『鉄と岩の都』
『じじばばにゃんこと異世界奇譚』
第一部『レヴァナスタシア』
グランディル中央駅。
山そのものを削って造られた、
超巨大岩窟駅だった。
列車が停まった瞬間。
重厚な蒸気音が、
空間全体へ響く。
ゴォォォ……
頭上には、
何本もの巨大鉄骨橋。
さらに上層では、
鉱石搬送用ゴンドラが走っている。
火花。
鉄音。
蒸気。
熱気。
今までの都市とは、
まるで違った。
⸻
フィルニアが、
ホームへ降りた瞬間に叫ぶ。
「暑っ!!」
タマも、
首元を引っ張る。
「山なのに暑いのかよ」
ドグランが、
笑った。
「炉が山ほどあるからな!」
実際。
空気が熱い。
外は山岳地帯なのに、
都市内部は鍛冶熱で暖かかった。
しかも。
匂いが独特だった。
鉄。
油。
石炭。
焼けた鉱石。
ユキが、
少し周囲を見る。
「……工房の匂い」
⸻
ホームを進む途中。
別種族の姿が増え始めた。
小柄。
だが、
異様に筋肉質。
長い髭。
太い腕。
大きな工具。
フィルニアが、
目を輝かせる。
「おぉ!?」
タマが、
少し驚く。
「ドワーフか」
ドグランが、
頷いた。
「グランディルは共同国家だ」
「巨人族だけじゃ、
細かい鍛冶は無理だからな」
ドワーフ達は、
忙しそうに走り回っていた。
しかも。
全員声がデカい。
「炉止めるなぁ!!」
「搬入急げ!!」
「誰だ酒樽空にしたの!!」
最後だけちょっと違った。
⸻
その時。
突然。
横から小柄な影が飛び出した。
「邪魔じゃボケぇ!!」
ドゴッ!!
フィルニアへ激突。
フィルニア、
吹き飛びかける。
「ぬおっ!?」
ぶつかった相手は、
ドワーフ少女だった。
赤茶髪。
ゴーグル。
煤だらけ。
工具ベルト装備。
しかも。
背中に、
巨大ハンマー背負っている。
タマが、
目を瞬かせた。
「女子?」
少女が、
即座に睨む。
「なんじゃその顔は!!」
「ドワーフ女が珍しいか!!」
「いや元気だなって」
「当たり前じゃ!!」
フィルニアが、
ちょっと嬉しそうになる。
「なんかお前、
ノリ近いな!」
「嬉しくねぇ!!」
⸻
少女の名前は、
ベルガ。
鍛冶工房所属。
しかも。
かなり腕が良いらしい。
ドグランが、
苦笑しながら紹介する。
「こいつ、
若手最優秀鍛冶師だ」
ベルガが、
鼻を鳴らす。
「当然じゃ」
「ワシは天才じゃからな!」
フィルニアが、
完全に気に入った。
「お前面白ぇな!!」
「そっちこそ声デカ過ぎるわ!!」
タマが、
頭を押さえる。
「騒がしいの増えた……」
⸻
駅外へ出る。
その瞬間。
全員止まった。
都市が、
デカ過ぎた。
山内部が、
丸ごと都市になっている。
上層。
中層。
下層。
全部繋がっている。
しかも。
空中吊橋だらけ。
岩盤へ、
巨大建築が埋め込まれていた。
ユキが、
小さく呟く。
「……山の中に、
空があるみたい」
上を見れば、
岩天井。
そこへ。
無数の灯火が吊られている。
人工星空みたいだった。
⸻
移動中。
ベルガが、
街案内を始める。
「上は巨人族居住区」
「中層が商業区」
「下は工房街じゃ」
「あと古代坑道側は立入禁止な」
タマが、
眉をひそめる。
「なんかあったのか?」
ベルガの表情が、
少し曇る。
「……最近おかしい」
「鉱夫が消える」
ユキが、
顔を上げる。
「消える?」
「遺体も出ん」
空気が、
少し重くなる。
ベルガは、
無理矢理笑った。
「まぁ、
今は閉鎖されとる!」
「気にせんでええ!」
だが。
気にしないには、
少し不自然だった。
⸻
中層市場区。
ここもまた、
独特だった。
武器屋。
防具屋。
鉱石店。
工具屋。
しかも。
全部デカい。
巨人族用サイズだからだ。
フィルニアが、
巨大フライパン見て固まる。
「これ盾じゃね?」
ベルガが、
普通に答える。
「料理用じゃ」
「料理!?」
⸻
その時。
トシオが、
魚屋で止まった。
岩魚。
山魚。
巨大甲殻類まで並んでいる。
目が輝いていた。
ミツコが、
呆れ半分で笑う。
「ほんま魚好きやねぇ」
店主ドワーフが、
腕を組む。
「おっさん、
分かる口か」
そこから始まった。
魚談義。
長かった。
異常に長かった。
タマが、
遠い目をする。
「始まった……」
フィルニアが、
串焼き食べながら聞く。
「まだ終わんねぇの?」
ベルガが、
若干引いていた。
「あの人、
なんで魚見てあんな楽しそうなんじゃ」
⸻
夕方。
巨大鐘楼前を通る。
その時だった。
ゴォォン……
鐘が鳴る。
低い。
山へ響く音。
その瞬間。
周囲の巨人族やドワーフ達が、
一瞬だけ空を見上げた。
ベルガの表情も、
少し変わる。
タマが、
気付く。
「なんだ?」
ベルガが、
小声で答える。
「……閉鎖鐘じゃ」
「夜間は、
古代坑道側封鎖される」
フィルニアが、
首を傾げる。
「毎日?」
「最近毎日じゃ」
⸻
宿へ着く頃には、
都市灯火が灯り始めていた。
岩壁中へ、
灯りが並ぶ。
まるで、
山が光っているみたいだった。
ユキは、
窓からその景色を見ていた。
静かだった。
でも。
どこか緊張感がある。
この国は、
何かを隠している。
⸻
夜。
夕食は、
山岳料理だった。
岩塩肉。
焼き茸。
濃厚スープ。
そして。
巨大パン。
フィルニアが、
肉へ齧り付きながら叫ぶ。
「うっっま!!」
ベルガも、
豪快に笑う。
「じゃろ!!」
タマが、
呆れた顔をする。
「お前ら食い方まで似てるな」
その時。
ドグランが、
少し真面目な顔になる。
「……明日、
古代坑道見に行く」
空気が変わる。
ミーコが、
静かに聞く。
「閉鎖区域?」
「あぁ」
「王国側も、
原因掴めてねぇ」
ドグランが、
低く続ける。
「だが最近、
妙な壁画が見つかった」
「壁画?」
「七種族が描かれてた」
タマが、
顔を上げる。
「昔のか?」
ドグランが、
ゆっくり頷く。
そして。
こう言った。
「その中央に、
“黒い太陽”が描かれてた」
部屋が静まる。
ミーコの瞳が、
僅かに細くなる。
閉じる者。
その影は。
古代時代から、
既に存在していたのかもしれなかった。




