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暁と宵の星空 ~One star in the Blue Moment~(群青色の空の星)  作者: フニカ


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5/9

1章-5

ようやく、1章が、廊下編が完了となりました。

文章の作成のヘタさ加減と見直しに時間がかかり、なかなか前に進まないです・・・。

(今日は自分のなかでは22日のつもりです)


 瑠璃の両親は、瑠璃が働き始めると言い出した事に、驚きと共に涙するほど喜んだ。

 少々特殊な事情を持つ一人娘には、両親も甘やかして育てたかもという自覚があるからだろうか。

 海外で仕事をしている事もあり、一人暮らしをさせてしまっているところも、少なからず親としての負い目を感じてるからのようだ。

 今回、瑠璃が就職すると言う事で、一時帰国すると言い出した両親に瑠璃の方が驚いた。

「二十歳のお祝いもしないとね」と両親に言われて、瑠璃がそうだった忘れてたという顔をして笑った。


 瑠璃が小さい頃は、家族3人一緒に海外で暮らしたが、小学生高学年以降の思春期に差しかかった頃には、瑠璃一人を日本に残す事が多かった。

 その頃は母親の葵の実家に瑠璃を預けてという形や、葵が帰ってきたり、その時々で一緒だったり離れたりして暮らしていた。

 一人娘を日本に残しての、両親の遠距離赴任や出張時の連絡ツールとして、テレビ画面にお互いが大きく映る様なネット環境にして連絡を取っていた。

 その頃はまだ、映像画質もそれほど良い物でも無かったが、声だけでは幼い子には淋しさの我慢をさせるから、駄目と言う祖父母に言われての事である。

 今では3D画像の微細部までの転送映像はもちろんのこと、空間投影も出来、まるで隣に居るような映像を写し出す様なものまである。

 そこまでの物だと、一緒に居ながら会話しをしているような感覚と錯覚に陥る。

 そんな臨場感があると、映像が消えた後に残る無機質な感覚は、親しい間柄ほどなんとも言えない淋しさを残されて余計に堪えてしまうのではとも。

 離れて住む事は仕方が無いけれども、家族に取っては余韻に体温を感じとれるような物が、特に子供に取っては必要な事かもしれない。

 瑠璃が成長してからは、今はもうスマホで連絡も会話も済む様になった。

 祖父母が言うには、瑠璃は両親が海外へ行っている間は、それほど淋しさを表さない子だったらしい。

でも、両親と機械を通しての会話を終えた小学生の瑠璃が、しばらくその場から離れないで居るので瑛が声を掛けると、

「うん、もっと話したいことあったけど、忘れちゃったから今度で良いや」そう瑠璃が答えて部屋にお戻って行く事が何度もあった。

 それを瑛が葵に伝えると、葵は瑠璃に連絡を増やすようにして、祖父母も気が付かないことを瑛に言ってもらって良かったと感謝していた。

 今も、母親の葵にしてみると、瑠璃と同居してくれる弟の瑛の存在はありがたく、大いに頼りにしていた 。


 こうして瑠璃の就職前に、久しぶりの両親の帰国となった。

両親の滞在は最初は10日位の予定にしていたが、結局のところ、大幅に伸びた。

瑠璃の二十歳と就職祝いに、親戚の集まりを一日で済ませようとしたが、両親のそれぞれの祖父母をはじめ、親戚の集まりの会を何度も開く口実にされてしまった。

 約一年振りに会う両親と、瑛も誘っての二十歳の晴れ着の記念写真撮りにはしゃぎ、喜び。

 親戚の集まりの会では、おめでとうと言ってもらえるのが嬉しいのと、久しぶりに会う従兄弟達とも楽しくはしゃいでいた。

 両親は、日本滞在の限られた時間を有効にと時間を取ったつもりだったが、結局足りないと、次回もと約束するしか無かった。

 そんな日々の中、両親と瑛の話合いは何度も行われたが、メインは瑛だった様で瑠璃は呼ばれない時も多かった。

