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12.○○専用お世話係、カガリちゃん(○○の中には好きな言葉を入れてください。もちろんエッチな一言でもOKです。)

さて、剣聖タニアが突如足元に縋りついてきたカガリを切り飛ばさなかったのは半分以上が偶然であったが、それなりにちゃんとした訳がある。


この半年の間、魔の森の探索についてくる二人の少年少女に切りつけないようにする不毛な努力を剣聖は続けてきたため、そのうちの一方が足元に飛び込んできた際に、ついいつもの癖で切るのを控えてしまったのである。


この半年の魔の森探索は剣聖タニアにとって、本当にフラストレーションの塊であった。剣聖タニアは移動中から常に剣を手に構え、魔物だろうが人だろうが木だろうが岩だろうが、邪魔なものは片っ端から切り飛ばして進む癖がある。この時、後ろを歩くヨースケには『女神の加護』があるためついでに切りかかっても当たらない。そこでこいつについてはさして気にする必要もないのだが、一緒になってついてくるカガリやケトラは気をつけないと剣戟の余波だけでもスパーンと容易く切れてしまうのだ。

だから剣聖なりに一生懸命気を使って二人の方へ剣が向かないように注意していたのだが、これが本当に嫌だったのだ。

裏でヨースケとマリーの話し合いがあり、交渉の結果ヨースケとの勝負の時間が大幅に増えたから仕方なく我慢しているが、本当はすぐにでもやめにしてもらいたいくらいだったのだ。


だが結果として、今こうして飛び込んできたカガリをつい癖で見逃してしまった事に繋がるのであった。


「ちっ!」小さく舌打ちした剣聖タニアは、改めてカガリをなます切りにしようと大太刀の鞘に手を掛けようとする。

だが、これを押しとどめたのがヨースケのリアクションであった。


「カガリたんっ!」とぽつりとつぶやいたヨースケが、飛び込んできた娘を驚きの表情で見下ろしている。

ヨースケにつられて娘を改めて見ると、膝上までのチュニック一枚だけを羽織り、むき出しの素足を重ねるようにして足元にしがみつき、すがるような表情で見上げる可愛らしい少女の姿がある。

タニアはもう一度ヨースケの方へ顔を上げて……。あっ! ヨースケこれめっちゃ欲情しとるやんっ!

次の瞬間タニアの脳裏にひらめくものがあり、彼女は思わずニチャリと気持ちの悪い三日月の笑みを浮かべた。


「ねぇ娘? お前今、『何でも好きな事をする』などと言ったわね?」タニアは逸る心を抑え、確認のための質問を口にする。

「……はいっ! 剣聖さまっ! カガリはどんなことでも致しますっ……! ですからっ!」

剣聖タニアは続けてヨースケに提案を持ち掛ける。

「ねぇ? ヨースケ。お前、この小娘を自分の好きなようにしたいと思わない?」

「思いますっ!」ヨースケは即答であった。とってもいい笑顔でニカッと笑っている。


そこからタニアとヨースケの謎の交渉が始まった。


「20刻っ!」「10刻っ!」「18刻っ!」「12刻っ!」


魔の森探索時も時折やっている謎の掛け合いに、当のタニアは首を傾げる。

どうやら今ヨースケと剣聖様のお二人は、タニアの処遇を巡ってとても大切な交渉をなさっているらしい。

最終的に16刻という、なんだかよく分からない価値の数字をもって、カガリは二人の間で落札された。4刻掛ける4日というよく分からない計算式が成り立つらしい。

村にいた頃に教会で最低限の四則演算を習った程度のカガリには理解が及ばぬ数字であった。


それから……。



一晩明け、目くるめく快楽の世界に足を踏みいれたカガリは腰砕けになった身体をお姉様にもたせ掛け、うっとりとした瞳で美しい人を見上げていた。


いやもちろん、カガリが尽くした相手は剣聖様ではなくヨースケの方であったのだが、それもこれも剣聖様の妙なる技の導きによるものであり、ぶっちゃけカガリは剣聖様の為に頑張ったら何故かヨースケが大喜びするというなんだかよく分からない半日であったのだ。


そんなカガリに対しヨースケが、「カガリたんってもしかして処女だった?」とか品のない事を聞いてきたが、カガリはノリで「はい」と答えておいた。実際にはケトラとの思い出したくもない一晩があるのだが、あんなものはノーカンです!

「よっしゃぁっ!!」と奇声を上げて喜ぶヨースケの様子を見ているうちに、カガリ自身もなんだか今日が初めてだった気がしてきた。

人生の初体験がこんなに気持ちのいいものだったなんてと、カガリはなんだかとっても得した気分になり、すっかり嬉しくなってきてしまう。


しあわせっ!


