洗礼・前編
テオは僕の寝台、いや、新しいベッドを見せてくれた。
それは木板の枠組みの上に、簡素な麦わら布団を乗せただけの代物だった。
「ここが君の場所だよ!」
彼は笑顔で指差しながら言った。
僕は数秒間、それを見つめたまま立ち尽くした。今までのような快適な生活が送れなくなることは分かっていた。覚悟していたつもりだ。
(でも、いくらなんでもこれは……僕、本当にここで寝るの?)
自分の包みを布団の上に置き、ゆっくりと身を横たえた。体重が麦わら布団に沈み込んだ途端、カビと古い木の強烈な匂いが鼻を突いた。
僕は思わず鼻をしかめた。
(……臭い)
少し姿勢を直そうとしたが、チュニック越しに何かがチクッと刺さった。
「痛っ!」
僕はビクッとして勢いよく飛び起きた。テオが微笑みながらすぐに近づいてきた。
「落ち着いて、普通だから!」
彼はベッドの前にしゃがみ込みながら言った。麦わら布団の上に手を滑らせ、あちこちを平らにならす。
「そのうち慣れるよ。そんなに悪くないって」
僕は何も答えられず、彼を見つめた。テオは僕がさっきまで座っていた場所で手を止め、手のひらで軽く何度か叩き始めた。
「こういう時は、こうするんだ」
(……どうしてこれが、世界で一番当たり前のことみたいに振る舞えるんだろう?)
僕は立ったまま彼を見つめた。彼は落ち着いていて、笑ってさえいた。だからこそ、余計に奇妙に思えた。彼は僕の方を向き、少し首を傾げた。
「君って……あんまり口数が多くない方なんだね?」
僕は彼の視線を避けようと、直されたばかりのベッドを、お尻で探るようにして腰を下ろした。
「えっと……ありがとう」
床を見つめたまま、僕は囁いた。
彼は腰に手を当てて、僕をじっと観察した。
「うん! 大丈夫そうだね。じゃあ、また後で」
言うが早いか、彼はきびすを返してドアの方へ向かった。
「あ、忘れてた!」
彼はすぐに僕の前に戻ってきた。
「後で他の奴らが来るから気をつけて。誰もいないと分かったら、場所を横取りされちゃうからね! それと、着替えがあるならその服を脱いで隠しておきなよ。じゃないと……まあ、そのうち分かるよ」
彼は微笑むと、すぐに僕を一人残して部屋を出て行った。
「えっ! まっ――」
(行っちゃった)
(後で他の奴らが来るって、どういう意味だろう?)
僕は混乱して辺りを見回した。確かにここには複数のベッドがあり、それは一つのことを意味していた。この宿舎は大勢で共有するものなのだ。
(待って)
僕はベッドから弾かれたように立ち上がった。テオが最後に言った言葉が頭をよぎった。
『誰もそこにいないと見たら、場所を横取りされちゃうからね』
「じゃあ、僕が今寝転がったこのベッドには、すでに誰かが寝ていたってこと?」
僕は囁いた。
その考えに吐き気がし、背筋に悪寒が走った。
だがその直後、ゾルタンの恐ろしい姿を思い出した。僕は目を閉じ、ぐっと堪えた。甘ったれている余裕なんてないのだ。
ためらいながらも、僕は再びそのベッドに座り直した。
テオの忠告通り、僕はすぐに着替えた。ヒルダが用意してくれた服を取り出し、今まで着ていた服を布で包んだ。そして、それをベッドの板の下に隠した。新しい服を着てみると、いつも着ていたものと比べて質がずっと悪く、おまけにサイズが大きすぎた。
包みの中には、かなり丈夫そうな革のベルトも入っていた。おそらくヒルダが、この大きすぎるチュニックを上手く調整できるようにと残してくれたものだろう。
だけど、おかげで動きやすくなったことにも気づいた。実際、その服はとても軽かったが、それが僕の不安をさらに煽ることになった。
冬はもうすぐそこまで来ている。
(どうしてヒルダは考えなかったんだろう? いや、これはもう僕の問題だ)
(何としても生き延びなきゃいけない)
僕は天井を見つめながら、ベッドに横たわった。すでに背中に少し違和感があった。かなり寝心地の悪い体勢だった。疲れてはいなかったが、頭の中を少し整理しようと目を閉じた。
震えながら、薄暗い宿舎の中で目を開けた。
(あれ……少し前まで昼間じゃなかったっけ?)
