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第六章 ⑨

 唯識寂滅ゆいしきじゃくめつ――それはさだめの説明したとおり、虚子トリシュナと同調者が相剋の果てに至る一つの境地だ。


 同調者の過分な代償と引き換えに、虚子の能力を一時的に最大限引き出すことを可能にする。


 それによって生まれる力は種々様々であり、要の場合は、求不得苦夢幻泡影ぐふとくくむげんほうよう――彼の描く幻想の理想を体現する力であり、それはかつて見た彼のヒーロー、周防必を現実のものとすることによって発露する。


 実際、周防必をその身に宿すわけでも復活するわけでも決してない。その見た目は半身である必を基本に非常に酷似した姿となってはいるが、虚子の特徴である白銀の髪や碧眼をそのまま引き継いでいることからも明らかであろう。


 だが、身に宿す力は、まさにかつて彼が夢見たヒーローを体現するに相応しく、多くの代償を捧げた今の彼らは、眼前の強敵――人型虚虜(デーヴァ)アセナと伍する力をその身に宿していた。


「さぁ、行くよ――要!」


 空を駆けながら、必は兄を呼ぶ。それに応える声は無い。相剋の時のようにお互いの意識が分離している状態とは異なり、今や二人の意識は完全に合一を果たしている。主人格が必に近いというだけであり、本質的には必であり、要でもあるのだ。


 二人の思考は意識の中でのみ混在した状態でなされるため、必の声掛けには気持ちを高ぶらせる以上の意味は無い。だが、要と意識を共有し、多分な感情を持て余した今の彼女にとっては、気持ちの赴くまま、振舞えることに何より歓喜している。


 喜びも、悲しみも、辛さも、苦しみも、恐怖も、慢心も――全てが新鮮で愛おしい。


 湧き上がる感情の波濤はとうを力に変え、必は空を舞うアセナを追い駆ける。全身から蒼白の刃を構えて武装するアセナは、迫る必をじっと観察するように眺めている。突然の乱入者に対して彼女が感じているのは、疑問か、興味か。


 どうでもいいことすら面白い。必は自然と口元に笑みを浮かべていた。


「きみに会うのは二回目だね。あの地下でボクに手も足も出なかった力で、ボクとどう戦うのは気になるよ」

「あの時と違って、要が大切な宝物を捧げてくれた。だからわたしは――負けないっ!」


 必の全身から光の粒子が溢れだし、それは瞬時に空中へ氷の足場を形成する。その足場を蹴立てて、さらに必は加速した。爆発の推進力も加えて、先に倍する速度でアセナの身体に蹴りを叩き込む。


 アセナの身体が光の粒子に包まれ、透過の態勢を取る。必の放った鋭い蹴りは、アセナの身体を素通りしていく。だが、必は予想通りとばかりに笑みを深めた。物理的な攻撃がアセナに通用しないことは何度も試して理解している。それでも蹴りを放ったのは、アセナを透過の状態に導くため。


 必の身体から多量の光が溢れだし、それはアセナの周囲を埋め尽くした。断熱膨張による温度低下が絶対零度にまで近づく。あらゆる分子運動を停止せしめる温度において、アセナの身体に異変が起こる。


 まるで彼女を構成するあらゆる要素が変質を来したように、一つの状態へ収まらんと凝縮を開始する。身体の節々がぼろぼろと光の粒子に溶け変わり、その様に危険を感じ取ったのだろう。


 アセナは咄嗟に異能を発揮し、自身を透過の状態から元の粒子状態へと引き戻した。結果として身体の崩壊は免れるが、その頬を鋭い必の蹴りが打ち抜く。


 アセナの対応を予測し、蹴りを放った必は、振りぬいた反動を利用して一回転し、更なる追撃を叩き込む。強烈な一撃を前にアセナの身体が宙を舞う。


 爆発が轟く。


 連鎖する爆発、空気の燃焼は音速を越え、衝撃波が四方八方からアセナの身体に叩き込まれる。爆轟は、耳をつんざくほどの凄まじい轟音を轟かせ、超高温の熱量が炎の大蛇と化してアセナの身体を呑み込む。


