episode27・2回戦(2)
初回に1点を失った若菜たちに対してもベンチは温かく迎えてくれた。阿藤からドリンクを受け取った若菜に先頭打者のケンも声をかける。
「とりあえず、早いうちに追いついておきたいな」
そういってケンはバッターボックスへと入っていく。ケン以外にもチーム内の反撃ムードは低くなく、ヒットを重ねた。しかし、ランナーを出しながらホームが踏めない。固くはないが穴もない守備陣に苦しめられ、あと1本が出ない拙攻がつづいていた。
そんなもどかしい展開の中、若菜も無失点の好投を続け、0-1のまま試合は7回の裏まで来ていた。この回の先頭は8番の真弓、9番の若菜がネクストバッターズサークルに入ろうとすると、柏木に声をかけられた。
「氷室、上杉が出たら代打を使う。この回までご苦労だった」
柏木の言葉に応えてか、真弓は三遊間を抜けるクリーンヒットを放ち、ノーアウトランナー1塁となる。ここで柏木が動いた。
「選手の交代をお知らせいたします。氷室さんに変わりまして、代打阿藤くん、背番号20」
若菜の代打に告げられたのは阿藤、その初球だった。鋭い金属音と共にジャストミートした打球はバックスクリーンへと飛び込んだ。2ランホームランで2-1、聖ラムタラ学園がついに逆転した。
「やったー!」
「阿藤、ナイスバッティング!」
ガッツポーズと決めて、ダイヤモンドを回る阿藤を見ながら喜ぶ若菜や早瀬たちに柏木は言う。
「平均的に守備力があるということはヒットを重ねて得点するチームには効く。しかし、守備に穴がなくてもホームランだけは防げない」
故に長打力のある阿藤を代打に入れたのだ。柏木は続ける。
「あいつも、身体能力だけなら1年の中じゃナンバーワンだ。自分に自信をつけさせてやれば必ず伸びる。そして早瀬、逆転した後のマウンドだ、しっかり締めてくれよ」
「はい!」
柏木の采配が的中し、逆転したラムタラナイン。残り2イニング、エースの早瀬がマウンドへ立ち、阿藤はレフトに入る。早瀬は8回を3者凡退に抑えて見せる。その裏の追加点こそなかったが、1点差リードのまま最終回へと入ることができた。先頭打者はショートゴロ、島岡が軽快に捌いて1アウトとなった。続く打者もレフトに打ち上げた。これで2アウトになるはずだった。
「ウオォ」
場内がどよめく、緊張のあまり阿藤は落球してしまったのだ。彼はパニックになって打球処理を誤り、結果的にランナーを3塁にまで進めてしまう。勝利目前の状況から外野フライでも同点に追いつかれてしまう状況に追い詰められてしまったラムタラナイン。
阿藤はその場に立ちすくしていた。落球のショックでチームをピンチに追い詰めてしまったことで、元々気の弱い彼はかなり精神的に追い詰められていたのだ。その様子を見た今井はタイムをかけて、レフトに駆け寄る。
「大丈夫か、阿藤」
「すいません、こんなピンチになってしまって」
今井に声をかけられ、バツが悪そうにしている阿藤の肩を今井が軽く叩いた。
「何言ってるんだよ、この試合で逆転できたのは、お前のホームランのおかげだろ?この試合に勝つにはお前が必要なんだ。勝とうぜ!」
「はい!」
今井に激励され、気力を取り戻した阿藤、再び彼の前に打球は飛んでくる。今度も先ほどと同じ定位置のフライ、距離は十分、誰もが同点を覚悟するなか、阿藤は捕球し、そのまま本塁へと送球する。キャッチヤーの真弓のもとに帰ってきた絶好の返球。真弓と3塁走者のクロスプレーになる。体格的に不利な局面であったが、真弓は決死のブロックを敢行する。
「(阿藤くんがあれだけ頑張ったんだから、うちが無にするわけにはいかない)」
審判の右手は高く上がっている。
「アウト! ゲームセット!」
歓喜の輪を作るラムタラナイン。2-1、ラムタラ学園は接戦をものにして、3回戦へと駒を進めたのだった。