カガリはうっとりと剣聖様の肌に頬ずりをしたが、いけない! と我に返った。確かにカガリは何でもすると約束をし、結果この一晩は自分に出来うる限りの何でもを頑張ったつもりだが、その見返りをもらわねば身体の無駄払いとなってしまう。


「剣聖様っ! あ、それとヨースケさん。どうか私を荷物持ちとして雇ってくださいっ! お願いしますっ!」二人に向かって、地に頭をこすりつけんばかりにその場で平伏し、お願いをする。


剣聖タニアとヨースケは、二人してキョトンとした表情になり、互いに顔を見合わせた。



それから3日後、カガリは昔使っていた大きな背負い袋を担ぎ、息を切らせながら彼らの後をついていく。先頭には剣聖様がいて、そのすぐ後ろにはヨースケさん。さらにはマリーさんが新しく雇ったという可愛らしい女の子三人組、そして最後尾がヨースケさんと個別に約束したカガリという並び順であった。

しかし、大荷物を担いでいるのはカガリだけで、その分ちょっとづつ集団から遅れていってしまう。

女の子3人の嫌味っぽい声が聞こえてきて、それがカガリの胸に突き刺さる。


「えー? なにあの人ついてきてんのー? キモイんですけどー?」

「なんかぁー? 前任の人らしーよー?」

「えーっ? 首になったとかってマリーさん言ってなかったぁー? 勝手についてきて、いいんですかぁー?」

「なんか必死過ぎて受けるっ!」

「なんかキモーっ!」


カガリは反論する気力もなく、目の端に浮かんできた涙を拭うことも出来ずにとにかく懸命にみんなに追いつこうとする。

そんな状況に一石を投じたのがヨースケであった。ヨースケはわざわざカガリのそばまで戻ってきて、「カガリたん大丈夫?」などと、なんかちょっと気持ち悪い猫撫で声みたいなのとともにカガリの手を取ってくれたのだ。

「だ、大丈夫です。ちゃんとついていきますから。」カガリがヨースケさんにそう返し、その手を振りほどこうとした次の瞬間だった。

「あら?」と何やら思いついたそぶりの剣聖様が、カガリに対し何のタメもなくいきなり剣で襲い掛かってきた。


ぶおんっ!


ものすごい風切り音とともに白い斬撃が目の前を通り過ぎ、カガリの後ろに立ち並ぶ巨木の幹を削り取る! 次の瞬間、メキメキと音を立てて倒れてゆく樹齢何百年もの魔の森の大木。

カガリは剣聖からの突然の斬撃に、ちょっとおしっこをちびってしまった。

先ほどまで騒がしかった荷物持ちの3人娘も突然の惨劇に声もなく真っ青な顔で固まってしまっている。


そんな中、「えーどーしたの?」緊張感のないヨースケさんの声が場違いに鳴り響いた。

「ふふふ」と笑った剣聖様が続けて2撃、3撃とカガリへ剣を差し向ける。だがそのどれもが何故か、カガリに当たらず周囲にばかり剣跡を残した。

何度か試すように剣を振った剣聖様はやがて納得したように鞘へとそれを修めると、「どうやらヨースケの加護、手をつないだ相手にも適用されるみたいね。」と楽しそうにそう説明してくれた。

「あっ。」カガリとヨースケさんは、二人してお互い握り合った手を見つめた。


もともとヨースケさんの『女神の加護』は、彼が身に付けている服や、腰に掲げたヒノキの棒、手に持ったスリッパなどにも効果が波及しているのは周知の事実であった。

それがまさか、手を握ったカガリにまで及んでいるとは、ちょっとした驚きの発見であった。


それならばと試しに3人の女の子たちとヨースケさんが手を握ってみたが、これは残念ながら加護の対象外となった。

「えー? なんでだろ?」不思議がるヨースケさんに、「恐らくヨースケが自分のモノだと思っている持ち物にだけ効果があるんでしょうね。」と剣聖様が結論付けた。


なんてこった! カガリちゃんはどうやらヨースケの持ち物認定されてしまったのだった!