 両親と瑛だけの話合いは、親としての願いを、どんな結果になろうとも、瑠璃が自分で約束した責任を最後まで全うさせたいと瑛に話した。

 今回の瑠璃の意思で始めた事を、途中で辞めてしまう事だけはさせたくないと言う事だった。

 それには、特に葵の願いで、なぜか瑛に半年くらい仕事をセーブして、なるべく家にいて瑠璃を見守って欲しいと希望した。

 自立を考えた娘の、得られるであろう貴重な経験と体験、試練さえも乗り越えて、次へを考える力が付いて欲しいと思う依頼だと。

 一人っ子で育っている瑠璃の性格も併せて、この期間だけは、親よりは近く無く、他人よりは近い瑛に瑠璃の側にいてもらいたいと話した。

 これから瑠璃が悩むだろう物事の判断は、瑛なら偏らない目線と正しさを持って的確なアドバイスをしてくれるだろうと。

 降って湧いた瑠璃の両親の依頼に瑛もあれこれ考えたが、何度も話し合いを続け、それならと一つだけ条件をつけた。

 もし、瑠璃が理不尽な状況追い込まれるような事があれば、瑛の一存で辞めさせても良いかを条件とした。

 それはもちろん、無条件で瑛の判断に従うと瑠璃の父も母も了承し、瑛は引き受ける事にした。

 瑛は瑠璃と共に過ごしてきた中で何か思うところがあったのか、約半年間は瑠璃の体調を見守ると約束した。

 それで、瑛は少々仕事をセーブしなくてはならないが、タイミング良く調節出来る時期でもあったらしく、葵姉さんの希望を叶えるよと笑顔で答えた。

 瑠璃は両親から、瑛がしばらく瑠璃の生活面を見ると伝えられて、驚きながらも初めての通勤に不安が無かった訳でもないので、理由の追及はしなかった。

(今までの同居と何が変わるのかしら?)くらいの気持ちで返事をしたが、後々両親にも瑛にも感謝する事になったなあと思い起こした。

 そうして、瑠璃の入社前に両親は安心して日本を出国していった。

「瑛兄様が家にいてくれるのは嬉しいけど、仕事までセーブしてもらって大丈夫なの?」と両親が旅立ってから瑠璃が瑛に聞いた

「大丈夫さ、少々休みたかったし、葵姉さん達との仕事も噛んでたから、そこをしばらく無くして良いらしいからね」と瑛が言う。

「そうなんだ、ちょっと申し訳ないなって思ったけど、兄様が居てくれるから嬉し」と瑠璃はちゃっかりした笑顔を瑛に向ける。

「仕事始まる前に、なんか美味しい物食べに行くか?」

「行く行く」と笑いながらの二人の会話。


 そうして、瑠璃の希望に満ちた会社員生活が始まった。

 新しい環境に飛び込んで、何もかも新鮮で、新しい物すべて取り込もうとしている勢いだった。

 しかし、自律神経系だけは、最初の頃は調子が良かったが、しばらくするとその反動がチラチラ出てくるようになってきた。

 それが時短で通っているうちだったが、一日の就業時間が長くなるにつれ、瑠璃の表情は、無理に笑顔を作るような感じへと変わっていった。

 二十歳とはいえ、高卒でビジネスマナーも初めてと、入社研修も無くいきなりの現場投入され、教える側も大変だったと思われる。

 会社側も、突然の国の施策に合わせての瑠璃の入社を受け入れた経緯もあり、時短で始めたからと配慮の足りない受け入れ方をしてしまったようだ。

 瑠璃は覚えなくてはいけない仕事の情報量の多さと、準備はしていたが自身の身体の対応に振り回され始め、徐々に視野が狭くなって行った。

 失敗も増え周りに迷惑をかけると事となり、気持ちも萎縮し、それが人間関係の難しさとマイナスな感情が積み上がっていく。

 そうなると、一段と自律神経失調症の症状が激しくなり、その反動でストレスも過度に増え、疲労も加わり、いよいよ精神的にもきつくなってきた。

 瑠璃自身、ストレス解消がヘタで、自分で抱え込んでしまう性格だと解っていても、そこから抜け出すのは至難の業だった。


