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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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82/139

『山へ続く鉄路』

『じじばばにゃんこと異世界奇譚』


第一部『レヴァナスタシア』






山岳列車は、

夜通し走り続けていた。


ゴォォ……


重低音が、

車内床から響いている。


窓外は、

真っ暗だった。


時折。


巨大岩壁だけが、

列車灯に照らされて流れていく。


ユキは、

窓際へ座っていた。


ガルディアを出て、

もう半日以上。


景色は、

変わっていた。


雪原も無い。


渓谷都市も無い。


代わりに。


岩。


山。


断崖。


世界そのものが、

硬くなったみたいだった。



車内では、

フィルニアが突っ伏していた。


「ケツ痛ぇ……」


タマが、

呆れた顔になる。


「だから暴れるからだろ」


「座席硬いんだよ!」


「お前昨日橋持ち上げてたろ」


「それとこれとは別!!」


ユキが、

少し笑う。


昨日、

空が割れていたとは思えないくらいだった。



トシオは、

窓側で魚干物を炙っていた。


普通に。


車掌が、

三度見している。


「……車内ですよ?」


トシオが、

少し考える。


「換気してる」


「そういう問題じゃないんです」


ミツコが、

慌てて止めた。


「ごめんなぁ」



昼前。


列車が、

巨大高架橋へ差し掛かった。


その瞬間。


フィルニアが、

窓へ張り付く。


「でっっっか!!!」


全員、

外を見る。


絶景だった。


山。


山。


さらに山。


雲より高い岩峰が、

延々と続いている。


しかも。


山肌へ、

巨大建造物が見えた。


橋。


塔。


掘削跡。


ユキが、

目を見開く。


「山に街がある……」


車掌が、

少し誇らしげに言った。


「グランディル山岳圏ですよ」


「巨人族の領域です」



さらに進む。


すると。


とんでもない物が見えた。


巨大石像。


山そのものへ、

掘られている。


高さ数百メートル級。


しかも。


まだ先にもある。


フィルニアが、

固まる。


「いや待て待て待て」


「デカ過ぎるだろ!!」


タマも、

流石に引いていた。


「何人用だアレ……」


車掌が笑う。


「昔の王像ですよ」


「今の巨人族でも、

あんな大きくありません」


ミーコが、

静かに聞く。


「古代文明?」


「そう言われています」



列車は、

徐々に高度を上げていく。


空気が冷たい。


だが。


雪国の寒さとは違う。


乾いていた。


岩と鉄の匂いがする。


遠くでは。


巨大煙突群から、

白煙が噴き上がっていた。


タマが、

目を細める。


「鍛冶都市か」


「山全部工場みたいだな」


その通りだった。


グランディルは、

鍛造国家。


七種族最高峰の鉱石加工技術を持つ。


武具。


橋材。


列車部品。


各国へ流れているらしい。



その時。


車内が、

少しざわついた。


前方席から、

巨人族が立ち上がったのだ。


デカい。


座っててもデカい。


立つと、

ほぼ天井だった。


フィルニアが、

目を輝かせる。


「おぉぉ!!」


巨人族の男は、

苦笑する。


「嬢ちゃん元気だな」


低い声だった。


岩が喋ってるみたいな声。


タマが、

小声で呟く。


「近い近い圧が」



巨人族の男は、

トシオを見た瞬間、

少し目を細めた。


「……お前」


トシオが、

魚を炙りながら顔を上げる。


「ん?」


「なんで人族なのに、

そんな身体してる」


フィルニア吹き出す。


タマも、

肩を震わせた。


トシオは、

普通に答える。


「漁師だった」


巨人族、

真顔。


数秒沈黙。


「意味分からん」


「分からんよな」



そこから妙に意気投合した。


巨人族の名は、

ドグラン。


鉱山監督らしい。


しかも。


酒好きだった。


「飲むか?」


昼間だった。


ミツコが、

即止める。


「まだ明るい!!」


ドグランが、

豪快に笑う。


「いい奥さんだな!!」


トシオも、

少し笑う。



その後。


ドグランが、

色々話してくれた。


グランディル山岳王国。


古代から、

遺跡管理をしている事。


最近、

山奥で変な崩落が増えている事。


そして。


“音”が聞こえる事。


ユキが、

首を傾げる。


「音?」


ドグランの表情が、

少し変わる。


「山の奥で、

誰も居ねぇのに鐘が鳴る」


「昔の遺跡側だ」


車内が、

少し静かになる。


ミーコが、

低く聞く。


「最近?」


「あぁ」


「ここ半年だ」



ミーコとタマが、

視線を交わす。


閉じる者。


境界異常。


最近、

全部繋がり始めている。


ドグランは、

さらに続けた。


「あと、

変なのも見つかった」


「黒い石だ」


ミーコの目が、

鋭くなる。


「どこで」


「古代坑道」


「触った奴が倒れた」


フィルニアが、

嫌そうな顔をする。


「侵食系か?」


「分からん」


「だから今、

古代区域かなり閉鎖されてる」



列車は、

巨大山岳橋へ入る。


窓外。


下が見えない。


雲しか無い。


ユキが、

少し身を引いた。


「高……」


フィルニアは、

逆にテンション上がる。


「すげぇぇぇ!!」


タマが、

呆れる。


「落ちるなよ」


その時だった。


ゴォォォ……


遠くで、

妙な音が響いた。


低い。


重い。


山そのものが、

鳴っているみたいな音。


ドグランが、

窓外を見る。


表情が少し険しくなる。


「……またか」



遠く。


山奥。


巨大な煙が上がっていた。


しかも。


山肌の一部が、

崩れている。


列車内も、

少しざわつく。


「崩落か?」


「また坑道?」


ドグランが、

舌打ちした。


「最近多過ぎる」


ミーコは、

静かに煙を見ていた。


その崩落跡。


一瞬だけ。


黒い霧みたいなものが見えた。


気のせいじゃない。


タマも、

気付いていた。


「……居るな」


ミーコが、

小さく頷く。


閉じる者の影は、

山岳地帯にまで伸び始めていた。



夕方。


列車は、

ようやく終着駅へ近付いていた。


その瞬間。


全員、

窓外を見て止まる。


山を削って作られた、

超巨大都市。


岩窟灯火。


無数の吊橋。


巨大歯車。


溶鉱炉火。


そして。


山そのものへ埋め込まれた、

王国城塞。


フィルニアが、

口を開けた。


「……デカ」


タマも、

珍しく言葉を失う。


ユキは、

ただ見上げていた。


ミツコが、

静かに笑う。


「ほんまに色んな世界あるねぇ」


その横で。


トシオだけは。


窓外を見ながら、

妙に嬉しそうだった。


「……岩魚いそうだな」


タマが、

即座にツッコむ。


「まずそこかよ!!」


列車が、

ゆっくり停車する。


グランディル山岳王国。


七大種族最古級の国。


そして。


古代世界の秘密が、

眠る場所だった。

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