 全身が炎に呑まれる寸前、アセナが右手を掲げた。そこに蒼白の光が集まり、その手に炎が触れるや否や、炎が消し飛んだ。まるで炎など最初から無かったかのように、周囲に冷気が満ち、霜が降りる。


 莫大な炎そのものを閉じ込めて断熱膨張させたのだろう、とそう必は当たりを付けながら、アセナと同じように白銀の粒子を手繰る。


 応じるようにアセナも蒼白の粒子を手繰り、次いでそれは爆発の応酬と化した。


 望島うらじま全体を揺るがすような爆轟が連続する。


 大地そのものを引き裂くように凄まじい大音が木霊し、その中心部で必とアセナがお互いの武器をかち合わせる。武器の音とは思えないほどの、常軌を逸した膂力によって振るわれたそれらは、一撃の間に衝撃波を生み出し、手当たり次第に燃え盛る炎を吹き散らす。


 虚子や同調者の基準から見ても並外れた力を振るいながら、必は一歩踏み込み切れないことに若干の焦りを感じていた。小さな汗が額に浮かび、攻撃を重ねた右手が痺れたように痛む。


 要の最も大切な記憶という代償を捧げてなお、それでも決めきれない。その事実に驚嘆しながら、その苦難さえも愛おしい。


 震える腕が、波打つ心臓が、頬を流れる汗すらも感慨深く、眼前に立ちはだかる強敵にすら頬ずりしたくなるような愛着を覚える。この一瞬を永遠に味わいたい、と感情を持つがゆえの悪い面が出始めている。


 だからこそ、必は焦る。必と要が意識を合一し、人間が本来持つ豊かな感情に振り回されかけている。御し切れない感情の波に翻弄され、結果としてそれは力の制御に影響が出始めている。


「のんびりやってる暇は……ないかなっ!」


 自身のそんな内情を自覚し、必は己を叱咤する。


 要が――自分たちが捧げた記憶を無為にしてはいられない。そうそうに決着をつけなければ、いざこの状態すら維持が難しくなる。


 捧げた代償が枯渇すればどうなるか。起きるのは更なる代償を求めて要の感情か記憶を喰らいつくすか、唯識寂滅の状態が解除されるかのいずれかだ。


 アセナの放った蒼白の刃を躱し、懐に入り込んだところに振るわれた光の粒子の剣の一撃を爆発で弾く。爆発の反動で隙を見せたアセナの胴体に触れ、一気に体表面どころか全身を絶対零度にまで落とし込む。


 その瞬間、必の鼓膜をすさまじい音圧が揺るがした。不意の一撃に平衡感覚を失い、アセナに触れていた手から力が抜ける。空中での姿勢維持すらも難しくなり、その攻撃が巨躯のクジラの異能を模倣したものだと必が気づいた時には、彼女の身体は落下を開始していた。


 高高度から一気に地面へ逆さに落ちながら、無理矢理に爆発を起こし、反動を使って体勢を整える。脳を鷲掴みにされて揺さぶられたような酷い酩酊感だが、一切を無視して必は再度空中を舞う。


 視界の先には、アセナが再びの攻撃の姿勢を取っていた。指でわっかを形作り、そっと息を吐く。それが合図のように、再度の凄まじい音圧が必に叩きつけられた。


「ほんっと、に……厄介過ぎッ!」


 多種多様な異能の行使に、さすがの必も悪態をつく。まるでこちらの次の手を読まれている状態でジャンケンをさせられている気分だ。状況に応じて有効な異能へ切り替え、そこに際限は無い。能力の制限でもあれば多少は対抗策も浮かぶだろうが、アセナの力の使い方にそうした条件は無いように思われた。


