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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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52/139

『星雨の停車駅』

『じじばばにゃんこと異世界奇譚』


第一部『レヴァナスタシア』





星海横断列車は、

静かに境界を走っていた。


窓の外には、

無限の星海。


けれど。


今夜は少し違う。


光が流れていた。


細い星の粒が、

空の下から上へ昇っていく。


雨みたいに。


ゆっくり。


静かに。


ユキが、

窓へぺたりと張り付く。


「わぁ……」


青白い光が、

瞳へ映っていた。


ミーコも、

静かに外を見ている。


フィルニアは、

ソファへ寝転がったまま片目を開けた。


「また変な場所っぽいな」


タマが、

コーヒーを飲みながら呟く。


「列車乗ってから、

普通の場所の方が少ねぇ」


ミツコが、

小さく笑った。


「確かにねぇ」


その時。


車内アナウンスが響く。


『まもなく、

星雨観測駅エルミナ到着』


『停車予定時間、

十二時間』


トシオが、

窓の外を見る。


「観測駅?」


「星見る場所かな?」


ユキが、

少し楽しそうに尻尾を揺らした。



到着した駅は、

今までで一番小さかった。


ホーム一本。


待合室ひとつ。


街らしい街も見えない。


周囲には、

白い草原が広がっていた。


風が吹く度、

草が淡く光る。


しかも。


空から、

星みたいな粒が降っていた。


触れると、

ふわっと溶ける。


冷たくはない。


ユキが、

両手で受け止める。


「きれい……」


ホームに居る人達は少ない。


皆、

静かに空を見ていた。


誰も騒がない。


大声も無い。


まるで。


この景色を壊さないように、

呼吸しているみたいだった。


その時。


ホーム奥から、

ゆっくり一人の老人が歩いて来た。


白髪の鹿獣人。


長い外套。


片目には、

古い観測レンズを付けている。


だが。


背筋は真っ直ぐだった。


彼は、

トシオ達を見ると穏やかに笑った。


「旅人か」


トシオが頷く。


「まぁな」


「ようこそ、

エルミナへ」


老人――駅守は、

静かな声で続ける。


「今夜は星雨が強い」


「良い景色が見られる」



エルミナには、

宿が一軒しか無かった。


小さな木造宿。


暖炉。


薬草茶。


柔らかい灯り。


ラグナ・ベルの賑やかさとは、

真逆の空気だった。


けれど。


不思議と落ち着く。


ユキは、

窓際席へ座っていた。


外では、

まだ星雨が降っている。


ミツコが、

温かいミルクを差し出した。


「冷えるからねぇ」


「ありがと!」


フィルニアは、

既に焼き菓子を食べていた。


タマが呆れる。


「お前ほんと、

どこでも食ってんな」


「旅に食は重要だ」


「言い方だけ立派だな」


その時。


宿の奥から、

小さな女の子が出て来た。


羊獣人だった。


ふわふわの白髪。


眠たそうな垂れ目。


年齢は、

ユキより少し下くらい。


彼女は、

おずおず近付いて来る。


「……旅人さん?」


ユキが、

にこっと笑う。


「うん!」


少女は、

少し安心した顔になった。


「私はノエル」


「宿のお手伝いしてるの」


ミーコは、

静かに彼女を見る。


この街の人達は、

皆どこか穏やかだった。


急がない。


焦らない。


静かな時間の中で、

暮らしている。



夜。


ノエルの案内で、

一行は丘へ向かった。


白い草原。


風。


星雨。


そこから見える景色に、

全員少し言葉を失った。


空と地面の境界が曖昧だった。


星が降り。


草が光り。


世界全部が、

夜空へ溶け込んでいる。


ユキが、

ぽつりと呟く。


「夢みたい……」


ノエルが、

小さく笑う。


「私、

この景色好きなの」


フィルニアも、

空を見上げたまま言う。


「……悪くねぇ」


タマが、

少し笑った。


「珍しく静かだな」


「こういう場所で騒ぐほどガキじゃねぇよ」


「普段暴れてる奴のセリフじゃねぇ」


ミツコが、

草の上へ座る。


「静かやねぇ」


トシオも、

ゆっくり腰を下ろした。


風が吹く。


白い草が揺れる。


星雨が、

淡く流れていく。


トシオが、

空を見ながら呟いた。


「波の無い海みたいやな」


ミーコは、

少しだけ目を細める。


確かに似ていた。


静かで。


広くて。


終わりが見えない。



ノエルは、

星雨について話してくれた。


毎日起きる現象ではない事。


強い夜は、

月に数回しか無い事。


だから。


色んな人が、

この駅へ来るらしい。


旅人。


画家。


詩人。


学者。


皆、

星雨を見に来る。


「でもね」


ノエルが、

空を見ながら言う。


「ここ来る人、

みんな静かになるの」


ユキが首を傾げる。


「どうして?」


「……わかんない」


ノエルは、

少し笑った。


「でも、

ずっと見ちゃうんだ」


その気持ちは、

なんとなく分かった。


ミーコも。


タマも。


フィルニアも。


皆、

空を見ていた。


何か特別な事が起きるわけじゃない。


でも。


ただ眺めていたくなる。


そんな夜だった。



深夜。


宿へ戻る途中。


駅守が、

ホームでランタンを持って立っていた。


トシオが、

隣へ並ぶ。


「毎晩見とるんか」


駅守は頷く。


「もう四十年ほどな」


「飽きん?」


「飽きんよ」


老人は、

静かに笑う。


「同じ空は、

二度と無いからな」


ミツコが、

少し目を細めた。


駅守は、

星雨を見上げながら続ける。


「旅も同じだ」


「過ぎた時間は戻らん」


「だから、

ちゃんと見ておくんだ」


その言葉に。


ミーコは、

少しだけ空を見る。


ラグナ・ベル。


アストラ。


風の谷。


全部。


もう、

同じ時間では戻れない。


でも。


ちゃんと残っている。


旅の中へ。



翌朝。


星雨は止んでいた。


白い草原だけが、

静かに揺れている。


ノエルが、

ホームまで見送りに来ていた。


「また来てね」


ユキが、

嬉しそうに頷く。


「うん!」


フィルニアは、

既に大量の焼き菓子を抱えていた。


タマが、

呆れ顔になる。


「どこで買ったんだよそれ」


「朝」


「答えになってねぇ」


列車の扉が開く。


汽笛が鳴る。


ボォォォ――――……


乗り込む直前。


ミーコは、

一度だけ振り返った。


小さな駅。


白い草原。


静かな空。


何も起きなかった場所。


でも。


だからこそ、

忘れない気がした。


星海横断列車は、

再び走り出す。


まだ見ぬ景色へ向かって。

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