これを聞いてむしろ訳が分からないのは当のカガリである。

「どういう事でしょう?」と不思議がるカガリに対し、何やら理解した様子のお二人は、とてもいやらしい顔つきとなって3人の女の子たちににじり寄っていった。


「ねぇあなたたち? あなたたちもヨースケの持ち物にならない?」

「痛いのははじめだけだから! 先っちょだけだから!」


何やら下品な事を二人して口走っている。その様子から、カガリもなんとなく察してしまった。正直カガリとしてはどちらかというと剣聖様のモノになったつもりでいたのだが、どのみちきっと、どちらにしてもそれは同じことなのだろう。


さて、カガリがそんな事を考えているうちに、話は大きく進展していて、

「ヤダーっ!」「キモーっ!」などと捨て台詞にも似た一言を最後に、もと来た道を逃げるようにして駆けてゆく3人の少女たちの後ろ姿があった。


「やべーっ! まずかったかなーっ? マリーさんに怒られっかなー?」心配するヨースケさんに対し、「別に可能な限り相手しろとは言われたけれど、自分から逃げる子たちのその先までは面倒を見きれないわ。」と平然とした様子の剣聖様。


というわけで特に彼女たちを追いかけるわけでもなく、ヨースケさんご一行は3人で再び魔の森深奥部を目指すこととなった。

なおヨースケさんとカガリは引き続き手を握ったままである。「最初からこうしていればよかったじゃない!」と、何やら大喜びの剣聖様がぶんぶんと剣を振るって前を行く。明らかに今までより行軍速度も早まっていた。

どうでもいいけどどさくさに紛れてヨースケさんがしれっとカガリのおっぱいやお尻を触ってくるのがちょっとウザい。いや、カガリは今やヨースケさんの持ち物らしいので、我慢しろと言われればいくらでも我慢はするのだが。



その後の魔物退治はあっさりと片がついた。今日の首級はAランクモンスターの地竜。剣聖様がぱぱぱっとなます切りにして魔石を早々と取り出すと、後はカガリが図鑑片手にせっせこ見比べて、お金になりそうな部位をナイフで切り出してより分けてゆく。

今日のカガリは自前の背負い袋しかない。マジックバッグなんて便利アイテムがない以上、お金になりそうな場所だけを厳選して持ち帰らないといけないのだ。


心臓は一番高額な部位なので外せない。目玉はとても良い魔術触媒になるからくり抜かないと。鱗も何枚か剥がしたい。お肉は出来れば少しでも持って帰りたいけど、剣聖様が切り刻んだ際に内蔵に傷がついてしまったから、糞尿が少しでも混じってしまっていたら使い物にならない。ここは泣く泣く諦めよう。


あれこれ必死になって作業していると、剣聖様が声を掛けてくださった。

「お前? 前から気になっていたのだけれど、それは何をしているの?」

図鑑とにらめっこして選別をしているカガリの仕草を気にかけてのお声がけだった。


あたふたしながらもカガリが事情を説明すると、「ふうん?」といたずらっぽい笑みを浮かべた剣聖様が、その大太刀でパパッとその場で切り分けもしてくれた。

「お前の探していた肝臓とは恐らくこれではないの? それにこれ、図鑑にある精巣の部分ではないかしら? これも良い素材になるとその本には書いてあるわ。」

「剣聖様っ!」感激したカガリは思わず剣聖様に抱きついてしまった。

そうしたらヨースケさんが「なになにー?」と近づいてきて、いつの間にやら三人で作業を分担して解体、回収することになった。

剣聖様は図鑑を片手に的確かつ恐ろしい速度で次々に部位ごとに解体してくださる。

さらには「次からは必要部位を逆算して殺すようにしたほうがよいかもしれないわね。」などと、頼もしい一言までおっしゃってくださる。

ヨースケさんは見かけによらず丁寧な作業が得意で、生ものである内臓部分などをひとつづつ丁寧により分けて油紙で包んでくれたりと、思いのほか活躍してくれた。ちょいちょい作業の合間に太ももなどを撫でてくるのはイラっとしないでもないが、カガリはヨースケさんの持ち物なので諦めることにする。


思いのほかあっという間に作業も終わり、さあ帰ろうかという段になって、せっかくだから竜のお肉を食べてみいとヨースケさんが言い出した。

剣聖様は始めのうち渋い顔をしたものの、最低限の調理器具や調味料はリュックの中に持ち込んできていたカガリが「自分がなんとかします」というと興味を示して下さり、三人で焚火を囲って簡単な焼肉パーティをした。


ところで血抜きをしていない肉は不味くて食えないなどという人がいるけれど、これにはちゃんと訳がある。そもそも血や髄液といった栄養価の高い部分はもっとも早くに腐るので、すぐに痛んで不味くなるだけなのだ。実は、殺した直後の新鮮な生き血は動物の中でも最もおいしい部分だったりもする。

