2章-4
今回、時間かかりました。頭の中ではストーリーが出来上がってても、文章表現能力が低いのを痛感しております。そのせいか説明ぽくなってしまうジレンマに悩みましたが、何とか月一には必ずで、次回はなるべく早くを目標として頑張ります。
水無瀬と野々宮がこの麗しい男性Mr.レノックスことリチャード・ルイ・レノックスと初めて会ったのは4年くらい前になる。場所は、当時の野々宮グループのアメリカニューヨーク支社の入るビルで、取引関係の来客として来た数人の中の一人だった。
その時の野々宮はアメリカの大学を卒業して入社3年目になる頃だった。
水無瀬は日本の大学卒業後に海外留学を1年半ほどしてからの入社で、野々宮と高校までは同学年だったが、会社には1年遅れて入社している。この時、水無瀬は初めての海外出張という事で日本からニューヨークを訪れていた。
二人ともまだ総合職の一社員だったが、着実に実績を上げている最中だった。
ただ、野々宮はアメリカ勤務時には「桜井」という名字を使っていた。入社当時の野々宮の希望で、社長子息であることを数年は社内で伏せて置きたいと、父親である社長と相談し、母親の旧姓を使い名乗っていた。
その日、ビルの前に止まった車から降りてきたビジネスマン数人は、サングラスを外しながらビルのエントランスに入って来た。受付でアポイント済みを告げ、応接室に案内されるまでの来客一行は、フロアですれ違う人達、エレベーターに同乗する人などからの、うるさいほどの視線にさらされ続けた。
顔良し、スタイル良しに、クラシカルなスーツを身に纏ってのニューヨークビジネスマンという、あまりにも人目を引く一行だった。そのなかに居た、Mr.レノックスは20代中頃だった事もあり、若く美しく麗しい容姿で誰よりも周りからの視線を集めていた。
そんな一行を迎える野々宮グループ側は、担当者達が仕事先からの帰社が遅れると連絡があり、慌てた支社長が、その場に居た野々宮と水無瀬を連れだって対応する事にした。
もちろん、その時間に遅れるかもしれない事は前もって伝えて了承済みだったので、非があるわけでは無いが、時間にうるさいアメリカビジネスマンのイメージが強いのか、支社長の焦りに巻き込まれた感じがしないでもない二人だった。
もしかすると?支社長が20代の若く見映えがする野々宮と水無瀬に同席するように言ったのは、相手のニューヨークビジネスマンに対抗意識を持ったのかもしれない。
だが野々宮は入社以来のアメリカ勤務で、3ヶ月後には本社への転勤が決まっていた。
それで新規の業務を引き受けない様にしていたが、興味が無いわけでも無かった。
水無瀬は本来、日本とニューヨーク支社とのオンライン会議で済む話だったのが、客先のトラブルのせいで、乗りたくない飛行機に乗って来る羽目になった。
本来の仕事とは別に、その他ニューヨーク支社がらみの出張者が出来ると営業系・総務系の仕事を持たされる出張となる。それもようやく終わったので明日には帰る予定になっていた。
そんな二人を連れて支社長は応接室に入室し、挨拶と握手と名前を名乗る事から始まり、元々応対するはずの担当社員達の遅れを詫び、若い二人を同席させると断って、軽い世間話を始めた。
支社長の短い話が済んで、先方が本題に入る前置きの様な話を始めたところで、遅れていた本来の担当者達が間に合った。結果、人数が増えたこともあり窮屈になった応接室から、早々に野々宮と水無瀬は応接室を出る事となった。
Mr.レノックスとは、そんな短い時間だったが、野々宮も水無瀬も、その容姿には同性でも見惚れてしまうほどの印象は持ったが、挨拶程度で終わったので、今回の仕事の関係者となるまですっかり忘れていた。
水無瀬は前回会った20代の位のMr.レノックスの記憶から、変わらない容姿の麗しさに、年齢を重ねた魅力が増していると思った。だが、その麗しい男性が、なぜ御室瑠璃に絡んで居るのだろうと、水無瀬は不思議で仕方が無い。
