2章-1
新章です。
登場人物はまだ増える予定です。
結局、御室瑠璃は救急車で病院に運ばれた。
救急車から処置用のベットの上に移される時には、瑠璃の意識は朦朧としていたが、医師の診察と血液検査などの結果で貧血と過労だろうと一旦様子見となった。
点滴を始めてしばらくすると、まだ気持ち悪さも残っていたが、意識がはっきりし出して、頭の中もクリアになって行く感じもしてきた。
会社の廊下で、グズグズしていた自分はなんだったのだろうと考えられるくらい、頭痛も消えていった。
点滴液が半分くらいに減った頃には意識もしっかり戻ってきたようなので、女性の看護師が担当医師を再度呼びに行ってくれた。
呼ばれた医師は瑠璃の様子を見て、貧血の症状もそれほひどくないから食生活に気を付けてと、今の点滴が終われば入院する事も無いから帰って良いと言ってくれた。
その後、救急の診察室から通常の処置室に移され、看護師も点滴が終わる頃に戻るわねと瑠璃に言い置いて一旦処置室を離れた。
時間は、午後1時を過ぎた位のようだったが、瑠璃以外他の患者は無く、一人だけで点滴が終わるのを待っていた。
(点滴すると、身体が冷や冷やするんだよね)と思いながら、病院にいる自分の現状経過を認識したところで大きく息を吐いた。
ため息のような深呼吸だったかもと思いながら、点滴している反対の手でお腹に掛けてあるタオルケットを触ってみた。
(この部屋に一人か、だから余計に寒く感じるかな)とタオルケットをを腹部から胸元まで、更に首元まで引き上げた。
(さて、この病院からどうやって帰ろうか、瑛兄様の今日の帰宅時間何時だったかなぁ、兄様より早く帰れれば今日の件はバレずに済むかも)と
どうしたら今回の事を内緒にできるかと考えていたら、(点滴液が残り少なくなって来てる、もうすぐ帰れる)と、ナースコールはどこかなとあたりを見回していた。
すると部屋の外、廊下の方から近づく複数の足音が聞こえたと思ったら、看護師と一緒にもう一人部屋に入って来たのがわかった。
この処置室もベット毎にカーテンが引かれる様になっているけれど、今は他に患者は居無いので瑠璃の場所は廊下から入って来た人には見えない様に片側だけカーテンが引かれていた。
(新しい患者さんがきたのかな?)位に思って看護師の動作の方を注目していた。
「もうそろそろ終わるかなぁ」と言いながら看護師は点滴の量を確認しようと瑠璃の寝ているベットの頭の位置近くにある点滴の機械とパソコン台の前に来た。
点滴も機械に接続されていて、終わりかけるとナースコールに自動で連絡が伝わるようになってはいる。
けれど、救急扱いで来た患者の様子の確認はやはり看護師の視認と確認が必須の様である。
看護師と一緒に来た人はカーテンのあるところに立っているようで、瑠璃からは見えないのと、早く帰りたい気持ちが勝って瑠璃は点滴が終わる事にだけに気持ちが持って行かれていた。
「付き添いの方、もう大丈夫ですよ」と看護師が声を上げると瑠璃にニコリと笑顔を向けた。
瑠璃が新しく入って来た患者だと思っていた方の一人は、瑠璃のベットの足下あたりで立ち止まっていたが看護師の声を聞いて、半分開いているカーテンから顔を覗かせた。
えっ付き添い?誰?と瑠璃は視線を看護師から自分の足下の方に顔を向けると。
その人の顔を見て、一度顔をそらし、また、顔を戻すと瑠璃は自分の表情が固まったのが判った。
(野々宮マー君がなぜここに?)という言葉が瑠璃の頭の中に浮かんでいたが、口から出た言葉は
「野々宮部長が?」と乾いた声が出た。