この地竜は剣聖様が生きたまま切り分けてしまったから血抜きのちの字も出来てはいなかったけれども、その場ですぐに食べてしまう分にはむしろ全然問題ない。

まあ、肉には熟成という過程があるから、数日放置してバクテリアによるアミノ酸の分解をさせた方が肉そのもののうま味は圧倒的に上がるのだが、殺した直後の死後硬直も始まっていない肉の味というのも、これはこれで味わい深いものなのである。

ただししっかりと時間をかけて中まで火を通すこと。あとはどうしても肉が固くなりがちなので、柔らかそうな部位を選んで食べること。

カガリは農村に暮らしていたころ、親戚の叔父さんが猟師をやっていて色々教えてもらっていたので、このあたりの知識や経験がある。色々仕込んでくれた叔父さんに感謝しつつ、三人で竜の肉を焼いて食べた。


竜の肉は、めちゃめちゃうまかった。


ただし竜の肉にはどうにもならない欠点があった。

なんか三人そろってムラムラしてしまい、そのままくんずほぐれつの男女プロレスに突入してしまったのである。

そういえば竜の肉には滋養強壮や精力増強の強い効果があるのだという事を、カガリはぼんやりと思い出していた。


そんなこんなも含めて、すごく楽しい探索だった。カガリはこの3人でこれからもずっと冒険がしたいなぁと、そんな欲求まで出てきてしまっていた。



すっかり日も暮れる中、大慌てで領都に帰る途中、なんか見たことある3人組の女の子たちの手足みたいのが散らばっている横を通過した。ゴブリンあたりに襲われ、犯され、そのまま殺されたのだと一目でわかるような惨状であった。

カガリは「あっ!」と声に出したが、「オレたち何にも見てませーん!」とヨースケさんが被せるように言ってきた。

「いいからとっとと先を急ぐわよ!」剣聖様もそう急かすので、カガリも二人に習って足早に現場脇を駆け抜けた。

それから数十分も駆け足で進むと、暗がりの中綺羅星のごとく街灯が瞬く領都全貌が目前に迫ってきた。


カガリは思った。もしヨースケさんが竜の肉を食べたいなどと言い出さなければ、そしてちょっとムラムラしたからってそのままエッチな遊びに突入しなければ、あるいは彼女たちを救うことも出来たのではないかと。


けれどもだからといって、カガリにいったい何が出来たのであろう。

今のカガリは剣聖様やヨースケさんの持ち物である。そのお二人がなさりたいようにするのを補助するのが、カガリの今の一番の使命である。

図らずも以前マリーさんが言っていたではないか。「クライアントの望みを叶えることを一番に考えなさい。」と。

そしてカガリの今のクライアントは剣聖様とヨースケさんのお二人なのである。そしてお二人のリクエストに従い、肉を焼き、エッチな行為に身体を差し出したのだ。

それでお二人が大変満足したのであれば、カガリのミッションはコンプリートされたのである。死んでしまった可哀想な三人組のことはカガリの対応できる範疇外なのである。


ただ一つだけ気がかりだったのは、彼女たちが持たされていたマジックバッグ・マジックポーチの類である。あれらは本来ギルドのもので、3人はレンタルとして借り受けていただけなので、持って帰らねば莫大な額の借金を背負うことになる。

ところで3人が死んでしまった場合は借金はどうなるのだろう? ちょっとそのあたりはカガリにはよく分からない。けれども、それだけ高価なものならせめてバッグだけでもカガリたちで持ち帰ってあげるべきだったのではないか? そうしないとギルドが大損をこいてしまうことになるのではないか? それだけが少しばかり心が痛むのだ。

あるいはどうせなら、カガリがこっそり持ち帰って、自分のものにしてしまうのでも……。


いけない、いけないっ! 


ここまで考えて、カガリはぶんぶんと首を横に振った。いくら死んだ冒険者の持ち物が拾ったもの勝ちで取得者の自由にできるといっても、カガリはそこまで悪い事をしてまで儲けようとはとても思えない。

なんやかんやいってカガリちゃんの属性はLOWなのである。

根が善人であるカガリちゃんは、少しでも邪な考えを持ってしまった自分を一人で責めるのであった。


なんにせよ、この一件でカガリは自分がほんの少しだけ大人になってしまったのだと、後になってそう思い返すことになるのであった。



さて、冒険者ギルドは城壁からほど近い場所にあるから、宿に帰る前に3人は必ずギルドの前を通過することになる。

第二冒険者ギルドはどんなに混んでても夕方5時には必ず閉まってしまう、超お役所ギルドなので、すっかり暗くなったこんな時間はとっくに明かりが消えているはずだが、どういう訳だが今日はホール内から煌々とした光が漏れ出ていた。


