『魔導院都市オルグディア』
『じじばばにゃんこと異世界奇譚』
第一部『レヴァナスタシア』
星海横断列車は、
北方航路を離れていた。
窓の外。
白銀世界は少しずつ減り、
代わりに岩山と巨大橋梁が増えていく。
フィルニアが、
窓へ張り付いていた。
「おぉ……」
「なんか景色変わって来たな」
タマも、
外を見る。
氷海ではない。
代わりに。
巨大な金属塔が、
山間部へ大量に建っていた。
しかも。
空中へ向かって、
青白い光が走っている。
ユキが、
小さく呟く。
「光ってる……」
ミーコが、
静かに外を見る。
「魔導送電塔」
タマが、
顔をしかめる。
「なんだそれ」
「都市全体へ魔力を流してる」
フィルニアが、
真顔になる。
「つまり?」
「便利」
「なるほど分からん」
⸻
昼過ぎ。
列車が、
長いトンネルを抜けた瞬間。
全員止まった。
都市だった。
巨大。
異常なほど巨大。
山脈全体を覆うように、
無数の建築物が広がっている。
石造建築。
巨大橋。
浮遊回廊。
歯車塔。
空中庭園。
そして。
都市中央には、
空へ届くほど巨大な白塔が立っていた。
ユキが、
目を丸くする。
「わぁ……」
タマも、
少し圧倒されていた。
「デカ過ぎんだろ……」
フィルニアは、
ニヤッと笑う。
「面白そうじゃねぇか」
列車アナウンスが響く。
『間もなく、
魔導院都市オルグディア中央駅』
『レヴァナスタシア最大学術国家、
オルグディア魔導院国へ到着致します』
⸻
ホームへ降りた瞬間。
空気が違った。
静か。
なのに。
人が多い。
学者。
研究員。
魔導技師。
学生。
全員、
何かしら本や書類を持って歩いている。
しかも。
頭上には、
小型魔導端末みたいな物まで浮いていた。
フィルニアが、
即座に指差す。
「なんだアレ!」
通行人が、
普通に答える。
「記録補助機ですが」
「生きてんの!?」
「魔導式です」
「分からん!!」
タマが、
吹き出した。
⸻
駅構内も異様だった。
天井全面へ、
青白い魔法陣が刻まれている。
巨大時計は、
針ではなく光で動いていた。
さらに。
荷物運搬用の魔導機械が、
普通に行き交っている。
トシオが、
静かに周囲を見る。
「便利そうだな」
その横で。
巨大荷物運搬機が、
突然停止した。
ギギギ……
技師達が慌てる。
「止まった!?」
「魔力循環切れてる!」
トシオが、
普通に荷物を持ち上げた。
片手で。
技師達が固まる。
「……え?」
「人力?」
「いやゴーレム系?」
「筋肉」
フィルニアが、
大笑いした。
⸻
駅を出ると。
さらに凄かった。
都市全体が、
立体構造になっている。
上層。
中層。
下層。
全部橋で繋がっていた。
しかも。
空中を、
魔導式浮遊船まで飛んでいる。
ユキが、
周囲を見回していた。
「あっちも光ってる……」
ミツコが、
少し笑う。
「目回しなや?」
「情報多い……」
⸻
その時。
後ろから声がした。
「失礼」
全員振り向く。
そこに居たのは、
長身の女性だった。
魔導人族。
青灰色の長髪。
細い銀縁眼鏡。
白と黒の魔導衣。
かなり整った顔立ち。
だが。
雰囲気が静か過ぎる。
女性は、
ミーコを見た瞬間、
わずかに視線を止めた。
「……その護符」
空気が止まる。
ミーコも、
静かに女性を見る。
「知ってるの?」
女性は、
小さく頷いた。
「資料でだけ」
「実物を見るのは初めてです」
タマが、
即座に前へ出る。
「誰だアンタ」
女性は、
静かに一礼した。
「私は、
中央大図書院所属」
「リシェル=クローディア」
「古代境界史を研究しています」
フィルニアが、
即答する。
「絶対頭良いやつだ」
リシェルが、
淡々と返す。
「平均よりは」
「うわまた自分で言った」
⸻
リシェルは、
かなり独特だった。
歩きながら、
本を読んでいる。
しかも。
階段も普通に降りる。
タマが、
少し引いていた。
「怖ぇよ」
「慣れです」
「学者国家全員こうなのか?」
「いいえ」
「安心した」
リシェルは、
ミーコの護符を再び見る。
「レイシス系統の記録は、
かなり閲覧制限が厳しいんです」
「だから逆に有名です」
ミーコの瞳が、
わずかに揺れる。
「……なんで?」
「王族関連だからです」
リシェルは、
静かに言った。
「王族消失以降、
かなりの資料が封印されました」
空気が少し変わる。
ユキが、
そっとミーコを見る。
⸻
夕方。
一行は、
中央大図書院へ案内された。
そして。
全員止まった。
巨大白亜建築。
何本もの塔。
空中回廊。
延々と続く窓列。
しかも。
本棚そのものが動いている。
ユキが、
思わず見上げる。
「……すご」
リシェルが、
静かに言う。
「レヴァナスタシア最大蔵書数です」
フィルニアが、
上を見る。
「何冊あんだ?」
「未計測です」
「数えてねぇの!?」
「増築の方が早いので」
「意味分からん!!」
⸻
館内へ入ると。
空気が変わった。
紙の匂い。
インク。
古木。
静かな足音。
外の機械都市感とは、
また別世界だった。
ユキは、
少しだけ安心した顔になる。
ミツコが、
優しく笑う。
「落ち着く?」
ユキが、
小さく頷いた。
「……うん」
その時。
フィルニアが、
動く本棚へ近付いた。
リシェルが、
即座に止める。
「乗ると戻れなくなります」
「なんで!?」
「自動分類搬送棚です」
「本棚が迷宮なの!?」
タマが、
吹き出した。
⸻
その後。
リシェルは、
一行を特別閲覧区画へ案内した。
一般利用者立入禁止。
重厚扉。
封印術式。
多重鍵。
フィルニアが、
嫌な顔をする。
「絶対ヤバい本あるだろ」
「あります」
「即答!!」
リシェルは、
平然としていた。
「禁書庫もあります」
「一部は閲覧だけで精神へ影響します」
ユキが、
ミツコの後ろへ隠れる。
「やっぱ怖い……」
⸻
閲覧室中央。
そこには。
巨大な世界地図が置かれていた。
かなり古い。
だが。
今まで見たどの地図より詳細だった。
ミーコが、
静かに近付く。
レイシス王国。
ヴォルグラード帝国。
シルヴァレイン聖域。
全部ある。
そして。
地図外周部。
そこだけ、
黒く塗り潰されていた。
タマが、
眉をひそめる。
「なんだこれ」
リシェルが、
静かに答える。
「閉鎖領域です」
「現在、
外周航路の大半が消失しています」
ミーコの瞳が、
わずかに細くなる。
リシェルは、
黒塗り部分を見つめたまま呟いた。
「……進行が早い」
ユキが、
不安そうに見る。
「何が?」
リシェルは、
静かに地図へ触れた。
「世界の境界収縮です」




