お嬢様は吸血鬼?
誕生日プレゼントに宇宙船で土星まで連れて行ってもらったみきお君。
しかし本人は、あまりにもリアルな宇宙アトラクションだと信じ込んでおり、エマ達が宇宙人だとは全く気付いていなかった。
目の前に広がる本物の土星を見て、子供のようにはしゃぐみきお君。
そんな彼の姿を見つめるエマの心には、今まで感じたことのない気持ちが芽生え始めるのだった。
みきお君の誕生日から数週間が過ぎ、暑い毎日が続いていた…そんなある日、大学の階段で滑って転んだみきおは独創大学の隣りにある独創大学病院に来ていた。
この病院は、独創大学のキャンパスから森を隔てた隣に建っている。医学部の学生たちは普段からこの森を抜けて病院へ向かっているため、みきおとカレンも同じ道を通ってやって来たのだった。
病院の廊下でみきおに付き添っていたカレンがぼやく。
カレン「…全くもう、階段を踏み外すなんてドジなんだから…」
そう言いつつも心配そうなカレン。
みきお「誰かが…なんか液体をこぼしたから滑ってしまったんだよ…ついてないなぁ…」
カレン「そうね…何の液体かは分からないけど…こぼしたらちゃんと拭いて欲しいわね?」
みきお「軽い捻挫だから…湿布を貼ってもらったんで、何日かすれば良くなるってさ!」
カレン「良かったわね?頭とか打たなくて…」
みきお「そうだね…カレンのおかげだよ!」
カレン「あ、アタシは…咄嗟に…」転んだ時に、彼女が咄嗟に支えてくれて助かったのだった。
みきお「結構運動神経いいんだね?何かスポーツとかやっていたの?」
カレン「わ、私?…高校の時はテニス部だったけど…そんなに強い所じゃ無かったわよ!」
みきお「へぇ〜?意外だなぁ…なんでテニスサークルに入らなかったの?」
カレン「アンタ知らないの?この大学にはテニスサークルが幾つあるのか?」
みきお「入ろうなんて思わなかったから調べもしてないよ。」
カレン「なんと13個もあるのよ!…オマケにほとんどが合コン部みたいなサークルばかりだから…入る気にはならなかったわよ。」
みきお「そ、そうなんだ…?」
少し呆れたようにみきおが言った次の瞬間。
カレン「…!危ない!」
何かに気がついた彼女は飛び出した。
飛び出したカレンは、点滴ポールにつかまりながら歩いている少女がバランスを崩して倒れそうになったところを寸前で支えるのだった。
みきお「危なかったね?」
カレン「大丈夫?」二人は倒れそうになった女の子に声をかけた。
女の子「う、うん…ありがとう…お姉ちゃん…」
長い銀色の髪をした、前髪を綺麗に揃えた少女は体調が悪いのか、元気が無かった…
看護師「ローラちゃん、一人で出歩いちゃダメじゃない!」
女性の看護師が、少女に声をかけて来た。
みきお「ローラちゃん?キミはローラって言うんだ?可愛い名前だね?」みきおは優しく声をかける。
ローラ「…エヘ…」大人しそうな彼女は少し照れてるようだ…?
看護師「ほら、一緒に病室に戻りましょ!」
ローラ「…パパは?」
看護師「加藤さんなら、今日は健康診断の方を手伝っているから他の階よ。」
ローラ「…うう…」うつむく少女を連れて看護師さんは病室に向かった。
カレン(何気にコイツって、小さい子にも好かれるのね?本人に自覚は無いみたいだけど…?)
みきお「?どうしたんだよ?黙って…?」
カレン「なんでもないわよ!」
みきお「…ならいいけどさ…!」なんとなく腑に落ちない彼だが、追求すると口論になるので深追いするのはやめた。
女医「あら?望月くんじゃない?」
不意に白衣を着た女性が声をかけてきた。
みきお「あ、あおい先生!」
振り向くと、白衣を着た赤いフレームのメガネをかけた美しい女医らしき人物が立っていた。
あおい「久しぶりね?こんなところで会うなんて…どうしたの病気?怪我?」
みきお「ちょっと捻挫しちゃって…でも大した事は無いですよ!」
あおい「そうなの?…でも無理しちゃダメよ、捻挫の方が骨折よりも治りにくいんだから…」
みきお「湿布も貼ってもらって、サポーターもしてもらったから…しばらくは大人しくしてますよ。」
あおい「それが良いわ!」
みきお「ところで先生は…この病院で働いているんですか?」
あおい「そうよ!保健医はキミが卒業してからしばらくして辞めたの…ここの院長先生には前々から声をかけてもらっていたから…」
みきお「そうなんだ?後輩達は残念がっているでしょうね?」
カレン「ちょっと…誰よこの人?」カレンは気になるのだが、あまり興味無いふりをして聞いてきた。
みきお「高校の時の保健医さんの、あおい先生だよ!」
あおい「御子神あおいです、こちらはみきお君の…彼女かしら?」
みきお「いえ、友達です!」即答するみきお。
カレン「…同じ大学の、御堂カレンです。」平静を装って挨拶するカレンだが、内心は穏やかでは無かった。
カレン(何よ?そんなに早く否定しなくても良いじゃない?)