野々宮の格好はワイシャツにネクタイにスラックスで、午前中に碧と一緒に会社の廊下に助けに来てくれた格好と同じだった。
野々宮は、寝ている瑠璃の足下に立っていたが、もう一段階近づいて、
「その顔色なら、もう大丈夫そうだな、医師からも帰っていいと聞いた」と言った野々宮のほっとした表情に安心と明るさかが射した。
「わ私、気を失った?でしたっけ」と瑠璃は急に緊張し出した。
「ははい、す、済みません、いえご面倒をおかけしました」と人に迷惑をかけてしまったという気持ちの割合も大きくなる。
これ以上何を言えば良いのかと考えている横で、野々宮と一緒に来た看護師が瑠璃の点滴の針を抜こうと声を掛けてきた。
「はい、点滴終わりますね、針抜きますよ」と言って針を抜いた後の処置をしながら、
「じゃあ、ゆっくり、上半身を起こしてみましょうか」と。
瑠璃は返事をするとゆっくりと上半身を起こしてから、身体の向きを変えて足を下ろしベットに越し掛ける姿勢を取った。
ここまでは、看護師も野々宮も瑠璃は無事回復したようだと見守っていた。
瑠璃自身、貧血からの回復は立ち上がれるかにかかっているのは言うまでも無いと、起立性めまいを気を付けようと足を床のスリッパに伸ばした。
ゆっくり立ち上がろうとしたが、寝ている時に腹部にかけられていたタオルケットが床に落ちたのに気が行ってしまい変に手を伸ばしてしまった。
それで、急な体重移動になって、立ち上がろうとした膝に力が入らず、床に膝から落ちそうになった。
「危ない!」と瞬時に手を差し伸べて瑠璃の身体抱き留めたのは野々宮部長。
「あらああ」と驚いた看護師の声。
「慌てなくて良いから、大丈夫か?」と言う野々宮部長の声が頭のすぐ横から聞こえてる不思議な感じと、自分が誰かの腕にしがみついている事はわかった。
膝も床に着くこと無く済んでホッとはしたが、野々宮に半抱きされてることに気が付いて一気に緊張レベルが上がった。
(何やってるの私~この体勢恥ずかしい~)と瑠璃の心の声。
顔から野々宮の胸に突っ込んだ姿勢のまま抱き留められてて、顔があげれないと下を向いたまま、
「済みません済みません」と言うしかない瑠璃。
野々宮部長は瑠璃を一度ベットに座らせて、落ちたタオルケットも拾い上げた。
優しく、ゆっくりと。
「碧みたいだな」と思いついた様に言った半笑いの野々宮部長。
ドキリとする瑠璃。
「ぁあお君ですか、小学生並みと言うことでしょうか?」と恥ずかしさが引かない瑠璃。
「大丈夫?急に動いては駄目よ、めまいとか気分悪いとかは?」ベットの上に座った瑠璃にほっとした看護師が言った。
「膝に力が入らなかったんです、あぁ気分の悪いとか無いです、大丈夫です」と看護師に向いて瑠璃が返事をした。
「ふふふ顔が赤いけど、今のアクシデントのせいよね」と看護師がニコリとする。
(ムムム、この看護師さんにからかわれてる)と余計に赤くなって、下を向く瑠璃。
「大丈夫そうね、じゃもう一度、落ち着いてゆっくりとね」と看護師は真顔になった。
再度、瑠璃は立ち上がろうとして、ゆっくり体重を移動させると、膝も力が抜けること無く立ち上がり、3人とも同時にホッとしたのがわかった。
その後、看護師に一旦座ってと言われ、今受付が混雑もしてるのもあるけど、もう10分位座ったあと受付の精算窓口へに行くようにと、番号札を野々宮に渡して看護師は病室を後にした。
すると、この病室と言うよりは処置室のいくつかあるベットには誰も居無いので野々宮と瑠璃の二人きりとなった。
それで看護師がいなくなるとすぐに、野々宮部長は向かい側のベットに腰を掛けると瑠璃に話しかけた。
「会社の廊下に居た時から比べると確かに回復したようだな」
