始まりの民…
# 第一部『レヴァナスタシア』
草原を吹き抜ける風は、
冷たかった。
砕けた槍。
沈黙する竜人兵。
そして。
素手で槍を握り潰した青年――
トシオを見つめる、
カリヴァ=ドラグニルの鋭い瞳。
「……何者だ、貴様ら」
低い声だった。
疑念。
警戒。
そして、
わずかな恐怖。
トシオは頭を掻く。
「何者って言われても、
昨日まで漁師じゃったしのぉ」
「漁師……?」
カリヴァの眉が寄る。
タマが慌てて前へ出た。
「じーちゃんはじーちゃんだよ!」
「タマ、
それ説明になっとらんよ」
ミツコが苦笑する。
その空気に、
竜人兵たちの方が混乱していた。
意味が分からない。
目の前の存在は、
明らかに異常。
なのに、
どこにでもいる家族みたいに会話している。
その時だった。
一人の竜人兵が、
突然顔色を変えた。
「……っ!」
震える指で、
トシオとミツコを指差す。
「ま、まさか……」
兵士の瞳には、
明確な怯えが浮かんでいた。
「どうした」
カリヴァが問う。
竜人兵は、
乾いた唇を震わせる。
「角が……反応しています」
空気が止まる。
カリヴァの目が細くなる。
竜人族の角。
それは、
古代の魔力や神性に反応する器官。
嘘はつかない。
兵士は、
恐怖に滲んだ声で呟いた。
「……始まりの民」
ミーコの顔が凍りついた。
ユキも息を呑む。
タマはきょとんとしている。
「はじまり?」
カリヴァが、
ゆっくりトシオへ近づく。
その目には、
先程までの軍人としての視線ではなく、
“神話を見る者”の色があった。
「人族……」
静かな声。
「馬鹿な。
存在するはずがない」
トシオは首を傾げる。
「人族?」
「レヴァナスタシア最古の伝承だ」
今度はミーコが答えた。
その声は、
どこか震えている。
「世界アルケシアを巡った、
最初の二人」
風が吹く。
草原が揺れる。
ミーコは、
まるで古い絵本を読むみたいに続けた。
「男神アダル。
女神イヴェナ」
「七種族を導き、
命を繋ぎ、
世界へ知恵を与えた存在」
ユキが静かに俯く。
「そして……
神代の終わりに消えた種族」
沈黙。
タマだけが、
話についていけずに瞬きをしていた。
「え?
じゃあじーちゃん達って神様?」
「違うのぉ」
トシオは即答した。
「昨日まで畑の大根抜いとった」
空気が崩れる。
ミツコが吹き出した。
「ほんとやねぇ」
だが。
カリヴァだけは笑わなかった。
竜人族第三戦団長は、
静かに膝をつく。
それは、
竜人族における最上位への礼。
周囲の兵士たちがざわめく。
「カ、カリヴァ様!?」
彼女は構わず頭を垂れた。
「……もし貴方たちが本当に
始まりの民ならば」
そこで言葉を切る。
そして。
遥か空を見上げた。
巨大要塞ヴァルグレイド。
黒煙。
戦火。
崩れゆく空。
「この世界は、
貴方たちを必要としているのかもしれない」
その瞬間だった。
ゴォォォォォ──ッ!!
空が裂けた。
巨大な魔力波。
空中要塞ヴァルグレイドが、
進路を変えていた。
まっすぐ。
この草原へ向かって。




