第三章 ⑧
戦場を廃ビルに挟まれた路地裏からレイロンの上空に移動し、虚子の少女二人が異能をぶつけ合う。
度重なる爆発と血飛沫は一種異様な光景をもって、レイロンの上空を彩っていた。
尋常ならざる光景は、目にした者に鮮烈な印象を刻みながら、その中心でしのぎを削る幼い姿に驚嘆する。そうと見えないだけでレイロンの南地区には多くの人間が存在し、響き渡る大音響に瞠目していた。
そんなレイロンの住人の様子など知るよしも無く、当事者たる二人の少女は、ギリギリの命の削り合いに意識を集中していた。いや、それ以外に意識を傾ける余裕は無かったと言える。
足元で爆発を繰り返して必は空を駆ける。落下するよりも先に小さな爆発を繰り返すことで、爆風に押されるように空中を移動する。
爆風を利用する必とは異なり、紫咲は血液を触手のように操作して廃ビルから廃ビルを伝い、時に空中に散布してから固めることで足場として、疑似的に空中を移動する。
どちらも厳密に空を飛んでいるとは言えないが、お互いの特性を活かして空中戦へと打って出ていた。
示し合わせたわけでは無い。ただ、お互いの能力を如何なく発揮するにあたり、空中戦こそが最適だと判断したのである。
「きみはなに⁉ どうしてわたしたちを襲うの⁉」
爆発による加速を最大限に活用し、必は一気に紫咲の懐に飛び込んだ。素早い操作で手にした黒刀を警棒の形態へと切り替え、紫咲の血鎌を握る手元目掛けて打ち込む。攻撃の瞬間に小さな爆発も利用することで、紫咲の視界から刹那の間に警棒が消えたように見えたことだろう。
だが、高速で迫るその一撃に対して、紫咲は見事に応じて見せた。血の触手を用いた人間の可動を超える挙動で必の一撃を避ける
対象を外した警棒から遅れて異能の光が迸り、爆発が連鎖する。爆発と同時に淡い光が上空へと立ち上り、雲間に隠れて消えていく。
その後方で連鎖する爆発に目もくれず、紫咲は首筋から放った血の触手を必の身体に巻き付けた。
「答えるかいな。それよりこっちも聞かせてもらうで。豚女、お前らの目的はなんや!」
必に巻き付けた触手を掴み、紫咲が大きく回転するようにして振り回した。そのまま遠心力を利用し、一気に触手から手を放す。
「ぐっ!」
必の身体が遠心力と重力に引きずられて廃ビルの屋上に落下する。凄まじい威力に屋上にクレータが生まれ、衝撃が廃ビル全体を大きく揺らした。元々朽ちかけていた柱が衝撃によって崩壊し、廃ビルが音を立てて崩れ始める。
土煙が舞い上がり、足場が崩れ行く中、必は先の衝撃を上回る爆発を放つ。
異能の光が粒子となって周囲へ舞い散る中、土煙と粒子の雨に隠れるようにして、重力に任せて落下してくる紫咲へと迫る。
「そっちが教えてくれないのに、答えるわけないよね!」
「そりゃあ、そうや、なっ!」
血鎌と警棒がぶつかり合い、弾かれるように二人の身体が地面へと吹き飛んだ。
必は崩れた廃ビルの隣の建造物に、紫咲は高層マンションの朽ちた貯水槽の上に降り立ち、それは一瞬の間をおいて再びの邂逅を迎える。
幾度となく武器をぶつけ合い、戦場を空中から高層建造物の残骸に移した二人は、お互いの異能を全力でぶつけ合う。
立て続けの爆発と、その隙間を縫うように血の雨が槍のように降りしきる。
高火力に特化した異能と、柔軟性に特化した異能は、お互いに決め手に欠け、千日手のように力の応酬へと変わりつつあった。
