森の吸血鬼
エマ邸を訪れた、美しい女性「ロゼリア・フォン・エルバッハ」。
実は彼女は、かつて「バンパイア星人」と呼ばれたキュラード星人の貴族だった!
学生時代からエマをライバル視していたという彼女に、みきおは何やら見えない圧を感じる。
しかし、そんなロゼリアをみきおは……
「悪い人じゃあ無いと思います!」
と評するのだった。
その事件が最初に報じられたのは、みきお君がロゼリアに会った三日後の朝だった。
現場は独創大学と大学病院の間に存在する森だった…若い女性が森の茂みの中で倒れていたのだ!
現場である森には立ち入り禁止のテープが張られて警官や鑑識の人間らしい人達が調査していた。
みきお「こんな身近なところで事件なんて…物騒だなぁ…」
大学内でも噂で持ち切りで、みきおとカレンも様子を伺いに来たのだった。
…数日前にこの森を通ったばかりだった彼らにはより身近に感じたのである。
カレン「同じ女性としては許せない犯罪よ!早く犯人を捕まえて欲しいわね!」
不安と怒りを顕にするカレン、ミステリー研究会の部長としては尚更気になるのだろう…しかし現場には立ち入れなかった。
みきお「あれ?兄貴!」
見慣れた顔が居ると思ったら、みきお君の兄で刑事の望月あきら氏だった。
あきら「…みきお?…そうか、この現場はオマエの大学の隣だったな?」
みきお「被害者は?一体何が起きたんだ?」
あきら「まだ捜査中だからな…何とも言えないが、被害者は無事みたいだ、クロロホルムで眠らされただけみたいだしな?」
みきお「何もされていなかったの?それなら良かったよ…それじゃ物取りかな?」
あきら「それを今調べているんだよ!」
みきお「だよね?…しかし犯人は何がしたいんだ?」
あきら「まだ何もわからん…被害者からの聞き取りもこれからだからな…」
警官「望月さん、病院からの連絡で被害者の腕に注射の痕があったそうです。」
あきら「…まさか薬物中毒とかじゃないだろうな?」
警官「そのような反応は無かったようです。」
みきお「逆に、犯人が何かを注射したんじゃない?」
あきら「クロロホルムを使って眠らせた上に何かを注射して?…いやいや…そんな手の込んだ事は…」
みきお「そうだね?毒を使って殺すにしてもこれじゃ他殺だってバレるからなぁ…」
彼は刑事である兄の影響で、犯罪者の心理にも詳しかった。
…実は時々だが、みきお君の推理は兄の捜査にも役に立っていたのだ。
すると他の警官がやって来て、あきら氏にヒソヒソと耳打ちしてきた。
警官B「ヒソヒソ…病院からの話だと、注射痕は採血された痕らしいとの事です!事件との関連は分かりませんが…」
あきら「健康診断でも受けたのかな?被害者に聞けばわかると思うから後で確認しておこう。」
みきお「健康診断だとすると、事件との関連は薄そうだね…?」
しっかりと聞こえていたみきお!実は結構、地獄耳なのだ!
