表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/150

北東航路





 翌朝。


 ベルンガルド上空。


 巨大飛空艇グランドカーゴは、ゆっくりと港を離れていた。


 朝日が船体を照らす。


 雲海が金色に光る。


 風は穏やかだった。


 甲板では既に見送りが集まっている。


「また来いよー!!」


 ナギが大声で手を振っていた。


 タマも両手を振り返す。


「世話になったー!!」


「今度は船壊すなよ!!」


「壊してねぇ!!」


 フィルニアが即座に反論する。


 レオネがぼそっと呟いた。


「半壊はしていました」


「お前敵か!?」


 港側から笑い声が上がる。


 ミーコも小さく笑った。


 短い滞在だった。


 けれど。


 かなり濃かった気がする。


 やがて。


 ベルンガルドの街並みが少しずつ遠ざかっていく。


 巨大風車。


 吊橋。


 飛空艇塔。


 全部が雲の向こうへ溶けていった。


 その頃。


 トシオは甲板端で海みたいな雲海を見ていた。


 ミツコがお茶を持ってくる。


「はいどーぞ」


「おぉ」


 湯気が風へ流れていく。


 しばらく二人とも黙って空を眺めていた。


 その横で。


 タマが突然声を上げる。


「おっ!!」


「なんだ?」


 アークが振り向く。


 タマは空を指差していた。


「あれ!!」


 上空。


 何か飛んでいる。


 白い。


 細長い。


 群れだ。


 ユキが目を丸くする。


「綺麗……」


 シェルファが説明した。


「風渡りですね」


「渡り鳥に近い魔物です」


 数十匹。


 いや。


 百はいる。


 風に乗りながら空を泳ぐように移動していた。


 フィルニアまで見入っている。


「すげぇな……」


 すると。


 一匹だけ群れから外れた。


 ふらふらしている。


「ん?」


 ミーコが眉を寄せる。


 高度が不安定だった。


 翼も少しおかしい。


 そのまま。


 ふらつきながら《グランドカーゴ》へ近付いてくる。


「危なくないか?」


 グランヴェルが警戒する。


 だが。


 風渡りは攻撃してこなかった。


 そのまま甲板へ降り立つ。


 ぺたん。


「……」


 小さい。


 近くで見ると妙に丸い。


 しかも。


 疲れ切っていた。


 タマがしゃがみ込む。


「なんだコイツ」


「怪我してる?」


 ユキがそっと近付いた。


 右翼。


 少し裂けている。


 どうやら長距離飛行で傷めたらしい。


 フィルニアがしゃがみ込む。


「飛べんのかお前」


 風渡りは小さく鳴いた。


 ピュルル……


 ミツコがそっと近付く。


「痛かったねぇ」


 優しく翼へ触れた。


 淡い光が滲む。


 ふわり。


 柔らかな温かさが広がった。


 裂けていた翼が少しずつ塞がっていく。


 ユキが目を丸くする。


「治ってる……」


 風渡りが不思議そうに瞬きをした。


 それから。


 嬉しそうに小さく鳴く。


 ピュルルル……


 ミツコが笑った。


「もう大丈夫やよぉ」


 その後。


 買い物籠をごそごそ漁る。


 取り出したのは小魚だった。


「お腹も空いとるやろ?」


 風渡りの目が輝く。


 勢いよく食い付いた。


「食うの早っ!?」


 フィルニアが驚く。


 しかも。


 かなり食べる。


 あっという間に平らげた。


 さらに。


 もう一匹来た。


「増えたぞ」


 アークが呆れる。


 しかも。


 いつの間にか群れが近くを旋回していた。


 完全に見ている。


「……飯待ちしてない?」


 ミーコが小さく言う。


 風渡り達が一斉に鳴いた。


 ピュルルルル!!


 完全に催促だった。


 タマが吹き出す。


「ばーちゃん餌付けしたな!?」


「可愛かったからねぇ」


「絶対増えるやつだこれ!!」


 案の定だった。


 数分後。


 甲板へ風渡りが大量集合していた。


「うわぁぁぁ!?」


 フィルニアの肩へ一匹乗る。


「なんだお前!!」


 さらに。


 タマの頭にも着地。


「重っ!?」


 ユキはちょっと嬉しそうだった。


「ふふ……」


 小さい風渡りが腕へ乗っている。


 シェルファが少し驚いていた。


「ここまで懐くのは珍しいですね」


「ばーちゃん補正じゃね?」


 タマが真顔で言う。


 否定できない。


 その時。


 一匹がトシオの肩へ着地する。


「おぉ」


 風渡りは落ち着いていた。


 むしろ。


 気持ち良さそうに丸くなる。


 グランヴェルが少し目を細める。


「……警戒心が薄いな」


「分かるんじゃないかねぇ」


 ミツコが笑った。


「危なくないって」


 風が流れる。


 空は青い。


 雲海も穏やかだった。


 しばらくして。


 群れのリーダーらしい大型個体が一度鳴く。


 ピュルルルゥ……


 すると。


 風渡り達が次々飛び立ち始めた。


「あ、行くのか」


 タマが見上げる。


 ユキの腕にいた小さい個体も飛び立つ。


 だが。


 一匹だけ。


 フィルニアの肩から動かなかった。


「……おい」


 フィルニアが困る。


 風渡りは完全に居座っていた。


 タマがニヤニヤする。


「懐かれてんじゃねーか」


「なんで俺様なんだ!?」


 その瞬間。


 風渡りがフィルニアの髪へ顔を埋めた。


 数秒沈黙。


 ミーコが吹き出す。


「ぷっ……」


 タマはもう耐えられなかった。


「あはははははは!!」


「お前絶対気に入られてるぞ!!」


 フィルニアは困った顔のまま固まっている。


「どうすればいいんだコレ……」


 レオネが静かに答えた。


「諦めてください」


「雑だな!?」


 その頃。


 トシオは空を見上げていた。


 遥か遠く。


 雲海の向こう。


 次の国が待っている。


 まだ知らない景色。


 まだ知らない出会い。


 旅は続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