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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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竜人式歓迎会





 カルド砦の夜は、思った以上に騒がしかった。


 山岳交易路の中継地点というだけあり、夜になっても人の流れが止まらない。


 酒場。


 露店。


 飛竜用厩舎。


 鍛冶場。


 様々な音が混ざり合い、砦全体がひとつの街みたいになっていた。


 その中心で。


「飲めぇぇぇぇ!!」


「おぉぉぉぉ!!」


 タマが既に騒いでいた。


「早いのよテンションが!!」


 ミーコが怒鳴る。


 現在、一行は砦内酒場《黒角亭》へ来ていた。


 元々は軽く夕食だけの予定だった。


 ……はずだった。


「トシオ殿!! もう一勝負だ!!」


「おう」


 なぜかトシオが巨漢傭兵達と腕相撲大会を始めていた。


 ドゴォン!!


 机が揺れる。


「ぐあぁぁぁ!?」


 傭兵が吹っ飛んだ。


 周囲から歓声が上がる。


「また勝った!!」


「何者だあの兄ちゃん!!」


「腕どうなってんだ!!」


 タマが腹を抱えて笑っている。


「じーちゃんまたやってる!!」


「アンタ煽るからでしょ!!」


 ミーコがツッコむ。


 一方。


 フィルニアは酒場中央で豪快に肉を焼いていた。


「焼けたぞー!!」


「なんでお前店側みたいになってんだ」


 グランヴェルが呆れる。


「こういうのは勢いだ」


「意味が分からん」


 だが周囲の竜人傭兵達は大盛り上がりだった。


「姐さん手際いいな!!」


「竜人族だからな!!」


「便利な言葉だなそれ」


 グランヴェルが苦笑する。


 その横では。


 ミツコが買い物籠をごそごそ漁っていた。


 そして。


「はい、追加のお漬物やよ」


 普通に大皿を出した。


 沈黙。


 周囲の客達が止まる。


「……え?」


「今どっから出した?」


「籠の中じゃね?」


「いや入る量じゃなかったぞ」


 ミーコが苦笑する。


「またやってる……」


 ユキも小さく笑っていた。


 もう慣れた。


 だが初見勢は違う。


 レオネが真顔で籠を見ていた。


「……魔導収納?」


「ただの買い物籠やよ?」


「絶対違いますよね?」


 セレスも静かに籠を見ている。


「……以前より増えていませんか」


「気のせいやよぉ」


「そうは思えません」


 その時。


 タマが籠を覗き込もうとした。


「なぁなぁ、中どうなって――」


 ゴッ。


「痛ぁ!?」


 ミーコの拳が落ちた。


「人の鞄覗くんじゃないわよ」


「いや気になるだろ!!」


「俺も気になる」


 グランヴェルまで言い出す。


 すると。


 ミツコが困ったように笑った。


「見る?」


 全員が止まる。


「「「いいの!?」」」


 食い気味だった。


 ミツコが買い物籠をテーブルへ置く。


 そして。


「はいどうぞ」


 タマが恐る恐る覗き込んだ。


 数秒後。


「……暗っ」


「そこ?」


 ミーコがツッコむ。


「いやもっとこう異空間とか期待したじゃん!!」


「なんか普通に奥が見えん」


 フィルニアまで覗き込む。


「……底無くないか?」


「えっ」


 ユキも覗く。


「本当です……」


 籠の中が妙に深い。


 見た目は普通。


 だが奥行き感覚が狂っていた。


 レオネが真顔になる。


「高位空間収納……?」


 セレスも僅かに目を細めた。


「……帝国宝物庫級かもしれません」


「そんな大層なもんやないよぉ」


 ミツコはのんびりしていた。


 その時だった。


 タマが奥へ手を突っ込む。


「お、なんかある」


 ガサゴソ。


 次の瞬間。


「なんで漬物石入ってんだよ!!」


 巨大石が出てきた。


 酒場中が吹き出す。


「入れてたんかい!!」


「重っ!!」


 ミツコがちょっと困った顔をする。


「昔使っとったんよぉ」


「なんで持ち歩いてんの!?」


 フィルニアが爆笑していた。


「意味分かんなすぎる!!」


 すると。