 最初の頃、瑛は日常の家事をこなしながら、家に帰って来た瑠璃を待って夕食を共にしながら、会社での出来事を聞くことがルーティーンとなっていた。

 この頃はまだ、仕事での失敗さえ笑いながら、新しく知り合った人達の印象を楽しげに話し、瑛の作った食事も残すこと無く平らげていた。

 しかし、1ヶ月が過ぎたあたりから、仕事の難しさから来る対応で失敗したこと、人間関係の複雑さで身動きが取れなくなる事が増えたと話すようになってきた。

 緊張感からの疲労もだが、身体の不調も増える事となり、週休2日の土日どちらかは寝込むことが多くなり、気分の落ち込みも長くなって行く様だった。

 この「癒やしの瑛兄様」は、瑠璃の思う事をほぼ肯定してくれて、二人で過ごす時間を変わらず甘やかしてくれていた。

 もちろん瑠璃の主治医にした瑛の後輩の、副嶋医師とも連携していたが、この頃の瑠璃を見ているのは、瑛も悩ましかった。

 瑠璃の体調も疲労も気持ちも、最低な状況が続いていたが、自身まだ頑張れると、辞めたいと言う言葉を飲み込む日がしばらく続いた。


 そうして、夏の蒸し暑さが重なってきたと思ったこの日、異常気象と言われる夕刻の豪雨の中、びしょ濡れで会社から帰ってきた瑠璃は、タオルを持って迎えてくれた瑛の前で

「辞めたい、もう、どうして良いのか判らない」と瑠璃は吐き出すように言い出した。

 雨にあたって冷えた身体を温めるべくシャワーに誘導され、その後二人でソファ-に座り、瑠璃の辞めたいと思う理由を瑛は黙って聞いていた。

 瑠璃も瑛の性格が判っている事もあり、感情的にならないように気を付けては居たが、都度泣きそうになるのを抑えるのが苦しかった。

 瑛は気持ちを察し、瑠璃が感極まりかけて言葉が途切れる度、

「瑠璃は頑張っているね、上手くやれてるじゃないか」と褒めて励ますような言葉をかけていた。

 ようやく瑠璃の言い分が終わり、少しの沈黙の後、瑛が話し始めた。

 瑠璃は瑛が必ず自分の意見を汲んで、辞めても良いんじゃないかと言ってくれると思っていた。

 が、それとは真逆な瑛の言葉だった。

「会社に行き始めて、やっと4ヶ月だね、瑠璃は副嶋と、甥の水無瀬君のおかげで、この会社で仕事できる様になったのだから、もう少しだけ頑張ってみようよ」と言った。

 涙を我慢してうつむいたままの瑠璃の横に瑛は座り直し、頭や背中をなぜながら、なだめるのと励ますを繰り返した。

「瑠璃がこの先どこかで仕事をするとしたらきっと同じ事で悩むでしょ、だから、今自分でそこに対応して乗り越えないといつまで経っても同じ事で躓くからね」

「今一番苦しいかもしれないけど、瑠璃なら出来るさ、今までだっていろんな事を乗り越えてきたじゃないか」

 と言われた直後、瑠璃は顔を上げて瑛を見た。

 涙を溜めた瞳を瑛に向けて、

「そうだね、あの時とは違うけど、身体も動くしね」と言うと、涙がこぼれ落ちた。

 その涙を瑛が優しく拭ってくれて、優しい目線を向けてくれた。

 瑠璃が会社に通勤し始める時に瑛と約束した事の中に、何も言わずに部屋に籠もら無い事、食欲が無くても一緒にテーブルに着いて食事を取ることと約束した。

 瑛との約束事は、まだ守れていた

 瑠璃の食事の量は減っていたが、食べれなくなるまででは無かったし、自律神経系の症状も対照療法での飲み薬で今のところ対応出来てるようだった。

 重苦しい日々が続き、瑛は瑠璃が自分の中の立ち直るきっかけを早く見いだして欲しいと願っていた。

 しばらくは、まだ瑠璃は辞めたいと思っていたが、瑛の了解が取れないがゆえに、気持ちギリギリのところで通勤を続けていた。


 そう過ごしていたある日、瑠璃の様子が少し変わった事に瑛は気が付いた。

 どんなきっかけがあったかはわからないが、瑠璃に少しづつ深呼吸が出来るような落ち着きが見られるようになってきた。

 時間はかかったが、瑠璃自身に足りない物や事に気が付いてきたようで、徐々に持ち前の明るさを取り戻し始めた。