知り合いだとしても、後ろから抱き付かれて、何か言い合ってるのはどんな知り合いだ?と水無瀬もどう対応したものかと悩んでいる。それに、このフロアにたまたま居合わせた人達が野次馬と化し、注目度が上がっていく中で、本来の目的である商談に移った時、この麗しの男との交渉事がやりにくくなるのではと考えていた。
今回のMr.レノックスとの商談案件は、アメリカでの野々宮グループの営業基盤を確実に大きくしていこうとする積極的な事業計画の目標の第一歩で、初回に各社の言い分を言葉にして打ち合わせするという予定となっている。
要は、商談の実務の内容をお互いが間違いよう摺り合わせて、それぞれの偉い人達が実際に会って本契約にするために、詳細を詰める作業をすると言う事である。今日はその一番初めての日だというわけである。
今日の経済会議に参加するMr.レノックス側の都合もあって、待ち合わせをこの場所にしたが、商談に取りかかるのは落ち合ってすぐ別の場所へ移動することを予定していた。
この華々しいセレモニーを行うタイプの会議の場合、ある種のスパイが居るとも言えるし、居無いとは断定出来ない。この会に集まってきた人は、人間関係の構築と言えば聞こえが良いが、実際は腹の探り合いの場だと、ほとんどの人が頭のどこかに置いて行動している。
それに、この場所で同業他社などに聞かれたくないのと、イコール周りに注目されたくないと、色々と秘匿案件を抱えているのだからと強く思う水無瀬だった。
4年前、数人で来たアメリカでの商談の話は、ある事業に参加しないかという誘いだったが、野々宮グループとしては参加しない判断をして、丁重に断っていた。
何人かで来たのは、その数人がそれぞれの事業分野のスペシャリストだったらしく、説明に長時間付き合って疲れたと、当時の担当者が話していたと水無瀬は記憶している。
しかし、今回は野々宮グループと関係のある重要な仲介者がいて、よっぽどの理由が無ければ止める事は出来ない案件となっていた。それで、どれほどの利益が見込めて、思い描く通りの条件が得られるかと言うのも、すべてこれからの話合いとなる。
悩める商談になるなぁと、今の水無瀬は後ろ向きな気持ちに覆われていた。
今回、当初の来日予定者から直前にMr.レノックスへ変更になった。
その名前から記憶を絞り出して思い出したのがアメリカで会ったMr.レノックスだったが、顔は覚えていてもほぼ初めての商談相手になる。
それに、4年前の事業勧誘してきた企業とはまったく違う企業にこのMr.レノックスは所属在籍しているので、アメリカの転職事情あるあると納得してしまった。
もちろん、その他出来る限り情報をかき集めたがニューヨーク支社頼みとなり、直前の変更で時間も無かったせいか、大雑把な報告書を送られてしまった。
Mr.レノックスの経歴は、英米語・仏語・独語等他の数カ国語が堪能でイギリスアメリカでの弁護士資格を持ち医師免許まで持っていると、ものすごくレベルが高い頭脳の持ち主のようだとが、それ以上の詳細は分からない。4年前のニューヨークの商談の事業勧誘の企業との関係も、よく分からないとなっていたし、アメリカでのビッグビジネスに関わって、いくつかまとめ上げているようだと噂されているらしいと、これもaboutなアメリカ支社からの情報だ。
そんな優秀なやり手を初めて相手にして、会社の重要案件事業を話し合うと言う事で、社内打ち合わせではどれだけのため息をついたやらだ。
社長もこんなややこしい案件をなぜ俺たちに振ったんだ、こんな情報しか送れないニューヨーク支社のテコ入れは絶対必要だとか、この案件を引き受ける絶対条件はニューヨーク支社の総入れ替えか、トレーニングプログラムのやり直しだとか言い出し、打ち合わせは毎回脱線の憂き目に遭った。
水無瀬は今のこの訳の分からない展開に、戸惑う自分をいかに落ち着けさせるかという状態を続けている。そして、今現在すでに憂慮すべき状況・状態?が目の前にあって、この後の展開もどうなるか全く見当もつかない。
水無瀬は隣に立っている野々宮にチラリと視線を向けてみた。