「はい、色々ご迷惑をお掛けしたようで」と恐縮する瑠璃。
「今から君を副嶋医師のところに連れて行く事になったから」
「へぇ?いえいえもう、大丈夫ですから、一人で帰れますし」
「大丈夫といいながら意識を失ったのは君だが」
「えぇ?そうでしたっけ」何気にとぼけて、何処に視線を向けて良いやらの瑠璃。
「そ、そういえば碧君は?」と話題を変えようとすると、
「碧は、母親が迎えに来たのでそのまま帰らせた」
「そうですか、私がお礼を言っていたと伝えていただけますか?」
「ああ、伝えるよ、ではもう立てるか?君の所持品もここに」と野々宮部長はベット脇にあった籠に指をさしつつ、瑠璃がまた転ばないかを用心している様だった。
「ありがとうございます」と言って瑠璃はベットからしっかり立ち上がった。
気分は悪く無く、もう、めまいも気持ち悪さも頭痛も無かった。
「じゃ、受付に寄ってから車を拾おう」と野々宮が言うと、瑠璃は自分のバッグを持ちスリッパから靴をはき直して、ゆっくり歩きだした。
座っている分には気にならないが、立ち上がって歩き出すと、身体に怠さがあるなあと思った。
横に野々宮部長がいるから緊張感あって、(今のところ眠気は無いけど、気が抜けたら・・・一晩眠れば治るかな・・・)。
受付で支払い等を済ませ、タクシーを拾うべく病院の玄関の車寄せに歩いてきた。
「本当に一人で行けるので、お忙しいのに付き合わせては申し訳ないので」と瑠璃が言うと。
「いや、倒れた君を病院に送り込んで処置してもらってる間に、水無瀬経由で副嶋医師と連絡がついたんだが、俺に連れてこいって指示がね」
(そうだった、野々宮部長は水無瀬部長を通じて、副嶋先生と旧知の仲だったぁぁぁ)
この話になった途端、不機嫌そうに見える野々宮部長の対応をどうしたらいいかわからなくなってきた瑠璃だった。
でも、体調不良を起こした瑠璃に歩く歩調を会わせてくれていたり、病院内の混雑している人とのすれ違いに気を配ってくれているのが解って、優しい人なのかもと思った。
(ベットから落ちかけて、抱えて助けてもらったのも野々宮部長だったし)
野々宮も今の瑠璃の様子を気にしながら、
「今日は急ぎの仕事も無かったし、副嶋医師には別件で用事もあったから君が気にするようなことは無い」と言った。
野々宮の瑛兄様とも水無瀬部長とも違う優しさに気が付いた瑠璃だったが、副嶋クリニックに着くまで口から出る言葉は、緊張感が解けないまま
「スミマセン、すみません」と言うだけだった。
そうしている内に副嶋クリニックに着き、午後休診日ではあったが二人が来る事の連絡が行き届いていたからか、玄関の鍵はかかって無くて、スムーズにクリニック内に入っていけた。
入ってすぐに瑠璃が受け付け越しに
「先生~瑠璃です」と声を掛けた。
見知ったところに来て、ようやく瑠璃の緊張感はほどけて来た。
するとすぐに返事の声がして、診察室の戸が開き副嶋医師が出てくると、野々宮に向かって、
「おう、野々宮、ご苦労さん」と言われた野々宮は軽い会釈でご無沙汰してますと返事をしたが、声を掛けた副嶋はすぐに瑠璃の顔を見た。
「んん、顔色は良さげには見えるがぁ、先輩にも連絡ついてるからな、後でここに迎えに来るって事になったからカウンセリングのソファでゆっくりしてろ」
「え、兄様迎えに来てくれるんだ、でも先生もう大丈夫だと思うわ」
「何言ってる、救急車で運ばれたんだ、一人で家に返して倒れられてたら、たまったもんじゃない、眠そうな顔してるしな」
と言われた瑠璃はちょっとつまらなさそうな返事を副嶋医師にしたが、緊張感が抜けると同時に野々宮部長が居た事を忘れていた。