あきら「聞こえたのかよ?ったく…そうだな?まだ断定は出来ないが…」
みきお「となると…犯人の目的は…?」
あきら「おい!それはそうと、オマエは勉強が有るんだからこんな所でウロウロしていないで早く大学に行けよ!」
みきお「大丈夫だよ、まだ時間はあるし…」
カレン「捜査の邪魔だから言ってるんでしょ!もう行くわよ!」
そう言ってみきおの腕を引っ張ってカレンはその場を立ち去った。
お昼になって、独創大学の学食内は事件の話しで持ち切りだった。
みきおとカレンが向かい合って座っているところに、天文研究会の先輩である山田がやって来た…
山田「二人とも聞いたか?森で倒れていた子ってこの大学の事務員さんなんだってよ!」
彼はオーバーなジェスチャーを交えて話すが、いつも大袈裟なのでみきお達は半分くらいにして聞いていた。
カレン「昨夜帰る所を襲われたらしいですね?」
山田「おっ!流石はミステリー研究会の部長だな?」
みきお「僕達は朝、現場を見た上で学校に来たんですよ!」
山田「なんだよ?もう見て来たのか…?」
カレン「ええ、でもクロロホルムで眠らされたのに…何もされていなかったらしいんです…」
山田「それは…不幸中の幸いだが…犯人は何がしたかったんだ?」
みきお「山田先輩だったら何をするんですか?」
山田「お、俺だったらそりゃ…あんな事やこんな…って違う!勝手に人を犯罪者にするなよ!」
カレン「…こんな人だったのね…?」
彼女は冷たい眼差しで山田を見ていた。
みきお「山田先輩!冗談はさておき、他に何か知ってます?」
山田「同僚の事務員さんに聞いたんだけどさ、どうも血を抜かれていたらしいんだよ!」
カレン「何それ?気持ち悪い…まるで…」
山田「まるで吸血鬼みたいだろ?」
みきお「吸血鬼…」
まるで古いホラー映画みたいな話だが、注射器を使って血を抜くというリアルな手口に…三人とも背筋に冷たいものを感じていた。
みきお達は帰りに再びあの森に行ってみたが、既に現場検証を終えたのか警官の姿も見えなかった。
みきお「現場には立ち入り禁止のテープが張られたままだな……」
カレン「そうね?警察の人がいないと何か不気味に感じるわ…」
みきお「カレンの霊感が反応してるのかい?」
カレン「そんな訳じゃないけど…本当に事件があった現場だと思うと…それに血を抜かれてなんて…」
みきお「そうだな?吸血鬼なんてのは信じられないけど…気持ち悪い事件なのは確かだ!」
女の声「あなた達、こんな所で何をやっているの?」
不意に女性の声がして二人は同時に声の方に振り向いた。
みきお「ロゼリアさん!なんでこんな所に…?」
声の主は数日前にエマの家で会ったロゼリアだった。
ロゼリア「そこの病院に行った帰りなのだけど…」
みきお「病院?どこか具合でも悪いんですか?」
ロゼリア「ワタクシはいたって健康よ!…ちょっと、お見舞いにね…」
なんとなく言葉を濁してる感じがしたが…そこはあえてスルーしたみきお君だった。
ロゼリア「ところでお二人はデートなのかしら?」
カレン「で、デート?」
みきお「違いますよ!事件の調査です。」
ロゼリア「あら?そんな事があったの?」
カレン「はい、女性が襲われて…血が抜かれていたらしいんです…」
一瞬ロゼリアの顔色が変わったが、すぐにいつもの高貴なオーラが戻ってきた。
ロゼリア「怖いわね?あなた達みたいな庶民はそんな事件は放っておいてデートでもして来たら?」
カレン「ムッ!庶民?…一応うちの御堂家は由緒正しき旧家ですけど…?」
みきお「そうだったんだ?」
ロゼリア(なぁに?この子ったらワタクシと張り合うつもりかしら?)
カレン「なんだか知らないけど…ミステリー研究会の部長として、女性が襲われたなんて他人事じゃいられないんです!」
ロゼリア「それはわからなくもないわね…?」
穏やかに話すロゼリアだが、自分の忠告に反発するカレンが気に入らなかった。
ロゼリア(…ちょっと格の違いを思い知らせてあげるわ…!)
