『白霧の終着』
『じじばばにゃんこと異世界奇譚』
第一部『レヴァナスタシア』
ド ゴ ォ ォ ォ ォ ォ ン !!!!!!
トシオの拳が、
白霧そのものを叩き潰した。
空気が爆ぜる。
衝撃波。
霧街の石畳が砕け、
灯台周囲の氷海まで揺れた。
だが。
鐘楼は止まらない。
ゴォォォォォン――――
低い鐘音が、
世界全体を軋ませていた。
白霧が、
さらに濃くなる。
霧人達も、
無限に湧き続ける。
タマが、
叫んだ。
「本体壊さねぇ限り終わらん!」
フィルニアが、
炎を噴きながら笑う。
「だったら真正面から行くだけだろ!!」
次の瞬間。
赤光爆発。
竜人姫が、
霧街中央へ突っ込んだ。
⸻
鐘楼周囲では、
霧そのものが渦を巻いていた。
普通に近付けない。
空間が歪む。
距離感がおかしい。
走っているのに、
鐘楼が遠ざかる。
ユキが、
息を呑む。
「近付けない……!」
ミーコが、
静かに前へ出た。
青白い瞳が、
霧を見抜く。
「境界を折ってる」
タマが、
顔をしかめる。
「つまり?」
「迷わせてる」
その瞬間。
霧の中から、
巨大な氷槍が飛来した。
フィルニアが、
空中で迎撃する。
竜拳。
爆炎。
ド バ ァ ァ ン !!!!
氷槍粉砕。
だが。
次々来る。
四方八方。
鐘楼そのものが、
攻撃していた。
⸻
その時。
トシオが、
構えた。
霧が揺れる。
超重量級の気配。
白霧が、
押し退けられていた。
トシオは、
鐘楼を見上げた。
「真っ直ぐ行けねぇなら」
拳を握る。
筋肉が軋む。
「道ごと開ける」
次の瞬間。
踏み込み。
氷海崩壊。
ゴ ッ ッ ッ !!!!
地面そのものが沈む。
そして。
拳。
バ ゴ ォ ォ ォ ォ ン !!!!!!
前方空間ごと、
白霧が吹き飛んだ。
歪んでいた航路が、
強引に裂ける。
タマが、
目を剥く。
「おい空間殴ったぞ今!?」
フィルニアが、
爆笑する。
「ハハハハハ!!
トシオ最高!!」
⸻
道が開いた。
鐘楼まで一直線。
ミーコが、
即座に駆ける。
蒼光展開。
霧人達が、
前へ立ち塞がる。
だが。
ミーコの瞳が光った瞬間。
霧人の動きが止まった。
空間固定。
次の瞬間。
蒼爪一閃。
ギィィィィン!!!!
霧人群が、
まとめて裂断される。
その横を。
タマが駆け抜けた。
銀閃。
超高速。
残光だけ残る。
ギャギャギャギャギャン!!!!
霧人の首が、
一斉に飛ぶ。
フィルニアは、
さらに上空へ。
炎尾を引きながら、
鐘楼上層へ突っ込んだ。
だが。
その瞬間。
鐘楼の目が開く。
巨大な白眼。
霧そのものの視線。
ゴォォォォォォォン――――!!!!
衝撃波。
フィルニアが、
空中で吹き飛ばされる。
「ッッ!!」
珍しく押された。
その時。
鐘楼周囲の霧が、
巨大な腕を形成した。
今までより遥かにデカい。
灯台すら握り潰せそうなサイズ。
それが、
フィルニアへ振り下ろされる。
⸻
だが。
その前へ、
黒い影が飛び込んだ。
トシオだった。
片腕一本。
真正面。
超重量級の筋肉が、
霧巨腕を受け止める。
激突。
ド ォ ォ ォ ォ ォ ン !!!!!!
氷海全体が震える。
止めた。
あの巨腕を、
真正面から。
トシオの足元が、
沈む。
氷海が割れる。
だが。
押し返す。
筋肉が膨れ上がる。
そして。
豪快に笑った。
「軽ぃなァ!!」
次の瞬間。
ゴ バ ァ ァ ァ ァ ァ ン !!!!!!