気になったカガリは、「少し様子を見に行きませんか?」とヨースケさん達に声を掛けた。というのもヨースケさんたちの持ち込む魔石はいくら放置ても悪くならないが、カガリが背負う地竜素材は生ものなので、早くに提出してしまわないと痛んでしまう事が気がかりだったのだ。

ヨースケさんは始め難色を示したが、その腕にカガリは両手を絡めてぴとっとおっぱいを押し付けてみたら「よしいこう!」と二つ返事で快諾してくれた。


……あれ? もしかしてこの人、チョロかったりする……?


カガリちゃんがヨースケの本性に気付きつつある瞬間であったが、まあこの話はとりあえず横に置こう。


closeの看板のかかったギルド内に足を踏み入れると、そこには仁王立ちのマリーさんと、主に鑑定や仕分けをメインの仕事にしている職員の皆様がたが勢ぞろいでして待ち構えていた。


「遅かったじゃないの!」開口一番、マリーさんの叱責の声が飛ぶ。

「えーっ? もしかしてオレらの事、待ってました?」と、相変わらずのんきな声のヨースケさん。

「当り前でしょ!」イライラした様子のマリーさんが間髪入れずに返事をする。


ギルド内に残っているのは裏方職員さんばかりである。受付担当の女性職員の皆様はマリーさんを除いて一人もいなかったから、もしかしてとカガリは思い当たった。

毎回、カガリとケトラが大量の部材を持ち帰った夜は、職員総出で仕分けをしていたと聞いている。

カガリはその様子をちらりと覗き見した事もあるのだが、まさに戦場といっていいほどのささくれだった状況に、当時のカガリは慌ててその場を後にしたものだ。

今この場に詰めているメンバーは、あの時の職員たちと同じ人たちのように見える。

つまりこの人たちは、ヨースケさんたちが持ち帰る大量の素材の仕分けのために、わざわざ残業してまで残ってくれていたのだということになる。

所で肝心の大量の素材についてだが……。


「なんですってぇーっ! 女の子たち3人とも死んでたですってぇーっ!」マリーさんの大声がギルド内に響き渡った。

「んーなんか、途中であの子たち逃げ出しちゃって。そしたらなんか、帰りの途中で3人とも死んでたんすよねぇー、あはは。」ヨースケさんが他人事のようにマリーさんへそう説明する。

「はあーっ!?」ブチ切れそうになるマリーさんの声。ぜーはーぜーはーと懸命になって息を整えてから、「そ、それで肝心の荷物はどうなったのかしら?」と作り笑いの猫撫で声でヨースケさん達に語り掛ける。

だがこれを剣聖様が言葉の剣でバッサリと切り捨てた。「知らないわ、そんなもの。」

「はああああっ!?」マリーさんがさらに甲高い声でブチ切れた。「知らないってどういうことですかっ! だってもともとの契約ではあの子たちも荷物も守るって……。その為に私はこの身体を差し出して……! あーんな事もこーんな事も頑張って……! もうお嫁にいけない身体になっちゃったのに……。

それが知らないって、どういうことですかぁっ!」

「だから知らないわ、そんな事。まさか向こうから勝手に逃げ出すなんて、さしものこの私でもどうしようもない状況だったわ。

だいたいマリー? お前の教育不足が問題でしょう?

途中で逃げないように教育するのはお前の役目ではなくて?」

「うっ……。それは……。……でもせめて、荷物だけでも持ち帰ってもらわなければ……。」

「それは契約にない話だわ。荷物持ちが死んだときに代わりにカバンを持って帰れだなんて、そんな話は一度でもした事あったかしら?

というかそもそも、何にも入っていない空のマジックバッグを持ち帰ってどうするつもりなのかしら? あの子たち、逃げ出したのは行きの途中だったのよ? 森を探せばまだバッグは残っているでしょうけど、どうせ中には何も入ってないわよ? それでもよければ明日にでも取りに行くといいわ。森の入口で殺されてたから、運が良ければまだ残っていることでしょう。」

「そ、そんな……!」すっかりしょげ返ったマリーさんが、がっくりと項垂れて肩を震わせ始めた。

それからハッとなって顔を上げ、ものすごい形相のままカガリの前に詰め寄ってきた。

「カガリちゃんっ! あなたの荷物を見せなさいっ! それなりに素材、集めてきたんでしょうっ! どうせ大したものでもないでしょうけど、いいからすぐにそれをよこしなさいっ!」