硬い麦わら布団のせいで筋肉は痛み、背中はバキバキになっていた。空気は重く、吐き気を催すような悪臭が立ち込めていた。暗闇の中、周囲から他の奴らのいびきが聞こえてきた。
僕は腕をさすりながら上体を起こした。辺りを見回し、息を呑んだ。
「プッ!」
横で押し殺したような笑い声が聞こえた。テオだった。
「よく眠れたって感じだね?」
僕は痛む首をさすった。
「どうやってこんなのに慣れたの?」
なるべく声を出さないように囁いた。
「最初の数日だけだよ。そのうち気にもならなくなる。信じてよ」
僕は横を向いて、他の奴らを見た。
向かいのベッドでは、顔の半分がひどく崩れた痩せこけた少年が眠っていた。少し離れたところでは、別の少年が胸の前で拳を握りしめ、身を丸めていた。
「じろじろ見るなよ」
「どうして?」
「あの傷のある奴? 借金返済のために、親が奴隷商人に売ろうとしてたんだ。もう一人は、両手を折られる寸前まで街の路地裏で盗みを働いてた。ゾルタン隊長が拾ってやらなきゃ、今頃とっくに死んでた連中さ」
その言葉は、傷跡のように僕の心に刻み込まれた。
僕はもう一度、周囲の少年たちを見た。彼らには皆、それぞれを際立たせる何かがあった。傷跡、怪我、僕が想像したいとも思わないほどの何かを見てきたような眼差し。
(それぞれに、一体何があったんだろう)
一瞬、僕と彼らは本当にそこまで違うのだろうか、と考えた。
その直後、中庭で角笛が爆発するように鳴り響き、その低い音が窓ガラスを震わせた。
大混乱だった。
僕はベッドから飛び降りたが、足の力が抜け、鈍い音を立てて床に倒れ込み、両膝を擦りむいた。
他の者たちが怯えたように一斉に飛び出していく中、感覚のなくなった指で靴の紐と格闘した。
「何やってんだ、早くしろ! 大目玉食らうぞ!」
「えっ!? ま、待ってよ」
テオたちの後を追い、他の奴らと一列になってどこかへ向かった。外はまだ夜明け前で、凍えるほど寒く、おまけに羽織るものは何も持っていなかった。僕は本能的に身をすくめ、何か羽織るものを用意しておけばよかったと後悔した。
「こっちだ」
二つの建物の間にある狭い通路を抜ける間、テオは一度も振り返らなかった。
数分後、僕は見たこともない広場に到着した。地面は砂利で覆われ、雨でまだ湿っていた。広場の端に沿って、麻袋、ロープ、丸太がいくつか並べられていた。少し離れたところには、板が積み重ねられ、低い障害物が一列に並んでいた。
僕は立ち止まってそれらを見つめた。
(ここは一体、何の場所なんだ……?)
一方、他の奴らはすでにすべてを知っているようだった。一言も発さずに定位置につき、あくびをしている者もいれば、この日課に慣れきっているかのように腕を伸ばしている者もいた。
僕はテオのそばに立っていた。少し後ろには、まだ誰とも話しているのを見たことがない二人の少年がいた。なぜか彼らのことが気になり、見つめ続けた。せめて挨拶くらいはしてみるべきかもしれない。
僕は少しだけ彼らの方を向いた。
(どう話しかければいいんだろう? まず挨拶からかな?)