カレンがロゼリアと視線が合った途端に彼女の身体が硬直した、そして脚が震え出したのだ。
ロゼリア「とにかく、こんな事は警察に任せておきなさい!わかったわね?」
カレン「…はい…!」
呆然としつつもロゼリアの言葉に素直に返答するカレン、しかしどこか不自然だった。
みきお「カレン?どうしたんだよ?」
カレンのいつもとは違う態度に違和感を感じたみきお。
ロゼリア「それなら良かったわ、それではご機嫌よう!」
そう言ってロゼリアは去ったが、カレンは立ちすくんだままだった。
みきお「おいカレン!どうした?大丈夫か?」
ようやく口を開いた彼女の口から発した言葉は…
カレン「あの人…怖い…」だった、
一方、病院の駐車場に停めてあった黒塗りのロールスロイスに乗り込んだロゼリア。
アルカード「おかえりなさいませ!またお嬢様の悪いクセが出ましたな?」
運転席の白髪の老紳士が表情を変えずに言った。
ロゼリア「あら、見ていたの?…監視されているみたいでイヤだわ。」
アルカード「監視とは…私にはお嬢様をお守りする使命がございますので!」
ロゼリア「まったく…アナタの使い魔は何処にでも居るんだから…」
アルカード「使い魔?誤解されるような呼び方はおやめください、あれは単なる…」
ロゼリア「ハイハイ…もういいから…出発して!」
アルカード「かしこまりました。」
ロゼリア「ふう…ついムキになって、能力を庶民に使ってしまったわ…これじゃまた血が欲しくなってしまうわね…?」
アルカード「お嬢様…我々の正体を地球人には知られないようにしませんと…」
運転席の白髪の老人がぼやく。
しかし老人とはいえ、その体は筋肉質でガッシリとしていた。
一目で只者では無い事がわかるだろう。
ロゼリア「わかってるわよ!…なんだかみきお君の前だと張り合ってしまうのよね…?」
アルカード「可哀想に…あの娘は震えておりますぞ!」
ロゼリア「…あら?少々やり過ぎたかしら…?」
彼女がそう呟くと、ロールスロイスは静かに走り出した…そして夕暮れの街に消えて行くのであった。
夕暮れの独創大学駅前のカフェにやって来たみきお達、みきおは様子がおかしいカレンが心配でここまで付き添って来たのだ。
カレン「…あの人に見つめられたら…まるで蛇に睨まれたカエルみたいに脚がすくんで…」
みきお「ふんふん?」
カレン「何も考えられなくなってしまったのよ…」
みきお「そんな事が…」
カレン「あの人は普通じゃない…何か特別な力を感じるわ…」
そう言って肩を震わせていた。
みきお「初めて会った時もなんか圧を感じたけど…ロゼリアさんは催眠術でも使えるのかな?」
カレン「あれは催眠術なんて物じゃないわ…何か異質なものを感じる…」
みきお「そ、そうなんだ…?」
普段は見せない表情のカレンに、みきお君も戸惑っていた…
みきお(初めて会った時も…ロゼリアさんからは何か圧力みたいなモノを感じたけど…カレンは敏感だから僕よりも強く感じたのかな…?)
カレン「あの人…人間じゃあ無いのかな…?もしかして…宇宙人とか…?」
みきお「ま、待った待った!ロゼリアさんはエマさんの友達なんだぞ!勝手に宇宙人呼ばわりしたらダメだよ〜!」
みきおの言う事はもっともだが、カレンの勘は実は正解だった!ロゼリアはキュラード星人という宇宙人なのだから…!
カレン「…ごめんなさい…アタシ…どうかしてるよね…?」
みきおはカレンの肩をポンポンと叩いて励ました。
みきお「落ち着けって!…ほら、コーヒーでも飲んで。」
カレン「…う、うん…ありがとう…」
少し涙ぐんでいるカレンの姿に、周囲の客がざわめき出した。
客A「…別れ話かな?」
客B「妊娠したとかじゃない?酷いわね…?」
周りのざわめきが自分達の事を話しているのだと気がつくみきお。
こんな時に限って、地獄耳を発揮してしまうとは…
みきお(な…なんか変な誤解されているみたいだな?…まずいぞ、変な噂が流れたりしたら…うぅ…)
いたたまれなくなったみきおは、カレンを連れてカフェを出るのだった。
みきお「コレ…使えよ…」
そう言ってハンカチを差し出すみきお。
そのハンカチを受け取って、胸が熱くなるカレン。
しかし……
そんな二人を…偶然買い物に来ていた十六夜みづきが
目撃していた事を…二人は知らずにいたのだった。
つづく
女性が何者かに襲われ、血を抜かれるという事件が発生。
みきお君の周囲にも、不穏な空気が立ち込めてきました……。
果たして犯人は?
ロゼリアは事件に関与しているのか?
そしてその一方で、急接近するカレンとみきお。
さらに――二人の現場を目撃してしまったみづきちゃん!
果たして彼女は、どんな行動に出るのでしょうか……?




