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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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138/150

王都レイシア



 グランドカーゴは、ゆっくり高度を落としていた。


 巨大な船体の窓から見える景色が近付いてくる。


 白亜の外壁。


 幾重にも重なる巨大水路。


 空中橋。


 浮遊灯。


 そして中央。


 空へ突き刺さるようにそびえる巨大王城。


 フィルニアが口を開けたまま固まっていた。


「……なんだこれ」


 タマは懐かしそうに王都を見つめる。


「相変わらずデケェなぁ……」


 ユキも静かに外を見ていた。


「……変わってない」


 ミーコは窓の外を見つめたまま、小さく息を吐いた。


『……レイシア』


 王都レイシア。


 獣人族最大国家レイシスの中心都市。


 ミーコ達の故郷。


 だが。


 近付くほど分かる。


 綺麗なだけじゃない。


 外壁周辺には補修跡。


 一部水路は止まり。


 下層区画には崩れた建物も見える。


 王都ですら、傷付いていた。


 その時。


 船内鐘が鳴る。


ゴ ォ ン……


「王都レイシア到着準備!!」


「着陸甲板へ近付くなー!!」


 船員達が動き始める。


 乗客達も慌ただしくなった。


 商人達は荷物確認。


 兵士達は整列。


 避難民達は不安そうに窓を見ている。


 その空気の中。


 ミーコだけは静かだった。


 タマが横を見る。


「……緊張してる?」


『少しね』


 嘘じゃない。


 帰ってきた。


 でも。


 もう昔の王都ではない。


 その時。


 ユキがそっとミーコの手を握る。


「……大丈夫」


 ミーコが少し笑った。


『ありがとう』


 その頃。


 後方貨物区では。


「違う」


「そこ冷える」


 トシオが海霊族商人へ指示を出していた。


 海霊族商人が頭を抱える。


「なんでそこまで魚管理に詳しいんだよアンタ!?」


「漁師だからだ」


「納得しか出来ねぇ……」


 フィルニアが笑う。


「トシオ、完全に魚職人じゃねぇか」


 ミツコも柔らかく笑った。


「今日はいっぱい魚食べられそうだねぇ」


 ちなみに魚は既にミツコの買い物籠へ収納済みだった。


 見た目は普通の買い物籠。


 だが内部は異空間。


 入れた物の時間が止まる特殊収納である。


 そのまま。


 グランドカーゴは王都中央空港へ降下していく。


 巨大な係留塔が近付く。


 飛空挺用浮遊鎖。


 大型搬入口。


 無数の作業員。


 そして。


 兵士の数。


 フィルニアの顔が少し真面目になる。


「……多くね?」


 確かに。


 警備が異様に多かった。


 タマも眉をひそめる。


「王女帰還の件だろうな」


 シェリスが静かに言う。


「それだけではないでしょう」


「王都自体、かなり不安定です」


 ミーコは黙って王都を見る。


 帰ってきた。


 けれど。


 平穏な帰還ではない。


 その時。


 甲板外から歓声が聞こえ始める。


「来たぞ!!」


「王都便だ!!」


「本当に再開した!!」


 窓の外。


 かなりの人が集まっていた。


 商人。


 兵士。


 住民。


 新聞売りまでいる。


 フィルニアが目を丸くする。


「なんかめっちゃ人いるんだけど」


「絶対噂回ってんなこれ」


 タマが頭を掻く。


 その時だった。


 船員がこちらへ来る。


「……アクアリア様で間違いありませんか」


 空気が変わる。


 周囲の乗客達まで静かになる。


 ミーコは小さく頷いた。


『はい』


 船員は深く頭を下げる。


「王都議会より、到着後の護送依頼が出ています」


 フィルニアが即反応する。


「護送?」


 シェリスが目を細めた。


「……随分早いですね」


 船員は困ったように言う。


「王都側も混乱しているようで……」


 つまり。


 既に動き始めている。


 王族派。


 議会。


 貴族。


 色々な思惑が。


 その時。


 トシオがこちらへ戻ってきた。


「降りるのか」


 船員が一瞬言葉を詰まらせる。


 トシオの圧が強いのだ。


 日焼けした肌。


 傷跡のある腕。


 圧倒的な体格。


 ただ立っているだけで存在感がある。


「は、はい……」


 フィルニアが小声で笑う。


「トシオ、無言だと余計怖ぇんだよな」


 だが。


 トシオ本人は全く気にしていない。


 その時。


 グランドカーゴがゆっくり接岸する。


ゴ ォ ォ ォ……


 巨大鎖が固定される音。


 蒸気。


 浮遊炉の振動。


 そして。


「接岸完了!!」


 歓声が上がった。


 王都レイシア。


 獣人族最大国家の中心。


 その入口へ。


 一行はついに辿り着いた。


 搭乗口が開く。


 光が差し込む。


 外には。


 大量の兵士。


 議会関係者。


 商人達。


 そして。


 一般市民。


 皆、一斉にこちらを見る。


 ざわめきが広がる。


「本当に……」


「アクアリア様……?」


「生きてたのか……」


 ミーコは静かに前へ出る。


 怖くない訳じゃない。


 でも。


 逃げない。


 その時。


 後ろからミツコの声。


「大丈夫だよぉ」


「じーちゃんもばーちゃんも一緒だから」


 ニコニコ笑っていた。


 振り返る。


 その笑顔を見るだけで、少し肩の力が抜ける。


 トシオも短く言う。


「行くぞ」


 タマがニヤリと笑う。


「帰還だな」


 ユキも静かに頷く。


「……帰ろう」


 フィルニアは周囲を見回しながら口角を上げた。


「王都、面白そうじゃねぇか」


『絶対騒ぎ起こさないでよ?』


「善処する」


「信用出来ねぇ……」


 少しだけ笑いが漏れる。


 その空気が。


 ミーコの緊張を少し和らげた。


 そして。


 一行は王都レイシアへ降り立つ。


 失われた時間を取り戻すために。


 止まりかけた国を、もう一度前へ進めるために。

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