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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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20/150

『ヴァルグラン』

# 『じじばばにゃんこと異世界奇譚』


## 第一部『レヴァナスタシア』






森を抜けた頃には、

空が赤く染まり始めていた。


長く続いた黒霧地帯。


瘴気魔獣との戦闘。


空間裂け。


あまりにも異常な出来事だった。


だが。


旅そのものは止まらない。


セレスの判断で、

一行は予定通り帝都へ向かう事になった。


「……本当に大丈夫なのか」


カリヴァが、

疲れた顔で呟く。


飛竜騎士達も、

明らかに神経を張っていた。


空間裂けなど、

帝国史にも殆ど記録が無い。


しかも。


“目”がこちらを見ていた。


あれは、

絶対に普通ではない。


グランヴェルは、

黙ったまま前を歩いている。


その横で。


フィルニアだけは、

妙に元気だった。


「いやぁ!!

久々に暴れた!!」


「お前ほんと元気だな……」


タマが呆れる。


フィルニアは、

けろっと笑った。


「竜人族だからな!!」


「便利な言葉だなそれ」


その時だった。


ミツコが、

荷車をごそごそ漁り始める。


フィルニアの目が光る。


「飯!?」


「おやつやねぇ」


「最高かよ!!」


数秒後。


一行は普通に、

街道脇で休憩していた。


グランヴェルが、

頭を抱えている。


「……さっきまで世界の危機だったのだが」


「腹減るだろ?」


フィルニアが真顔で答える。


「お前は黙れ」


セレスは、

静かに干し魚を食べていた。


もう誰もツッコまない。


完全に馴染み始めている。


タマがニヤニヤする。


「セレス、

絶対魚好きだよね」


「違います」


「でも今三枚目だよ?」


「……違います」


耳だけ少し赤い。


フィルニアが爆笑した。


「お前ほんと分かりやすいな!!」


ミツコが、

楽しそうに笑っている。


その様子を見ながら。


ミーコは、

静かに思っていた。


こんな旅になるなんて、

想像もしていなかった。


異世界へ来てから。


逃げて。


怯えて。


戦って。


失う事ばかり考えていた。


なのに今は。


笑っている。


誰かと、

同じご飯を食べている。


それだけで、

少し救われる気がした。


その時。


上空から、

飛竜騎士の声が響く。


「見えたぞ!!