霧巨腕が、
根本から吹き飛んだ。
白霧爆散。
鐘楼そのものが揺れる。
⸻
その瞬間。
ユキの耳へ、
声が届いた。
歌。
港歌。
だが。
今までと違う。
悲しい。
帰れなかった人達の歌だった。
ユキは、
霧街を見る。
そこには。
大量の人影が立っていた。
船員。
港夫。
家族。
皆、
鐘楼を見ている。
まるで。
閉じ込められているみたいだった。
ユキが、
小さく呟く。
「……帰りたいの?」
その時。
霧人達が、
一瞬だけ動きを止めた。
ミーコが、
目を細める。
「……聞こえてる」
ユキは、
鐘楼を見上げた。
怖い。
でも。
分かった。
これは、
悪意だけじゃない。
帰れなかった想い。
消えた港。
置き去りになった人達。
全部が、
鐘へ縛られている。
ユキは、
一歩前へ出た。
ミツコが、
少し驚く。
「ユキ?」
ユキは、
霧街を見たまま言った。
「帰ろ」
鐘が鳴る。
ゴォォォォォン――――
だが。
今度は少し違った。
悲鳴みたいな音だった。
⸻
ミーコが、
静かに頷く。
「……終わらせる」
青白い光が広がった。
空間そのものが震える。
ミーコの背後へ、
巨大な蒼輪が展開する。
境界干渉。
本気だった。
タマが、
目を細める。
「派手にやるな……」
フィルニアが、
空中で笑う。
「いいじゃねぇか!!」
赤炎噴出。
竜力最大解放。
トシオも、
拳を構えた。
超重量級の殺気で、
白霧が吹き飛ぶ。
鐘楼が、
最後の鐘を鳴らす。
ゴォォォォォォォォォン――――!!!!
世界が揺れる。
白霧暴走。
巨大霧波が、
全方向へ広がった。
その瞬間。
ミーコが、
静かに手を振る。
空間固定。
霧停止。
世界そのものが、
一瞬止まった。
そこへ。
フィルニアが突っ込む。
炎尾。
赤光。
竜拳。
ド ォ ォ ォ ォ ン !!!!!!
鐘楼外壁粉砕。
タマが、
高速斬撃を重ねる。
ギ ギ ギ ギ ギ ィ ン !!!!
霧核露出。
そして。
最後。
トシオが踏み込んだ。
氷海沈下。
白霧爆散。
超重量級の拳が、
鐘楼核心へ叩き込まれる。
ド ゴ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ン !!!!!!!!!!
瞬間。
鐘が止まった。
静寂。
完全な静寂だった。
次の瞬間。
霧街全体へ、
無数の光が走る。
港。
船。
塔。
街路。
全部が、
光へ変わっていく。
ユキが、
静かにそれを見ていた。
白い人影達が、
少しずつ空へ昇っていく。
苦しそうな顔じゃなかった。
皆、
穏やかだった。
港夫達の歌が聞こえる。
今度は、
暖かい歌だった。
ミツコが、
小さく微笑む。
「帰れるんやねぇ……」
白霧が晴れていく。
鐘楼も、
静かに崩れていった。
最後に。
港中央へ立っていた、
一人の船長らしき男が。
ゆっくり頭を下げた。
そして。
全部消えた。
⸻
朝日だった。
何日ぶりか分からない光が、
氷海へ差し込んでいる。
白霧は、
完全に消えていた。
静かな海。
空。
砕氷船。
全部戻っている。
灯台守が、
静かに海を見つめていた。
「……終わったか」
カヤも、
長く息を吐く。
「助かったな」
フィルニアは、
雪へ倒れ込んでいた。
「腹減った……」
タマが、
呆れる。
「感想それかよ」
ユキは、
静かな海を見ていた。
もう。
鐘は聞こえない。
ただ。
遠い空の向こうで。
港歌だけが、
優しく響いている気がした。




