王都帰還便
グレイヴェル出発の日。
朝から港区が騒がしかった。
「積み込み急げー!!」
「水路便遅れるぞ!!」
「王都行き最終確認!!」
空へ伸びる巨大塔。
係留鎖。
浮遊魔導炉。
そして。
停泊している巨大飛空挺――グランドカーゴ。
フィルニアが見上げながら口を開けていた。
「やっぱデケェなこれ……」
タマも頷く。
「初めて見た時マジでビビったもんな」
ユキは静かに空を見上げていた。
「……飛んでる」
『飛空挺だもの』
ミーコが少し笑う。
グランドカーゴ。
レイシス主要都市を繋ぐ大型輸送飛空挺。
本来ならもっと頻繁に動いていた。
だが。
物流停滞と各地混乱で、多くが停止していた。
そして今日。
王都便が正式再開する。
それはつまり。
レイシスが少しずつ動き始めた証でもあった。
その時。
「アクアリア様ー!!」
聞き慣れた声。
振り返ると、水路区の子供達だった。
さらに。
マルダ。
兵士達。
商人達。
避難民達。
かなりの人数が集まっていた。
フィルニアが目を丸くする。
「めっちゃ来てる」
監督官までいた。
「皆さん……」
ミーコが少し驚く。
マルダが笑った。
「見送りくらいするさ」
「街救ってくれたんだからねぇ」
『そんな大袈裟な……』
「大袈裟じゃねぇよ!!」
市場の魚屋が叫ぶ。
「王女様達来てから、マジで街変わったんだ!!」
「水路戻った!!」
「商人も戻ってきた!!」
「皆また働けるようになった!!」
次々声が飛ぶ。
ミーコは少し困ったように笑った。
でも。
嬉しかった。
その時。
小さな子供が前へ出てくる。
「これ!!」
差し出されたのは、小さな木彫りだった。
不格好な猫。
『あら』
「作ったんだぞ!!」
ミーコが目を丸くする。
『……私?』
「うん!!」
ミーコはその木彫りを大事そうに受け取る。
『……ありがとう』
子供が満足そうに笑った。
その時。
港側から怒鳴り声。
「王都便搭乗開始!!」
空気が少し変わる。
いよいよだった。
ミーコはグランドカーゴを見上げる。
帰る。
レイシス王都へ。
ずっと避けていた場所へ。
その時。
トシオが荷を担ぎながら言った。
「荷物全部積んだか」
「魚は積んだ!!」
フィルニアが即答する。
『そこ重要なの!?』
「超重要だろ」
タマまで真顔だった。
ミツコがクスクス笑う。
「いっぱい買ったねぇ」
「王都着くまでに食う」
その頃。
港兵達がざわつき始める。
「おい……」
「マジで王女様なのか……?」
「アクアリア様……」
噂はもう広がっている。
隠せない。
いや。
隠す段階は終わった。
ミーコは静かに息を吐く。
すると。
ユキがそっと袖を掴いた。
「……大丈夫」
ミーコが視線を向ける。
ユキは優しく微笑んでいた。
「一人じゃない」
タマもニヤリと笑う。
「今さら逃げられねぇぞ王女様」
『分かってるわよ』
フィルニアが肩を回す。
「王都の偉い奴らがどんな顔すんのか楽しみだな」
「絶対面倒起きるだろ」
「面倒じゃなかった事あったか?」
「無ぇな」
そのやり取りに、ミーコも少し笑ってしまう。
怖さはある。
でも。
不思議と前より軽かった。
その時だった。
監督官が深く頭を下げる。
「……ありがとうございました」
後ろの兵士達も続く。
「グレイヴェルを救っていただき……」
『やめて』
ミーコが静かに首を振る。
『まだ終わってないわ』
監督官が顔を上げる。
ミーコはグレイヴェルの街を見る。
人が行き交う。
荷が動く。
声が響く。
止まりかけていた街が、ちゃんと動いている。
『皆で動かしたのよ』
監督官の目が少し潤む。
「……はい」
その時。
搭乗員が声を張り上げた。
「まもなく出航する!!」
「搭乗急げ!!」
フィルニアが拳を鳴らす。
「よっしゃ!!」
「王都だ!!」
タマも笑う。
「ついに帰還か」
ミツコは空へ浮かぶグランドカーゴを見上げながら微笑む。
「どんなとこだろうねぇ」
一行はグランドカーゴへ乗り込む。
巨大甲板。
風。
浮遊炉の低い唸り。
そして。
ゆっくりと船体が浮かび始める。
ゴ ォ ォ ォ……
港から歓声が上がる。
「王女様ー!!」
「頑張れー!!」
「レイシス頼みます!!」
ミーコは振り返る。
グレイヴェル。
壊れかけていた街。
でも。
人が支え合えば、ちゃんと立ち上がれると教えてくれた場所。
ミーコは静かに頭を下げた。
『……行ってきます』
そして。
グランドカーゴは空へ上がる。
レイシス王都へ向かって。
止まりかけた国の中心へ向かって。
新しい時代の始まりを乗せながら。




