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山縣有朋は愛されたい  作者: 親交の日


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バルチック艦隊出航す

 






 ――――――




 沙河会戦は日本軍の勝利に終わった。満州軍総司令部ではこの戦いを分析し、三つの勝因を導いた。


 第一は右翼の梅沢支隊が見せた脅威的な粘り。何倍もの相手によく戦い、援軍の到着まで持ち堪えた。もし突破を許していれば、右翼から蹂躙されていた可能性がある。この戦いのMVPと言っても過言ではない。


 第二は左翼の第二軍が前線を迅速に突破したこと。特に秋山支隊の功績だ。騎兵の機動力を活かして後方に回り込み、敵に後退を強いた。梅沢支隊が守りで功績を上げたなら、秋山支隊は攻めで大きな功績を上げたといえる。


 第三は航空機。既に旅順要塞攻略には投入されていたが、本隊では拠点といえる場所がなかったために今回が初めての投入となった。野戦に限れば史上初。使用した機体が双発機だったので、スツーカを知る私からすると、近接航空支援としては不十分と評価するしかない。しかしインパクトとしては十分で、ロシア兵を恐慌状態に陥れた。


「第三については今後の期待はできんな」


「二度はないでしょうから……」


 負傷して置き去りにされたロシア兵捕虜もおり、彼らに航空攻撃についての印象を訊ねていた。多くは恐怖を感じたと答えたが、なかには恐怖はあったが克服したと言う者も。その経歴を訊ねると、前線に来るまでに空爆を受けたことがあるらしい。兵站爆撃に巻き込まれ、その存在は頭に入っていたとか。それを聞いて、二度目はさほどのインパクトはないだろうと結論した。旅順要塞も二度目からは心理的な効果より物質的な効果が大きい。


「空爆の真価を問われるのはこれからだな」


「春の攻勢でどれだけの成果が出るか。個人的には楽しみです」


 閣下の考える戦術は斬新ですからな、と川上。そんなに期待されても困るのだが……。まあ凡人なりにやってみようと思う。


「自分も楽しみです」


「東條くんもか……」


 参ってしまう。困り顔の私を見て幕僚たちは笑っていた。他人事だと思って楽しんでやがるなこいつら……。


「とはいえ、まずは閣下が予想されている冬季攻勢にどう対応するかです」


 東條が露骨に話題を変えた。私の恨みゲージの上昇を感じたのかと思いきや、その後に閣下の予測はよく当たりますから、と煽りを入れてくる。やっぱこいつ私のこと嫌いだろ。


「今回のように効果的な反撃ができればいいのだが……現実的に冬場の戦は難しいだろう」


 北海道や東北をはじめとした雪国出身であればまだ慣れているだろう。しかし雪が滅多に降らない南の地域の兵は環境に苦労する。移動だけならまだしも戦闘するというのはあまり現実的ではない。攻めてきたら応戦するが、こちらから攻めるのは困難だと判断した。


「防衛に専念するとなれば予備隊もほしいですな」


 田村の言葉に参謀たちが頷く。近衛師団の動員も決まり、本土の正規部隊はすべて出払う格好となった。予備役で構成される部隊番号三桁の旅団すら戦地に動員されて戦っている状態だ。


 満州軍本隊では第一〇一旅団が梅沢支隊の基幹部隊となっているが、本土から新たにいくつか送られてくることになっていた。これを予備隊に用いてはどうかとなったが、


「送られてくるのは一〇四、一〇六、一一一旅団ですか」


「いずれも南の兵ですね。せめて一〇九がいれば」


「東北部沿岸の砦だ。動かせんよ」


 日本周辺の制海権は日本が確保しているからないとは思うが、万一のために日本海側の兵力はなるべく残す方針だ。樺太に行った東北旅団の穴埋めは北陸の旅団が、北海道も留守旅団、山陰と北九州にも旅団が残り万が一に備える。