なんだか恐ろしいマリーさんの剣幕に、びっくりとなったカガリは思わず一歩後ずさった。

そんなカガリに更に詰め寄ろうとするマリーさん。恐怖に身の竦むカガリとの間に割って入ってくれたのは、なんと鑑定士のドルジさんであった。


「おいよせ! マリー! 正規の素材買取はオレたち鑑定班の買い取りコーナーの仕事だ。このお嬢ちゃんの買取はこっちでやるから、おめーは黙って見てるだけにしろ!」

「なっ!」顔を真っ赤にして口をパクパクさせていたマリーさんだったが、少しして考えを改めたのか、むすっと黙って一歩下がった。


カガリはドルジさんに手を引かれ、初めて訪れる買い取りコーナーに足を踏み入れた。

少し裏手の大きな解体場のそばにあるコーナーには、裏方職員の皆さまがぞろぞろと詰めかけて、みんなしてカガリの持ち込もうとしている地竜素材を今か今かと待ち構えている。


カガリは背負っていた大荷物を床に下し、ひとつづつ素材を机の上に並べてゆく。職員たちが我先にと素材に手を掛け、包みを開き「おおおっ!」と声を上げる。


「大したもんじゃねぇかよ! どの素材も適切に切り分けられていて、状態もすこぶるいい。惜しむらくは少しばかり劣化が始まっちまっている所だが、これくらいなら全然許容範囲内だ。お嬢ちゃん。よくやってくれたな。こんだけ奇麗なら相当な値段をつけてやれるぜ!」ドルジさんが嬉しそうにそう説明してくれる。

他の職員さんも口々に口を開く。


「最初からこうなってりゃぁこっちもスゲー楽なんだよぉっ!」

「うわーっ! オレたち今日、すぐに帰れんじゃね?」

「マリねぇさんは素材の扱いについてはよく分かってねーからなぁ。ちゃんとやるよう伝えてくれって言ってんのに、全然話通じてなかったぽかったしなぁ。」

「ありがてぇ。ありがてぇ!」


カガリはみんなのそんな言葉に訳もなくじいんとなってしまい、ついつい目頭が熱くなってしまうのを懸命にこらえた。


大勢の職員であっという間に仕分けが終わり、10分もかからないうちに清算のお時間となった。

手元に積まれた貨幣の数は、金貨52枚に銀貨16枚。

思わず「ほへぇっ!?」とヘンな声が出るカガリ。


「どうした、嬢ちゃん? 上物の地竜のオス素材。特に状態のいい部位があれだけ揃ってりゃあ、買取価格はあんなもんだぜ。強いて言うなら早めにちっこくてもいいからマジックバッグを買うことだな。その方が鮮度が落ちねぇからもう少し色付けてやれるぜ? マジックバッグを売ってる店については心当たりはあるか? 知らねぇならいい店紹介してやるぜ!」

ドルジさんがニカッと笑いながら色々教えてくれる。

カガリは夢見心地でフワフワした状態ながらも、とにかくドルジさんのアドバイスを一生懸命メモに書き写した。



ギルドホールに戻ってくると、マリーさんとヨースケさん達があれこれカウンター席でやっていた。

いつもの常設依頼である薬草の提出と、Fランクのお目こぼし、地竜の魔石の買い取り作業である。

なお薬草や魔石も買い取りに出すだけなら買取カウンターに持ち込むだけでよいのだが、依頼をこなしてランクポイントをもらうためには受付を通さねばならない。ていうかそれ以前にFランクのヨースケは買取カウンターを利用する権利がない。だから毎回受付席で提出するのである。

毎回毎回の薬草提出で、ヨースケのランクポイントは充分過ぎるほどに貯まっていたが、未だに布の服とヒノキの棒を固持しているヨースケはいつまでたってもFランクのままだ。それも含めて確信犯的に、今日もヨースケはマリーさんの前に薬草の束を並べるのだ。


そんなヨースケさん達とのいつものやり取りが一段落したところで、マリーさんがちょいちょいっと手を振るようにしてカガリの事を手招きしてきた。

正直、いまのカガリはマリーさんのことがちょっと苦手だ。いや、はっきり言ってちょっと嫌いだ。だから出来れば近寄りたくはなかったのだが、並んで座るヨースケさん達もいる手前、無視できる雰囲気もないのであきらめて招きに応じることにした。


