表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/139

「晩餐」

『じじばばにゃんこと異世界奇譚』


第一部『レヴァナスタシア』






竜王城の大広間には、

静かな弦楽器の音色が流れていた。


高い天井。


黒銀の巨大柱。


蒼い魔導灯。


そして。


果てしなく長い食卓。


そこへ並べられている料理は、

まさに帝国最高峰だった。


巨大海獣の炙り肉。


飛竜卵の濃厚スープ。


火山麦の黒パン。


香草焼き。


山盛りの果実。


年代物の果実酒。


料理人達が、

誇りと緊張を込めて作り上げた晩餐。


普通なら、

誰もが萎縮する場だった。


だが。


「これ足りるかのぉ」


トシオの第一声がそれだった。


沈黙。


料理人達が固まる。


タマが即座にツッコむ。


「いや量見て言ってる!?」


フィルニアが腹を抱えて笑った。


「じーちゃんマジで好きだわ!!」


ヴァルドレイクですら、

僅かに肩を揺らしている。


その時だった。


ミツコが、

並んだ料理をじーっと眺めていた。


エレミアが気付く。


「何か問題でも?」


「んー……」


ミツコは、

少し困ったように首を傾げる。


「みんなの分はないのかねぇ?」


広間が静まり返った。


兵士達が、

思わず顔を見合わせる。


エレミアも、

わずかに目を細めた。


「……兵達の分、

ですか?」


「こんなに美味しそうなんやもん」


ミツコは、

柔らかく笑った。


「せっかくのお料理、

みんなで食べた方がおいしいよきっと」


静寂。


王族の晩餐へ、

兵士達も呼ぶ。


そんな発想。


普通なら有り得ない。


料理人達ですら、

ぽかんとしていた。


だが。


ヴァルドレイクの眼差しが、

鋭く細められる。


王として。


目の前の人間を測っていた。


数秒。


重たい沈黙。


その後。


──フッ。


竜王が小さく笑った。


「面白い」


低い声が、

広間へ響く。


そして。


ヴァルドレイクは、

静かに立ち上がった。


「全兵士へ通達」


居並ぶ兵士達の背筋が伸びる。


「今宵は無礼講だ」


数秒。


誰も理解できなかった。


「……は?」


一人の兵士が、

間抜けな声を漏らす。


フィルニアが目を輝かせた。


「マジで!?」


エレミアが、

ふっと微笑む。


その瞬間。


張り詰めていた広間から、

一気に力が抜けた。


ざわざわと、

兵士達が騒ぎ始める。


「え、本当に?」


「俺達も……?」


「竜王陛下直々の許可だぞ!?」


料理人達まで慌て始めた。


タマが、

半笑いで呟く。


「とんでもない事言ったなぁばーちゃん……」


ミツコは、

のんびり笑っている。


「せっかくやもんねぇ」


──数十分後。


宴会場は、

完全に別世界になっていた。


笑い声。


乾杯。


料理を奪い合う兵士達。


飛竜騎士達の大騒ぎ。


誰もが、

肩の力を抜いていた。


フィルニアなど、

既に山盛り肉料理を抱えている。


「うまぁぁぁ!!」


「食い方男子高校生なんよ」


タマが呆れる。


「王女ってもっとこう……

おしとやかじゃないの?」


「無理だな」


グランヴェルが即答した。


「叔父貴ぃ!!」


周囲から笑いが漏れる。


その横では。


セレスが、

静かにスープを飲んでいた。


だが。


明らかに食べる速度が早い。


タマがニヤニヤする。


「セレスそれ好きでしょ」


「違います」


「今四杯目だよ?」


セレスは、

目を合わせず呟いた。


「……違います」


ミーコが、

くすっと笑う。


以前なら。


こんな風に笑う余裕なんて、

無かった。


その時だった。


トシオが、

巨大な骨付き肉を見ながら呟く。


「これ何の肉じゃ?」


料理長が、

緊張しながら答えた。


「か、火山地帯に棲む

紅角獣の肉でございます……」


「ほぉ」


トシオは、

普通にかぶりついた。


バキィ!!


骨ごといった。


料理人達が固まる。


フィルニアが目を輝かせた。


「じーちゃんマジかっ!?」


ヴァルドレイクが、

低く笑う。


「豪快だな」


「骨が柔らかかったぞ」


「それ普通は噛み砕けません」


カリヴァが真顔で言う。


タマが吹き出した。


ユキまで笑っている。


その時。


ユキが、

ふと周囲を見回した。


「……みんな笑ってる」


その呟きに。


ミーコが、

静かに目を細める。


本当にそうだった。


兵士達も。


料理人達も。


竜人族も。


誰もが、

同じ食卓を囲んでいる。


戦うための国。


強さこそ全てと言われる帝国。


なのに今は。


ただ。


みんなでご飯を食べていた。


エレミアは、

静かにワインを揺らしている。


「……不思議ですね」


ヴァルドレイクが視線を向ける。


エレミアは、

小さく笑った。


「この方達が来てから、

城が少し賑やかになりました」


その言葉へ。


グランヴェルも、

静かに頷いていた。


誰もが感じている。


張り詰めていた帝都。


空間裂け。


瘴気汚染。


飛竜狂化。


世界は確実に壊れ始めている。


だが。


この2人がいると。


なんだか柔らかい空気を感じられた。


不思議と。


張っていた心が、

少しだけ軽くなる気がした。


その時だった。


コンコン。


広間の扉が叩かれる。


楽しい空気が、

ぴたりと止まる。


入ってきた兵士の顔色が悪い。


「陛下」


ヴァルドレイクの視線が向く。


「どうした」


兵士は、

息を整えながら答えた。


「北部監視塔より緊急報告です」


広間の笑い声が消える。


兵士の額には、

汗が浮いていた。


「空間裂け、

拡大しています」


沈黙。


フィルニアの笑顔が消える。


セレスも、

静かに立ち上がった。


「規模は?」


「……過去最大です」


その言葉に。


ヴァルドレイクの眼光が鋭くなる。


「被害は」


「周辺集落との連絡が途絶しています」


重苦しい沈黙。


グランヴェルが、

静かに槍へ手を掛けた。


兵士達の顔から、

宴の空気が消えていく。


だが。


その時だった。


トシオが、

普通にお茶を飲みながら呟く。


「広がっとるんじゃのぉ」


全員が見る。


トシオは、

のんびり湯呑みを置いた。


「放っとくと、

もっと腹減らすぞあれ」


タマが頭を抱える。


「もう“腹減った生き物”扱いなんだ……」


だが。


ヴァルドレイクだけは、

真顔だった。


「……貴殿には、

何が見えている」


広間が静まり返る。


トシオは、

少しだけ考え込む。


そして。


ぽつりと答えた。


「泣いとる」


誰も動かなかった。


ミーコが、

静かに息を呑む。


ヴァルドレイクの眼差しが細くなる。


「……泣いている?」


「寂しいんじゃろ」


トシオは、

窓の外を見る。


夜空。


その遥か向こう。


黒い雲が、

ゆっくり渦巻いていた。


「だから、

穴開けてこっち見とる」


その言葉。


誰も、

すぐには理解できなかった。


だが。


エレミアだけは、

静かに目を伏せていた。


まるで。


その言葉へ、

覚えがあるみたいに。


その時だった。


──グォォォォォ……


遠く。


帝都上空で。


守護竜アストラヴェインが、

低く鳴いた。


それは。


警戒の声だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