『竜王城』
# 『じじばばにゃんこと異世界奇譚』
## 第一部『レヴァナスタシア』
ヴァルグランの夜は、
空そのものが近かった。
巨大な山脈都市。
無数の灯火。
飛び交う飛竜達。
夜空を横切る巨大な吊橋。
まるで、
星々の中へ街が浮かんでいるみたいだった。
タマは、
宿舎の窓へ張り付いている。
「やっば……
帝都すげぇ……」
「落ちるなよ」
フィルニアが呆れる。
だが。
本人もかなりテンションが高い。
尻尾みたいに、
腰の後ろの竜尾が揺れていた。
ユキは、
窓から飛竜を見上げている。
「空のお船みたい……」
「あれ全部飛竜騎士団だ」
フィルニアが答える。
「帝都周辺だけでも、
千騎以上いるぞ」
「せ、千……?」
ミーコが息を呑む。
獣人王国レイシスにも、
騎獣部隊は存在した。
だが。
規模が違う。
この国は、
本当に“竜”で成り立っている。
その時だった。
コンコン。
扉が叩かれる。
セレスだった。
「竜王陛下がお待ちです」
空気が少し変わる。
フィルニアが、
露骨に嫌そうな顔をした。
「うわぁ……
親父かぁ……」
「その言い方やめなさい第二王女」
「だって説教長いんだよ」
「自覚はあるんですね」
タマが肩を震わせていた。
「この国、
王族の距離感近くない?」
「近いというか……
フィルニアが自由すぎるだけでは」
ミーコが小声で言う。
グランヴェルが、
静かに頷いた。
「否定できん」
フィルニアが抗議する。
「叔父貴ぃ!!」
だが。
その時だった。
トシオが、
ぽつりと呟く。
「腹減ったのぉ」
沈黙。
セレスが止まる。
フィルニアが吹き出した。
「会談前だぞ!?」
「飯は大事じゃ」
「じーちゃん毎回それだよね!?」
ミツコは、
のんびり笑っていた。
「お茶くらい持ってこうかねぇ」
セレスが、
小さく息を吐く。
「……陛下も、
その方が話しやすいかもしれません」
タマが目を丸くした。
「セレスが順応してる……」
そして。
一行は、
竜王城へ向かう事になった。
──竜王城。
それは、
もはや城というより“神殿”だった。
黒銀の巨大柱。
空中回廊。
竜の彫刻。
燃える蒼炎。
巨大な天井には、
古代竜の壁画が描かれている。
圧倒的。
その一言だった。
ユキが、
完全にミツコの後ろへ隠れている。
「お、おっきい……」
「迷子になるなよ」
タマも、
少し緊張していた。
その時。
巨大な扉が、
ゆっくり開く。
ゴゴゴゴゴ……
重々しい音。
そして。
広間の奥。
巨大な玉座へ座る、
一人の男がいた。
白銀の長髪。
巨大な黒角。
鋭い紅眼。
全身を覆う黒鎧。
そして。
圧倒的な覇気。
その存在だけで、
空気が重くなる。
兵士達が、
一斉に膝をついた。
「竜王陛下!!」
ヴァルドレイク=ドラグニル。
竜人族最強。
ヴァルグラン帝国皇帝。
世界最強の一角だった。
だが。
フィルニアだけは、
普通だった。
「親父ー」
「フィルニア」
「久しぶり」
「また無茶をしたらしいな」
「なんで皆知ってんだよ!?」
タマが吹き出した。
「情報共有早すぎない!?」
ヴァルドレイクは、
静かに娘を見る。
その目は厳しい。
だが。
どこか柔らかかった。
そして。
ゆっくり視線が動く。
トシオ。
ミツコ。
ミーコ。
タマ。
ユキ。
その全員を見る。
静かな沈黙。
空気が張り詰める。
だが。
先に口を開いたのは、
トシオだった。
「こりゃまたゴッツイ王様じゃな」
沈黙。
広間が止まる。
兵士達が青ざめた。
タマが顔を覆う。
「あぁ……
言っちゃった……」
だが。
ヴァルドレイクは怒らなかった。
数秒。
静かにトシオを見る。
そして。
──フッ。
小さく笑った。
周囲が凍る。
「陛下が……笑った?」
兵士達がざわつく。
ヴァルドレイクは、
ゆっくり立ち上がる。
その動作だけで、
空気が揺れるみたいだった。
「なるほど」
低い声。
重い。
だが。
不思議と嫌な圧ではない。
ヴァルドレイクは、
玉座の階段を降りながら続けた。
「アストラヴェインが反応する訳だ」
その言葉に、
グランヴェルが目を細める。
やはり。
守護竜の異変は、
既に報告されていた。
ヴァルドレイクは、
トシオの前で止まった。
真正面。
王と王みたいな空気。
だが。
トシオだけ、
いつも通りだった。
「お前さん、
強いのぉ」
沈黙。
フィルニアが吹き出す。
「初対面でそれ言う!?」
タマも耐えきれない。
「じーちゃん通常運転すぎるって!!」
だが。
ヴァルドレイクは、
静かに目を細めた。
「貴殿ほどではない」
広間が凍る。
セレスが、
僅かに目を見開いていた。
竜王が。
他者を認めた。
それだけで、
異常だった。
その時だった。
ミツコが、
のんびり前へ出る。
「まぁまぁ、
お茶でも飲みながらでも」
沈黙。
兵士達が頭を抱え始めた。
「まただ……」
「この人達ほんと怖い……」
だが。
ヴァルドレイクは、
数秒黙った後。
静かに席へ腰を下ろした。
エレミアが、
ふっと微笑む。
その後。
広間には、
奇妙な光景が広がっていた。
竜王。
竜王妃。
将軍。
親衛隊。
始まりの民。
そして。
湯気の立つお茶。
タマは、
その光景を見ながら思う。
世界最強国家の中枢なのに。
なんか。
普通に茶会だった。
その時だった。
ヴァルドレイクが、
静かに口を開く。
「……空間裂けの件だが」
空気が変わる。
全員の表情が引き締まる。
ヴァルドレイクの目が、
静かに細くなった。
「帝国各地で、
同様の異変が起き始めている」
沈黙。
フィルニアの笑みが消える。
グランヴェルも、
真顔になっていた。
ヴァルドレイクは続ける。
「瘴気汚染。
魔獣暴走。
飛竜狂化」
「そして、
空そのものが裂け始めている」
重い声。
王としての声だった。
「これは、
もはや一国の問題ではない」
その時。
トシオが、
ぽつりと呟く。
「穴開いとるんじゃのぉ」
ヴァルドレイクが頷く。
「そうだ」
「昔にもあったんか?」
その質問に。
ヴァルドレイクは、
静かに目を閉じた。
そして。
低く答える。
「千年前。
一度だけ記録が残っている」
空気が変わる。
ミーコが、
静かに息を呑んだ。
始まりの民。
伝承。
そして。
世界の終わり。
全てが、
少しずつ繋がり始めていた。