「君たちはいつからここに――」
そのうちの一人が僕をちらりと見ると、数歩歩いて少し離れた場所に移動してしまった。
「あ……うん」
(聞こえなかったのかもしれない。また後で試してみよう)
横を向くと、広場の奥から重い足音が近づいてきて、ざわめきが一瞬で消え去った。
ゾルタンが広場に入ってきて、僕たちの前をゆっくりと通り過ぎた。急いでいる様子はなかった。それなのに、彼が進むにつれて全員が背筋を伸ばした。
「三周だ」
「はい!」
突然、全員が声を揃えて答え、走り出した。
(えっ!?)
「な、何を……すればいいの?」
テオに尋ねようとした。答えをくれそうなのは彼しかいなかったが、彼はもうそこにはいなかった。すでに僕の前を走っていたのだ。
動く前に、僕は一瞬ためらった。
(走らなきゃいけないの? みんなもう行っちゃったけど……)
テオが振り返って僕の方へ戻ってくると、腕を掴んで走りながら僕を引っ張り始めた。
「突っ立って何してんだよ? 動け!」
数歩引きずられた後、僕はようやくリズムを掴み、彼の横を走り続けた。
「い、いや……分からないんだ、何を――」
最初はペースを保つことができた。足元で砂利が鳴り、吐く息が白くなった 。寒さは次第に気にならなくなっていたが、その代わり足がどんどん重くなっていった。
二周目にはペースが落ち始め、その次の周にはまともに呼吸ができなくなっていた。
それでもスピードを上げようとしたが、無駄だった。ペースを上げるたびに脇腹の痛みが激しくなり、肺は空気を十分に吸い込めないようだった。
前を見た。
他の奴らはすでに走り終えて、元の列に戻っていた。中には息も切らしていない者さえいた。
僕はというと、足を引きずりながら到着し、膝に手をついて前のめりに倒れ込んだ。
(どうして平気なんだ……? 僕は……もう完全にボロボロなのに)
息を整えようとすればするほど、肺が焼けるように痛んだ。もちろんこんなことをするのは初めてだったが、これほどまでに差があるとは思ってもみなかった。
「背筋を伸ばせ、姫君!」
ゾルタンの声で、僕はすぐさま体を起こした。
「腕立て伏せ十回」
僕は他の奴らと一緒に身をかがめた。
一。
二。
三。
四回目の動作で、腕が震え始めた。もう一度体を押し上げようとしたが、持ち上がらなかった。
僕は砂利に手をついたまま、荒い息を吐き続けた。
周囲では、他の奴らが続けていた。
九。
十。
すぐに立ち上がる者もいたが、僕は力なく地面に這いつくばったままだった。
僕の少し後ろで足音が止まり、小声で話しているのが聞こえてきたが、内容ははっきりと聞き取れた。
「あいつが新入りか?」
低い声だった。
「ああ」
「おいおい……どれくらい持つと思う?」
「ゾルタンがぶっ壊すまでにか?」
短い笑い声。
「一週間?」
「持てばの話だがな」
僕は振り返らなかった。
(全部聞こえてるよ……)
その声。その視線。僕のことを知りもしないのに、ただ僕が他と違うというだけで値踏みするそのやり方。
(宮殿の時と同じだ)
僕は砂利に視線を落とした。
状況は違い、人も違い、僕への扱い方も同じではなかった。それなのに、僕が感じていることは何も変わっていなかった。
(結局、何も変わらないんだ)
シュタール・アイゼンハルトの宮殿にいようが、辛うじてスラムの小屋と呼べるような場所にいようが……。
(状況はいつも同じなんだ)
「立て。数秒休むくらいならいいけど、その体勢はだめだ」
テオの声が少し前から聞こえた。
僕は苦労して立ち上がった。彼はすでに次の訓練の準備を終えていた。
彼の視線はゾルタンに固定されたままだった。
その瞬間、彼が僕を気遣って声をかけてくれたわけではないのだと気づいた。もし僕がこのまま立ち止まっていれば、再び隊長の注意を引いてしまうからだ。
まもなく、ゾルタンが広場の端に置かれた袋を指さした。
「一人一つ。あそこまで行って戻ってこい」
