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ステンドグラスから差し込む光が、銀髪美女の白いドレスを彩っている。僕は虹色に染まるベールの裾を握りしめ、ゆっくりと歩きだした。
魅了の魔力を有する『プラントリー一族』の母から生まれた僕『ルキルス・エボニー』は、薄灰色のベストとハーフパンツを着て新婦のベールボーイを務めていた。
母譲りのクルクルした白金色の髪に紺碧の瞳が、我ながらとてつもなく愛くるしい。
プラントリー一族は新婦を始め、子ども以外は皆、不織布のマスクを付けていた。
シミュレーション仮想空間の箱庭『シーコック』に神は存在しない。だからこの結婚式は人前式だ。
正面の壇上には、茶髪の新郎の横に樟の葉冠を被った大男が立っている。
前国王と女剣闘士との間に生まれた庶子であるこの大男が、証人の役割を担うらしい。彼は王弟ながら、御者として新婦の生家の宰相邸で働いていた。
王族は、プラントリー一族の魔力『魅了』が効かない。さらには魅了された者を正気に戻す『魔力の無効化』もできる。したがってこの大男にも、魅了に耐性がある。
証人として立つ彼は、鍛え上げられた分厚い胸板がボタンを引っ張り、黒い礼装がパツパツだ・・。また、葉冠を戴いた頭は肌色に剃り上げ、底知れない威厳を放っていた。
だが、その目は涙に濡れて真っ赤だった。
新婦の少女時代から御者を勤めていたせいか、新婦と腕を組む父親と同じくらい泣いている。
僕が歩いているバージンロードの左側では、銀髪集団のすすり泣きがひどかった。
右側に座る新郎関係者と後列の五大貴族達は、暗い雰囲気にのまれて表情を失っていた。
プラントリー一族は、ようやく晴れの日を迎えた宰相の娘『イコリス・プラントリー』の苦難の数々を知っている。
『イコリス』は幼い頃、王太子と訪れた収穫祭で異常魅了事故を起こした。
エラーだとしか思えない、第二次性徴前に発現した一度きりの魅了は、彼女を10年もの軟禁生活へ追いやった。努力を重ねフラーグ学院へ入学しても、異常魅了事故を恐れた現国王オウラ6世に退学を迫られた。
様々な厳しい制約を受け入れて育ってきたイコリスは、多感な時期には結婚を諦めていたのだ。
結束力が高く血縁を大事にするプラントリー一族は、イコリスのそんな日々を思い返しては泣いていた。
空気を裂くような鼻をかむ音が盛大に響いた・・一族の重鎮のひとり『ナザフォリス』だ。
湿ったハンカチで鼻水と涙を拭う、マスクを外したナザフォリスは・・しゃくれていた。
毎年、プラントリー忘年会でしゃくれ芸を繰り返したせいで、感情が昂ぶるとしゃくれてしまうらしい。
鼻をかむしゃくれたじいさんの隣では、イコリスの義弟『サイナス』が涙を堪えていた。
浅緑の瞳を潤ませるこの男は、『シミュレーション仮想空間・箱庭シーコックに転生した波梛胤煌』の転生体、僕の監視対象だ。
サイナスは、マスクを直すフリをして素早く涙を拭っているが、ハッキリ言って泣いているのはバレバレだ・・。
新婦関係者側に銀髪が並ぶ中に、ひときわ輝く金髪が紛れている。王太子『ファウスト』だ。
五大貴族が座る後列ではなく最前列の親族席に陣取り、新郎を物凄い形相で睨んでいる。
恋敵にイコリスを奪われたからではない・・。新郎は平民だ。魅了に耐性がない平民とプラントリーの婚姻がもたらす弊害を理解しているのか、と新郎に圧をかけているのだ。
・・礼装がパツパツの剃髪した大男・・感極まってしゃくれたじいさん・・泣いていないフリがバレバレの義弟・・かなり怖い顔の王太子・・。
マスクをしていない子どもの僕は、あまりにも異様で滑稽な結婚式を笑わないよう、必死に唇を噛んだ。・・僕が吹き出しても周囲を魅了する危険はないけれど・・。
式は厳かに進み、成婚の宣言や指輪の交換を滞りなく終えた。
肩の荷が下りた僕が安堵の息をもらしていると、新郎の姪が花びらの入った籠を手渡してきた。彼女の髪の色は亜麻色だ。平民の髪色は茶系なのだ・・乙女ゲームの主役でもない限りは・・。
僕と新郎の姪が、退場する新婚夫婦を先導する。
(お前らが笑わせにくるもんだから、我慢するのが大変だったぞっ)
二人の門出を祝う花びらを思い切り撒き散らすことで、僕は憂さを晴らした。
式後の結婚式二次会は名ばかりで、ほぼ宴会だった。しかも屋外で開かれる二次会は、魅了を有するプラントリー一族とその他に分かれている。騒々しさは二倍だ・・。
ちなみに植え込みの垣根の向こう側は、新郎と平民達、五大貴族だ。魔石に注ぐ魔力を有する五大貴族は、魅了に対し一時的な心酔は免れない。なので新郎側の二次会に参加していた。
プラントリー一族がマスクを外して歓談する席には魅了が効かないのを良いことに、またもや金髪の王太子ファウストが紛れこんでいた。
眉間の深い皺は消え、にこやかに一族が披露する楽器演奏や歌を、イコリスの横で眺めていた・・新郎みたいに・・。
(・・ラタタでも踊りゃあ良いのに・・。)
ファウストの父、現国王の十八番は、平民の舞踊曲『ラタタ』だった。上半身裸でムキムキの筋肉を晒し、曲に合わせてポージングするのだ・・。
細身で筋肉芸は無理でも、王太子がラタタを踊れば一族は大いに盛り上がるだろう。
「ルキルス、そこまでだ。」
僕が冷笑している内心をおくびにも出さず、お行儀良く座ってチョコ菓子をつまんでいると―サイナスに肩を掴まれた。




