空の港町ベルンガルド
翌朝。
《グランドカーゴ》は高度を下げ始めていた。
窓の外。
広がっているのは巨大な断崖都市。
岩山へ張り付くように築かれた街並み。
無数の吊橋。
風車。
飛竜用発着塔。
さらに。
崖下には巨大な雲海が広がっていた。
「おぉぉぉ……」
タマが窓へ張り付く。
「すっげぇ……」
フィルニアまで目を輝かせていた。
「ほんと空の国なんだな」
シェルファが静かに説明する。
「中継空港都市ベルンガルドです」
「空王国西部最大級の交易拠点になります」
ミーコが周囲を見回す。
既に上空には大量の飛空艇が飛んでいた。
大型輸送船。
小型連絡艇。
飛竜便。
空を埋め尽くすほどだ。
「忙しい街なのね……」
「ここは各国物流の中心ですから」
アークが答える。
やがて。
《グランドカーゴ》が巨大停泊塔へ接続される。
ゴ ォ ォ ォ ォ……
重い振動。
そして。
空王国港町ベルンガルドへ到着した。
甲板へ出た瞬間。
「うわぁ……」
ユキが息を呑む。
風が気持ちいい。
高い。
遠い。
まるで空の上へ街が浮いているみたいだった。
市場通りには既に大量の人。
鳥人族が多いが、他種族もかなりいる。
交易都市らしい。
その時だった。
『《グランドカーゴ》だ!!』
『戻ってきたぞ!!』
『第二風脈帯通ったって本当か!?』
港側がざわつき始める。
どうやら通信途絶が起きていた事は伝わっていたらしい。
整備員達が慌ただしく動いている。
アークが小さく息を吐いた。
「思ったより騒ぎになってるな……」
シェルファが冷静に答える。
「第二風脈帯で通信が切れれば当然です」
その時だった。
「アーク!!」
甲板下から女性の声が響く。
勢いよく駆け上がってきたのは、茶色い翼の鳥人族女性だった。
短髪。
活発そうな顔。
工具袋持ち。
完全に現場系である。
女性はアークを見るなり叫んだ。
「無事なら通信くらい入れろっての!!」
「悪かった」
「こっちは墜落したかと思ったんだぞ!?」
かなり心配していたらしい。
その視線が一行へ向く。
特に。
トシオで止まった。
「……あー」
察した顔だった。
ミーコが嫌な予感を覚える。
「その顔やめてもらえる?」
女性は苦笑した。
「いやだって」
「“第二風脈帯で何か暴れてた異邦人がいる”って先に聞いてたからさ」
「誰情報だよ」
タマが呆れる。
アークが遠い目になった。
「飛竜隊だろうな……」
女性は肩を竦めた。
「私はナギ=ベルスタ」
「この港の整備主任やってる」
フィルニアが目を輝かせる。
「整備!?」
「飛空艇好きか?」
「好きだ!!」
即答だった。
ナギがニヤリと笑う。
「気が合うな」
タマまで食い付く。
「俺も見たい!!」
「アンタもか」
ミーコが呆れる。
すると。
ナギが親指で港奥を指差した。
「今日ちょうど大型整備日なんだよ」
「普段見れない区画も開いてる」
その瞬間。
タマとフィルニアの目がキラキラした。
「行く!!」
「俺様もだ!!」
グランヴェルがため息を吐く。
「お前達、本当に食い物と機械には一直線だな……」
その時だった。
ぐぅぅぅ……
静かな音。
数秒沈黙。
タマがニヤニヤする。
「フィルニア、朝から全開だな」
フィルニアが胸を張った。
「当たり前だ!!」
「昨日あんだけ暴れたんだぞ!?」
「肉十人前は食える!!」
「威張るな!!」
ミーコがツッコむ。
すると。
ナギが笑った。
「港飯食うか?」
「ベルンガルド名物あるぞ」
「名物!?」
タマが即反応した。
「肉か!?」
「魚もある」
「行く!!」
フィルニアまで即答だった。
その時だった。
ミツコが買い物籠をごそごそ漁る。
「お腹空いてるなら先に軽く食べるかねぇ?」
パン。
果物。
干し肉。
さらに温かいお茶セットまで出てきた。
ナギが固まる。
「……その籠どうなってんの?」
「便利やよぉ」
「絶対それだけじゃない」
タマが得意げだった。
「ばーちゃんの籠すげぇんだぞ」
「底無しだからな!!」
フィルニアまで誇らしげである。
その時だった。
港側が突然ざわつき始める。
『離れろ!!』
『荷崩れだ!!』
怒鳴り声。
次の瞬間。
巨大貨物クレーンが傾いた。
「うおっ!?」
タマが振り向く。
大型積荷が崩れ始めていた。
しかも。
真下には子供達。
「危ねぇ!!」
アークが飛び出す。
グランヴェルも動いた。
距離が遠い。
間に合わない。
その瞬間だった。
トシオの姿が消えた。
「――は?」
ナギが固まる。
次の瞬間。
ド ォ ン!!
崩落地点。
そこへトシオが立っていた。
巨大積荷を。
片腕で受け止めている。
港全体が静まり返る。
「え……」
子供達がぽかんとしていた。
積荷はデカい。
家みたいなサイズだ。
それを。
トシオは普通に支えていた。
「どっこいしょ」
そのまま持ち上げる。
ギ ギ ギ……
鉄骨が軋む音。
そして。
トシオは積荷を安全地帯へ放り投げた。
ド ォ ォ ン!!
地面が揺れる。
静寂。
誰も喋れなかった。
「……今の何?」
ナギが真顔だった。
トシオは頭を掻く。
「危なかったのぉ」
「そういう問題じゃねぇだろ!!」
タマが叫ぶ。
フィルニアが腹抱えて笑っていた。
「ははははは!! やっぱ最高だなトシオ!!」
周囲の港員達も固まっている。
アークが遠い目になっていた。
「もう驚かないと思っていたんだが……」
セレスが静かに呟く。
「無理ですね」
ミーコがため息を吐いた。
「じーちゃん、加減覚えて……」
その時。
助けられた子供達が駆け寄ってくる。
「ありがとー!!」
「すげぇ!!」
完全に英雄を見る目だった。
トシオは困った顔をする。
「怪我ないならええ」
ミツコが優しく笑う。
「よかったねぇ」
港の空気が少し柔らかくなった。
恐怖じゃない。
尊敬。
安心。
そんな空気だった。




