『山へ続く鉄路』
『じじばばにゃんこと異世界奇譚』
第一部『レヴァナスタシア』
山岳列車は、
夜通し走り続けていた。
ゴォォ……
重低音が、
車内床から響いている。
窓外は、
真っ暗だった。
時折。
巨大岩壁だけが、
列車灯に照らされて流れていく。
ユキは、
窓際へ座っていた。
ガルディアを出て、
もう半日以上。
景色は、
変わっていた。
雪原も無い。
渓谷都市も無い。
代わりに。
岩。
山。
断崖。
世界そのものが、
硬くなったみたいだった。
⸻
車内では、
フィルニアが突っ伏していた。
「ケツ痛ぇ……」
タマが、
呆れた顔になる。
「だから暴れるからだろ」
「座席硬いんだよ!」
「お前昨日橋持ち上げてたろ」
「それとこれとは別!!」
ユキが、
少し笑う。
昨日、
空が割れていたとは思えないくらいだった。
⸻
トシオは、
窓側で魚干物を炙っていた。
普通に。
車掌が、
三度見している。
「……車内ですよ?」
トシオが、
少し考える。
「換気してる」
「そういう問題じゃないんです」
ミツコが、
慌てて止めた。
「ごめんなぁ」
⸻
昼前。
列車が、
巨大高架橋へ差し掛かった。
その瞬間。
フィルニアが、
窓へ張り付く。
「でっっっか!!!」
全員、
外を見る。
絶景だった。
山。
山。
さらに山。
雲より高い岩峰が、
延々と続いている。
しかも。
山肌へ、
巨大建造物が見えた。
橋。
塔。
掘削跡。
ユキが、
目を見開く。
「山に街がある……」
車掌が、
少し誇らしげに言った。
「グランディル山岳圏ですよ」
「巨人族の領域です」
⸻
さらに進む。
すると。
とんでもない物が見えた。
巨大石像。
山そのものへ、
掘られている。
高さ数百メートル級。
しかも。
まだ先にもある。
フィルニアが、
固まる。
「いや待て待て待て」
「デカ過ぎるだろ!!」
タマも、
流石に引いていた。
「何人用だアレ……」
車掌が笑う。
「昔の王像ですよ」
「今の巨人族でも、
あんな大きくありません」
ミーコが、
静かに聞く。
「古代文明?」
「そう言われています」
⸻
列車は、
徐々に高度を上げていく。
空気が冷たい。
だが。
雪国の寒さとは違う。
乾いていた。
岩と鉄の匂いがする。
遠くでは。
巨大煙突群から、
白煙が噴き上がっていた。
タマが、
目を細める。
「鍛冶都市か」
「山全部工場みたいだな」
その通りだった。
グランディルは、
鍛造国家。
七種族最高峰の鉱石加工技術を持つ。
武具。
橋材。
列車部品。
各国へ流れているらしい。
⸻
その時。
車内が、
少しざわついた。
前方席から、
巨人族が立ち上がったのだ。
デカい。
座っててもデカい。
立つと、
ほぼ天井だった。
フィルニアが、
目を輝かせる。
「おぉぉ!!」
巨人族の男は、
苦笑する。
「嬢ちゃん元気だな」
低い声だった。
岩が喋ってるみたいな声。
タマが、
小声で呟く。
「近い近い圧が」
⸻
巨人族の男は、
トシオを見た瞬間、
少し目を細めた。
「……お前」
トシオが、
魚を炙りながら顔を上げる。
「ん?」
「なんで人族なのに、
そんな身体してる」
フィルニア吹き出す。
タマも、
肩を震わせた。
トシオは、
普通に答える。
「漁師だった」
巨人族、
真顔。
数秒沈黙。
「意味分からん」
「分からんよな」
⸻
そこから妙に意気投合した。
巨人族の名は、
ドグラン。
鉱山監督らしい。
しかも。
酒好きだった。
「飲むか?」
昼間だった。
ミツコが、
即止める。
「まだ明るい!!」
ドグランが、
豪快に笑う。
「いい奥さんだな!!」
トシオも、
少し笑う。
⸻
その後。
ドグランが、
色々話してくれた。
グランディル山岳王国。
古代から、
遺跡管理をしている事。
最近、
山奥で変な崩落が増えている事。
そして。
“音”が聞こえる事。
ユキが、
首を傾げる。
「音?」
ドグランの表情が、
少し変わる。
「山の奥で、
誰も居ねぇのに鐘が鳴る」
「昔の遺跡側だ」
車内が、
少し静かになる。
ミーコが、
低く聞く。
「最近?」
「あぁ」
「ここ半年だ」
⸻
ミーコとタマが、
視線を交わす。
閉じる者。
境界異常。
最近、
全部繋がり始めている。
ドグランは、
さらに続けた。
「あと、
変なのも見つかった」
「黒い石だ」
ミーコの目が、
鋭くなる。
「どこで」
「古代坑道」
「触った奴が倒れた」
フィルニアが、
嫌そうな顔をする。
「侵食系か?」
「分からん」
「だから今、
古代区域かなり閉鎖されてる」
⸻
列車は、
巨大山岳橋へ入る。
窓外。
下が見えない。
雲しか無い。
ユキが、
少し身を引いた。
「高……」
フィルニアは、
逆にテンション上がる。
「すげぇぇぇ!!」
タマが、
呆れる。
「落ちるなよ」
その時だった。
ゴォォォ……
遠くで、
妙な音が響いた。
低い。
重い。
山そのものが、
鳴っているみたいな音。
ドグランが、
窓外を見る。
表情が少し険しくなる。
「……またか」
⸻
遠く。
山奥。
巨大な煙が上がっていた。
しかも。
山肌の一部が、
崩れている。
列車内も、
少しざわつく。
「崩落か?」
「また坑道?」
ドグランが、
舌打ちした。
「最近多過ぎる」
ミーコは、
静かに煙を見ていた。
その崩落跡。
一瞬だけ。
黒い霧みたいなものが見えた。
気のせいじゃない。
タマも、
気付いていた。
「……居るな」
ミーコが、
小さく頷く。
閉じる者の影は、
山岳地帯にまで伸び始めていた。
⸻
夕方。
列車は、
ようやく終着駅へ近付いていた。
その瞬間。
全員、
窓外を見て止まる。
山を削って作られた、
超巨大都市。
岩窟灯火。
無数の吊橋。
巨大歯車。
溶鉱炉火。
そして。
山そのものへ埋め込まれた、
王国城塞。
フィルニアが、
口を開けた。
「……デカ」
タマも、
珍しく言葉を失う。
ユキは、
ただ見上げていた。
ミツコが、
静かに笑う。
「ほんまに色んな世界あるねぇ」
その横で。
トシオだけは。
窓外を見ながら、
妙に嬉しそうだった。
「……岩魚いそうだな」
タマが、
即座にツッコむ。
「まずそこかよ!!」
列車が、
ゆっくり停車する。
グランディル山岳王国。
七大種族最古級の国。
そして。
古代世界の秘密が、
眠る場所だった。




