『緑界列車』
『じじばばにゃんこと異世界奇譚』
第一部『レヴァナスタシア』
星海横断列車は、
再び長距離航路へ入っていた。
オルグディアを離れて、
三日目。
窓の外の景色は、
少しずつ変わり始めている。
岩山が減った。
代わりに増えたのは、
緑だった。
しかも。
普通の森じゃない。
デカい。
異様にデカい。
ユキが、
窓へ張り付く。
「木……?」
タマも、
外を見ていた。
「いやデカ過ぎるだろ」
本当に大きかった。
一本一本が、
塔みたいだった。
枝葉は、
雲へ届いている。
しかも。
幹の途中へ、
建物まで見えた。
フィルニアが、
目を輝かせる。
「住んでんのかアレ!?」
ミーコが、
静かに頷く。
「樹上集落」
「森精族領では珍しくない」
⸻
列車は今、
巨大樹海地帯へ向かっていた。
シルヴァレイン聖域。
森精族国家。
精霊と共に生きる、
巨大樹海の国。
ユキは、
ずっと外を見ている。
緑。
湖。
巨大樹。
空飛ぶ白鳥みたいな生き物。
しかも。
時々、
木そのものが動いていた。
タマが、
真顔になる。
「今木動いたぞ」
フィルニアが、
笑う。
「生きてんじゃね?」
「怖ぇよ」
⸻
昼頃。
列車食堂車は、
かなり賑わっていた。
長距離航路なので、
他国の旅人も多い。
森精族。
鳥人族。
商人。
冒険者。
色んな種族が居る。
ユキは、
窓際席で果実水を飲んでいた。
すると。
通路側から、
小さな声が聞こえる。
「わ……」
振り向くと。
森精族の子供達だった。
耳が長い。
髪色も、
淡い緑や金。
しかも。
全員ユキを見ている。
ユキが、
少し戸惑う。
「……?」
その中の一人が、
おそるおそる聞いた。
「その髪……綺麗」
ユキが、
少し目を丸くする。
「え?」
子供達は、
完全に興味津々だった。
「雪みたい」
「ふわふわ」
「白狐族?」
タマが、
小声で吹き出す。
「完全に囲まれてる」
ユキは、
少し困りながらも、
小さく笑っていた。
⸻
その頃。
別方向では。
フィルニアが、
売店で揉めていた。
「だからなんだよこの野菜!!」
売店員が、
普通に答える。
「歩根菜ですが」
「歩くな野菜!!」
本当に歩いていた。
丸い根菜が、
棚の上をちょこちょこ移動している。
タマが、
腹を抱えて笑う。
「この国やべぇな」
店員は、
平然としていた。
「鮮度維持です」
「意味分からん!!」
⸻
その後。
列車は、
巨大橋梁地帯へ入った。
だが。
橋というより、
樹だった。
超巨大樹木同士を、
線路が繋いでいる。
しかも。
下が見えない。
樹海深過ぎる。
ユキが、
窓から覗く。
「……暗い」
本当に暗かった。
森の下層へ、
光が届いていない。
巨大樹の葉が、
空を覆っているからだ。
その時。
遠くで、
淡い光が見えた。
青。
緑。
金。
ふわふわ漂っている。
ユキが、
小さく声を上げる。
「光ってる……!」
ミーコが、
静かに言った。
「精霊」
食堂車に居た森精族達も、
普通に窓を見ていた。
まるで。
日常風景みたいに。
⸻
夕方。
列車は、
途中停車駅へ入った。
だが。
駅なのに、
地面が無い。
巨大樹の枝上だった。
フィルニアが、
降りた瞬間叫ぶ。
「すげぇ!!」
樹上都市。
木造回廊。
吊橋。
巨大花。
しかも。
空気そのものが違う。
暖かい。
湿っている。
スノウリアとは、
完全に別世界だった。
ユキは、
少し嬉しそうだった。
「いい匂い……」
森の香りだった。
葉。
花。
土。
全部混ざっている。
⸻
駅広場では、
市場が開かれていた。
だが。
売っている物が、
普通じゃない。
発光果実。
喋る花。
動くキノコ。
フィルニアが、
完全に楽しそうだった。
「おい見ろ!」
「花が寝たぞ!!」
タマが、
呆れる。
「お前子供か」
「楽しいだろ!!」
その横で。
トシオは、
巨大果実を試食していた。
店主の森精族が、
若干驚いている。
「そのサイズ、
普通切り分けるんですが……」
トシオが、
普通に丸齧りした。
ゴリッ。
店主停止。
タマが、
小声で言う。
「もう驚かれ慣れて来たな」
⸻
市場奥では、
楽器演奏も行われていた。
森精族特有の音色。
風鈴みたいに綺麗だった。
ユキは、
完全に聞き入っている。
その時。
一匹の小精霊が、
ユキの肩へ止まった。
淡い緑色。
羽虫みたいに小さい。
ユキが、
少し固まる。
「……え」
精霊は、
ユキの髪へ触れる。
すると。
周囲の森精族達が、
少しざわついた。
「精霊が寄った……?」
「珍しい」
ミーコが、
静かにユキを見る。
ユキ自身は、
まだ分かっていない顔だった。
⸻
夜。
列車は、
再び発車した。
今度は、
完全に樹海内部へ入る。
窓の外。
もう、
空が見えない。
巨大葉と枝だけ。
だが。
暗くはなかった。
無数の精霊光が、
森全体を照らしている。
まるで。
星空が、
地上へ降りて来たみたいだった。
ユキが、
静かに見入る。
「綺麗……」
ミツコも、
少し微笑む。
「ほんまやねぇ」
フィルニアは、
別方向で盛り上がっていた。
「見ろ!!
木の上に鹿いるぞ!!」
「普通じゃね?」
「浮いてる!!」
本当に浮いていた。
タマが、
真顔になる。
「もう何でもありだな」
⸻
深夜前。
車掌アナウンスが流れる。
『まもなく、
シルヴァレイン聖域中央圏へ入ります』
『巨大樹海保護区域につき、
一部照明を減光致します』
その瞬間。
列車内部の灯りが、
少し落ちた。
同時に。
外の精霊光が、
さらに目立つ。
ユキは、
窓へ額を寄せていた。
幻想的だった。
青。
緑。
金。
小さな光が、
森を漂っている。
その時。
遠く。
巨大樹の途中に、
何かが見えた。
都市だった。
樹の上に、
街がある。
しかも。
かなり巨大。
ユキが、
小さく息を呑む。
「……あれ」
ミーコも、
静かに外を見る。
「シルヴァレイン中央樹都」
フィルニアが、
笑う。
「次は木の国か!!」
タマが、
少し肩を回す。
「今度は何が出るんだろうな……」
その横で。
トシオは、
大いびきをかきながら、
気持ち良さそうに寝ていた。
ゴォォォ……
フィルニアが、
笑う。
「じーちゃんだけ平和だな」
ミツコが、
優しく微笑んだ。
「元気でええやない」