 瑛に対しては、変わらず仕事の話を聞いてもらっていたが、立ち直ったと言えるところまで来ると、

「たくさん甘えてごめんなさい、やっと仕事が解ってきたみたい」と気恥ずかしそうに、瑠璃は感謝の気持ちを述べた。

 瑛は優しい笑顔で、瑠璃に

「ようやく、いつもの瑠璃だね、頑張ったね」と言ってくれた。

 こうして、瑛は瑠璃が社会に出て半年近くなった頃、約束された期限の責任を果たす目処が付いたと、少しづつ自身の仕事に復帰し始めた。

 そんな事とは知らない瑠璃は、あるとき、ふっと思った。

(私のイケメン耐性は瑛兄様からだっけ?でも、瑛兄様はそろそろイケ叔父になってきたのかな?)なんて考えてたりしているこの頃の瑠璃であった。


 今、廊下に座っている状況のままだが、入社以降なんとなく自分の頭にひっかっていた事がようやく腑に落ちたと思った。

 もし、あの時、途中で会社を辞めてたら、水無瀬部長の社内評価がどうなるか、瑛兄様は解ってたのかなと。

 もちろん、副嶋医師が、甥の水無瀬の勤務先の会社に瑠璃を入れた一連の事を、瑛兄様に話して無いはずが無いだろうし。

(そういえば、あの頃が一番、水無瀬部長も瑠璃の配属先によく顔を出してくれて、励ましてくれてたような?)

 初出社の日は総務部で、辞令をもらうのも同席してくれたり、その後も何かしら瑠璃の配属先には、ちょこちょこ顔を出してくれたりしてくれたような。

 水無瀬部長は元々、面倒見も良い人だと思う、出張など不在の時も多いが、社内で瑠璃に気が付けば、距離があっても声を掛けて、手を振ってくれる。

 会話が届く場所であれば、励ましの言葉を掛けてくれたり、挨拶以上に、今では副嶋医師の話題で会話したり、冗談混みの話しも出来るようになっていた。

 それは、周りの人にも同じように接してるから、不公平感を感じさせない配慮が出来る人なんだろうと。

(意識しなくても、そう感じさせる事が出来る人なのかも?)と瑠璃は考える

 水無瀬部長の態度が、副嶋医師と瑠璃との関係も知っての事だとしても、瑠璃は水無瀬部長の気遣いをありがたいと理解した。

 だから、契約途中で会社を無責任に辞め無くて良かったと、今だからかそんな風に考えられるのかもと思う瑠璃だった。


 水無瀬部長代理と、社長子息のこれまた仕事デキの野々宮部長は、幼稚園時代からの友人らしく、大学からの進路は違えど、今は会社の経営戦略室にそろって席を置いている。

 ちなみに、大学から海外へ進学したのもあるのか、社長子息だからなのか?野々宮部長には代理は付いていない。

 が、次世代の会社を担っていくエリートの二人だと、年配の社員が自分の子を紹介するように何かの打ち合わせの折に、噂話として瑠璃に話してくれた。

 野々宮部長は水無瀬部長代理とタイプの違う顔のイケてる面で、社内の話題は他部署のイケてる面達とあわせても、この二人の話題はダントツに多かった。

 もちろん、仕事の方でも、この二人で大きな取引案件をいくつも成功させ、投資に対して十分なリターンを得ていると聞こえて来ている。

 見た目のタイプは、全く違う二人だけど、幼少期から仲が良いとかで、ここだけ距離感が、違うんじゃ無いかという話題が尽きない。

 この瑠璃が居た3年の間にも、ビルのエントランスやエレベーターの中とかで、水無瀬と野々宮が、仲良さげに話しているところを、何度も見かけている。

 そんな時、水無瀬の方が瑠璃に気が付けば、声を掛けてくれたりするが、一緒にいる野々宮とは、軽い会釈をした記憶くらいだ。

 二人とも身長は180センチ以上はあるようで、水無瀬は茶色がかった髪色の短髪で、野々宮はサラサラ黒髪のマッシュにしている。


 瑠璃は、気が付いた、今。

 野々宮部長の雰囲気と、碧君の雰囲気とか同じ感じがする。

 でも、顔のパーツの所々とか、他の誰かに似ているような・・・。

(野々宮部長の息子?そうだとしたら野々宮部長10代で父親になったて事になる?ほんとう?)