なんとも言えない野々宮の難しい表情が見て取れる。多分同じ事は考えているだろうと思った。
瑠璃を挟んで立つ関係者男性3人の身長はおおよそ180㎝台だが、そのなかでも190㎝近いのはMr.レノックスである。約30㎝の身長差で小さい瑠璃に後ろから抱き付いているせいで下向き加減なのに、なぜか目線はもっと上から見下ろしているかのように感じてしまう。美しい男の威圧は周りの野次馬のギャラリーにも感じさせているようだ。そのギャラリーは話声も少なく、ただ眉目秀麗な男性がどう動くのかと、期待を持って見ている人達が群がっていると言う図になっていた。
瑠璃はまたリチャードの腕から逃れようと思ったが、もう腕に力をが入らなかった。
そこへ、
「水無瀬部長」と呼びかける声がしたと思ったら、周りの人をかき分けるように一人の眼鏡をかけた若い男性が、息を荒げながらやって来た。やっと水無瀬を見つけたとばかりに近くまで来ると、隣に居る野々宮にも気が付き、
「野々宮部長もこちらでしたか」と呼吸を整えながらようやく辿り付けたという表情で、水無瀬の近くに立った。その若い男性は息を整えつつ、話しかけようとしたが、この場に漂う緊張感の強さを感じて、それが何から来ているのか野々宮と水無瀬の二人の視線の先を追った。
すると、見たことある顔にすぐ気付いたが、その男性が女性に抱き付いている?何が起きている?と
「何がどうなってるんですか?」と吐く息を飲み込むように水無瀬に言った。
その女性に抱き付いている様に見える金髪碧眼男性が、水無瀬の横に立った眼鏡男性に向かって
「Mr.相良、おそかったですねぇ」と朗らかな明るい声を掛けてきた。
その朗らかに感じる日本語のその声は、この場にあった張り詰めた空気感を一瞬にして解いてしまった。この美麗男性に、目を奪われていた周りを取り囲んでいた人達の緊張感までも緩ませていた。
Mr.相良と言われた男性は、相良 純といって野々宮グループの社員で、今回来日のMr.レノックスの日本滞在時の通訳兼世話係とする役目を担っていた。
相良は声をかけられたものの、この状況を見て、なんと答えたらいいのか分からないが、何か言わなくてはと絞り出した言葉が
「Mr.レノックス、遅くなり申し訳ありません」とまずは謝ってしまうしか無いと、相良は日本語で言ってしまったので、慌てて英語で言い直した。
それを聞いたリチャードは、抱き付いている瑠璃に向かって割と大きな声でゆっくりと、
「ねぇ、るりぃ、日本人はぁすぐに謝るのですねエ」と変な日本語のイントネーションで言った。
それに対して、瑠璃は何も答えなかったが、心の中では(何?周りにいる知らない人までも巻き込もうとしているの?)と思えてきて、心の叫びで(私を巻き込まないで~)と言いそうになった。
声に出さなかったのでホッとしたが、これでどんな反応が現れるか怖くなってきた。
そのせいか、一度解けたはずの緊張感がまた広がって来た。
Mr.レノックスの言葉は、周りを囲んでいる、ほとんどの日本人に向けた言葉と捉えられたようだ。
相良は、何と答えれば良かったのかと、自分で作ってしまった緊張感にあおられて、何か言おうとするが、言葉が出てこない。それに、この状態を見ただけでは、Mr.レノックスがなぜ女性を抱え込んでいるのかはわからないし、これ以上ヘタに何か言って彼の機嫌を損ねる訳にはいかないと、水無瀬の方を見る。
そんな相良の視線を受けた水無瀬は、ここで上手くMr.レノックスをビジネスに向き合う様に持って行ける対応を相良に期待したが、自分に続いて駄目だったかぁと思った。
相良は、Mr.レノックスが今日開催されているいくつかの学会会議に出席終了後、すぐに野々宮と水無瀬の所に案内をして合流する予定だった。ところが、Mr.レノックスから会議が終わりはしたが、知り合いと少々話があるからと言われ、相良は会議フロアの廊下で待機していた。