「思ったよりやるやないか。適当にぼこして泣かせたるつもりやったが……まぁ、豚女にぶーぶー鳴かれても不快なだけやな」
「だから……その豚女っていうのを止めてって、言ってるよね!」
「そうやってあおられたらアホみたいに突っ込んでくるんやから、豚女言うねん!」
たったの一歩で轟音を響かせて迫る必に対して、紫咲の身体から大量の血液が溢れ出した。必の放った度重なる爆発によって負った裂傷から体内の血液が溢れ出し、それは糸のように網を形作る。
紫咲の放った血の網は、特攻する必の身体をいとも容易く絡めとった。
突撃の瞬間に両手両足を封じられ、必の動きが止まる。それどころか強力な締め付けにその手から警棒が零れ落ちた。
「そら、捕まえたで。どうする? 豚女」
「こんなの吹き飛ばせば――」
必の両手に光が収束する。何度なく見せたその異能の兆候に対して、紫咲の反応は素早かった。血鎌が必の首筋に添えられ、その動きを封じ込める。
「やらせるかいな。力を使おうとしたら、その首とばすで」
「く……っ」
異能を放とうとした必の動きが止まる。肌先から数ミリ程度に添えられた血鎌は、必がその力を使うよりも早くその首を切り飛ばすだろう。
「さぁ、色々と喋ってもらおうか。お前らの目的を、なんで陽彩を追いかけてんのかを」
「ひ、いろ?」
紫咲の放った聞き慣れないその単語を必は繰り返す。誰かの名前だろうか。
人の名前――思い当たる節があるとすれば一つしかない。要が追いかける一人の少女。虚子から人間に戻ったと噂される少女『SS001』。それが陽彩という名前なのだろうか。
身動きの取れない状態で思考だけを回しながら、同時に必はこの状況を打開する術を考える。
両手両足は血の糸によって封じられ、首には血鎌がそえられている。
眼前には戦いに慣れた虚子の少女がおり、どこかに同調者も控えているかもしれない。要が陽介を追いかけにいった今、必はその支援を期待することはできない。同調者と合流されれば、状況は余計に不利になる。
(だから合流される前に、この子を倒さないといけない。大丈夫、さっき種は巻いたから)
空中戦を繰り広げながらも必は可能な限り、眼下へ視線を向けていた。確認した限りでは同調者の姿は見つけられなかった。おそらくどこかの建物の中に身を隠しているのだろう。
だが、その理由はなんだ。
わざわざ同調者が虚子だけに戦わせ、姿を見せない理由は検討もつかない。検討もつかないが、見つからないのであれば、見つからないまま無力化するしかない。
「なんや、だんまりか? まぁ、ぶっちゃけお前らが陽彩を捜す目的なんざどうでもええか。お前らには近づけさせもせんからな。じゃあ、次の質問や。お前ら、陽彩の手がかりをどこまで掴んどる?」
血鎌が脅すように肌に触れる。
浅く切り裂かれた必の首筋から、細く小さな血が滴り落ちた。
「やれるならやってみろ……いや、やられてもどうでもええ、って感じか。ほんまになんも無いんやな、お前」
「なに……それ」
絶体絶命のピンチを前に、必は表情一つ変えない。緩んだような口元を一瞥して、紫咲は不愉快そうに表情を歪める。
「言葉どおりや。悪口言われようが、こうやって殺されかけようが、なーんも感じてへんのやろ。怒っても怖がっても無い。ただそうするのが『らしい』からそうしとる。――お前、むかつくわ」