(野々宮部長がマー君だとしたら、碧君が父親をマー君と言うかな?)

 ここまで、知ってる事を思い出してみたが、これ以上考えるだけ不毛だわと、自分が会社の噂話にはあまり興味を感じなかったからかなぁ?と思い出していた。

 水無瀬部長は副嶋医師が仕事を紹介してくれた頃から、ファーストネームで「良紀が」と言うので覚えてしまった。

 さて、碧君が言ってたマー君とは、野々宮部長の事なんだろうかと。

 瑠璃は、野々宮部長のファーストネームを知らない。


 廊下で目を閉じていた瑠璃は、本当はこの仕事を続けたかったのかなと、自身に問いかけてみた。

 瑠璃は3ヶ月前位に水無瀬部長代理と内藤リーダーと面談をし、継続雇用にしないか?と声を掛けられた。

 しかし、瑠璃は数日考えてから返事をすると言って、その数日後、退職しますと返事をした。

 3年前から今日までの、瑠璃の配属先は国内物流管理関係の部署だった。

 国内物流取り扱いシステムに関しては、責任者として水無瀬部長代理だが、実際の商品納入責任者は営業担当者になる。

 なので、責任問題が起きた時の、責任所在を考えてのリカバリ-作業が出来る様に成るまでが一番難しいところと言えた。

 瑠璃の実際の仕事について指導をしてくれたのは、配送指示責任者でもある、内藤リーダーとその部下になる、アシスタントの斉藤女史だった。

 この二人の元で、瑠璃の会社員生活が始まった。

 イケオジ内藤リーダーも、アラ40アシスタントの斉藤女史も、仕事についてはベテランなのだが、何もかも初めてになる瑠璃を教えるのは、大変だったに違いない。

 ここ何年もこの部署には新人は入って来ていない、人出不足は相変わらずの人口減少問題延長中なので、何年か前に作ったマニュアルを作り直すのも忘れる位になっていた。


 物流は企業間取引がほとんどなので、対企業への納品に付いての対応だったが、通常はシステムAI付きで、ほとんど自動化されているが件数だけは膨大にある。

 取り扱う商品類に対して、各担当部に複数分かれてはいたが、どの部署も何事もなく流通していれば、特殊な事情がない限りは、ほとんど手がかからない部署でもある。

 しかし、顧客の納品の急な変更依頼や、突発的に起こる道路・鉄道事情に併せて、気象事象等の問題でも対応に追われる羽目となるので、一定数の社員在社が原則となっていた。

 それに、年々異常気象問題から始まり、人口減少を起因とする問題で、余計にイレギュラーな事象が多く起きる様にもなり、手のかからない部署ではなくなりつつあった。

 仕事自体初めての瑠璃にとって、イレギュラーな出来事を調整するという仕事は、各部署と顧客との調整が最高に難しかった。

 ちょっと複雑さがあると、途端に難しくなり、荷物の配達不良で顧客からのクレームに、全く対応出来ない事もあった。

 ビジネスマナーも初めてで、要領よく対応出来ない瑠璃に取っては、振り回されてストレス負荷がどんどん大きくなっていった。

 仕事開始当初は時短で慣れていくという事だったが、就業時間が長くなって行くに連れて、疲労とともに体調への反動が大きく出た。

 おかげで、早退か遅刻の届け出を、散々提出する事にはなったし、仕事に慣れるまではなかなか大変だった。

 会社の人間関係も、瑠璃の入社待遇の説明が軽く話されてはいたが、突然の体調不良で、度々抜ける事が周りの雰囲気に悪い印象になりがちになっていた。

 瑠璃自身も、仕事の理解が足りないことで、他者に余計な手間をかけさせてしまう事に、気持ちが萎縮して抱え込んでしまっていた。

 振り返って、一番つらかった時は、周りに迷惑を掛けるぐらいなら、辞めた方が良いのかと悩み始めていた頃である。

 過去に物事に悩みすぎて、軽い鬱と診断されることはあったが、元々の性格は楽観的で、おおらかな方で、瑠璃本人も鬱が重症化する事にはないと自覚があった。

 ただ今回は、ごく軽い鬱と言う状態がいつもより長く続いたのと、自律神経失調症に振り回されての疲労に、日々の生活疲労の重なりで、気持ちの切り替えるのが難しいようだった。

