表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/139

『花硝子の街メルクレア』

『じじばばにゃんこと異世界奇譚』


第一部『レヴァナスタシア』




『花硝子の街メルクレア』


星海横断列車は、

ゆっくり雲海を走っていた。


窓の外には、

白い雲。


その遥か下で、

時々光が瞬く。


まるで。


空の上を旅しているみたいだった。


車内では、

珍しく静かな時間が流れている。


ユキは、

ラグナ・ベルで買ったガラスランタンを、

膝の上へ乗せていた。


淡い青色。


揺れる度、

小さな光が反射する。


ミツコが、

それを見ながら微笑む。


「気に入っとるねぇ」


「うん!」


ユキは、

嬉しそうに頷いた。


その隣で。


フィルニアが、

座席へ寝転がっている。


完全にだらけていた。


タマが、

本を閉じながら呟く。


「お前ほんと、

列車慣れしたな」


「移動中は寝るに限る」


「おっさんみたいな事言うな」


ミーコは、

窓の外を眺めていた。


雲の切れ間。


その奥に、

何か巨大な影が見える。


都市だった。


ガラスみたいに光っている。


その時。


車内アナウンスが響く。


『まもなく、

空中温室都市メルクレア到着』


『植物保護区域へ入ります』


フィルニアが、

片目を開ける。


「温室?」


タマが、

少し考える。


「植物系の街か」


ユキが、

ぱっと顔を上げた。


「お花いっぱいかな!」



到着した瞬間。


甘い風が吹いた。


花の香りだった。


駅そのものが、

巨大な温室になっている。


透明な天井。


蔦の絡まる柱。


空中へ伸びる緑の回廊。


しかも。


街全体が、

空に浮いていた。


無数のガラスドームが、

雲海の上へ広がっている。


水路が流れ。


木々が揺れ。


巨大花が咲いている。


ユキが、

完全に目を輝かせていた。


「すごぉぉ……!」


ミツコも、

静かに周囲を見回す。


「綺麗やねぇ……」


トシオは、

空気を吸い込んでいた。


「草の匂いするな」


フィルニアが、

真顔で言う。


「腹減る匂いだ」


「お前だけだよ」


タマが即座に突っ込む。


その時。


ホーム横の巨大花が、

突然開いた。


パカッ。


フィルニアが止まる。


「食われる?」


「違います!」


明るい声が響く。


次の瞬間。


花の中から、

少女が飛び出して来た。


勢い余って転んだ。


ドサァ!!