「けど、全くなんの弱点も無いわけじゃない!」


 アセナの一挙手一動を事細かに観察し、必はそう結論を出す。


 アセナの能力――模倣と思われるそれは、虚虜や虚子が持つ異能を全て、我が物として使うことを可能としている。その能力の使用に制限は無く、二つ以上の能力を行使することも難なく可能としている。それは度重なる戦いで証明されている事実だ。


 必の断熱過程の操作を筆頭に、紫咲の血液操作、陽彩の粒子状態の自由操作、ひなみの植物使役、巨躯型の虚虜クジラの音圧――さらにはおそらく、この望島を襲うあらゆる虚虜の能力を使用し得るだろう。


 だが、今のところ、アセナの使う力は限定的かつ固定的だ。多くは必の異能を、デフォルトでは紫咲の異能を行使し、防御の際は陽彩の異能を多用する。咄嗟にクジラの異能も用いてはいるが、必要に駆られて、と言ったところだろう。


 要するに、好みの片鱗のようなものがあるのだ。あるいは知性ある虚虜がゆえの状況判断か。


 しかし、それは弱点と呼ぶにはあまりにもろく、不確かなものである。


 むろん、必はそれを指して弱点と呼んだわけでは無い。


 アセナの能力の制約、アセナの能力の弱点と呼ぶべきもの。

 

 それは――


「――一つ一つの能力にこだわりが無いこと!」


 叫び、必は大きくアセナから距離を取った。現状、音圧の攻撃を防ぐ手立てが無い以上は、距離を取って影響範囲から逃れるよりほかない。


 だが、それは決して問題では無かった。必の能力は、遠距離でも十分に効果を発揮する。もちろん、異能による影響は近距離ほど大きく作用するが、今の必であれば十分に遠隔から有効的な攻撃を放つことは可能だった。


「たくさん力があるから、一つ一つにこだわらない。打開策を見出さない。最適解を選んで、他の異能に切り替える」


 遥かな先にいるアセナに向かって呟きながら、必は異能を手繰る。


 断熱過程の操作という一つの異能しか使えない彼女は、しかしその力を要と共に磨いてきた自負がある。苦難や困難に際して知恵を働かせ、能力を活用し、突破口を見出してきた。


「だから、攻撃を誘導しやすいんだよ」


 不意に爆発がアセナに襲いかかる。


 必が距離を離す寸前に残してきた白銀の粒子が、遅れて爆発したのだ。


 爆風の直撃によってアセナが吹き飛ぶが、すでに爆発による威力の相殺、蒼白の触手を用いて姿勢の立て直しを図っていた。時限式の必の爆発も大したダメージにはなっていないようで、吹き飛びながらすでに攻勢に転じている。


 アセナの両手に蒼白の粒子が宿る。それは彼女の指示に従い、空間を越えて必に叩きつけられた。蒼白の粒子は即座に起爆し、必が放った爆発を真似た一撃で報復してみせる。


「例えば、距離を取ればわたしの異能を使う。吹き飛ばされれば爆風で相殺する、姿勢を立て直すために紫咲ちゃんの力を使う」


 眼前で発された爆発に対して同質の爆発で相殺しながら、必は空をさらに高く上る。眼下に目を向ければ、同じ要領でアセナが必を追い駆けていた。互いに爆発の力を利用して雲の高みへと上ってゆく。


「遠距離攻撃が有効じゃないと判断した場合は、近距離攻撃に切り替える。その場合は、一片ちゃんが使っていた力を使う」


 必に追いついたアセナが右手に生み出した光の粒子で構成された刃を解き放つ。光が集まる一本のレーザのように形成されたそれに対して、必は最小限の動きで回避行動を取る。


 踊るように位置を入れ替えながら、同時にさらに空へと上って攻撃と回避を繰り返す二人は、次第に肌を突き刺すような冷気が覆う空へと昇り詰めていく。


「こっちから攻勢に出た場合は、身体を透過させる」


 アセナの攻撃をかわして、必が攻勢に転じる。右手に握った白刀を横なぎに一閃するが、彼女の予想通り、その一撃は空を切った。


「周囲の温度を低下させようとすれば、音圧で平衡感覚を狂わせてくる」


 必が周囲の温度に干渉して、絶対零度まで低下させようと試みた瞬間、アセナから特大の音圧が放たれた。これを予期していた必は、一瞬にして作り上げた氷の足場を蹴って大きく距離を取る。