 こんな状態に陥っている瑠璃に対して、叔父の瑛は、ただただ心配と、優しさの励ましに、瑠璃はとてもありがたくて、「癒やしの瑛兄様」と呼んでいた。

 その「癒やしの瑛兄様」に辞めたいと言ってしまったのは、陥ったところから抜け出せなくなっていた時かなと思い出した。

 副嶋医師からは、その様子ならまだ大丈夫、目標に自立を掲げるなら、今は頑張りどころだから、会社に通ってねと言われ・・・。

「副嶋先生の鬼~」と半笑いで訴えていた。

 そうしている内に、ようやく浮上するきっかけになったのは、その時を本人も、あまりよく覚えて無いみたいなのだが。

 誰かの立場になって考え始めたら一つ上手く行った、それを積み重ねたら、イレギュラーがクレームがそれなりに収まって行った。

 悩みながらも、色々模索しているうちに、ようやく物事の理解が進み、自分の仕事の不明不安な部分が言葉にでき、他者に説明できる様になった事からガラリと変わっていった。

 それに、ここを乗り越えれたもう一つは、瑠璃を見捨てず、指導してくれた、直属上司のイケオジ、ダンディ内藤リーダーと、頼もしい先輩の斉藤おねー様の二人だった。

 昨日の、瑠璃が仕事に携わる最後の日の挨拶では、

「私がなんとかなったのもお二人のおかげです」と言って二人の前で涙を我慢したら、それ以上何も話せなくなるばかりだった。


 そして、入社して半年も経つ頃には仕事の理解も増え、ビジネスマナーも身に付いてきて、毎日のローテーションもこなせるようになっていた。

 納期の急な変更にも対応できる様になり、難しいものは、周りの社員に相談出来るようにもなり、人間関係も良好になった。

 今から、1半年前の社内プロジェクトで、新規物流システムAI導入が立ち上がった時には、導入計画推進担当者として各部署からの代表の何人かと一緒に参加出来た。

 大きな混乱無くプロジェクトも完遂でき、携わった人達と打ち上げが出来た時は、何かしらの高揚感でいっぱいになったのを覚えてる。

 この時の仕事の話を、海外からひさしぶりに集まった家族に話したら、社会に出ると行った瑠璃の選択と成長を喜んでくれた。

 最初の頃、社会に出て得る物って、ひたすら会社と家との往復をする事だと、思い込んでいたと副嶋医師に話したら、

「ま、それもその一つだけどね」と斜め上を向かれたような、ニヤニヤ笑われた事があったので、じゃぁ何?ってムッと思った記憶もある。

 でも、学校卒業した頃の自分と比べると、今の自分には、何か変わったと思える事は確かで、だからと言って何が変わったのかは、自分では判らないが感想である。


 ただ、他部署でリモートをしてる人の話を聞いて、通勤時に体調の不調が出やすい瑠璃としては、在宅テレワークしたいと思ったが、副嶋医師の顔が浮かんで何も言わなかった。

 そんな感想を持ってた頃に、新しい物流AIシステムが運用開始し、新システムはかなり優秀なようで、何か問題が起きた時のアシストが半端ない。

 そのおかげで、在社必須だった物流部も、リモート対応に切り替えられるところは徐々に進んでいる。

 色々と考えて、契約期間一杯で、会社を辞めると決めたのは自分だけど、そう、ここで沢山の新しい経験を積むことが出来たんだと思えた。

 瑠璃は廊下の壁にもたれて、閉じていた目を開けた。

 光が入る窓の方に視線を向けた、少し眩しいなと。


 今日の瑠璃の予定は、明日からの有給休暇消化に入るための、最終出社日にして、水無瀬部長の高層階フロアの個人部長室に行くところだった。