「いっっった……!」


全員止まる。


少女は、

緑髪のリス獣人だった。


短髪。


作業ゴーグル。


葉っぱだらけの作業服。


年齢は、

十代後半くらい。


彼女は、

痛そうに腰を押さえながら立ち上がる。


「初めまして!」


「私はリッカ!」


「空中庭師やってます!」


フィルニアが、

真顔で聞く。


「今そこから生えてきた?」


「違うよ!?」



リッカは、

そのまま街を案内してくれた。


メルクレアは、

“植物と共に暮らす都市”。


建物の半分が、

植物で出来ている。


壁が蔦。


照明が発光花。


水路浄化も植物。


果ては、

空調まで植物だった。


ユキが、

完全に興味津々で聞く。


「全部お花なの?」


「木も苔も虫も使うよ!」


リッカは、

得意げに笑った。


「この街、

植物無しじゃ回らないんだ!」


その時。


フィルニアが、

巨大果実を持ち上げていた。


「重っ」


人の頭サイズの桃だった。


タマが、

少し引く。


「なんだそのサイズ」


リッカが、

普通に答える。


「空養果実!」


「ネーミング雑だな!?」


フィルニアは、

既に齧っていた。


「甘っ」


「食うの早ぇよ」



昼頃。


一行は、

中央温室庭園へ来ていた。


そこは、

巨大な花畑だった。


色が凄い。


青。


赤。


金。


白。


しかも。


空中へ浮かぶ花まである。


風に揺れながら、

ゆっくり漂っていた。


ユキが、

完全に見入っている。


「空飛んでる……」


リッカが笑う。


「浮遊花!」


「この街、

全部そのまんまだな」


タマが呆れる。


ミツコは、

花へそっと触れていた。


「柔らかいねぇ」


その横で。


トシオが、

巨大剪定鋏を見ていた。


興味津々。


庭師のおじさんが、

笑いながら聞く。


「兄ちゃん、

力仕事得意そうだな」


「まぁな」


「ちょっと手伝ってかない?」


数分後。


トシオが、

巨大樹の枝を持ち上げていた。


庭師達がざわつく。


「持ち上げた!?」


「人力で!?」


タマが、

遠くで笑っていた。


「馴染みすぎだろ……」



その頃。


ユキは、

薬花工房へ夢中になっていた。


花から香油を作る店。


透明瓶が、

棚いっぱい並んでいる。


甘い香り。


爽やかな香り。


森みたいな香り。


色んな匂いが混ざっていた。


店番のおばあさんが、

優しく笑う。


「嬢ちゃん、

嗅いでみるかい?」


「いいの!?」


ユキは、

一つ一つ試していた。


その姿を見ながら。


ミーコは、

少し離れて街を眺めている。


平和だった。


戦いも。


侵食も。


銀眼も。


ここには無い。


ただ。


花を育てて。


実を収穫して。


穏やかに暮らしている。


そんな街だった。



午後。


リッカは、

巨大温室最上層へ案内してくれた。


そこには、

一本の大樹があった。


巨大だった。


幹が、

家みたいに太い。


枝葉が、

空いっぱいへ広がっている。


温室天井を突き抜けるほど大きい。


ユキが、

ぽかんとしている。


「おっきぃ……」


フィルニアが、

思わず言いかける。


「で――」


タマが、

即座に止めた。


「そのセリフ禁止」


「まだ言ってねぇだろ!?」


リッカが、

笑いながら木を見上げる。


「この木、

メルクレアの中心なんだ」


「街が浮いてるのも、

この根の力」


ミツコが、

そっと幹へ触れた。


「生きとる力感じるねぇ」


風が吹く。


葉が揺れる。


柔らかな木漏れ日が、

皆へ降り注いだ。


トシオは、

静かに空を見上げる。


「落ち着くな」


ミーコも、

少しだけ目を細めた。



夕方。


メルクレア中央市場。


収穫祭が始まっていた。


花灯り。


果実酒。


音楽。


空中演奏会。


街全体が、

柔らかい光で包まれている。


しかも。


皆楽しそうだった。


子供達は走り回り。


庭師達は笑い。


楽団が演奏している。


ラグナ・ベルの賑やかさとは違う。


もっと穏やかな祭りだった。


ユキは、

花冠を付けてもらっていた。


嬉しそう。


ミツコも、

小さな花飾りを髪へ付けている。


トシオは、

屋台のおじさん達と普通に混ざっていた。


完全に馴染んでいる。


フィルニアは、

収穫祭限定串焼きを食べていた。


六本目。


タマが、

呆れ顔で言う。


「食い過ぎだろ」


「祭りだからな」


「便利な言葉だなおい」


リッカは、

腹抱えて笑っていた。



夜。


巨大温室群が、

淡く光っていた。


発光花。


蛍草。


植物灯。


街全体が、

星みたいに輝いている。


ユキは、

宿の窓からそれを見ていた。


「また来たいなぁ……」


ミツコが、

優しく笑う。


「うん」


「ええ街やねぇ」


フィルニアは、

既に寝ていた。


しかも。


巨大果実抱えてる。


タマが、

ため息を吐く。


「なんで持って寝るんだよ」


「取ったら起きるぞ」


「動物か」


ミーコは、

静かに夜景を見ていた。


空へ浮かぶ温室都市。


柔らかい灯り。


花の香り。


この旅は、

不思議な場所ばかりだ。


でも。


悪くない。


星海横断列車は、

また次の景色へ向かう。


ゆっくりと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