吐き捨てるような言いざまに、必の表情が初めて動いた。絶えず浮かべていた笑みが消え去り、快活で無邪気な様子から一変、感情の無い冷たい色が瞳に宿る。
「ひどいね」
「あん?」
「人が可愛いって思ってもらえるように頑張ってるのに。いい子だって、褒めてもらえるように頑張ってるのに……見捨てられないように必死なのに、そういうこと言うんだね」
「なんの話やねん」
「わたし、きみのこと嫌いかも」
「は、そらええわ。初めて意見あったなぁ!」
嫌悪感を表情に滲ませた必に、紫咲が獰猛な笑みで返した瞬間、それは起きた。
遥かな上空で絶えず異能の淡い光が瞬く。
漂う雲の内部で何度も発光する粒子に当てられ、急速に空気が冷やされ、それは雨雲に変わる。
急速に雨雲へと変化したそこから放たれる降雨は、周囲の空気と摩擦効果を生み出すことによって一気に下降気流を発生させた。
通常の自然現象とは全く異なるメカニズムによって発生した下降気流は、圧倒的な速度をもって地面に到達し、それは一瞬にして落下地点を中心に強風を巻き起こす。
――ダウンバースト。
下降気流が地面と激突することにより四方八方に強風が吹き荒れる。風速50mを越える自然災害は、そう呼ばれている。
「は?」
大粒の雨と共に訪れた突然のそれに何の抵抗も出来ず、紫咲が吹き飛んだ。必を拘束していた血液すらも強風によって吹き飛び、拘束から解放された必も同じく強風に巻き込まれる。全身を揺さぶられるような衝撃と震動の中で、必は咄嗟に爆発を何度となく繰り返して衝撃を相殺することに努めた。
何度も地面を転がり、建造物の壁に叩きつけられたことで動きを止める。それでも吹き荒れる強風から逃れるように何とか建物の中に入り込むが、崩壊しかけの建造物の中にまで問答無用で風が吹き荒れる。
何とかコンクリート壁から飛び出した補強用の鉄筋に掴み、必は強風が収まるまで耐える。瞬間的に発生した災害は、終わるその瞬間も一瞬のことであり、しばらくすると風が吹き止み、辺りには静寂だけが残った。
「やりすぎた、かな」
先ほどの一撃。
空気中に浮かぶ雲の温度を急速に極低温域へ変化させることにより、疑似的に発生させた自然現象。
下降気流が地面に激突することによって放たれる絶大な強風は、必の異能を用いた一撃だ。もちろん、風そのものを操ったわけでは無い。必の持つ異能を用いることで空気中の温度を急激に冷やすことにより、結果として、疑似的に自然現象を再現したに過ぎない。
断熱圧縮、あるいは断熱膨張の意図的な操作。
それが必の異能の本質である。
外界と隔絶された密閉空間において、空気は圧縮されると温度を上げる。あるいは、膨張すると温度を下げる。この特性を用いることによって、酸素以外の気体を断熱圧縮させた空気を一気に外界に解き放ち酸素と空気中の可燃物とを反応させることで爆発を、あるいは空気を断熱膨張で極低温下まで冷やすことで周囲との温度差による水蒸気を発生させるのである。
先の自然現象もその応用だ。
戦闘中、空中戦を繰り広げながら、必は上空に発生していた積乱雲にも異能の光を解き放っていた。それは遅れて雲の内部で雨滴を発生させ、発生した雨滴が地面に向かって落下。そのエネルギーによって、積乱雲内部が急速に冷やされ、極大の下降気流が発生したのだ。
結果は、先のとおりである。