 何十人といる部長待遇の個室は沢山あるが、部長代理で個室を与えられてるのは、すごい事らしい。

 水無瀬部長代理は一番小さい個室だよと謙虚さを忘れないが、新規企画などを含め、機密保持関係に携わってると個室も必要らしい。

 瑠璃としてはもちろん、退職日当日にも挨拶に来る予定にはしているが、出張の多い水無瀬部長のスケジュールが不明の為、出来るうちにと思って来たところだった。

 ところが、ここに来ての突然の自分の体調不良で、ビルのひと気の無い廊下に座り込むことなった。

 それでなのか、この会社に入ったときから3年間を振り返えっている。

(う~む、今の今、体調不良になるまでは、この3年間の事を何も考えてなかった、それにしても振り返ったら、落ち込んだり上向いたり?忙しいかった?)

 碧がいなくなってからだいぶ時間が過ぎたようだが、でもこの3年間思い返せちゃったと、気が楽になった様な感覚に包まれている。


 明日から有給消化に入る予定だったけど、こんな状態だから今日からになるかなぁ。

 退職の為の業務は忙しくかったけど、思ったより大変では無かった。

 新システムのおかげもあって業務の引き継ぎは少なくて、事務引き継ぎを終えれば、有給消化後の退職日が来ればそれで終わる事になっていた。

 でも、やっぱり疲労は溜まっている?この身体。

(それにしても、ここで体調不良にならなければ、碧君に会うことは無かったし淋しいとも思わなかった?よね)

 それに、会社のビルの廊下で一人座って、過去の振り返りをする事も無かったかも。

(私の自立神経失調症め、転んでもただでは起きないぞ!)

(そうだ!瑛兄様と明後日に美味しい物、食べに行こうって約束してるんだった)


 一人脳内会話を決着させ、次の生活に向かう新たな気持ちになったところで、エレベーターのドアの開いた音が聞こえた。

「まー君こっちだよ」と言う碧の声に続き、革靴らしい足音もだんだん大きく聞こえて来る。

「なんだこの荷物は」と言っているのも聞こえる。

 廊下に積んである段ボールの箱類の事らしい。

 でも、その声で(ああ、この声は野々宮部長だ)と瑠璃は判断した。

「るり~」と声を上げながら、先に走ってきた碧。

 この廊下を急いで走って来てくれたのか、呼吸を整えるのに身体全体で息をしている。

「マー君がハーなかなかハー見つからなくて、フー遅くなっちゃフーった」と息苦しいなか、小学生なのに申し訳なさそうな表情をする。

「碧君、大丈夫?ありがとう」瑠璃も、視線を合わせニッコリ笑顔を作って見せる。

 大人の革靴の音も、だんだん早足になって音が大きくなる。

 碧が連れてきたのは、この会社の次代の経営者とされる、戦略統括部の野々宮部長だった。

(野々宮マー君なのね、碧君とはどんな関係かしら、父親には見えないような・・・)

 碧は呼吸が落ち着いてくると、すぐに瑠璃の横に座り込み、手をさすり始めた。

 次いでやって来た野々宮部長が、座り込んでいる瑠璃の様子を見るなり

「おい、大丈夫か?貧血か?どこの部署だ?名前は?」と立て続けに質問を投げかけた。

 瑠璃は(末端パート社員だし、何度か、すれ違った事もあったけど、やっぱり覚えてないみたい、ま、化粧も取れてるだろうし、顔もむくんでるかな)と思っていると。

 野々宮が、もう一歩瑠璃に近づき、碧の横にしゃがんで、瑠璃の顔をのぞき込んだ。

「ん、まさか、水無瀬のところの御室か?」

(え?私の名前知ってる?)

