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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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雲海航路



 グランドカーゴ出航から半日。


 巨大飛空挺は、レイシス中央航路をゆっくり進んでいた。


 眼下には雲海。


 遠くには山脈。


 さらにその向こうには、巨大河川と都市群。


 ユキが窓へ張り付いていた。


「……すごい」


 フィルニアも身を乗り出している。


「高っ!!」


 タマが笑う。


「落ちんなよ?」


「分かってるわ!!」


 船内はかなり広かった。


 貨物区。


 居住区。


 食堂。


 展望甲板。


 長距離航路用らしく、小さな街みたいな構造になっている。


 しかも今は王都再開便。


 乗客も多い。


 商人。


 兵士。


 避難民。


 職人。


 貴族風の者までいる。


 そして当然。


 ミーコ達へ向けられる視線も増えていた。


「……見られてるな」


 タマが小声で呟く。


 フィルニアが肩を竦める。


「まぁ王女様だしな」


『やめてよその言い方』


 ミーコが困った顔になる。


 その時。


 通路向こうから、小さな女の子が近付いてきた。


「あの……」


 獣人の子供だった。


 かなり緊張している。


 ミーコがしゃがみ込む。


『どうしたの?』


 女の子は、おずおずと花を差し出した。


「ありがとう……ございました」


『え?』


「お母さん、グレイヴェルでお仕事もらえたの」


 ミーコが目を丸くする。


 女の子は続けた。


「ご飯も食べられるようになった」


「だから……」


 そこで言葉が詰まる。


 ミーコは優しく花を受け取った。


『……ありがとう』


 女の子が嬉しそうに笑う。


 その後ろでは、母親らしき女性が何度も頭を下げていた。


 フィルニアが小声になる。


「王女してんなぁ」


 タマも頷く。


「ちゃんと届いてるんだな」


 ミーコは少しだけ花を見つめる。


 グレイヴェルでやった事は、小さい事ばかりだった。


 炊き出し。


 仕事振り。


 水路補修。


 でも。


 ちゃんと誰かへ届いていた。


 その時。


「トシオ!!」


 遠くから声。


 海霊族の商人だった。


「魚焼くぞー!!」


 トシオの目が変わる。


「行く」


「早ぇよ」


 フィルニアが吹き出した。


 タマも笑う。


「本当に魚好きだなじーちゃん」


 その後。


 一行は展望甲板へ移動した。


 そこでは商人達が簡易炭焼き台を出していた。


「王都便再開祝いだ!!」


「今日は景気良くいくぞ!!」


 かなり盛り上がっている。


 しかも。


 グレイヴェル再開の噂も広がっていた。


「水路復旧マジ助かったぜ」


「南側物流戻り始めてる」


「王都市場も動くらしいな」


 商人達の顔は明るい。


 完全復旧ではない。


 だが。


 止まっていた国が、少しずつ流れ始めている。


 その時。


 トシオが魚を焼き始めていた。


「火強ぇ」


「炭寄せろ」


 完全に仕切っている。


 海霊族の商人が笑った。


「なんで乗客側が指示してんだよ!」


「焼きは大事だ」


「妙に説得力あんなぁ……」


 ミツコがクスクス笑う。


「楽しそうだねぇ」


 その横で。


 ユキは空を見ていた。


 雲が流れていく。


 巨大な飛空挺の影が、雲海へ映っている。


「……綺麗」


 ミーコも隣へ立つ。


『こうして帰る事になるなんてね』


「……嫌?」


 ユキが聞く。


 ミーコは少し考える。


 そして。


『怖い気持ちはある』


『でも』


 視線を前へ向ける。


『ちゃんと帰りたい』


 王都へ。


 故郷へ。


 止まってしまった場所へ。


 その時。


 フィルニアが串魚を持って現れた。


「うまいぞこれ!!」


「お前もう食ってんのか」


「焼けたからな!!」


 タマも後ろから来る。


「じーちゃんが焼き加減めっちゃ拘ってた」


『本当に何者なのよあの人……』


 その頃。


 トシオは商人達へ焼き指導していた。


「返すの早ぇ」


「皮破れるぞ」


「うおぉ……」


「マジで詳しい……」


 完全に魚職人である。


 ミツコが柔らかく笑った。


「楽しそうでよかったねぇ」


 その時。


 グランドカーゴ全体へ鐘が鳴り響く。


ゴ ォ ン……


 乗客達が空を見る。


 船員の声が響いた。


「まもなく中央航路最大高度へ入る!!」


「展望甲板解放するぞー!!」


 歓声が上がる。


 一行も甲板前方へ移動した。


 そして。


 全員が言葉を失う。


 雲海が割れていた。


 遥か遠く。


 巨大な都市群が見える。


 空へ伸びる白塔。


 巨大水路。


 幾重もの城壁。


 中央へそびえる巨大王城。


 ミーコの瞳が揺れる。


『……王都』


 レイシス王都。


 獣人族最大国家の中心。


 ミーコ達の故郷。


 フィルニアが口を開けていた。


「デカすぎんだろ……」


 タマも固まっている。


「国ってレベルじゃねぇぞ」


 ユキは静かに見つめていた。


「……綺麗」


 その時。


 風が吹く。


 ミーコの髪が揺れる。


 懐かしい景色だった。


 でも同時に。


 知らない場所にも見える。


 これから向き合う。


 王族として。


 王女として。


 そして。


 家族と共に。


 その時。


 トシオが後ろから魚串を差し出した。


「食うか」


『こんな時に!?』


「冷めるぞ」


 フィルニアがケラケラ笑う。


「この人ほんと魚優先だな!!」


 タマまで吹き出した。


 ユキも小さく笑っている。


 ミーコも。


 つい笑ってしまった。


 怖さは消えない。


 でも。


 一人じゃない。


 だから前へ進ける。


 巨大飛空挺グランドカーゴは進む。


 王都レイシアへ向かって。


 止まりかけた国の未来を乗せながら。

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