君の番だ・前編
今はテオのことや、彼に何が起きたのかを考えている暇はなかった。僕の試合が始まろうとしている。できる限り集中しなければならない。 あれだけのものを見た後だ。もう何が起きても驚かないと思っていた。たぶん。
「おい! 『姫』、さっさと動け!」ゾルタンが大声で僕を呼んだ。地面にある木刀を一本拾い、広場の中央へと歩き始めた。
(ここで転んだら、膝が砕ける。気をつけないと)
僕は唾を飲み込んだ。木の感触を確かめると、記憶していたよりも重かった。この一ヶ月の間、いくつかの訓練で数回使っただけだ。
(正確には、どうやって持つんだったっけ……?)
僕はもう少し強く握り直し、ゾルタンの数少ない教えの中で、どうにか理解できたものを思い出そうとした。彼は『本当の戦い方』なんて一度も教えてくれなかった。ただ木刀の握り方や、自分と相手の間にどう置くか、どうやって身を守るかを見せただけだ。少なくとも、僕にはそう見えた。
(いや、でも、何か見ていたかもしれない……)
僕は手元の武器に視線を落とした。
(でも、本当にこれを誰かに対して使えるのか? いや……)
苦し紛れに唾を飲み込んだ。喉がカラカラだった。 心臓の鼓動が耳の奥で重く響き、こめかみまで脈打っていた。関節が真っ白になるほど、木刀のざらついた表面を指で強く握りしめた。
(十回の攻撃。あの忌まわしい十撃に耐えるだけでいいんだ)
ゾルタンの声を待ちながら、一瞬だけ目を閉じた。
(どうやっ……)
なぜか、あの日部屋で読んだ本が頭に浮かんだ。急所について書かれていた、あの黒い書物だ。僕はすぐに目を開けた。
(どうして今、あの黒い本なんかが思い浮かんだんだ?)
(こんな接近戦で、どうやってあれを有効に使えるっていうんだ?)
木刀を両手で握りしめ、訓練生の前に立った。 彼は歯をむき出しにして、ニヤリと笑った。
「おいゴミめ、泥だらけで汚えな!そんな格好で人前に出て恥ずかしくねえのか、あぁ?」僕は答えなかった。
「チッ! 黙ってても構わねえよ。どうせこんなもん、戦いと呼べるレベルにすらならねえんだからな!」
僕には使える魔力もないし、攻撃をまともに受け止められるほど鍛えられた体もない。 冷たい汗が一滴、首筋を伝い落ちるのを感じた。開始の笛が鳴るよりも早く、相手は木刀を振りかぶったまま僕に向かって飛びかかってきた。
(せめて、防がないと!)
目を閉じ、本能的にガードを上げると、奇跡的に木刀で相手の一撃をどうにか受け止めることができた。衝突の反動が手首から肘へと駆け上がり、焼け付くような痛みの衝撃へと変わった。木刀が激しく振動し、手のひらが完全に痺れてしまった。 皮膚の下で骨にヒビが入ったのではないかと、一瞬本気で恐れた。
(なんて力だ……いや、僕の体格が劣りすぎるだけなのか?)
一撃目を防ぎはしたが、息を整える暇すらなかった。 すでに二撃目が迫っていた。すぐに彼は笑い出し、わざと攻撃の手を緩めた。相手が目の端で、誰かの姿を探しているのに気がついた。
(僕を弄んでいるんだ)
「ロワン様もダリアン様もてめぇを見てるのに、俺のことは無視だ。このクソ野郎が! てめぇみたいなゴミが、なんであの方々の気を引けるんだよ!」鋭い一撃が僕の肋骨に叩き込まれた。
「ぐっ……!」
空気が喉の奥で詰まった。立て直す間もなく、木刀が僕の肩に激突し、体を大きくよろめかせた。杖代わりに木刀をついて、最後の最後でなんとか倒れずに持ちこたえた。
(あ、あと八回も……耐えられるのか!?)
(来る)
彼が左へ動くのを見て、僕はとっさにそちらへガードを振った。だが、それはただのフェイントだった。がら空きになった僕の腕を、四回目の打撃が直撃し、木刀が手から弾き飛ばされた。僕は歯を食いしばった。
「くそっ……」
「ほら、拾えよ! 誇りもなしに勝ったなんて言われたくねえからな」
わずかな動きしかしていないのに、まるで肺が炎に包まれているかのように息が苦しかった。 視界が少しぼやけていくのを感じた。
(自分がここまで酷い状態だなんて思わなかった……)
(あれだけ走り込みをしたんだから、もっと長く耐えられると思っていたのに)
「今ここであの方々に……てめぇがどれだけ弱えかを見せつけてやるよ!」
(黙れ。お前らはそれしか言えないのか?)
(弱い、弱い、弱い……)
彼は再び背後の新兵の列を振り返った。今度は、彼が誰を見ているのかはっきりと分かった。 ロワンとダリアンだ。震える自分の両手に視線を落とした。木刀を握り、あの打撃を受けたというだけで、手にできたタコがほとんど裂けてしまっていた。
「いいぞ。それがてめぇみたいな敗者の取る態度だ!」
(奴は僕を見くびっている。……これがチャンスになるかもしれない)
僕は深く息を吸い込んだ。彼の言葉が頭の中でブンブンと響き続けていたが、先ほどまで感じていた怒りはゆっくりと薄れ始めた。残ったのは、奇妙なほど空虚な感覚だけだった。
(考えろ。こんな状況で、僕に何ができる?)
「もし降参して土下座するなら、負ける屈辱くらいは免除してやるかもしれないぜ!」
どうすればいいのか、僕には分からなかった。




