『樹上都市シルヴァレイン』
『じじばばにゃんこと異世界奇譚』
第一部『レヴァナスタシア』
朝。
列車が、
ゆっくり減速していく。
窓の外には、
巨大樹しか見えなかった。
幹。
枝。
葉。
その全てが、
普通の尺度を超えている。
しかも。
枝の上へ、
街が存在していた。
ユキが、
窓へ近付く。
「ほんとに街だ……」
木造家屋。
吊橋。
空中庭園。
巨大花畑。
全部、
樹の上。
しかも。
かなり広い。
フィルニアが、
笑う。
「落ちたら終わりだな!!」
タマが、
即答する。
「縁起悪ぃ事言うな」
⸻
列車が停車する。
シルヴァレイン中央樹都。
森精族最大都市。
ホームそのものが、
巨大枝の上だった。
しかも。
風が気持ちいい。
葉の匂い。
花の香り。
湿った森の空気。
ユキが、
少し嬉しそうだった。
「……好きかも」
ミツコが、
優しく笑う。
「落ち着く?」
ユキが、
小さく頷く。
⸻
駅構内は、
オルグディアと真逆だった。
静か。
木造建築ばかり。
機械音も無い。
代わりに。
水音。
鳥の声。
風の音が聞こえる。
タマが、
周囲を見回す。
「なんか平和だな」
その瞬間。
頭上から、
大量の果実が落ちて来た。
ボトボトボト!!
フィルニアが、
反射でキャッチする。
「うお!?」
上を見ると。
巨大猿みたいな生き物が、
枝の上から逃げて行った。
森精族駅員が、
普通に言う。
「朝はよくあります」
「よくあんのかよ」
⸻
駅前へ出ると。
さらに凄かった。
都市全体が、
巨大樹と一体化している。
建物を“建ててる”というより、
“樹と共生してる”感じだった。
幹の内部が店。
枝が通路。
葉が屋根。
しかも。
精霊光が、
街中を漂っている。
ユキは、
完全に見入っていた。
「あっ……」
小精霊達が、
またユキの周囲へ集まり始める。
淡い緑。
金色。
水色。
森精族達が、
少しざわついた。
「また寄ってる……」
「珍しい」
タマが、
小声で言う。
「ユキ人気だな」
ユキは、
困ったように笑った。
⸻
宿へ向かう途中。
巨大吊橋を渡る。
下。
見えない。
樹海が深過ぎる。
フィルニアが、
普通に手すりへ乗った。
タマが、
即座に引き戻す。
「やめろ!!」
「大丈夫だって!」
「お前が言う“大丈夫”信用出来ねぇんだよ!」
その横で。
トシオは、
普通に橋を歩いていた。
ギシ……
橋がちょっと沈む。
通行人達が、
静かに振り返る。
タマが、
顔を覆う。
「橋壊すなよ……」
⸻
宿は、
巨大樹内部だった。
しかも。
中が広い。
木の温もりがある。
暖炉。
葉編み照明。
樹液灯。
全部柔らかい。
ミツコが、
少し嬉しそうだった。
「ええ宿やねぇ」
宿主の森精族女性が、
微笑む。
「樹が元気なので、
今年は部屋の育ちも良いんです」
タマが、
真顔になる。
「部屋育つの?」
「育ちますよ?」
「この国の常識分かんねぇ……」
⸻
昼頃。
一行は、
中央樹上市場へ向かった。
かなり広い。
しかも。
売っている物が、
また独特だった。
発光蜜。
精霊果実。
歌う花。
風鈴茸。
フィルニアが、
完全にテンション上がっている。
「見ろ!!
キノコ揺れてる!!」
店主が、
普通に答える。
「機嫌良いですね」
「感情あんの!?」
⸻
市場中央では、
楽器演奏も行われていた。
静かな音色。
風と混ざる。
ユキは、
また足を止める。
すると。
演奏していた森精族が、
ユキを見る。
そして。
少し驚いた顔になった。
「……精霊が多い」
ユキが、
きょとんとする。
「え?」
周囲を見ると。
本当に、
精霊達が集まっていた。
普通より明らかに多い。
ミーコが、
静かに言う。
「懐かれてる」
タマが、
苦笑する。
「猫みたいな言い方すんな」
⸻
その後。
リーフテラスという、
樹上喫茶へ入った。
景色が凄い。
巨大樹海が、
地平線まで続いている。
ユキは、
窓際から離れない。
「森しかない……」
フィルニアが、
笑う。
「逆にすげぇな」
その時。
店員が、
巨大葉皿を運んで来た。
森果実料理。
花蜜茶。
香草焼き。
見た目も綺麗だった。
ミツコが、
少し感心する。
「可愛らしいねぇ」
フィルニアは、
既に食べ始めていた。
「うめぇ!」
タマが、
呆れる。
「早ぇよ」
⸻
食事中。
ユキは、
少し遠くを見ていた。
巨大樹海。
風。
精霊光。
不思議だった。
怖くない。
むしろ。
落ち着く。
その時。
小精霊が、
またユキの指へ止まる。
淡い金色。
ユキが、
そっと笑う。
すると。
店奥に居た、
年老いた森精族が、
静かにこちらを見ていた。
かなり長命らしい。
雰囲気が違う。
その老人は、
ユキを見たまま、
小さく呟いた。
「……森が喜んでおる」
タマが、
聞き返す。
「森?」
老人は、
静かに樹海を見た。
「精霊は、
樹海の心そのものじゃ」
「寄るという事は、
拒まれておらんという事」
ユキは、
少し照れたように笑った。
⸻
夕方。
都市上層へ、
巨大夕陽が差し込んでいた。
樹海全体が、
金色に染まっている。
フィルニアが、
空を見上げる。
「この国、
空近いな」
本当にそうだった。
巨大樹が高過ぎる。
雲が、
枝へ引っ掛かっている。
その時。
遠くで、
巨大な影が飛んだ。
ユキが、
目を丸くする。
「……鳥?」
違った。
鹿だった。
翼付き。
しかも。
普通に空を滑空している。
フィルニアが、
大笑いした。
「なんでも飛ぶじゃねぇか!!」
タマが、
もう諦めた顔をする。
「今更だろ」
⸻
夜。
宿の外廊下では、
風が静かに吹いていた。
樹液灯が、
優しく揺れている。
ユキは、
一人で外を見ていた。
そこへ。
ミツコが来る。
「眠れへん?」
ユキが、
小さく首を振る。
「違うの」
「なんか……
ここ来てから、
胸の奥があったかい感じする」
ミツコが、
優しく笑った。
「森が好きなんやろねぇ」
ユキは、
少し考える。
それだけじゃない気がした。
でも。
まだ上手く言葉に出来なかった。
その時。
夜風と一緒に、
無数の精霊光が流れて行く。
まるで。
森そのものが、
呼吸しているみたいだった。