条件は限定されるためにいつでも使えるものでないが、条件さえはまれば自然現象すらも起こし得る。姿の見えない紫咲の同調者に目掛けた不意打ちとして用意していた奇策だったが、上手く必のピンチを救ってくれた。予想以上の影響を周囲へと与えてしまったのは、必の異能があくまで爆発や冷気の起点を生み出す力に過ぎないために細部の調整が難しいためだが、結果だけを見れば、紫咲の同調者も無事では無いだろう。屋内に潜んでいたとしても、ここまで廃墟だらけのこの街では防壁の効果も知れている。
(結構、移動しちゃったな……。早く要を追いかけないと)
陽介を追いかけていった要は、予想が正しければ、虚虜と接触している可能性が高い。同調者として人間以上の身体能力を有する彼だが、単体で虚虜と戦うのは難しいだろう。そもそも物理攻撃に対して非常に高い耐性を有するからこそ、虚虜に抗しうるのは虚子のみと言われているのだ。
身を起こし、近場に転がっていた警棒を拾ってから、廃墟の外に身体を覗かせる。突発的な降雨と風災が過ぎ去れば、太陽が姿を現し、うだるような暑さの直射日光が差し込んでいる。
眩さに目を細めながら、必は屋外に足を一歩踏み出した。
その瞬間、背筋を悪寒が走り抜けた。
虚子となってから経験した戦いの中で培った経験が、五感を越えた情報として必に危機を訴える。
だが、その意味を理解するよりも前に、彼女の耳に危険な一言が届いた。
『――相剋』
可愛らしい少女の高い声と重々しい男の声が重なる。
咄嗟に声の方を振り返った必に、紫咲とその同調者である白滝の姿が重なった。
比喩表現ではなく、まさに重なった。二人の姿が影のように揺らぎ、それは一つとなって同一を果たす。
相剋――虚子と同調者が完全なる同調を果たし、一つの存在として成る戦闘形態。
その現象が、必の前に脅威となって現れた。
重なった白滝と紫咲の姿を大量の血液が覆い隠す。淡い光と共に血の赤に塗れた二人は、次の瞬間には一つの存在と化してそこにいた。
全身を血の赤が巡る。まるで鎧のように血液が身体を覆い、大柄な騎士が姿を見せる。まるで歴戦を潜り抜け、返り血を浴びたかのようなその姿は、まさしく騎士と評するに相応しい出で立ちであった。
騎士が一歩、踏み出した。
その動きにあわせて全身を巡る血液の一部が、その集中に長大な血鎌を形作る。
「すまんな。虚子一人にやり過ぎとは思うが、自然現象すら起こし得る力は脅威だ。紫咲一人では手に余る」
合一を果たして肉体の主導権を握る白滝の声すら耳に入らず、必の頭の中で警鐘ががなり立てる。
戦うことなど考えられない。逃げなければ、とそう迷いなく判断し、必は身を翻す。
だが、その一挙動の合間に、白滝は必を攻撃圏内に捉えていた。相剋によってさらに上昇した身体能力でもって必の認識速度を超える速さで踏み込み、反応するよりも前に手にした血鎌を振るう。
気づけば、必の身体は宙を舞っていた。
咄嗟に警棒で防御できたのは奇跡に近いだろう。反射でもなんでもなく、たまたまそこにかち合っただけに過ぎない。
「くっ……」
助かった、などと悠長に考えている余裕は無い。吹き飛ばされた姿勢のまま、咄嗟に必は全開の爆発を起こす。
自身の視界すら覆いつくすほどの光によって敵の視界を奪いながら、爆風の衝撃で滅茶苦茶に吹き飛ぶ。もはや逃げ道を考慮している時間など無く、とにかく姿を隠すことで精いっぱいだ。
相剋状態の同調者とは、まともには戦えない。
それは先ほどの一撃からも一目瞭然であり、虚子や同調者の共通認識だ。
(要と早く合流しないと……!)
