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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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竜人族の食卓…

『じじばばにゃんこと異世界奇譚』


第一部『レヴァナスタシア』


第九話


『竜人族の食卓』


ガルディア砦の中庭には、

夕暮れの赤い光が差し込んでいた。


巨大な飛竜たちは、

石造りの飼育場で翼を休めている。


兵士達の怒号。


鍛錬の音。


鉄と火の匂い。


そこはまさしく、

“戦う者達の国”だった。


だが。


その一角だけ、

空気がおかしかった。


「……うまい」


竜人兵の一人が、

呆然と呟く。


「なんだこれは……」


別の兵士も、

木椀を持ったまま固まっていた。


その中心では。


ミツコが、

大鍋を前ににこにこしている。


「おかわりあるよぉ」


「「「お願いします!!」」」


即答だった。


タマが吹き出す。


「順応早っ」


豚汁。


それは、

レヴァナスタシアには存在しない料理だった。


味噌。


出汁。


根菜。


肉。


その全てが、

竜人族にとって未知。


だが。


疲れた身体へ、

異常なほど染み渡った。


グランヴェルですら、

静かに椀を見つめている。


「……温かい」


その呟きは、

どこか不思議そうだった。


ミツコは笑う。


「寒い日は汁物が一番やねぇ」


その横では。


フィルニアが、

完全に夢中になっていた。


「うまっ!!

なにこれうまっ!!」


すごい勢いで食べている。


タマが呆れる。


「フィルニア、

勝負したいんじゃなかったの?」


「後だ後!!」


「完全に胃袋掴まれてる……」


ユキがくすっと笑った。


ミーコは、

そんな光景を静かに見つめていた。


戦うための国。


恐れられる竜人族。


なのに今、

みんな笑っている。


それが少し、

嬉しかった。


その時だった。


ぐぅぅぅ……


静かな中庭へ、

低い音が響く。


沈黙。


全員の視線が、

トシオへ集まった。


トシオは真顔。


「足りんのぉ」


タマが吹き出した。


「じーちゃんが一番食うんかい」


ミツコは慣れた様子で、

追加の鍋を火へ掛け始める。


「いっぱい作っといて良かったぁ」


その横で。


カリヴァは、

じっと買い物かごを見ていた。


古びた籠。


どこにでもありそうな、

ただの生活用品。


だが。


中から出てくる量が、

明らかに異常だった。


野菜。


味噌。


肉。


布。


鍋。


底が見えない。


しかも、

魔力反応が一切ない。


「……本当に何なんですか、

そのかご」


カリヴァが恐る恐る聞く。


ミツコは、

不思議そうに首を傾げた。


「買い物かごよぉ?」


「いやそれは見れば分かります!」


タマがツッコむ。


トシオは普通に答えた。


「便利じゃぞ」


「説明が雑っ」


周囲の兵士達から、

笑いが漏れる。


少し前まで、

張り詰めていた空気が嘘みたいだった。


その時。


一人の若い竜人士官が、

慌てた様子で走ってきた。


「グランヴェル守護将閣下!!」


空気が変わる。


士官の顔色が悪い。


「西外壁付近で、

飛竜が再び暴走を――」


その瞬間。


中庭の空気が凍る。


グランヴェルが立ち上がる。


カリヴァも即座に剣へ手を掛けた。


「被害は?」


「まだ軽微です!

ですが瘴気濃度が高く……!」


フィルニアの顔から、

笑みが消える。


「……またか」


ミーコは目を伏せた。


最近、

各地で起きている飛竜暴走。


原因不明。


しかも増加している。


竜人族にとって、

飛竜は家族だ。


それが狂う。


意味するものは重い。


グランヴェルは、

静かに槍を掴む。


「総員――」


その時だった。


トシオが、

豚汁を飲みながら呟く。


「腹減っとるんじゃろ」


全員が止まる。


トシオは、

椀を置きながら続けた。


「苦しい時は、

腹も減る」


静かな声だった。


だが。


不思議と、

誰も否定できなかった。


トシオは立ち上がる。


「行くかのぉ」


タマが慌てる。


「え、また撫でに行くの?」


「駄目か?」


「いや駄目ではないんだけど……」


カリヴァが乾いた笑みを浮かべた。


「あはは……

もう今更ですね……」


グランヴェルだけは、

真っ直ぐトシオを見ていた。


この男は、

戦っていない。


力を誇示もしない。


なのに。


誰よりも、

生き物を落ち着かせる。


それが、

妙に恐ろしかった。


その時。


フィルニアが、

勢いよく立ち上がる。


「俺様も行く!!」


「駄目だ」


グランヴェルが即答する。


「なんでだよ叔父貴!!」


「暴走飛竜相手だぞ」


「だからだ!!

戦える!!」


フィルニアが食い下がる。


だが。


ミツコが、

そっと声を掛けた。


「フィルニアちゃん」


「ん?」


「お野菜残しとるよぉ」


沈黙。


フィルニアの動きが止まる。


木椀の中。


確かに、

人参だけ残っていた。


周囲が静かになる。


フィルニアは視線を逸らした。


「……嫌いなんだよ」


「駄目よぉ」


ミツコは、

柔らかく笑う。


「ちゃんと食べんと、

大きくなれん」


フィルニアは、

ぐぬぬって顔になる。


タマが肩を震わせていた。


「王女が子供みたいに怒られてる……」


「うるさい!!」


フィルニアが顔を赤くする。


だが結局。


もそもそ人参を食べ始めた。


ユキが、

小さく笑う。


ミーコも、

少しだけ口元を緩めていた。


そして。


グランヴェルは、

深くため息をつく。


「……エレミア様と同じだな」


カリヴァが苦笑する。


「あー……

確かに」


フィルニアは、

嫌そうな顔をした。


「母上と一緒にするなよぉ……」


その時だった。


遠くで。


グォォォォォッ!!


飛竜の咆哮が、

夜空を震わせた。


砦全体へ緊張が走る。


だが。


トシオは、

ゆっくり立ち上がる。


「さて」


その背中を見ながら。


ミーコは、

静かに思っていた。


もしかすると。


この人達は。


壊れかけた世界へ、

“普通”を取り戻しに来たのかもしれないと。

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