第一章 ⑤
「おい、白滝。ええんか、あいつら見送って」
複合型商業デパートの屋上。落下防止用の金網の天井に腰かけながら、濃藍色の髪をした関西弁の少女が、はるか真下を人目を気にしながら歩き去る三人の少年少女を睨みつける。警戒している割には危機意識や知覚範囲がザルだ。上から見られていることに気づいていないようだ。
金網の向こうには、一人の大柄の男が立っている。両手に特殊な籠手をつけた男――白滝は、厳めしい表情を変えもせず、少女に答える。
「市井の特対官かとも思ったが、あの子供の武器――あれは正式な特対官に配られる汎用品だ。持ち運びが容易な刀タイプだな」
「だから?」
「分からんか、紫咲」
紫咲と呼ばれた少女は、白滝を振り返り、小首を傾げる。関西弁や偉そうな口ぶりに比して、その態度は見た目相応の幼い少女そのものだ。
「あいつらは政府雇われの特対官ということだ」
「はぁ? じゃあダブルブッキングかよ」
「さぁな。だが、一方で少し動きが妙だ。応援を呼ぶ素振りも見えない。少し泳がせてみるのもいいだろう」
「まぁ、男の方には血は付けたからな。遊ばせても問題ないやろけど……なーんか性に合わんわ。こそこそうじうじ」
気持ち悪そうに、紫咲が身体を掻き抱く。
「俺たちの目的は、何もあの少女の拘束だけでは無いからな。泳がせた方が意外な結果を運んでくれるかもしれないだろう」
「はいはい。まっ、お前がそう言うなら任せるわ。こまいことは苦手やねん」
どこかで轟音が鳴り響き、甲高い警報音が小さく木霊する。
遠く離れたどこかの市内で響く特災の発生を示すその音を耳にし、紫咲は金網から飛び降りた。白滝に隣に並び、背を向ける。
「なんか分かったら呼んでや。それまで適当に虚虜でも狩っとくわ」
「無理するなよ」
「誰に向かって言うてんねん」
顔だけで振り返った紫咲の顔には、獰猛な笑みが浮かんでいた。




