序3
『わくわくwack×2フラーグ学院』のパッケージには、派手な髪色のイケメン達と、その中央で阿呆みたいに口を開けているピンク髪のヒロインが写っていた。
ヒロインは制服姿なのに、胸元にハート型の穴が空き、胸の谷間を覗かせている。それが阿呆っぽさを強調しているのだ。
周りのイケメン達も、よく見るとおかしい。頭頂部から真上へと伸びるアホ毛の眼鏡男、極太眉毛のもみあげが長い男・・四つ葉のクローバーが生えた棒を咥えた男もいる・・。お馬鹿ゲームに相応しい、愉快な攻略対象が勢揃いだ。
「「オブザーバー!オブザーバー!オブザーバー!」」
そんなお馬鹿乙女ゲームが映し出されたモニターを背に、僕は子ども達のオブザーバーコールを浴びていた。
・・助けを求めて長髭の老人に目をやると、サッと顔を逸らされた。
羞恥の絶望に襲われかけた刹那、突然、陰陽師のおじいさんが僕の左手首を掴んで持ち上げた。
「「おおー!オブザーバー!!オブザーバー!!」」
勝者のポーズを取らされ、いっそう声援が盛り上がる。
(余計なことをっ!くそじじい!)
陰陽師のじいさんを睨むと、オブザーバーコールの音頭を取った子どもが気付き、不安げに身を縮めた。
(・・ああ・・しょうがないな。)
僕が右手の親指を立ててやると、彼は破顔して
「イントァーディメショヌァル・オヴゾァーヴァーの土産話、待ってるぜっ!」
と、張り切って言った。・・やたら発音が良い・・。
もう、腹をくくるしかなかった。
「任せとけっ。未だかつてない珠玉の経験談を聞かせてやるよ。」
僕達は向かい合って、拳を握った手首をクロスさせた。
子ども達のコールが更に熱を帯びる。これで、退路は完全に断たれた。
モニター横の地球への白い扉が開く。
くそじじいと共に奥から溢れ出した眩い光へ踏み込んだが・・止まないオブザーバーコールに僕は振り返って、光に飲まれながらもできる限り、子ども達へ手を振り続けたのだった。
3次元の地球へ降りるのは三度目になるが、慣れることはなさそうだ。宇宙由来の僕には、次元降下がどうにも堪える。
魂を光速で駆け抜けるヒッグス粒子に耐えていると、重力に縛られる苦痛がふとやわらいだ。じいさんが僕の頭を撫でたのだ。
このじいさんもつくづく規格外だ。凄まじい霊力を僕に分け与えながら、平然と話しかけてくる・・。
「シーコックは争いのない平和な箱庭だ。楽しんでくれ。」
(・・僕には、やらなきゃいけないことがあるんだ。それに笑ってはいけない――)
*****
授乳を受け満腹で熟睡していたのに、周囲の騒がしさに目が覚めた。大勢の人の気配がする。
生後半年でようやく視力は発達してきたが、まだ時折、視界がぼんやりしてしまう。目を凝らすと、派手な髪色の大人達が寒空の下で並んでいた。
箱庭のキャラクターも人間と同じく、思考力や自我が確立するのは3歳ごろらしい。僕の意識はとぎれとぎれだ。
しかしながら、次元を跨ぐ際の忘却の法則は適用されておらず、長髭の老人から授けられた前情報や使命はクリアに思い出せる。
籠の中で毛布にくるまれた身体をくねらせていると、母親が僕を抱き上げた。いつものことだが、母親の顔が爆乳で遮られ見えなくなった。
爆乳で塞がれなかった空には、時計台の時計盤が間近に迫っていた。
・・どうやら僕は、城壁の上まで連れ出されているらしい。
脇から、浅緑の瞳が僕の顔を覗き込んだ。僕を見つめる美しい男は、母の銀髪よりも白みがかった銀髪だった。
シーコックで銀髪といえば、魅了の魔力を保持するプラントリー一族である。
僕の父親は平民なので白茶けた髪色だった。
赤・青、銀などの派手な髪色は、魔力を持つ貴族の証だ。一族ごとに髪色が異なり、その色に応じた魔力を受け継いでいる。一方、平民は魔力を持たず、髪色は茶系統なのだ。
プラントリー一族は微笑むだけで魅了の効果が発動するため、母も白銀髪の男もマスクを付けていた。
貴族が魔力を得るのは第二次性徴期なので、僕の髪はプラチナブロンドだが、まだ顔を覆う必要はない。
「!!」
僕は目を見開いた。
この世界の住人は、プログラムで動くキャラクターだ。
しかし、僕を覗き込んでいた美しい白銀髪の男が、生命エネルギーのオーラを漂わせたのだ。男の身体を光が囲み、放射状に揺らいでいる。
「あーう、あうあうっ。あうーっ。」
「ルーちゃん、もうお腹すいたんでちゅかー?」
男を指さして騒ぐ僕に、母親が優しく声をかける。
「あう!??」
すると、白銀髪の男のオーラが瞬く間に人型へと変った。
中年太りのおっさんの姿を象ったオーラが、男に重なったのだ。
間違いない。この男が僕の監視対象だ。




