竜の翼…
第一部『レヴァナスタシア』
ゴォォォォォ──!!
空が赤く染まる。
巨大要塞ヴァルグレイド。
その上空へ展開された、
超大型魔法陣。
草原全体へ、
重圧が降り注ぐ。
カリヴァ=ドラグニルの顔色が変わった。
「あれは……まずい」
竜人兵たちも緊張している。
タマが耳を伏せた。
「なんかヤバそうなんだけど」
「なんかじゃない!!」
カリヴァが叫ぶ。
「あれは対城級魔導砲だ!
この辺り一帯が消し飛ぶ!!」
ユキが息を呑む。
ミーコの顔も青ざめていた。
「どうして……
ここまで本気で……」
ヴァルグレイド。
それは、
国家戦争用の兵器。
本来、
個人へ向けるものではない。
つまり。
王国側は、
アクアリア=ヴァル=レイシスを
“確実に消す”つもりだった。
空気が張り詰める。
だが。
「……あの船、
落としたら駄目か?」
トシオがぼそりと呟いた。
全員が固まる。
「は?」
タマが間抜けな声を出す。
カリヴァですら、
一瞬言葉を失った。
「落とすって……
あれをか?」
空中要塞。
全長数キロ。
国家兵器。
普通なら、
国ひとつでようやく止める代物。
トシオは普通に頷く。
「船なら落ちるじゃろ」
「理屈がおかしい!!」
タマが叫ぶ。
その瞬間。
ヴァルグレイドの魔法陣が、
さらに輝きを増した。
空気が震える。
地面が軋む。
第二射。
来る。
カリヴァが剣を抜いた。
「総員防御態勢!!」
竜人兵たちが動く。
魔法陣展開。
防御障壁。
だが。
誰も、
防ぎ切れるとは思っていなかった。
その時。
トシオが、
ゆっくり前へ出る。
ミツコが少し困った顔をする。
「トシオさん」
「ん?」
「ほどほどにねぇ」
「善処する」
カリヴァが目を見開いた。
ほどほど。
国家兵器相手に。
そんな会話をする存在を、
彼女は初めて見た。
トシオは空を見上げる。
巨大要塞。
砲門。
魔法陣。
まるで、
嵐の海に浮かぶ巨大漁船だった。
「……潮の流れみたいなもんか」
次の瞬間。
ドォォォォォォン!!
第二射が放たれる。
極太の閃光。
空を裂く破壊。
世界そのものが焼けるような熱量。
だが。
トシオは、
一歩踏み込んだ。
地面が砕ける。
爆風。
草原が沈む。
そして。
トシオは、
飛んできた魔力砲を――
殴った。
静寂。
次の瞬間。
空が割れた。
轟音。
魔力砲そのものが、
横へ弾き飛ばされる。
遥か彼方。
山脈の向こうで、
巨大爆発が起きた。
数秒遅れて、
衝撃波が草原を薙ぐ。
誰も動けなかった。
竜人兵たちの顔から、
完全に血の気が消えている。
タマが口をぱくぱくさせる。
「……殴った?」
ユキは震えながら、
ミツコへしがみついた。
ミーコですら、
呆然としている。
カリヴァは、
ゆっくりトシオを見る。
そして理解した。
この男は。
戦士ではない。
英雄でもない。
──災害だ。
その時だった。
ヴァルグレイド上空。
巨大要塞の進路が、
わずかに乱れる。
トシオは空を見上げたまま、
ぽつりと呟く。
「ほれ、
揺れとる」
タマが叫ぶ。
「じーちゃん基準で話さないで!?」