あおい「そうなの?それじゃ…独創大学に入ったの?」
みきお「…はい、一浪しちゃったんですけど…今年から大学に…」
少し恥ずかしそうなみきお…
あおい「一浪くらいは人並みよ!…それに…みきお君は色々あったんだから…頑張ったわね?」
みきお「あ、ありがとうございます。」
高校生の時に、みきおの両親は事故で亡くなったのだ…あおい先生はそんな彼を励ましてくれた恩人でもあった。
カレン(高校生の頃を知っているなんて…それにコイツの態度…まさか初恋の人とかじゃないでしょうね?)
彼女の想像が次々と膨らむのだった。
御子神あおい先生は、美人で気さくな人物だった。
生徒の悩みにも親身になって接するため人気も高く、保健室にはいつも何人かの生徒がたむろしていた。
そんな彼女だから、高校生の頃のみきお君も同様に憧れの存在だったのだ。
その後、大学から帰宅したみきおはルナに捻挫した事を伝えた。
ルナ「それは大変!私にお任せください!」
彼女はそういうとみきお君をお姫様抱っこで抱きかかえた。
みきお「る、ルナさん…」
ルナ「怪我が悪化しないようにしませんと…」
みきお「だ、大丈夫だよ…こんなの…!」
ルナ「そうはいきません!エマ様にも叱られますので。」
そう言って、みきお君を抱き上げたまま居間にまでやって来た。
ルナ「エマ様、みきお様が怪我を…」
エマ「まあ大変!」
みきお「いや…ただの捻挫ですから…あれ?お客さん…?」
居間に見慣れない女性が居る事に気がついたみきお。
エマ「ああ、私の友人のロゼリアよ!」
みきお「ルナさん、とりあえず下ろしてよ。」
みきおは恥ずかしさでいっぱいだった…
ルナ「かしこまりました!」
そう言って、ゆっくりとみきおを下ろすルナ。
ロゼリアと呼ばれた女性は、見たところ二十代半ば…美しい金髪を持つ、気品に満ちた女性だった。
ロゼリア「あなたが噂のみきお君ね?ワタクシはロゼリア!ロゼリア・フォン・エルバッハよ!」
彼女は高貴なオーラを纏っていたが、実は本当に貴族なのだ。(宇宙人だけど)
みきお「エルバッハ…なんだか貴族みたいな名前ですね?」
ロゼリア「あら?ワタクシは本当に貴族の末裔よ!…やっぱり内から溢れ出る気品は隠せないものね…?フフ…」
エマ「ロゼリアは私の同級生だったのよ!」
みきお「えっ?エマさんと?凄い若く見えますね?」
ロゼリア「オホホ!そうでしょう?ワタクシの方がエマよりも若く見えるのよね?」
みきお「えぇと…」
エマ「みきお君、お世辞なんて言わなくてイイのよ!」
みきお「あぁ…お、お世辞……」
ロゼリア「みきお君はお世辞なんて言わないわ!素直な感想を言っただけよね〜っ?」その言葉には、無言の圧力が存在していた。
目に見えない女の戦いに巻き込まれたみきお君は、その後しばらく固まってしまった…!
