王都レイシア
グランドカーゴは、ゆっくり高度を落としていた。
巨大な船体の窓から見える景色が近付いてくる。
白亜の外壁。
幾重にも重なる巨大水路。
空中橋。
浮遊灯。
そして中央。
空へ突き刺さるようにそびえる巨大王城。
フィルニアが口を開けたまま固まっていた。
「……なんだこれ」
タマは懐かしそうに王都を見つめる。
「相変わらずデケェなぁ……」
ユキも静かに外を見ていた。
「……変わってない」
ミーコは窓の外を見つめたまま、小さく息を吐いた。
『……レイシア』
王都レイシア。
獣人族最大国家レイシスの中心都市。
ミーコ達の故郷。
だが。
近付くほど分かる。
綺麗なだけじゃない。
外壁周辺には補修跡。
一部水路は止まり。
下層区画には崩れた建物も見える。
王都ですら、傷付いていた。
その時。
船内鐘が鳴る。
ゴ ォ ン……
「王都レイシア到着準備!!」
「着陸甲板へ近付くなー!!」
船員達が動き始める。
乗客達も慌ただしくなった。
商人達は荷物確認。
兵士達は整列。
避難民達は不安そうに窓を見ている。
その空気の中。
ミーコだけは静かだった。
タマが横を見る。
「……緊張してる?」
『少しね』
嘘じゃない。
帰ってきた。
でも。
もう昔の王都ではない。
その時。
ユキがそっとミーコの手を握る。
「……大丈夫」
ミーコが少し笑った。
『ありがとう』
その頃。
後方貨物区では。
「違う」
「そこ冷える」
トシオが海霊族商人へ指示を出していた。
海霊族商人が頭を抱える。
「なんでそこまで魚管理に詳しいんだよアンタ!?」
「漁師だからだ」
「納得しか出来ねぇ……」
フィルニアが笑う。
「トシオ、完全に魚職人じゃねぇか」
ミツコも柔らかく笑った。
「今日はいっぱい魚食べられそうだねぇ」
ちなみに魚は既にミツコの買い物籠へ収納済みだった。
見た目は普通の買い物籠。
だが内部は異空間。
入れた物の時間が止まる特殊収納である。
そのまま。
グランドカーゴは王都中央空港へ降下していく。
巨大な係留塔が近付く。
飛空挺用浮遊鎖。
大型搬入口。
無数の作業員。
そして。
兵士の数。
フィルニアの顔が少し真面目になる。
「……多くね?」
確かに。
警備が異様に多かった。
タマも眉をひそめる。
「王女帰還の件だろうな」
シェリスが静かに言う。
「それだけではないでしょう」
「王都自体、かなり不安定です」
ミーコは黙って王都を見る。
帰ってきた。
けれど。
平穏な帰還ではない。
その時。
甲板外から歓声が聞こえ始める。
「来たぞ!!」
「王都便だ!!」
「本当に再開した!!」
窓の外。
かなりの人が集まっていた。
商人。
兵士。
住民。
新聞売りまでいる。
フィルニアが目を丸くする。
「なんかめっちゃ人いるんだけど」
「絶対噂回ってんなこれ」
タマが頭を掻く。
その時だった。
船員がこちらへ来る。
「……アクアリア様で間違いありませんか」
空気が変わる。
周囲の乗客達まで静かになる。
ミーコは小さく頷いた。
『はい』
船員は深く頭を下げる。
「王都議会より、到着後の護送依頼が出ています」
フィルニアが即反応する。
「護送?」
シェリスが目を細めた。
「……随分早いですね」
船員は困ったように言う。
「王都側も混乱しているようで……」
つまり。
既に動き始めている。
王族派。
議会。
貴族。
色々な思惑が。
その時。
トシオがこちらへ戻ってきた。
「降りるのか」
船員が一瞬言葉を詰まらせる。
トシオの圧が強いのだ。
日焼けした肌。
傷跡のある腕。
圧倒的な体格。
ただ立っているだけで存在感がある。
「は、はい……」
フィルニアが小声で笑う。
「トシオ、無言だと余計怖ぇんだよな」
だが。
トシオ本人は全く気にしていない。
その時。
グランドカーゴがゆっくり接岸する。
ゴ ォ ォ ォ……
巨大鎖が固定される音。
蒸気。
浮遊炉の振動。
そして。
「接岸完了!!」
歓声が上がった。
王都レイシア。
獣人族最大国家の中心。
その入口へ。
一行はついに辿り着いた。
搭乗口が開く。
光が差し込む。
外には。
大量の兵士。
議会関係者。
商人達。
そして。
一般市民。
皆、一斉にこちらを見る。
ざわめきが広がる。
「本当に……」
「アクアリア様……?」
「生きてたのか……」
ミーコは静かに前へ出る。
怖くない訳じゃない。
でも。
逃げない。
その時。
後ろからミツコの声。
「大丈夫だよぉ」
「じーちゃんもばーちゃんも一緒だから」
ニコニコ笑っていた。
振り返る。
その笑顔を見るだけで、少し肩の力が抜ける。
トシオも短く言う。
「行くぞ」
タマがニヤリと笑う。
「帰還だな」
ユキも静かに頷く。
「……帰ろう」
フィルニアは周囲を見回しながら口角を上げた。
「王都、面白そうじゃねぇか」
『絶対騒ぎ起こさないでよ?』
「善処する」
「信用出来ねぇ……」
少しだけ笑いが漏れる。
その空気が。
ミーコの緊張を少し和らげた。
そして。
一行は王都レイシアへ降り立つ。
失われた時間を取り戻すために。
止まりかけた国を、もう一度前へ進めるために。




