序2
僕を迎えに来たおじいさんが子ども達を圧倒するオーラを纏っていたので、ざわめきが拡がった。
「この霊体は、監視対象の祖父だ。裏組織の陰陽師を生業としていた。」
長髭の老人が動揺する子ども達に、おじいさんの紹介を始めた。
「基板製造の工場に勤めていた監視対象は、量子コンピュータの制御基板に、故障を防ぐまじないのつもりで己の名を、かつて祖父から習った龍体文字で刻んだ。それが作用して交通事故に遭い、基板に魂が縛られてしまった――」
(無意識とはいえ、自ら基板に飛び込むとは・・なんて奴だ。)
「――既に霊体となっていた祖父はそんな監視対象のために、箱庭シーコックへ宰相キャラとなって顕現した。孫が転生体として安住出来るように、シーコックを明治時代相当まで近代化させたのだ。」
(・・よりにもよって、どうしてシーコックなんだ・・)
僕は深い溜息をついた。
さっき長髭の老人より僕へ送信された箱庭に関する資料映像には、量子コンピュータ利用を希望する人間達にAIが審査名目で作らせた、様々な『箱庭』があった。
アニメや漫画を元ネタにした王道ファンタジーっぽい箱庭がたくさんある中、シーコックはかなり特殊で浮いていた・・。
監視対象『波梛胤煌』は、実に残念な男だ。
陰陽道の家系の傍流に、強大な能力を持って生まれた『胤煌』は・・中学一年のある日、ファンタジーゲームの召喚士を真似て傘を振り回した結果、地球の意識体に逆召喚されてしまった。
「ガイアが我の力を使えと、俺に囁いているぜ。」
と、イキりながら召喚士を真似たようだが・・普通、そんなことで超越した大いなる意識体と出会えやしない。規格外なチートだ。
なのに本人は、恐怖のあまり能力の封印を望んだ。・・もったいなさすぎる・・使いようはいくらでもあっただろう。
しかも、能力を失ったにもかかわらず『胤煌』が行き着いた先は、ゲームを模した奇妙な箱庭シーコックだ。
魔力が存在するその箱庭で、魅了を持つ一族のキャラクターになった『胤煌』は、「人前で笑ってはいけない」という・・変な制約を負わされていた。
そして、同じ一族としてシーコックに生まれ落ちる僕も・・人前で笑ってはいけない・・。
「――『梛の最強』と名を轟かす、陰陽師だからこそ成せた離れ業である。」
長髭の老人に輝かしく紹介されたおじいさんは、威張ることなく、いかにも好々爺といった様子でニコニコと笑った。
「最強だって・・。」
「陰陽師、初めて見た。」
「二つ名があるんだ、カッケー。」
子ども達の囁きに応え
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前っっ」
と唱えながら、おじいさんが印を結んだ。続けて人差し指と中指を揃え、空に九字を切る。
ここには払うべき魔はない。完全にデモンストレーションだ。
「おおー・・」
感心した子ども達が声を上げる。でも、何人かは疑念を抱いたようだ。
「霊体が仮想空間に介入しただと・・。」
「箱庭を近代化って・・神様じゃなくても、そんなこと出来るんだ?」
「宰相キャラ?そもそも箱庭のシステムは―」
それを耳にしたおじいさんがモニターへ手をかざした。
画面に映し出されたのは、丸顔の中年女性だ。おじいさんが解説を始める。
「ゲームを雛形にして箱庭シーコックをデザインしたこの女性は、キャラクター達のステータスに箱庭内の時計に連動した星占いを採用した。キャラクター10万人分の星占いによって箱庭内に星の重力波がもたらされたので、儂は陰陽師の識である星詠みを活用した。星の動きに合わせて社会現象を引き起こし、産業や農業の改革を促してやったのだ。」
(はあ・・だからシーコックだったのか・・。?!うげっっ!!)
なんと、次にモニターへ映し出されたのは、
乙女ゲーム『わくわくwack×2フラーグ学院』のパッケージだった。
・・シーコックの元ネタだ・・。
「エネルギー資源として設定されたゲームのガチャ石を、王族のスキル応用で儂が持続可能の――」
「!!『わくフラ』!?」
「お馬鹿ゲームで有名な乙女ゲームじゃんっ。」
「この乙女ゲーって、名物プロデューサーの出世作だよね。」
「オイルマネーをスポンサーにつけた、あのプロデューサーか!」
『わくわくwack×2フラーグ学院』を知る子ども達が、モニターのパッケージを見て一斉にどよめいた。
・・せっかく長髭の老人が配慮して、声に出さずに僕の魂へこっそり資料を送信してくれていたのに・・おじいさんのせいで皆にバレてしまった。
僕がこれから生まれ落ちる箱庭は『乙女ゲーム』だと。
僕は恥ずかしくて、真っ赤になってしまった。
そうすると、ずっと気の毒そうに僕を見ていた傍の子どもが、すっと立ち上がった。
「ゲームが何であれ、3Dのシミュレーション仮想空間へ、僕達の想像にも及ばない『未踏の領域』へ旅立つ君は・・えっと・・Interdimensional Observer~次元間の観測者~だっ!」
カッコイイ肩書きをひねり出して叫んだ彼は、僕に向かってウインクすると、ぽかんとする子ども達を振り返った。
「さあ、みんな!次元間の観測者の勇気を称え、オブザーバーコールで送りだそうじゃないか!!オブザーバー、オブザーバー!はいっ!!」
「「オブザーバー、オブザーバー、オブザーバー!!」」
子ども達の大合唱が響き渡る。音頭を取った彼が、満足げに親指を立てて僕へ頷く。
転生する魂への声援など、聞いたことがない・・。逃場をなくした僕は、さらに顔を赤く染めた。




