別れと始まりの…
その夜。
吹雪だった。
窓を叩く風が、
まるで誰かの叫び声みたいに響いている。
ミツコは布団の中で、
静かに呼吸していた。
浅い。
弱い。
トシオは、
その手を握っている。
もう何も言わなかった。
言葉にした瞬間、
終わってしまいそうだったから。
囲炉裏の前では、
タマとユキが寄り添っている。
そしてミーコだけが、
外を見ていた。
蒼い瞳。
その奥に映るのは、
雪山ではない。
“門”。
異世界へ続く、
巨大な光の裂け目。
ついに境界が崩れ始めていた。
ミーコは理解していた。
この家が、
この世界との“楔”だった。
そして。
ミツコの命こそが、
門を安定させていたのだと。
「……嫌」
小さな声。
王女ではない。
ただの幼い少女の声だった。
「嫌です……」
その時。
ミツコの瞼が、
ゆっくり開く。
「ミーコ……?」
「……っ」
ミーコは慌てて駆け寄る。
ミツコは、
弱々しく笑った。
「泣かんでよぉ」
その手が、
ミーコの頭を撫でる。
優しい。
あまりにも優しい。
ミーコは、
初めて知ってしまった。
“母”の温もりを。
「……おばあちゃん」
ぽろりと涙が落ちる。
ミツコは、
少し驚いたように目を丸くした。
そして、
嬉しそうに笑った。
「うん」
その瞬間。
世界が揺れた。
ゴォォォォ──!!
家の外。
山の奥で、
巨大な蒼い光が空を裂く。
門が開く。
吹雪が逆巻く。
家が軋む。
タマが叫ぶ。
ユキが震える。
ミーコのオッドアイが、
強く輝き始める。
そして。
ミツコは最後に、
トシオを見る。
「……ありがとうねぇ」
トシオは、
何も言えなかった。
ただ、
強く手を握る。
そして。
ミツコの手から、
力が抜けた。
静寂。
その瞬間。
門が完全に開いた。
蒼い光が、
家ごと飲み込む。
タマの身体が光る。
ユキの毛並みが舞う。
ミーコの姿が、
人の形へ変わり始める。
そしてトシオは、
ミツコを抱き締めたまま、
光の中へ落ちていく。
──暖かい。
最後に、
そう思った。
気づけば。
そこには、
青空が広がっていた。