カウンター前に並んで座ると、マリーさんが猫撫で声で話しかけてきた。

「カガリちゃぁーん? ねぇ? あなたまたヨースケたちの荷物持ちのクエストやらない? 今なら一人で稼ぎを総取り出来るからとってもお得よ? こっちで道具は全部用意してあげるんだからとっても簡単なお仕事でしょ? ね?」


カガリは困ってしまった。何故ならば、マリーさんを経由せねばヨースケさんたちとのお仕事を続けられないものなのかがよく分からなかったのだ。それでカガリが困った顔のまま剣聖様の方へ顔を向けると、剣聖様はさも楽しそうにコロコロと笑い出した。

「何を言っているの? マリー? この娘はもうヨースケの所有物なのよ? ヨースケが自由にできる持ち物なのだから、お前がどうこうできる謂れはないのよ? この娘に何かさせたければ、所有者であるヨースケに話をなさい。」

そしたらマリーさんが「は?」とすごくヘンな顔でヘンな声を出した。

それから剣聖様はカガリに向き直ってこう言葉を続ける。

「お前はこの私たちに対し、何でもするから雇えと言ったわね。今日のような働きを見せるのであれば、これからもずっとお前を雇ってあげるわ。お前は今日からヨースケの所有物です。」

「はいっ!」カガリはいい声で返事した。


これに大喜びしたのはヨースケである。「わーい! カガリたんがオレのものになったーっ!」と一人でバンザイ、大はしゃぎを始めた。

「バカやってないで帰るわよ。」ぴしゃりとたしなめる剣聖様の一声があり、カガリたちは三人揃って席を立ち、ギルドホールを後にした。



目を白黒させて唖然と状況を見守るしかないマリー。そんなマリーには一瞥もくれず、三人は彼女の目の前からあっという間にいなくなってしまった。

誰もいなくなった無人のギルドホールに向かって、マリーは一人大声を上げた。


「なんなの!? なんなの!? あいつらなんなの!? 人がせっかくあれこれしてあげてるのに、あいつらなんなの!? マジでなんなの!? なんなの!?」


だがそんなマリーをたしなめるものがあった。

「それぐらいにしておけ、マリー。」険のある顔で厳しい声を出す、鑑定士長のドルジであった。

「はあっ!?」怒りに任せて声を荒げるマリー。


そんなマリーを「バカ野郎っ!」と大声で一喝するドルジである。

「おめー今回の一件じゃ色々やりすぎだっ! そもそもあいつらから不当に搾取せずに最初から稼いだ分を正統に還元してやってればこうはならなかった! きちんと話し合って手取り足取り教えてやりゃあ、もっと効率よく儲けるやり方もあった! それをおめぇが目先の利益に欲がくらんで適当なことばっかするからおかしくなったんじゃねぇか! 反省しろ!!」

だがマリーはまだ不服があるのか、大声で反論を始めた。

「私はギルドのためを思ってやってるんです! とにかく少しでも多く儲けて! ギルドの質をもっと高めて! お貴族様との交渉にも予算を割いて! 腕のいい冒険者をもっと集めて! 全部全部、辺境のためを思ってやっているんです! なんでみんな分かってくれないんですか! 今は多少無理をしてでも頑張るときじゃないですか! どうしてそんなことも分からずに、私のことばっか悪者にするんですかっ!」


返すドルジの一言が痛烈だった。

「人が三人死んでんじゃねーか!」


マリーはびくりとなり、返す言葉もなく黙りこくった。


「おめーが今日、三人殺してんじゃねーか! 右も左も分からない新人3人を無理やり剣聖なんかにつけて、よくよく注意もせずに送り出したのはどこのどいつだよ! テメーが適当ぶっこいたから揉め事起こして逃げ出して! それで3人、死んでんじゃねーか! おめーが殺したようなもんだろ! 無垢の新人殺してまで達成すべき目標かよ! テメーの大儀ってのは、新人3人をドブに捨てるみたいな殺し方してでも目指すべき理想なのかよ!」


マリーは何も言い返せなかった。言い返せないまま、唇を強く噛み、ただただじっと黙りこくるしかなかった。


ドルジはそんなマリーに対し、少しばかり声のトーンを落として淡々と語り続ける。

「そりゃあ冒険者なんてのは水商売もいいところだ。いつおっちんじまうかも分からねえ、安い命のしょっぱい仕事だよ。

今日の3人娘にも至らねぇところがあったんだろうさ。冒険者の死は、冒険者自身の自己責任だ。

けどだからこそ、オレたちギルドの人間が率先してあいつらをなぶり殺すような依頼を投げちゃあだめだろうが! どう見てもおめぇにも責があるだろうが!