 必が距離を取った反動で氷の足場がアセナに向かって飛んでいき、わずかに遅れて放たれた音圧によってひび割れ、砕け散る。だが、割れた氷の中から白銀の粒子が零れだし、それはアセナの周囲を覆い尽くした。


「へぇ……」


 予想していなかった事態にアセナが興味深そうに瞳を細めた瞬間、空気を圧するほどの爆発が巻き起こる。


 爆発はアセナを飲み込んで連鎖すると同時、生まれた炎が必の力によって瞬間的に断熱圧縮されて解放される。炎はさらに熱量を高め、まともな生物であれば身体の一片すら灰と化すほどの温度に包まれる。


 生まれた熱流は、周囲との過度な温度差によって上昇気流を生み出し、爆発の衝撃をかき消すほどの突風が吹き荒れた。


「――――ッ!」


 不意に空より何かが降り注ぐ。その正体を看破し、必は咄嗟に大きく距離を取った。


 上昇気流に巻き上げられた蒼白色の体液が、空より大量に降り注ぐ。一つ一つが小さな粒のようなそれは、不意に鋭い槍のように姿を変え、必の元いた空間に襲い掛かった。


 やがて雨のように降り注いだ体液は、急激な温度上昇によって白煙に包まれた空間から姿を見せたアセナへと戻り始める。


「これでも無事なの……」


 空の上にありながら、瞬間的に氷の足場を生み出すことを繰り返してアセナは歩く。その姿は、炎と衝撃波によって多少の皮膚の火傷や外傷は見られるものの、虚虜であることを考えれば無傷に等しい。身体の欠損であれば別だが、多少の外傷は虚虜には意味をなさない。


「頑張るね。すごいよ。ほらほら、もっと頑張って。これじゃあ、ボクは倒せない。きみの言うとおり、ボクは所詮、模倣するだけ。その一つ一つに拘らないし、言うなれば使い捨ての力だ。だからこそ、そこに勝機はあるかもしれない」


 アセナの力の使い方は、言うなれば盤上でルールの決まったゲームを指すのと似ている。最適な力の使い方ではなく、状況を俯瞰して持ちうる駒の中から最適なものを配すればいい。だが、それは逆に言えば、選択肢を予見しやすいということにもなる。


 必は、アセナのその思考を逆手に取り、彼女の行動を誘導してみせた。その中に不意打ちの大技を仕込み、確実に当てられる瞬間を狙って解き放った。


 だが、決めきれない。


 人型虚虜の持つ異常な再生能力、肉体の強度が、アセナの持つ異能よりも厄介に彼女を守護している。ある意味、アセナは異能よりもその耐久力こそを警戒すべき相手なのかもしれない。


「きみは知ってるかな? まぁもう他の子には知られているから教えてあげる。ボクには存在核が複数ある。さっきのひとひらたちの攻撃で頭にある存在核を除いて壊されているけど、もうすぐ再生は完了する。今がチャンスだよ。今なら、頭を壊すだけで僕を討てる。だから足を止めないで。まだ絶望には早い。頑張ろうよ」


 この期に及んでまだ遊ぶように語るアセナの姿に、必は辟易してしまう。これが虚虜。心を喰らうという本能に重きを置いた存在の姿だ。その在り方は、必には理解できない。


(けどまぁ、油断してるっていうなら好都合)