 名前を知られていることに驚いて、しゃがんでも身長が高いことが解るほど、野々宮部長の顔に合わせて頭を上げたら、頭痛がズンと来たので、即、顔の向きを碧に戻した。

 瑠璃は不意に来た頭痛に眉間にしわ寄せると、小学生の碧は余計に心配する表情を見せた。

「碧君ありがとう・・・国内物流部の御室です、エレベーターに乗ったのですが、途中で気分が悪くなり」と思ったより声は出ず言い終わった途端息が荒くなる。

「ちょっと気分が悪くなっただけです大丈夫です もうすぐ起き上がれます」と口が渇いたカラカラの声で返事をした。

 野々宮部長は碧と瑠璃の顔を見比べながら、

「その様子だと、ちょっとって感じでもなさそうだな、肩をかすから、頭を下げて」と言い終わらないうちに野々宮は瑠璃の左腕をつかみ肩にかけて立ちあげた。

 野々宮の指示が良かったのか、頭を下げて下を向いていたおかげで瑠璃は、これ以上貧血を起こさずに立ち上がることが出来た。

 それにしても野々宮部長との身長差がありすぎて、立ち上がって見たら、瑠璃の腕は野々宮の肩からはずれてしまい、慌てて思い切り引寄与せられたら密着度高めな体勢になっていた。 


 瑠璃も、野々宮部長とは、間近に見るのも会話も初めてだったのと、いつも遠くから一緒にいる水無瀬部長越しに見る事が多かったので、印象が違う様に感じた。

 水無瀬部長もイケメンだけど、野々宮部長もタイプの違うイケてる顔。

 気分や体調は悪くても、頭の隅で受けた印象に対して色々思いついてしまう、まだ、体調に余力があるようで。

 瑠璃は下を向いたまま、水無瀬部長と野々宮部長は、ほぼ同じ年の20代後半位、それで国内外の統括部長だなんて、流れて来た社内情報を思い出していた。

 社長子息で能力ある人なんだろうけど、碧君とはどういう関係なのかしら?

 野々宮がエレベータホールに向けてゆっくりと歩きだすと、碧は瑠璃をはさんで野々宮の反対側に立ち、瑠璃の片腕を両手で支えてくれている。

 瑠璃は下を向いていたので、一緒に立ち上がった碧と目が合っていた。

「碧君ありがと」とまた声をかけると碧も視線を合わせてニコリと笑顔を向けてくれた。

 その様子を見た野々宮部長は

「ん?碧、お前にしては優しいじゃないか」と碧に向けてニヤリとする。

 と碧は照れたようで、

「僕が、るりちゃんを見つけたんだよ、僕は優しいもん、マー君とはちがうもん」

「おい、会社でその呼び方するなって言ってるだろう、それにマスクは?もうすぐアリッサが、迎えに来るぞ」

「あ、マスク無くしたかも、ママが予備持ってるから大丈夫だよきっと」

 と二人の会話が廊下に響いていた。

 その会話を聞いていた瑠璃だったが、野々宮が気を遣って、ゆっくり歩いてくれてるのがわかり、今まで見てたイメージとは違うように思えてきた。

(碧君のママの名前がアリッサなのか?、そういえば野々宮マー君の父である、野々宮社長の今の奥様は外国人と聞いたような?)

(でも、碧君はどうやってもハーフには見えない、日本人のようだけど?あれ?)

 ようやく、エレベータホールまでくると、何か言わなきゃと思って、不意に身長の高い、野々宮に顔を向けようと、頭を上げてしまった。

「あの、やっぱり貧血だと思います・・・副嶋先生に」と言ったところで、瑠璃は身体の力が抜け立っていられなくなり、なんとか保っていた意識も途端に遠のいて行く。


 驚いた野々宮と碧が瑠璃に呼びかけるが二人の声がホールに響くだけになった。

 顔をあげて話しかけたことが、貧血で意識を失う決定打になってしまったようだ。

 慌てて、野々宮は瑠璃を横抱きに抱き上げたが、瑠璃の身体の力みはすっと抜けて行った。

 瑠璃の耳には、呼びかけてくれる碧と野々宮の声に反応しようとするが、この時においてはもう、その声がだんだん遠ざかって行くだけだった。


 後から、気を失って崩れ落ちた瑠璃の身体に、打ち身一つ無かったのは、野々宮部長が上手く抱きかかえてくれたからだと聞いた。

 それと、51階を含む数階のフロアの監視カメラは、本日朝一で最新式に交換したばかりだったが、接続不備があり電気回路の確認が午前中ずっと続いていたとか・・・。



廊下脱出です。

まだ先が長いですが、この物語を完結させるまで頑張ります。

(今頃、これ半分にして、1-6を作った方が良かったかも・・・反省)

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