『飛竜便を追え』
『じじばばにゃんこと異世界奇譚』
第一部『レヴァナスタシア』
中継都市ガルディア。
列車を降りた瞬間。
音の量が変わった。
鐘。
呼び込み。
飛行艇の汽笛。
荷車。
怒鳴り声。
笑い声。
全部が混ざっている。
フィルニアが、
ホーム中央で叫ぶ。
「すっげぇぇぇ!!」
タマが、
荷物を抱えながら顔をしかめる。
「うるせぇ」
だが。
正直、
タマも少し圧倒されていた。
樹海の静けさから一転。
ここは、
生き物の熱気そのものだった。
⸻
ガルディア駅は、
巨大渓谷へ張り付くように作られていた。
上層。
中層。
下層。
全部橋と昇降機で繋がっている。
しかも。
頭上を、
大量の飛竜便が飛んでいた。
鳥人族輸送便。
小型飛行艇。
荷運び飛竜。
なんでも飛んでる。
フィルニアは、
ずっと上を見て歩いていた。
タマが、
即座に腕を掴む。
「前見ろ!」
その瞬間。
荷車と激突しかけた。
「危なっ!?」
荷車の商人が怒鳴る。
「おらぁっ!!
小娘!!」
フィルニアが、
即座に頭を下げた。
「悪ぃ!」
タマが、
深く溜息を吐いた。
「着いて五分だぞ……」
⸻
宿へ向かう途中。
巨大交易通りを歩く。
露店数が異常だった。
香辛料。
武具。
発光魚。
浮遊果実。
謎生物。
しかも。
売り子が全員うるさい。
「見てけー!!」
「本日限定!!」
「南方産海晶石!!」
フィルニアが、
完全に目移りしていた。
「なぁタマ!」
「見ろ!!
肉回ってる!!」
本当に回っていた。
巨大串肉が、
魔導回転台でぐるぐる回っている。
タマが、
呆れ顔になる。
「食い物しか見てねぇな」
「腹減った!!」
⸻
その時だった。
頭上から、
凄まじい悲鳴が響く。
「どけぇぇぇぇぇ!!」
全員見上げる。
飛竜便だった。
だが。
様子がおかしい。
荷物が、
崩れている。
しかも。
大量の木箱が、
空から落ち始めた。
フィルニアが、
即座に叫ぶ。
「うお!?」
ドガァ!!
木箱着弾。
果実爆散。
市場絶叫。
さらに。
別箱が落ちる。
タマが、
反射で子供を引っ張った。
直後。
巨大魚箱が、
地面へ突き刺さる。
ズドォ!!
市場大混乱。
⸻
飛竜便操縦士が、
半泣きで叫ぶ。
「止まれぇぇぇ!!」
だが。
飛竜が完全暴走していた。
渓谷上空を、
ぐるぐる飛び回っている。
しかも。
荷物がまだ落ちる。
フィルニアが、
完全に目を輝かせる。
「面白ぇ!!」
タマが、
即怒鳴る。
「面白くねぇ!!」
その瞬間。
今度は巨大樽が落ちた。
フィルニアが、
反射でキャッチ。
ズシィ!!
地面陥没。
商人達が固まる。
「止めた……」
「片手で……?」
フィルニアが、
笑う。
「軽かったぞ!」
タマが、
頭を抱える。
「感覚どうなってんだお前」
⸻
だが。
問題は終わらない。
暴走飛竜が、
今度は中央吊橋方向へ突っ込んで行った。
しかも。
橋には大量の人。
タマの顔色が変わる。
「マズい!」
フィルニアが、
即座に走った。
速い。
竜人脚力。
一気に階段を飛び越える。
タマも、
舌打ちして追う。
「待てコラ!!」
⸻
中央吊橋。
人々が、
既に逃げ始めていた。
暴走飛竜は、
完全に混乱している。
巨大荷物が、
まだ背中へ固定されたままだ。
橋管理員が、
青ざめている。
「ロープ切れたら橋ごと……!」
その瞬間。
飛竜が、
急降下した。
フィルニアが、
橋手すりから跳ぶ。
タマが、
思わず叫ぶ。
「フィルニア!!」
⸻
ドン!!