 一応、本国も兵員の不足は感じており、新たに四個師団を臨時編成する方針であるという。だがほとんど訓練が施されていないため、私は足手まといになると反対する。だいたいその装備をどこから調達してくるんだと。前線での消耗を補充するだけでも苦慮しているのにそんな余裕はない。


 結局、妥協案として小銃と国内でも作れる擲弾筒のみ持たせた警備旅団を組織。後方地域の警備に従事させることで決着をつける。基本、戦闘に参加しないことから小銃も旧式の村田銃だ。


 そして本隊では派遣されてくるのが南国の兵で構成される部隊ということで使えない認定された。あくまでも雪国の兵で構成された師団がほしいので、北海道の第七師団を予備隊として引き抜く。ついでに前線部隊の整理も行った。


 第六師団は予定通り第二軍へと復帰。第七師団を引き抜かれた第四軍には、第一軍に臨時編成されたままになっていた第二師団が復帰する。第一軍に対しては梅沢支隊に一〇四旅団を組み込み増強した。


 こうすると野津の第四軍が戦力を引き抜かれただけになるので、彼には一〇六旅団をつける。第二軍にも一一一旅団を回したが、こちらは事実上、秋山支隊を増強するためだ。右翼を強化したのだから左翼も増やすべきというのは建前。


 秋山支隊は沈担堡周辺を担任していた。第二軍が沙河の線まで前進したため、結果的にではあるが彼らだけで日本軍の左翼を構成する形になっている。


 防衛上、明らかな弱点であることはわかっているのだが、なにせ軍がいない。山地が多い第一軍から引き抜くという手段もなくはないが、奇跡的な奮闘を見せたものの満身創痍といった様子の梅沢支隊を見ればそんなことはとても言えなかった。


「手当をしたいのは山々ですがいかんせん兵が足りません」


 秋山支隊に一個旅団をつけたところで二個旅団ちょっとにしかならない。それで左翼を守れというのもなかなか無茶な話だ。とはいえ引き抜いた第七師団は貴重な予備戦力。いきなり左翼へ置いておくことはできない。総司令部は対応に苦慮した。そんなとき、


「――発想を変えよう」


 山縣は言った。


 どういうことかと東條が訊ねる。山縣はふと思い浮かんだアイデアを述べた。


「敵の攻撃に備えるだけの兵がない。だが、敵がどこから攻めてくるかわかればどうにかなるんじゃないか?」


「たしかに敵がどこに攻めてくるかわかれば対応はしやすいですが……」


 そんな簡単な相手ではないだろうと。実際その通りだ。沙河会戦では見事に奇襲を食らっているし。


「相手の立場になって考えてみるといい。諸君がクロパトキンだとして、今の日本軍の配置を見てどこが『弱い』と思う?」


「それはもちろん左翼の秋山支隊です」


「だろうな。そういうことだ」


「っ! まさか閣下、秋山支隊を囮に使おうとしているのですか?」


 川上がこちらを見る。そんなことしないよね? というような感情が見られた。


「囮といえば囮だな」


 しかし私はこれを肯定する。


「それはあまりに危険では?」


「仮に敵が攻めてくるものとして、その規模は万。梅沢支隊を攻めた際の戦訓を踏まえれば十万規模になることも考えられます。一万にも満たない秋山支隊に対応させるのは無茶です」


「それに秋山支隊は騎兵が主体となっています。秋山少将が以前から主張されている通り、騎兵は攻撃には優れますが防御には向きません。それは閣下もご存知だと思いますが……」


