不安と変わりつつある事…
第四話
あの日から。
家の周囲には、
時々“何か”が現れるようになった。
雪の上に残る奇妙な足跡。
夜中、
山の奥で響く遠吠え。
そして、
ミーコたちが時折見せる、
猫とは思えない表情。
けれど。
不思議と、
家の中だけは穏やかだった。
「タマ、味噌汁飲もうとせん!」
「にゃっ!?」
「ユキは細すぎるねぇ。
もっと食べんね」
「みゃぅ……」
「ミーコはまた難しい顔しとる」
囲炉裏の前。
ミーコは小さく目を逸らした。
トシオは、
その様子を見ながら煙草に火をつける。
「最近、
よう笑うようになったな」
ミーコの耳がぴくりと動いた。
「……そうでしょうか」
まだ拙いが、
もう普通に言葉を話している。
最初こそ驚いていたミツコも、
今では自然に返事をしていた。
「いいことや」
ミツコは笑う。
「笑える時は笑わんと」
その横顔を見て、
トシオは静かに目を伏せた。
最近、
咳が増えた。
立ち上がる時、
少し苦しそうにする。
分かっていた。
時間はもう、
長くない。
その夜。
雪は止み、
空には星が出ていた。
縁側。
ミツコは毛布にくるまり、
三匹を膝に乗せている。
「綺麗やねぇ」
空を見上げ、
小さく笑う。
ミーコは、
そんなミツコをじっと見ていた。
「……怖くないのですか」
「ん?」
「終わることが」
静かな声。
王族として、
多くの死を見てきた声だった。
ミツコは少し考え、
空を見上げる。
「怖いよ」
その言葉に、
ミーコの目が揺れる。
「でもねぇ」
ミツコは、
三匹をそっと撫でた。
「最後に、
こんな幸せもらったけん」
「……」
「悪くない人生やった」
ミーコは俯く。
小さな身体が震えていた。
その時。
遠くの山が、
一瞬だけ蒼く光った。
空気が変わる。
トシオが立ち上がる。
そしてミーコは知ってしまう。
──来る。
“世界”が、
こちらを見つけた。