じゃあ、副嶋医師に言われた通りにしようかと身体の向きを変えた途端、野々宮部長の存在を忘れていた事に気が付いた。
(副嶋先生と話しをすると、素に戻っちゃう、でも、野々宮部長居るの忘れる?自分)と瑠璃の背中が冷やっとしてきた。
瑠璃は急に緊張が戻ってくると、身体の向きを力一杯戻して、慌てて野々宮の方に向いた。
「野々宮部長、今日は大変お世話とご迷惑をおかけしました、退職日がまだ先ですので改めてご挨拶に、水無瀬部長代理のところにも伺います」と背中に冷や汗を感じながら言った。
立ったままで副嶋医師と瑠璃のやりとりを黙って見ていた野々宮部長は、表情は変わら無かったが、
「今、俺の存在を忘れてただろう」と言って急にニヤリと笑った。
「わかった、水無瀬にも伝えておくからゆっくり休んでくれ」と目が笑ったまま、野々宮が返事をした。
「ぁハハハハ、では野々宮部長今日はこれで失礼します」と瑠璃は愛想笑いを浮かべながら、副嶋の方を向いた。
「では先生、カウンセリングルームをお借りします」と身体をギクシャクさせながら瑠璃は診察室の隣にある部屋に行きかけた。
「おう、真之、ひさしぶりだな、調子はどうだ?」と副嶋医師もニヤニヤしながら、野々宮との会話を始めていた。
瑠璃に向いていた野々宮もすぐに副嶋の方に向き直って話しが始まった。
二人から離れ、カウンセリングルームに入りかけた瑠璃がそのやりとりを聞いて、一瞬、ひらめいた表情をした。
続けざまに
「碧の件ではお世話になってます、で午前中のは・・・」と野々宮が副嶋に返した会話のところまで瑠璃の耳に届いた。
(マー君ね、真之でマー君だったのね、へ?碧君も副嶋先生が診てるの?)瑠璃は碧の顔を思い出していた。
会社の廊下に居た時の最後の問いの答えがわかったところで、瑠璃は何年も通っている病院の様子を知り尽くしているので、この心療内科の診察室の一つであるカウンセリングルームに入っていった。
この部屋は患者とのカウンセリングをするための部屋で、防音度が高目に設定してあり、患者の緊張を取るために居心地の良いしつらいにしてある。
その部屋に仮眠出来る大きなソファが置いてある。
病院の診療時間外に、副嶋医師やここの従業員達が仮眠などに利用出来る様にもなっていて、瑠璃は椅子の横に置いてある大判のタオルを取り出しそのソファに腰掛けた途端大あくびをした。
待合室の方では、副嶋医師と野々宮戸の会話が続いているような雰囲気は感じ取った。
副嶋と野々宮の会話は気にはなったが、カウンセリングルームに入って扉を閉めた途端、何も聞こえなくなり、そのせいかどうでも良くなってしまった。
瑠璃は椅子の上に横になってタオルに包まると、身体の怠さもあり、あっという間に睡魔に襲われ眠りに落ちていった。
野々宮がいつ帰ったかも知らず、今日のクリニックが午後休診を良いことに眠り続けていた。
夕方、車で迎え来た瑛が眠気が消えない瑠璃を車に押し込み、副嶋医師とその家族にお礼を言い見送られて、ようやく帰宅した。
家に着いたものの、眠気の取れない瑠璃は心配顔の瑛を余所目に食事もとらず、化粧を取って着替えるだけでベットに入って寝てしまった。
会社最終日が長い一日だったと思いつつ眠りにつくも、その中でも特に碧君と野々宮部長の印象が強めだったと、睡眠が浅くなるとこの時の事が何度も繰り返し頭に浮かんで来る様だった。
やっと、というところで、新章となりました。
書いては直しの繰り返しですが、脳トレしてる気もしてきましたが、単に文章作るのが遅いんだと思いました。




