朝飯戦争
翌朝。
カルド砦は、早朝から騒がしかった。
飛竜便の離陸音。
商隊の出発準備。
鍛冶場の槌音。
山岳交易路の朝は早い。
そして。
「腹減ったぁぁぁ……」
タマは朝から死んでいた。
酒場《黒角亭》二階。
宿泊部屋。
机へ突っ伏したまま動かない。
ミーコが呆れた顔をする。
「昨日あれだけ食べたでしょ」
「酒飲むと腹減る……」
「知らないわよ」
その横では。
フィルニアも床へ転がっていた。
「水……」
「お前ら完全に飲み過ぎだろ」
トシオが呆れる。
昨夜の歓迎会。
後半は完全に宴会戦争だった。
特にタマとフィルニア。
あの二人が竜人傭兵達と意気投合した結果、酒場半分巻き込む騒ぎになっていた。
グランヴェルが静かにため息を吐く。
「だから言ったんだ」
セレスも無言で頷いている。
レオネは窓際で腕を組んでいた。
「フィルニア様」
「んぁ……?」
「朝です」
「知ってる……」
「本日移動予定です」
「俺様はあと五時間寝る……」
「却下です」
即答だった。
ミーコが吹き出す。
「レオネ強っ」
「昔からこうなん?」
タマが聞く。
グランヴェルが頷いた。
「フィルニアの世話役みたいなものだからな」
「苦労人だ……」
セレスまで小さく頷く。
「……否定出来ません」
「セレスまで言う!?」
すると。
部屋の扉が開いた。
「朝ご飯出来たよぉ」
ミツコだった。
その瞬間。
タマとフィルニアが飛び起きた。
「飯!?」
「どこ!?」
「復活早っ!?」
ミーコがツッコむ。
ミツコはにこにこしながら買い物籠を机へ置く。
そして。
「はい」
次々料理が出てきた。
焼き魚。
卵焼き。
味噌汁。
漬物。
炊き立てご飯。
さらに。
「なんで朝からこんな豪華なんだよ!?」
タマが叫ぶ。
ミツコが困ったように笑う。
「いっぱい食べる子多いからねぇ」
「完全に大家族のお母さんなんよ……」
ミーコが遠い目をする。
しかも。
普通に美味そうだった。
焼き魚の匂いが凶悪。
フィルニアが完全復活している。
「いただきます!!」
「早ぇよ!!」
だが次の瞬間。
タマとフィルニアの箸が同時に同じ焼き魚へ伸びた。
「「あ」」
沈黙。
「それ俺の」
「違う、俺様のだ」
「先に触った!!」
「竜人族の反応速度舐めるな」
「知らねぇよ!!」
朝から始まった。
ユキが苦笑する。
「仲良いですよね」
「よくねぇ!!」
「良くないな」
息ぴったりだった。
グランヴェルが真顔になる。
「では決闘だな」
「なんでだよ!!」
タマがツッコむ。
だがフィルニアはノリノリだった。
「受けて立つ」
「お前も乗るな!!」
その時。
トシオが無言で焼き魚を取った。
そして。
普通に食べた。
全員止まる。
「……あ」
「じーちゃん食った」
「トシオォォォォ!!?」
フィルニアが叫ぶ。
トシオは真顔だった。
「早い者勝ちだ」
「理不尽!!」
だが。
ミツコがまた買い物籠をごそごそ漁る。
「はい追加やよ」
焼き魚追加。
「無限かよ!!」
タマが叫ぶ。
レオネが真面目な顔で呟いた。
「やはりあの籠おかしいのでは……」
セレスも静かに頷く。
「……もう考えない方が良い気がします」
完全に諦め始めていた。
その時だった。
外から大きな鐘の音が響く。
ゴォォォォン――。
全員が窓を見る。
「なんだ?」
グランヴェルが立ち上がる。
すると。
宿下の通りが妙に騒がしかった。
商人達がざわついている。
「来たぞ!!」
「空王国の輸送船だ!!」
ミーコ達も窓際へ集まる。
そして。
「うわぁ……」
ユキが声を漏らした。
空。
巨大な影が浮かんでいた。
船。
いや。
空飛ぶ要塞だった。
白銀装甲。
巨大推進翼。
何重もの魔導帆。
そして船体側面には、鳥人族国家アルネシア空王国の紋章。
空中輸送艦。
それもかなり巨大。
タマが窓へ張り付く。
「かっけぇぇぇぇ!!」
「乗りてぇ!!」
「分かる」
フィルニアまで身を乗り出した。
「絶対速いぞあれ!!」
「空から砦飛び越えられるんじゃね!?」
「やってみてぇ!!」
ミーコが額を押さえる。
「アンタ達ほんと似てきたわね……」
だが。
男連中も割と目が輝いていた。
トシオですら見上げている。
グランヴェルが低く呟く。
「……珍しいな」
「そんな凄いの?」
ユキが聞く。
セレスが静かに説明する。
「大型艦は基本的に都市間運用です」
「こんな山岳砦へ降りる規模ではありません」
つまり。
かなり異例。
その時。
艦船側面から無数の小型艇が降下し始めた。
物資搬入らしい。
砦中が一気に活気づく。
商人達の目も変わっていた。
「特級香辛料だ!!」
「魔導燃料もあるぞ!!」
「急げ急げ!!」
完全に祭りだった。
タマがニヤリと笑う。
「行くぞフィルニア」
「当然だ」
「だから嫌な予感しかしないのよ!!」
ミーコが即座にツッコむ。
すると。
ミツコまでにこにこしていた。
「市場いっぱい出そうやねぇ」
「ばーちゃんまでノリ気!?」
その横で。
レオネが真顔になっていた。
「……フィルニア様」
「なんだ?」
「護衛担当としては不安しかありません」
数秒沈黙。
フィルニアが目を逸らす。
「努力はする」
「不安しか増えてません」
グランヴェルが遠い目をしていた。
セレスも静かに頷く。
「……いつも通りですね」
カルド砦の朝は、今日も騒がしい。
そして。
新たな出会いもまた、静かに近付き始めていた。