 川上、田村、東條が次々に否定的な意見を述べる。総スカン状態だ。


「待て待て。見捨てるわけではないぞ」


 援軍を送ることは大前提。あくまでも左翼を薄くして敵の攻撃を誘発することが狙いだ。しかし彼らは危険だと言い、最終的に秋山を呼んで判断してもらうことにした。


「――というわけだ。山縣閣下は賛成、我々参謀は反対の立場でな。しかし互いに譲らず、君の判断に委ねることとした」


 総司令部に顔を出した秋山に事情を説明。彼はそれをじっと聞いていた。


「そのお役目、お引き受けいたします」


 秋山の下した判断は諾だった。


「やってくれるか」


「はい」


「しかし秋山。千の兵でロシアの攻勢を防ぐのは至難の業だぞ?」


「参謀長の懸念はもっともですが、梅沢支隊の例もあります。防げる可能性は十分にあるかと」


「だがな――」


「それに、このお話を聞く前より自分は今の兵でどう守るかについて考えておりました」


 秋山は自らが考えた防衛策を話す。それは馬から降りて塹壕を掘り、そこで防衛するというものだった。冬季になると使い物にならない車載火砲も取り外し拠点に据えつけるという。その騎兵という概念に縛られない戦い方に驚かされた。


 そして彼はさらに我々を驚かせる。


「今の話を伺って考えたのですが――」


 秋山はとあるアイデアを披露する。大胆不敵というか、かなりのリスクを伴うものだったが、成功すれば大きな戦果が見込めるものだった。それから私は彼のアイデアに後世のとある戦術を重ねる。


「面白いな。それからこういうのはどうだろう?」


 その戦術からアイデアを引っ張ってきて開陳した。以後、秋山が中心となって作戦を練っていき、冬に予想される攻勢に備えるのだった。


 このように敵の攻撃とそれに合わせた反撃の機会を虎視眈々と狙うなか、海外から急報が入った。


 欧州からの電報で、十月十五日にバルト海のリバウ港からロシア第二太平洋艦隊が出航したというものだ。


「ついにか……」


 ロシア第二太平洋艦隊――通称バルチック艦隊の極東派遣は発表されていたが、それが遂に現実のものとなった。史実ではこれを知った海軍は大慌て。陸軍へ執拗に早期の旅順攻略(艦隊の殲滅)を依頼する。その声に押される形で第三軍は準備不足ながら総攻撃をする――というような流れになる。


 だが、現世では旅順艦隊の壊滅が確認されているので海軍は気楽なもの。ラスボスが近づいているぞ、と戦意を高め訓練にも熱が入っていた。


 そんなわけで第三軍も総攻撃を焦ることなく彼らのペースで決定できる立場にあった。次回の第二回総攻撃は十一月を予定しているらしい。今度は坑道戦術による要塞攻撃が試される予定で、今は将兵を動員して掘削を進めているそうだ。


「海軍の戦いぶりが楽しみですが、その前に我々がクロパトキンを撃ち破らねばなりません」


「そうだな」


 川上たち参謀と冬季の防衛計画、来春の攻撃計画を念入りに詰めていく。その傍ら、旅順における第三軍の戦いぶりを注視するのだった。










「面白かった」


「続きが気になる」


と思ったら、ブックマークをお願いします。


また、下の☆☆☆☆☆から、作品への評価もお願いいたします。面白ければ☆5つ、面白くなければ☆1つ。正直な感想で構いません。


何卒よろしくお願いいたします。




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― 新着の感想 ―
機動部隊による有名な防御というと「後手からの一撃」かな 沈旦堡の防衛は拠点防衛方式で陣地戦するとしていっそのこと遅滞戦闘しながら包囲させてアドミン・ボックス(円筒形陣地)に籠るとか…それは空輸がないか…
地味にここまで、日本側で戦没した主力艦が出ていないのかな? ここに弩級戦艦が1隻加わり、戦力がされるの? (速度が違うから艦隊行動取りづらそうだな。) 場合によっては、下瀬火薬が最大の敵になるかも?…
更新お疲れ様です。 秋山と主人公が考えた戦術は何かが楽しみです。 また今更ですが、個人的に永野修身は好きです。 旅順攻略戦での活躍を見ると副官を務めた吉田俊雄氏が「指揮官先頭で、創意と意欲の塊」と評し…
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