ロゼリアが帰った後、みきおはエマに捕まって一緒にお茶を飲んでいた。
エマ「留学生だったロゼリアは、最初の頃はみんなに避けられていたの…」
みきお「そうなんですか?なんとなくわかるような気がします…ロゼリアさんて、見えない圧があるんですよね…」
エマ「みきお君も分かるのね?彼女は貴族の出身でプライドが高いから…」
みきお「プライドは高そうですね?悪い人じゃあ無いと思いますけど…」
悪く言うつもりは無かったが、強引そうなロゼリアに対しては苦手意識を感じるみきお君だった。
エマ「そうなの!悪い子じゃあ無いのよ、他人を思いやる気持ちがあるし…」
みきお「そうなんですね?」
エマ「だから私がロゼリアの最初の友達になったんだけど…それ以来、私の事をライバルだって言って…」
みきお「なんとなく…それはロゼリアさんの照れ隠しのような気がしますね?」
エマ「照れ隠し…?そうかしら?」
みきお「プライドが高いから…友達と仲良くしたいけどそれが邪魔してしまうんだと思いますよ。」
エマ「ふーん?ちょっと会っただけでそこまで分析するなんて…みきお君は人を見る目があるのね?」
彼女は本当に感心していた、彼女自身も人を見抜く能力があるのでシンパシーを感じるのだ。
みきお「そうなんですかね?…あまり自分では分からないんですけど…」
照れてる彼を見るとエマの胸に何か甘酸っぱいものが込み上げて来た。
エマ(…あら?何かしらこの感じ…今まで感じた事がないけど…?)
みきお「どうしたんですか?ボーッとしてるけど…?」
エマ「!…う、ううん!学生時代を思い出したら懐かしくて…」
それは嘘では無かったが、ボーッとしていた理由は他にあったのだが今の彼女にはその感情が理解出来ないでいた。
そしてその頃…厨房では夕飯の支度をしているメイドのルナとみづきが忙しなく手を動かしていた。
みづき「うぅ…あの人怖かったですぅ…」
ルナ「ロゼリア様ですか?少々プライドが高いようですが、悪い方ではありませんよ…?」
みづき「だって…あの人キュラード星人の貴族なんですよ!」
ルナ「…キュラード星人はバンパイア宇宙人なんて呼ばれていますが現在では人を襲ったりはしません!」
みづき「…そうは言っても…フリン星にも昔キュラード星人がやって来て、血を吸った人達を奴隷にしたって伝説があったんですよ?」
ルナ「地球のバンパイア伝説もキュラード星人が元になっているらしいですが…地球人との混血が進んだ結果、現在では地球人となんら変わりないと聞いております!」
みづき「ち、地球人の中にもキュラード星人の子孫が居るんですかぁ?」
ルナ「そう聞いております、ですが地球では血を吸われたなんて話は聞いておりませんよ。」
みづき「でも伝説が残っているって事は実際に被害にあった人達が居るって事ですよぅ…」
ルナ「あくまでも伝説ですし…有名なドラキュラ伯爵は元々は小説ですよ…!」
みづき「えぇっ?そうだったんですかぁ?」
ルナ「ブラム・ストーカーの小説は、昔からあった吸血鬼伝説を元に書かれたものです。実在したヴラド公がモデルだともよく言われていますが…彼自身が吸血鬼だったわけではありません。」
みづき「そう…なんですね?…アルフレッド、キュラード星人の子孫が人を襲った事実は無いの?」
アルフレッド「…はい、現在では確認されておりません」
みづき「な、なんだ…やっぱり単なる伝説…」
アルフレッド「しかしエリザベス・バートリーという16世紀から17世紀に実在した貴族の女性には、若い女性を殺害し、その血を飲んだ、あるいは血を浴びたという伝説があります。」
みづき「ひぃぃ…」
アルフレッド「ただし、もし伝説の背景に何らかの未確認事象が存在した場合、キュラード星人との関連性を完全に排除することもできません。もっとも、現在それを証明する資料は存在しませんが…」
みづき「本当にそうなら、なんて恐ろしい…」
ルナ「それも伝説に近い話ですから…アルフレッド、みづきちゃんを怖がらせないでください!」
アルフレッド「…失礼しました、現在ではその様な事件は確認されておりませんので安心してください。」
みづき「…ホッ!」
安心したみづきは胸を撫で下ろした。
しかしこの数日後…現代の吸血鬼事件とも言える不気味な事件がみきお君の周りで起きる事を、この時には誰も想像していなかった。
つづく
キュラード星人の貴族は、特別な能力を持ち、寿命も非常に長い種族です。
そのため不老不死と思われがちですが、もちろん寿命はあります。
また、繁殖力が低いため、銀河のあちこちで他種族との混血によって子孫を残してきました。
しかし世代を重ねるにつれて、キュラード星人特有の能力は少しずつ失われていくらしいのです。