帝都ヴァルグランだ!!」


空気が変わる。


一行が顔を上げた。


そして。


タマが絶句する。


「……は?」


遥か前方。


山脈そのものへ、

巨大都市が築かれていた。


黒鉄の外壁。


何重にも重なる巨大城壁。


空を飛ぶ飛竜達。


断崖へ張り付く街並み。


巨大な吊橋。


そして。


山頂。


そこには。


雲を貫く巨大城が存在していた。


夕陽を浴びたその姿は、

まるで神話だった。


フィルニアが、

得意げに胸を張る。


「どうだ!!」


「いや……

でっっっか……」


タマの語彙が死んでいた。


ユキも、

ぽかんと口を開けている。


ミーコは、

静かに息を呑んだ。


獣人王国レイシス。


そこも大国だった。


だが。


規模が違う。


力そのものが都市になったみたいだった。


グランヴェルが、

静かに言う。


「ヴァルグランは、

千年以上続く竜人族最大国家だ」


その声には、

確かな誇りがあった。


その時。


上空から、

巨大な影が通過する。


全員が見上げた。


飛竜。


いや。


違う。


もっと巨大だった。


黒銀の鱗。


城ほどもある翼。


山みたいな体躯。


圧倒的な存在感。


その影が、

ゆっくり帝都上空を旋回している。


兵士達が一斉に頭を下げた。


「竜王竜……!」


タマが固まる。


「……なにあれ」


セレスが、

静かに答える。


「帝国守護竜。

《アストラヴェイン》」


その声には、

珍しく敬意が滲んでいた。


アストラヴェインは、

ゆっくりこちらを見た。


黄金の瞳。


古く。


深い目。


その瞬間。


トシオと、

視線が合った。


数秒。


静かな沈黙。


次の瞬間だった。


グォォォォォォ……


巨大な守護竜が、

低く鳴いた。


威嚇ではない。


まるで。


“挨拶”みたいだった。


周囲が凍る。


飛竜騎士達がざわつく。


「アストラヴェイン様が……?」


「ありえん……」


だが。


トシオだけ、

普通だった。


「でかいのぉ」


「感想それ!?」


タマが叫ぶ。


フィルニアが、

目をキラキラさせている。


「かっけぇぇぇ……」


「お前ほんと竜好きだな」


「竜人族だからな!!」


またそれだった。


だが。


グランヴェルは、

真剣な顔でアストラヴェインを見ていた。


帝国守護竜。


数百年生きる古竜。


その存在が、

自ら他者へ反応する。


普通ではない。


セレスも、

静かにトシオを見る。


やはり。


この人達は、

ただの異邦人ではない。


その時だった。


ヴァルグランの巨大門が、

ゆっくり開き始める。


ゴゴゴゴゴ……


重々しい音。


門の左右へ、

竜人兵達が整列する。


数百。


いや。


千近い。


壮観だった。


そして。


中央階段。


そこに、

一人の女性が立っていた。


長い黒髪。


紅玉みたいな瞳。


巨大な角。


漆黒のドレス鎧。


そして。


圧倒的な威圧感。


フィルニアの顔色が変わる。


「げ」


タマが見る。


「知り合い?」


「……母上」


空気が止まる。


第二王女フィルニア。


その母。


つまり。


竜王妃。


エレミア=ドラグニルだった。


周囲の兵士達が、

一斉に膝をつく。


圧が凄い。


タマが、

思わず後退る。


「うわっ……

怖っ……」


「聞こえるぞ」


フィルニアが青ざめた。


その時。


エレミアの紅い目が、

ギロリとフィルニアを見る。


「フィルニア」


「は、はい」


「また無茶をしたのではありませんか?」


沈黙。


全員が固まる。


フィルニアの顔から、

血の気が引いた。


「え」


グランヴェルが、

静かに目を逸らす。


セレスも、

少しだけ視線を逸らした。


フィルニアが震える。


「な、なんでそれを」


「ガルディアから報告が来ています」


「叔父貴ぃぃぃ!!」


グランヴェルが即座に否定する。


「俺ではない」


「絶対誰かチクっただろ!!」


タマは呆れたように肩を落とした。


「そこ怒られるんだ……」


だが。


次の瞬間だった。


エレミアが、

ゆっくりミツコを見る。


紅い瞳。


鋭い視線。


まるで。


相手の本質を見抜くみたいだった。


兵士達が息を呑む。


竜王妃エレミア。


その視線だけで、

膝をつく者すらいる。


だが。


ミツコは、

いつも通りだった。


「あらぁ」


にこにこしている。


エレミアの眉が、

ほんの僅か動いた。


恐れていない。


媚びてもいない。


ただ普通に、

こちらを見ている。


それが逆に、

異質だった。


数秒。


静かに視線が交わる。


その空気の中。


ミツコは、

にこにこしながら口を開いた。


「そろそろお茶の時間やねぇ」


沈黙。


周囲が止まる。


タマが顔を覆った。


「あー……

通常運転だこの人……」


ミツコは、

買い物かごをごそごそ漁る。


湯気の立つ水筒。


小さな包み。


甘い香り。


そして。


エレミアへ、

にこっと笑いかけた。


「一緒にどうかね?」


静寂。


兵士達が息を呑む。


誰も。


竜王妃へそんな風に声を掛けた事など無かった。


フィルニアですら、

ぽかんとしている。


だが。


エレミアは怒らなかった。


ただ。


クスッと小さく笑った。


本当に、

ほんの僅かな笑みだった。


そして。


「では、

ご一緒いたします」


周囲が凍る。


フィルニアが目を丸くした。


「……母上が笑った」

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