空中で、
フィルニアが飛竜背中へ着地した。
周囲絶叫。
「乗ったぁ!?」
「何してんだあの竜人!?」
フィルニアは、
暴れる飛竜の首へしがみ付く。
「おいコラ!!
落ち着け!!」
だが。
飛竜は余計暴れた。
急旋回。
フィルニアが、
振り回される。
「うおぉぉぉ!?」
タマが、
橋上から怒鳴る。
「勢いで乗るなバカ!!」
⸻
その時。
荷物固定具が、
完全に外れた。
巨大貨物箱が、
橋へ落ちる。
しかも。
直下には、
まだ避難し切れてない人が居た。
タマが、
即座に動く。
地面蹴り。
一気に橋欄干へ飛び乗る。
そして。
落下箱へ突撃。
ドゴォ!!
肩で受け止めた。
橋全体が揺れる。
「止めたぁ!?」
タマが、
歯を食いしばる。
「重っ……!!」
さらに。
別箱が来る。
「まだあんのかよ!!」
⸻
その頃。
飛竜背中では、
フィルニアが格闘していた。
「おい!!
落ち着けって!!」
飛竜暴れる。
翼暴れる。
荷物飛ぶ。
フィルニア吹っ飛ぶ。
「ぐぇ!!」
だが。
落ちない。
尻尾で固定していた。
下で見ていたタマが、
呆然とする。
「器用か!!」
⸻
その時。
橋管理員が叫ぶ。
「飛竜、
音に怯えてる!!」
フィルニアが、
聞き返す。
「音ぉ!?」
管理員が、
必死に頷く。
「工事爆音でパニック起こした!!」
タマが、
周囲を見る。
確かに。
近くで、
金属工事していた。
ガン!!
ガン!!
その瞬間。
飛竜がまた暴れる。
フィルニアが、
怒鳴った。
「おい!!
工事止めろぉぉぉ!!」
工事員達、
慌てて停止。
すると。
飛竜の動きが、
少しだけ落ち着く。
フィルニアが、
ゆっくり首を撫でた。
「よーしよし」
さっきまで暴れてた竜が、
少し静かになっている。
タマが、
橋上で息を吐いた。
「……お前、
意外と動物慣れしてんな」
フィルニアが、
笑う。
「竜人だからな!」
「関係あんのか?」
「多分!」
「多分かよ!!」
⸻
十分後。
騒動は収まった。
市場は、
半壊していた。
果実散乱。
魚散乱。
商人達ぐったり。
だが。
死者無し。
大怪我人も無し。
橋管理員が、
泣きそうな顔で言った。
「助かりました……」
フィルニアが、
笑う。
「気にすんな!」
タマが、
横から小声で言う。
「原因の半分お前だろ」
「なんでだよ!」
⸻
その後。
二人は、
飛竜便会社へ連行された。
理由。
事情聴取。
フィルニアが、
椅子へ座りながら言う。
「助けた側だろ!?」
担当者が、
真顔で返す。
「飛竜へ飛び乗る旅人が初めてなんです」
タマが、
顔を覆う。
「そりゃそうだろ……」
⸻
夕方。
宿へ戻る頃には、
二人ともぐったりだった。
フィルニアは、
ソファへ倒れ込む。
「疲れた……」
タマも、
深く息を吐いた。
「お前に巻き込まれた」
その時。
ミツコが、
苦笑しながら茶を置く。
「街来て早々賑やかやね」
ユキは、
少し笑いを堪えていた。
ミーコは、
静かに窓の外を見る。
ガルディアの夕景。
飛行艇。
橋。
大量の灯り。
騒がしい街だった。
だが。
この街には、
色んなものが集まっている。
人。
物。
情報。
そして――
思惑も。