ゆえに必の思考はそのただ一つに尽きる。
先のようなダウンバーストが使えればその限りでは無いかもしれないが、準備するだけの余裕は与えてはくれないだろう。爆発は、紫咲単体でも軽々と避けられた。当たるとはとても思えない。
爆風によって廃墟の一つに叩き込まれた必は、痛む身体を無視して即座に立ち上がり、身を屈めて物陰に隠れる。今、自分がどこにいるかも分からない。だが、要は地下にいることは分かっている。地下鉄への入り口さえ分かれば、合流すること可能だ。
物陰から外の様子を眺め見る。
運の良いことに、必が落下したのは地下鉄入り口のすぐ近くだ。距離にして百メートルも無いだろう。問題は、必のいる場所から地下鉄入り口まで隠れられる場所が無いということ。
(あの人たちの姿は見えない。なんとか、走り抜けられるはず)
虚子の身体能力をもってすれば、百メートルなどものの数秒で踏破できる。
そこまで考えたところで、必が身を隠した物陰の背後の壁が吹き飛んだ。舞い散る瓦礫から身を庇いながら、必は確信と共に現れたそれを見る。
血塗れの騎士がそこにいる。
どうやってか、必の位置を特定したのだろう。そうでなければ、あの一瞬で正確に必が身を隠した場所に攻撃を加えられるはずが無い。
「君にはすでに血をつけている。わずかでも血液を付着させてさえいれば、俺たちはそれを追うことが出来る」
「親切だね。わざわざ力を教えてくれるなんて」
驚きをあらわにする必に対して、白滝は自身らの能力の一部を説明する。そのことに必が素直な感想を口にするが、白滝もただ親切で能力を教えたわけでは無いのだろう。
「逃げても追跡されると分かれば、無駄な抵抗もやめるかと思ってな」
大人しく投稿しろ、とそう白滝は言っているのだ。
相剋状態の身体能力と異能、血をもとに対象を追跡する力。確かに逃げたところで意味は無いのだろう。そもそもこうして捕捉された時点で逃げの手を打てる可能性は潰えた。速度で勝る相手にどうやって逃げるのか。先のような爆発が二度も通じるほど、必は楽観的には考えられなかった。
珍しく必の頬を冷や汗が伝う。感情のほとんどを欠落した彼女だが、生物本来の危機意識は十分に持ち合わせている。常に無い危機感に心臓が早鐘を打っている。
ここまで追い詰められたのは初めてだ。なんとか白滝の隙をうかがうが、彼の目は必の一挙動を見逃さず、異能の発動すら許してくれそうにない。
「やめておけ。これ以上の抵抗を止めるなら、こちらも君に手を出さないと約束しよう。紫咲などは君を力尽くで叩きのめして情報を聞き出そうとしていたようだが、俺の考えは違う」
白滝の声音は淡々としており、感情が読めない。真実を口にしているのかさえ、判断できない。
「いきなり襲ってきてそれを信じろっていうのは、ちょっと無理かな」
「だが抵抗したところで打つ手は無いだろう。暴れるだけ無意味だ」
時間を稼いで要が戻ってきて来ることを期待するか。必はそんなことを思いつくが、すぐにその考えは無駄だと割り切る。
仮に要が合流できたとしても、反撃の機会を与えてくれるほど甘い相手では無いだろう。接触する前にどちらかが切り捨てられる。
時間にして瞬きほどの逡巡の末、必は決心する。
白滝の言うとおり、これ以上の戦いは無意味だ。膝を折るしかない。
「理解してくれたか――ん?」
諦めた必の様子に気づき、白滝が血鎌を下したところで、その身体に巻き付いていた血液の一部が分離し、小さくデフォルメされた少女の顔を形作った。それはどこか、紫咲に似ている。
現れたその顔が、切迫した声を上げる。
「おい、一片がやばいで!」
「どうした?」
焦った様子の紫咲は、地下鉄の入り口の方を指さし、大声を上げる。
「あり得ない速度で移動してるんや! 普通やないぞ!」
「……っ⁉」
次の瞬間、疾風が必の横を通り過ぎて行った。
気づけば一人取り残された必は、把握しきれない事情にぽかんとした表情のまま、しばらくして自身が危機を脱したことを理解する。
事情は分からない。だが、何かあの二人にとって非常にまずい事態が起きたらしい。そのために必を放置し、そちらの方に向かっていったようだ。
「ひと、ひら?」
紫咲が呼んでいた名前を繰り返す。それが彼女たちにとって重要な意味を持つのだろうか。
疑問は頭を巡るが、長々と考えている暇はなかった。
先ほど、血で紫を象った少女が指さしていた方向を指さす。彼女は、地下鉄の方を指さしていなかったか。さらに言えば、白滝はそちらに向かって駆け出して行ったはずだ。
「かなめっ⁉」
大切な兄の危機を確信し、必も追いかけるように地下鉄の入り口に向かって駆け出した。




