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ルキルスの宿願  作者: 三川コタ
序章
2/5

序2

 

 僕を迎えに来たおじいさんが子ども達を圧倒するオーラを纏っていたので、ざわめきが拡がった。


「この霊体は、監視対象の祖父だ。裏組織の陰陽師を生業としていた。」

 長髭の老人が動揺する子ども達に、おじいさんの紹介を始めた。


「基板製造の工場に勤めていた監視対象は、量子コンピュータの制御基板に、故障を防ぐまじないのつもりで己の名を、かつて祖父から習った龍体文字で刻んだ。それが作用して交通事故に遭い、基板に魂が縛られてしまった――」

(無意識とはいえ、自ら基板に飛び込むとは・・なんて奴だ。)

 

「――既に霊体となっていた祖父はそんな監視対象のために、箱庭シーコックへ宰相キャラとなって顕現した。孫が転生体として安住出来るように、シーコックを明治時代相当まで近代化させたのだ。」


(・・よりにもよって、どうしてシーコックなんだ・・)

 僕は深い溜息をついた。


 さっき長髭の老人より僕へ送信された箱庭に関する資料映像には、量子コンピュータ利用を希望する人間達にAIが審査名目で作らせた、様々な『箱庭』があった。

 アニメや漫画を元ネタにした王道ファンタジーっぽい箱庭がたくさんある中、シーコックはかなり特殊で浮いていた・・。


 監視対象『波梛胤煌( はだ たねきら)』は、実に残念な男だ。

 陰陽道の家系の傍流に、強大な能力を持って生まれた『胤煌』は・・中学一年のある日、ファンタジーゲームの召喚士を真似て傘を振り回した結果、地球(ガイア)の意識体に逆召喚されてしまった。

 「ガイアが我の力を使えと、俺に囁いているぜ。」

 と、イキりながら召喚士を真似たようだが・・普通、そんなことで超越した大いなる意識体と出会えやしない。規格外なチートだ。

 なのに本人は、恐怖のあまり能力の封印を望んだ。・・もったいなさすぎる・・使いようはいくらでもあっただろう。


 しかも、能力を失ったにもかかわらず『胤煌』が行き着いた先は、ゲームを模した奇妙な箱庭シーコックだ。

 魔力が存在するその箱庭で、魅了を持つ一族のキャラクターになった『胤煌』は、「人前で笑ってはいけない」という・・変な制約を負わされていた。


 そして、同じ一族としてシーコックに生まれ落ちる僕も・・人前で笑ってはいけない・・。




「――『(なぎ)の最強』と名を轟かす、陰陽師だからこそ成せた離れ業である。」

 長髭の老人に輝かしく紹介されたおじいさんは、威張ることなく、いかにも好々爺といった様子でニコニコと笑った。 


「最強だって・・。」

「陰陽師、初めて見た。」

「二つ名があるんだ、カッケー。」


 子ども達の囁きに応え

「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前っっ」

と唱えながら、おじいさんが印を結んだ。続けて人差し指と中指を揃え、空に九字を切る。

 ここには払うべき魔はない。完全にデモンストレーションだ。


「おおー・・」

 感心した子ども達が声を上げる。でも、何人かは疑念を抱いたようだ。


「霊体が仮想空間に介入しただと・・。」

「箱庭を近代化って・・神様じゃなくても、そんなこと出来るんだ?」

「宰相キャラ?そもそも箱庭のシステムは―」


 それを耳にしたおじいさんがモニターへ手をかざした。

 画面に映し出されたのは、丸顔の中年女性だ。おじいさんが解説を始める。


「ゲームを雛形にして箱庭シーコックをデザインしたこの女性は、キャラクター達のステータスに箱庭内の時計に連動した星占い(ホロスコープ)を採用した。キャラクター10万人分の星占い(ホロスコープ)によって箱庭内に星の重力波がもたらされたので、儂は陰陽師の(しき)である星詠みを活用した。星の動きに合わせて社会現象を引き起こし、産業や農業の改革を促してやったのだ。」


(はあ・・だからシーコックだったのか・・。?!うげっっ!!)


 なんと、次にモニターへ映し出されたのは、

 ()()()()()『わくわくwack×2フラーグ学院』のパッケージだった。

 ・・シーコックの元ネタだ・・。


「エネルギー資源として設定されたゲームのガチャ石を、王族のスキル応用で儂が持続可能の――」


「!!『わくフラ』!?」

「お馬鹿ゲームで有名な乙女ゲームじゃんっ。」

「この乙女ゲーって、名物プロデューサーの出世作だよね。」

「オイルマネーをスポンサーにつけた、あのプロデューサーか!」

 『わくわくwack×2フラーグ学院』を知る子ども達が、モニターのパッケージを見て一斉にどよめいた。


 ・・せっかく長髭の老人が配慮して、声に出さずに僕の魂へこっそり資料を送信してくれていたのに・・おじいさんのせいで皆にバレてしまった。

 僕がこれから生まれ落ちる箱庭は『乙女ゲーム』だと。


 僕は恥ずかしくて、真っ赤になってしまった。

 そうすると、ずっと気の毒そうに僕を見ていた傍の子どもが、すっと立ち上がった。


「ゲームが何であれ、3Dのシミュレーション仮想空間へ、僕達の想像にも及ばない『未踏の領域』へ旅立つ君は・・えっと・・Interdimensional Observer~次元間の観測者~だっ!」

 カッコイイ肩書きをひねり出して叫んだ彼は、僕に向かってウインクすると、ぽかんとする子ども達を振り返った。


「さあ、みんな!次元間の観測者の勇気を称え、オブザーバーコールで送りだそうじゃないか!!オブザーバー、オブザーバー!はいっ!!」

「「オブザーバー、オブザーバー、オブザーバー!!」」


 子ども達の大合唱が響き渡る。音頭を取った彼が、満足げに親指を立てて僕へ頷く。


 転生する魂への声援など、聞いたことがない・・。逃場をなくした僕は、さらに顔を赤く染めた。

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