 おまけに弱点まで自分で晒してくれているのだ。その正否は実際に頭を落とせば分かるだろう。


「あいにく、わたしは絶望しない。だって、ヒーローだから」

「じゃあ見せて。きみの希望を、それをへし折られた時に感じる絶望の味を」

「だから、絶望しないって、言ってるッ‼」


 怒号を上げ、必は一気にアセナに接近した。爆発の推進力をそのまま、まるでミサイルのようにアセナに突撃し、余裕そうに迎える姿勢を取るアセナの胸倉を掴み上げ、力任せに振りかぶる。


 アセナは、これを躱さない。避けることも、あるいは透過させることも出来たはずだが、彼女はされるがまま、地面に向かって放り投げられてみせた。


 高高度から凄まじい速度でアセナが落ちていく。


 それを追いかけながら、必は周囲の水分を凝固させて巨大な氷を作り上げる。


 やることは単純だ。


 先ほどの巨躯型の怪獣との戦闘では意図せず起きた事象。


 莫大な質量の水分をかき集め、これに超高温をぶつけることによって巻き起こる大爆発。


 水蒸気爆発を、今度は意図的に引き起こして見せた。


 氷を放ちながら自身は距離を取り、同時に断熱圧縮によって生まれた超高温を氷に叩きつける。即座に氷は水蒸気へと変化し、そこで生まれた体積の急激な変化に衝撃波が吹き荒れる。


 衝撃波の渦の中に呑まれていくアセナを見ながら、必はくの字型の氷の壁を生み出し、それを掴んで衝撃波の中に飛び込んだ。一気に加速しながら氷の壁で叩きつけられる威力を減衰させながら、アセナのもとへと向かう。


 今までの威力をはるかに超える爆発を受けてなお、アセナはそこにいた。それでも全ての衝撃を防ぐことは出来なかったのだろう。左手は欠損していたが、アセナの再生能力を鑑みれば、その程度の欠損は即座に修復してしまうだろうと予測できる。


 光が瞬く。


 アセナの右手が銃の形を取り、そこからレーザのように光の軌跡が飛び出した。


 ほとんど勘だけで必はその脅威を感じ取り、光の一撃を回避する。だが、攻撃は一度では無く、アセナは何度も照準を必に向け、光を放つ。


「ばんばん」


 まるで遊ぶ子供ようにそう口ずさみながら光が放たれる。


 必は意を決し、氷の盾を蹴りつけて大きく回るように落下の向きを変えた。空中で何度か小さな爆発を起こして姿勢を制御し、最後に大きな爆発を足元で起こしてアセナに接近する。


 アセナが反転し、眼前に迫る必を捉えた。お互いの武器を落下しながらぶつけ合わせる。激しい金属の擦れる音を響かせながら、やがて地面が近づく頃になって、アセナは武器から手を離した。


 その予期しない行動に違和感を覚えながら、必は空いたアセナの首目掛けて白刀を振るう。回避するか、透過させるか。それぞれの行動に応じた次の一手を思考の中で組み立てながら、万全の対策をもってアセナの応じ手を迎えうつ。


「――ゼーンズフト」


 その瞬間、必の視界を大量の蔓が覆いつくした。


「な――ッ⁉」


 思考の外から突如として現れたそれに呆気に取られながら、爆発的に増殖を始めた樹木の数々に必の動きが絡めとられる。ほとんど反射で爆発を起こして樹木の拘束から逃れるが、その時にはすでにアセナは攻撃範囲から脱していた。


 それだけでは無い。増殖する樹木はやがて大小無数の異形を生み出し、アセナを守るように取り囲む。


「ああ――他の存在核も回復しちゃったよ。さぁ、仕切り直しと行こうか」


 アセナの左手が再生を果たし、いつの間にか身体の外傷も消えている。アセナの言うとおりであれば、見た目だけでなく、中身も元通りに再生したのだろう。


 不利極まりない状況に唇を噛み、必の頬を冷や汗が伝う。


 だが、彼女は決して諦めない。


 要が体現したい理想に、諦めるヒーローの姿は描かれていない。


「もうちょっと、頑張らないとね」


 白刀を握り直し、必は大きく地を蹴った。

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