に顔面が真っ赤で血管が浮き出ているのがキモかったので自分はこうはなりたくないと
その日の夜
「はあ~…まったくお祖父様ったら、あんな鬼みたいな形相で追っかけてくるなんて。魔法を正しく善く使えってほんとうるさいんだから。魔法はもっと自由であるべきなのに…。ワイバーンを生み出して消しただけでしょ?何か問題あった?」
教室破壊、お祖父様への怪我、生徒たちへ恐怖を与えた過去が思い出す
「ん~まあちょっとは…あったかな?まあちょっとだし!壊れた教室もお祖父様の怪我も時間を戻して直したし、子どもたちにとってもいい勉強になったでしょ!±でいうならプラスだよね!」
ゼノンはそう自分を誤魔化しながら床につく
「ふう、もう14年だ…14年間も僕の世界はここだけ…明日で15年になる。退屈だ…。」
3歳の時からいろんな本を読み始めて何度も心が踊った
世界は僕の想像の何倍も広大で、生命に富み、深い歴史があるのだと知った
いつか実際に見てみたい
本に載っている景色、生物、文化を
「明日で僕は成人だ。子供じゃない。大人にとやかく言われる期間は終わったんだ。たとえ外に出て死んだとしてもそれは自業自得。僕は…自由なんだ…!」
少年は起き上がり旅に出ることを決意する
世界の全てを知るために
そして
ガチャっとノックもせずに扉が開いた
「ゼノン、こんばんは。今日も一緒に寝てもいいかしら。最近あなたに抱かれていないと熟睡できないのよ。ねえ…いいでしょ♡」
「………うん…いいよ…。」
この女の子から…逃げるために
翌日
朝日が少女の顔に差し込む
「ん…ゼノン…ちゅーして……ん?」
おぼろげに起きてとある違和感に気付く
「何…これ?…抱き枕?」
抱き締めていたはずの彼が抱き枕に変わっていた
こんなことは初めてだ
彼は朝に弱く起きるのも遅い
だから毎朝私がこっそり彼の顔にキスした後
起こしてあげていた
ゾッと嫌な予感がした
ふと彼の机を見ると手紙が置いてあった
「!?」
見るまでもなく動悸が走る
ベッドから出て駆け足で下の階の食卓に向かった
「お義父様方!!」
「ああセレナちゃんおはよう。いい天気だね~。」
「どうしたのセレナちゃん?今日はやけに降りてくるのが早いんじゃないかい?」
「どうかしたかの?あのバカ者に尻でも触られたか?」
「ちょっとお爺さん!朝から止めてくださいよ。」
どうやら誰もこの異常事態に気付いていないようだ
「これを見てください!」
バン!っとテーブルの真ん中に手紙を置く
自ずと皆の視線が手紙の内容に向く
手紙にはこう記されていた
「親愛なるお祖父様、お婆様、お父様、お母様へ、ちょっと世界を探検したいので旅にでます。満足したら帰って来ますので探さないで下さい。んじゃ、いってきまーす!PS.お土産期待してて下さい!」
「…………」
ひとときの静寂が訪れていた
「おはようございまーす!」
ドン!っと扉を蹴り上げると同時に
オセロットが家に入ってきた
「ゼノンいますか?ちょっと用事があるんですけ…ど…なにこれどういう状況?ん?手紙?」
オセロットが手紙を取り上げる
「へええ……あいつ、脱走したんだ。」
「……マジですかああああ!?」
秘境中に、家族の悲鳴が響いた
「うお!?ビックリした!なんだ急に叫んで!?」
「バカのあなたには分からないでしょうね。彼が一体何をしたのか…。」
セレナがグッと拳を握りしめる
「はあ!?誰がバカだこの野郎!ってあれ?お前洗脳イカれ魔女じゃねーか!なんでゼノン家にいんだよ!カチコミか!家族全員洗脳しに来たんだろ!やっぱ魔女だなオメー!修行の成果今見せてや…」
「うっさいわねこのバカ!ドミネート!」
彼女がそう唱えるとさっきまでうるさかったオセロットが静かになり棒立ち状態になった
「そこで一生恥ずかしいポーズでもとっていなさい!」
オセロットがセクシーポーズをとり始めた
こうして、魔法使いゼノンは旅に出たのでした
神々の泉は、今日も平和です
第4話「神と勇者、出会う」に続く