それから小1時間待ってもMr.レノックスが一向に現れないので気を揉み出したところに、ホテルマンからセレモニーフロアに移動したと伝言を受けた。伝言を聞いて慌てた相良は急いでセレモニーフロアに向かったが、入り口のところでセレモニー開始前から急に増えた人の多さに人を探す動きが取れなさそうと探すのを諦めた。それでどうしたものかと一人で悩んでも時間の無駄と判断し、野々宮と水無瀬に合流し指示を仰ごうと、待ち合わせのフロアに来たところで水無瀬を見つけたと言う次第だった。
そしてそこには、野々宮部長も居るし、Mr.レノックスも居るが、なぜか女性にくっついている。
確か、Mr.レノックスには待ち合わせのフロアの場所を伝えてはいなかったはずと、Mr.レノックスの行動に何か府に落ちないものがあると相良の気持ちに漂って来るものが出来た。なぜ自分に連絡無く移動していたのか、もしかして、Mr.レノックスが女性にくっついている?というこの女性と何か関連があるからなのかとも考え始めた。
それに、先ほどの謝りの言葉で気分を害したようなMr.レノックスには、どう話し掛けるのが正解だったのか、考えれば考えるほど答えは解らなくなっていた。これらの事が相良の頭の中をグルグル回っているが、この緊張状況をなんとかしなくてはと思っても、言葉は一向に出てこなかった。
水無瀬は、頼みの綱はもう野々宮しかいないと、この場をどうするかと小声で話かけようとした。
ところが、今まで動きの無かった野々宮が片手を伸ばして来て、水無瀬に制止するような仕草をした。
それから、野々宮が水無瀬と相良を置いて、唐突に瑠璃とMr.レノックスに向かって一歩踏み出していった。 ゆっくり一歩二歩と野々宮は瑠璃とリチャードに近寄って行った。
周りにいる野次馬気味の人達も急に動き出した野々宮に気付いて、やっと動きが始まったと野々宮に注目し出した。その野々宮の行動に、水無瀬と相良は何をする気だとばかりに、野次馬気味の人達と同調して注目するしか無かった。
瑠璃は周りの雰囲気の変化で、野々宮が一歩づつ近寄って来た事に気が付き、顎を引くのを止めて顔を上げた。その、瑠璃の動きがリチャードに伝わったようで、リチャードも澄ました顔で野々宮を注視していた。
野次馬と言える、周りを取り囲む人達も、静かな好奇心を野々宮の行動の一点に視線を集めてきた。
野々宮はゆっくりと二歩三歩と進み、リチャードと瑠璃の前まで来て、一旦立ち止まった。
こうして動き始める前までは眉間に皺を寄せた悩める顔つきになっていたが、今動き始めた野々宮は眉間の皺も取れて、目標を見据えたと言いたげな表情に変わっていた。
そうして近づいて行った野々宮は、何の用かなと言うような余裕の表情を見せるMr.レノックスに、強い視線を向けて、そして、少し大きめの声で
「この女性は、我が社の社員です。私は彼女の上司になります。あなたの先ほどからの彼女への振る舞いは、我が社の社員に対して、目に余る物があります」とリチャードに向かって言った。
野々宮の言葉は日本語だった。
Mr.レノックスに言うというよりも、周りの野次馬に向けて言っているようだと水無瀬は思った。
野々宮の言葉にMr.レノックスは、頭を振って言葉がわからないと言ったような顔つきをしてみせた。
そこに、野々宮がもう一歩グンと勢いよく瑠璃とリチャードに近づくと、リチャードは自分のパーソナルスペースに入られた感じがして、瑠璃を抱えたまま一歩後ろに下がろうとした。
そのせいで、同時にリチャードの瑠璃を引き付けていた腕の力が緩み、瑠璃の姿勢を抑え込んで居たリチャードの重心のかけ方も解けたようだった。
Mr.レノックスの重心が動いたと気付いた、その後の野々宮の動作は素早く、リチャードが瑠璃にかけていた圧力が消えたその一瞬の隙を逃さずスッと手を伸ばした。
野々宮の伸ばした手は、瑠璃の胸元にあったMr.レノックスの腕を払いのけ、瑠璃の腕をつかみ一気にリチャードから引き離した。
瑠璃は驚いたが、野々宮のその力に抵抗せずにされるがままになった。ようやく解放されたと嬉しく思う瑠璃だったが、一瞬の事だった。
勢い余って今度は野々宮の胸に受け止められていた。
登場人物はまだ増える予定です。