偉そうに辺境の平和を語るんだったら、まずは足元をしっかりしやがれ! ちったぁ反省してまともな策を考えやがれ!


分かったか!」


けれどもマリーは押し黙ったままだった。ずっと押し黙ったまま、ギリギリと奥歯を鳴らすようにして、じっと地面を睨み続けるばかりだった。


何の返事もないまま、無言の5分が二人の間を流れ、「クソッたれが!」の一言とともにドルジがその場を去った後も、誰もいなくなったギルドの中で、ただ一人マリーはじっと床の木目を睨みながら、いつまでも唇をかみしめ続けた。




ギルドホールを後にしたカガリは、「あっ!」と声を上げた。それから大慌てでドルジさんから受け取ったお金の袋を取り出して、これをヨースケに手渡した。

「これっ! 今日のぶんの稼ぎですっ! すごい金額になりましたっ! ヨースケさんたちのものですっ!」


だが受け取るヨースケの反応は鈍いものであった。

「ふーん?」と気のない返事とともに袋の中身を改めて、そのうちの金貨20枚を取り出すと「はいっ」とカガリに手渡した。


「えっ?」となるカガリに対し、「今日のカガリたんの取り分だよ? 受け取っておきなよ」と、さも平然とそんな事を口にするヨースケ。

状況が分からずにカガリが一人混乱する中、ヨースケは剣聖タニアと二人でゴニョゴニョ相談を始める。

「残りのお金、どうしよっか?」

「私は別に、要らないわ。」

「オレもまあ、なんかの時に使うとは思うけど、オレが持っててもすぐに無くしたり落としたりしそう。オレなんか、いっつもすぐに無くすんだよねー。」

「あなたそれ、多分スリにスられてるだけだと思うわ。けれどもそうね、今私たちが持ってても仕方のないお金ね。」

それからヨースケは残りのお金が入った袋もカガリの前に突き出した。


「このお金、とりあえずカガリたんが持っててよ。なんか入り用になったらこっちからカガリたんに相談しに行くからさ。

なにせカガリたんは今日からオレらのパーティメンバーなんだし!」ヨースケがニカッと笑った。

「そうね。それが一番よさそうね。お前は私たちの所有物なのだから、お金もお前が管理なさい。探索活動に必要なものがあったらそこから買うようにしなさい。報告は事後で構わないわ。よいわね?」剣聖タニアもにっこりと微笑んだ。


「えっ? えっ? えっ?」混乱するカガリを後に、二人はずんずんと先に進んでしまう。

しばし茫然と立ち竦むカガリであったが、我に返り慌てて二人の後を追いかけた。



こうして共感なき共犯者たちは4人に増えた。


カガリは一方的に剣聖タニアを盲目的に慕い、彼女のためにはどんなことでも引き受けようなどと健気な決意を胸に秘めていたが、タニアには一切伝わることはなかった。


それでも身を粉にしてヨースケ達に尽くすカガリを剣聖は可愛がり、ヨースケは大いに楽しみ、カガリは身勝手な幸せを一人で享受し、味わった。


また、マリーは今回の一件でしばらく調子を崩していたようではあったが、引き続き精力的に活動を進め、自らの身体を武器に高難易度のの依頼をいくつもヨースケたちの前に積み重ねた。



奇妙なバランスで噛み合ったこの4人は、辺境のあちこちの脅威を取り除き、代わりに手にした素晴らしい素材の数々をギルドにもたらし、地域の安定と発展に大いに寄与した。


世界が混沌の度合いを増す中、辺境だけはいつものごとくの大安吉日であった。



前章では悲劇のヒロインみたいな立ち位置だったマリーさんですが、今話では思いっきり加害者になっていてイヤーな女を演じてくれております。


この、『人はいつでも加害者にも被害者にもなり得る』という話は、作者が大変好むテーマでして、エロ小説の出来損ないみたいなこの作品から思いのほか作者垂涎のドラマを引き出せたことに、大きな喜びを覚えるものであります。


作者はエロい話が書きたかっただけのはずなのに、エロ以外の部分で筆が乗って止まらなくなるの、なんとも奇妙な気分になります。

はぁたまらん。

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― 新着の感想 ―
[一言] 分かってなかったー!? ドルジさんマトモすぎて辺境の聖人と化してる
[良い点] ヨースケを介して剣聖タニアが人間社会に絡めとられていく話、というか剣聖タニアがいなくては回らない社会が出来つつあるというか 被害者が加害者に、確かに素晴らしい ドルジさんの一喝いい仕事し…
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