僕はテオの後を追い、彼と同じようにしようとした。
近づき、両手で一つを掴んだ。持ち上げた瞬間、腕が悲鳴を上げた。
重い。想像していたよりもはるかに。
テオは自分の袋を肩に担ぎ、歩き始めた。
僕はできる限り彼の真似をしようとした。しかし数歩歩いただけで、袋が肩から滑り落ちそうになった。直そうとしたが、バランスを崩して立ち止まらざるを得なかった。他の奴らは問題なく進み続けていた。
(無理だ……)
僕は袋をきつく握り直し、一歩一歩再び歩き始めた。永遠とも思える時間を、ひたすら進み続けたが、肩はますます焼けつくように痛んだ。袋を握る指は痛み、粗い布地が首を擦った。
ついに地面に下ろせという命令が下った時、ほとんど一瞬で安堵感が広がった。
「やっと――」
僕は喘いだ。
まともに話すことすらできなかった。
少なくとも数分間は休めるだろうと思った。自分の体の重さを支えようと、近くの柵に寄りかかった。
「よし! これでようやく体が温まったな。走れ」
(嘘だろ、絶対に無理だ)
ゆっくりと顔を上げた。ゾルタンはすでに僕の方を向き、近づいてきていた。
拳を握りしめた。一瞬、彼を見た時、テストの時とほとんど同じ感覚を覚えた。
(でも、どうすればいい? もう足の感覚がないんだ)
生唾を飲み込んだ。テオが素早く合図を送ってくるのが見えた。
しかし、ゾルタンはすでに僕の目の前にいた。
(僕はただ……)
「お、お願――」
テオが即座に僕の背中に手を置き、無理やり頭を下げさせた。
「待って。何も言わないで」
「まっ――何するの?」
立ち上がろうとしながら、僕は囁いた。
「事態を悪化させたいの?」
僕は黙り込んだ。テオは僕に向かって少し身をかがめた。
「話しかけられたら答える。言われた通りにする。それだけだ」
「でも、僕は……」
「僕を信じて」
彼の真剣な眼差しを見て、今は質問している場合ではないのだと悟った。
僕はそっと目を上げた。
ゾルタンは黙って僕たちを観察していた。彼の視線は僕からテオへと移り、一瞬彼の上に留まった。
テオはさらに深く頭を下げた。
「隊長、彼はほんの少し時間が必要なだけです。私が走らせますので」
ゾルタンは数秒間、沈黙した。
「チッ。さっさと動け」
彼は鼻を鳴らすと踵を返し、広場の中央へと戻っていった。
僕は少しの間、動けずにいた。
テオが僕の背中を軽く押した。
「ほら。行くよ」
僕はゆっくりと立ち上がった。
「あれは一体……」
「説明は後。今は走って」
僕は彼について行った。
ゾルタンがなぜ見逃してくれたのかはまだ分からなかったが、一つだけはっきりしたことがあった。
テオは彼との接し方を心得ている。
そして、その瞬間において、僕がまだ面倒なことになっていない唯一の理由はおそらく彼だった。
(彼はいつからここにいるんだろう? 僕とそこまで歳も変わらないように見えるのに……)
「休憩前の、最後から二番目の訓練だ。ほら、動こう」
僕は深呼吸をして、残されたわずかな力を振り絞った。
減速することなく走り続け、まるで何百回も通ったかのように障害物を飛び越えていく者もいた。僕は何度もつまずき、地面に倒れそうになったが、止まることはできなかった。
(止まれるわけがない)
足元の地面が現実とは思えなくなるまで、僕たちは走り続けた。ある時点から、訓練の区別すらつかなくなっていた。ただゾルタンの声と、足音と、それでも動き続ける自分の体だけがあった。
ついに停止の命令が出た時、僕の膝は泥だらけで、手は震えていた。どれだけの時間が経ったのかすら分からなかった。それでも訓練は続いた。
走る。重い荷物を運ぶ。障害物を越える。その度に、僕は他の奴らがやっていることを真似ようとし、その度に、自分が彼らのレベルからどれほどかけ離れているかを思い知らされた。
ようやく顔を上げた時、朝の寒さはすっかり過ぎ去っていた。
太陽は、空高く眩しく輝いていた。




