表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/150

『海割る拳』

『じじばばにゃんこと異世界奇譚』


第一部『レヴァナスタシア』






ガルディア上空。


裂けた空が、

さらに広がっていた。


黒雨。


侵食霧。


崩壊音。


街全体が、

悲鳴を上げている。


巨大な“目”は、

裂け目の奥からこちらを見下ろしていた。


それだけで、

空気が重い。


息苦しい。


ユキが、

小さく震える。


「動けない……」


足が重い。


身体が、

押し潰されそうだった。


黒衣男達ですら、

膝をつき始めている。


「あれは……」


「マズい……!」



その時。


裂け目の奥から、

“腕”が完全に出て来た。


巨大。


黒い。


空そのものを掴むみたいな腕。


しかも。


その周囲だけ、

空間が崩れている。


ミーコの顔色が変わる。


「下がって!!」


次の瞬間。


黒腕が、

ゆっくり振り下ろされた。


ズ ォ ォ ォ ……


遅い。


だが。


デカ過ぎる。


避けようが無い。


渓谷都市ガルディアへ、

空そのものが落ちて来る。



フィルニアが、

歯を剥く。


「ふざけんなよ……!!」


竜人魔力全開。


赤熱魔力が、

身体から吹き出す。


タマも、

短剣を握り直した。


「止めるしかねぇ!!」


黒衣男達が、

結界術式を展開。


ミーコも、

巨大水流陣を起動する。


ユキも、

震える手で防壁を重ねた。


全員、

総力。


だが。


分かっていた。


止まらない。


規模が違う。



黒腕落下。


直前。


トシオが前へ出た。


ミツコが、

小さく目を見開く。


「トシオ……」


トシオは、

空を見上げていた。


裂けた空。


黒い腕。


侵食。


全部を見た後。


小さく息を吐く。


そして。


拳を握った。


ギリ……


筋肉が軋む。


その瞬間。


空気が変わった。



ゴォォォォ……


周囲の空気が、

渦を巻き始める。


風。


いや。


潮の匂いだった。


ガルディアは渓谷都市。


本来、

海の匂いなんかしない。


なのに。


潮風が吹いた。


タマが、

目を見開く。


「……は?」


フィルニアも、

顔を強張らせる。


空気が重い。


だが。


恐怖じゃない。


圧。


巨大な自然そのものみたいな圧力。


黒雨が、

一瞬止まった。



トシオが、

ゆっくり踏み込む。


その瞬間。


ゴ ッ ッ ッ ッ ッ !!!!!


地面が沈んだ。


橋が軋む。


周囲の瓦礫が、

吹き飛ぶ。


黒衣男達が、

息を呑む。


「なんだ……

あの魔力……」


違う。


魔力じゃない。


もっと原始的だった。


嵐。


海鳴り。


荒波。


災害そのもの。



黒腕が落ちる。


街を潰す一撃。


その瞬間。


トシオが、

拳を振り抜いた。


ゴ ォ ォ ォ ォ ォ ッ !!!!!


世界が揺れた。


音じゃない。


衝撃そのものだった。


拳圧。


ただの拳圧。


だが。


空間そのものが、

割れた。


巨大衝撃波が、

渓谷を突き抜ける。


黒腕直撃。


次の瞬間。


黒腕が、

“裂けた”。



ズ ガ ァ ァ ァ ァ ッ !!!!


巨大黒腕が、

真正面から吹き飛ぶ。


裂ける。


砕ける。


侵食霧が、

一気に蒸発した。


さらに。


衝撃波が止まらない。


裂け目そのものへ、

突き刺さる。


空が揺れる。


黒亀裂が、

悲鳴みたいに軋む。


ミーコが、

目を見開く。


「……空間ごと」


次の瞬間。


裂け目が、

完全に吹き飛んだ。



ド ガ ァ ァ ァ ァ ァ ン !!!!


黒空崩壊。


侵食霧消滅。


黒雨蒸発。


巨大な“目”が、

歪む。


『―――――』


声にならない声。


そして。


空そのものが、

砕け散った。



静寂。


風だけが吹く。


誰も動けない。


黒衣男達が、

完全に固まっていた。


フィルニアが、

口を開けたまま呟く。


「……トシオ、

何した?」


タマも、

引いていた。


「拳だよな……?」


ユキは、

完全に呆然としている。


ミーコだけが、

静かにトシオを見ていた。


その目に、

わずかな確信が混ざる。



トシオは、

何事も無かったみたいに、

拳を下ろした。


そして。


肩を回す。


ゴキッ。


「……手ぇ痺れた」


全員ズッコケそうになる。


フィルニアが、

叫ぶ。


「それで済むのかよ!!」


タマも、

思わずツッコむ。


「空割ったぞ今!!」


トシオは、

普通だった。


「知らん」


「デカかったから殴った」


「理屈雑過ぎるだろ!!」



その時。


空から、

光が降り始めた。


黒雨じゃない。


白い粒子。


侵食が消えていく。


崩れかけていた空間も、

少しずつ戻り始めていた。


黒衣男の一人が、

震える声で呟く。


「閉じる者の侵食を……

殴って消した……?」


誰も、

意味が分からなかった。



やがて。


夜明けが来る。


裂けていた空には、

少しずつ朝陽が差し込んでいた。


崩壊した橋。


壊れた市場。


煙。


瓦礫。


被害は大きい。


だが。


街は残った。


ガルディアは、

まだ生きている。


避難民達が、

少しずつ顔を上げる。


誰かが、

トシオを見る。


そして。


ぽつりと呟いた。


「……海神」


その言葉が、

静かに広がっていく。


だが。


当の本人は。


ミツコから渡された水を飲みながら、

普通に言った。


「腹減ったな」


フィルニアが、

頭を抱えた。


「この人絶対おかしい!!」


タマが、

深く頷く。


「今さらだろ……」


その横で。


ミーコは、

朝焼けの空を見ていた。


閉じる者。


侵食。


消えた門。


そして。


トシオ。


世界は、

確実に動き始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