 トシオが真顔で言う。


「便利だぞ」


「何に使うんだよ!!」


「白菜漬ける」


「異世界で!?」


 もはや誰もツッコめなかった。


 その時。


 酒場奥から店主が現れる。


 熊系獣人の大男だ。


「兄ちゃん達、随分楽しそうだな」


「おう」


 トシオが答える。


 店主はニヤリと笑った。


「今日は竜人族の飛竜便も多くてな。久々に賑やかなんだ」


 どうやら帝国側の移動も増えているらしい。


 レオネが少し真面目な顔になる。


「各国とも落ち着いてはいません」


「まぁそりゃなぁ」


 店主も頷く。


「最近空がおかしいって話ばっかだ」


 空間異常。


 各地で少しずつ噂になり始めている。


 だが。


 酒場の空気は重くならなかった。


 タマが肉を頬張りながら言う。


「ま、考えても腹は減るしな」


「そればっかやな」


 ミツコが笑う。


 すると。


 フィルニアがジョッキを掲げた。


「よし!! 再会祝いだ!!」


「急だな!?」


「細けぇ事気にすんな!!」


 完全に酔っていた。


 グランヴェルが深いため息を吐く。


「お前は飲むと余計酷いな……」


 セレスも静かに頷いた。


「……否定は出来ません」


「お前まで!?」


 だが。


 レオネまで小さく笑っていた。


「昔から変わりませんね」


「なんで全員そんな反応なんだ!?」


 その空気が心地良かった。


 笑って。


 騒いで。


 食べて。


 飲んで。


 戦いばかりだった旅の中で、こういう時間は貴重だった。


 その時。


 酒場の片隅で、小さな揉め事が起きていた。


 小柄な少年獣人が、数人の荒くれへ囲まれている。


「人の財布抜こうとしやがって」


「ち、違……」


 少年は震えていた。


 どうやらスリを失敗したらしい。


 タマが眉をひそめる。


「ありゃマズいな」


 少年はまだ幼い。


 怯えて縮こまり、今にも泣きそうだった。


 ミツコが小さく息を吐く。


「……あかんねぇ」


 放っておけなかった。


 ミツコが立ち上がる。


「はいはいそこまでやよぉ」


 のんびりした声。


 荒くれ達が振り返る。


「ぁ?」


「腹減っとったんやろ?」


 ミツコが少年を見る。


「そんな怯えんでもええ」


「……っ」


 少年の肩が震える。


 ミツコは穏やかに続けた。


「必要以上に怖がらせたらあかんよ」


「関係ねぇだろババ――」


 そこまでだった。


 ゴ ン。


 トシオの拳がテーブルへ落ちる。


 酒場全体が揺れた。


 沈黙。


 荒くれ達の顔色が変わる。


 トシオが座ったまま睨んでいた。


「俺の嫁にデケェ声出すな」


 低い声。


 圧。


 完全に海神モード一歩手前だった。


「ひっ……」


 荒くれ達が青ざめる。


 その瞬間。


 フィルニアまで立ち上がった。


「お? やるか?」


 笑顔。


 だが目が怖い。


 さらに。


 グランヴェル。


 レオネ。


 セレス。


 全員が無言で見ていた。


 圧が酷い。


 酒場中が静まり返る。


 数秒後。


「す、すいませんでしたぁ!!」


 荒くれ達は全力で逃げた。


 タマが吹き出す。


「そりゃ逃げるわ!!」


 少年獣人が呆然としていた。


 ミツコがしゃがみ込む。


「怪我ない?」


「……あ、う……」


 少年は涙目だった。


 すると。


 ミツコが買い物籠から包みを取り出す。


「はい」


 中にはサンドイッチが入っていた。


 少年が固まる。


「食べり」


「……いいの?」


「お腹減っとるやろ?」


 少年は恐る恐る受け取った。


 そして。


 一口食べた瞬間。


 泣き出した。


「う、うま……」


 タマが小さく笑う。


「ばーちゃん飯、反則なんだよな」


 ユキも優しく微笑んでいた。


 その時。


 店主が豪快に笑った。


「ははは!! 面白ぇ連中だな兄ちゃん達!!」


 酒場の空気が戻る。


 笑い声。


 ジョッキの音。


 焼ける肉の香り。


 騒がしくて。


 温かい。


 そんな夜が、カルド砦には流れていた。

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