episode19・梅雨とライバルの予感(3)
「氷室、上杉、記者の人が来たぞ」
練習中、若菜と真弓を読んだ柏木は、グラウンドのベンチにいる一人の男性を指差す。研ぎ澄まされた眼光を放つ男性は、そのまま二人のもとにやって来た。
「はじめまして、僕は『スチューデンツ・ベースボール』の記者をやっている神楽坂昌也、よろしく」
神楽坂は先程までとは別人かと思われるほど物腰の柔らかそうな笑みを浮かべ、名刺を差し出してから握手を求める。
「うん、しっかりと練習されてる手だね」
二人と握手した神楽坂はそう言って、手の感想を語る。 そして、神楽坂は二人に本題を切り出す。
「さて、今年の1年生には有望な女性選手が多いから来月号で特集を組むことになった。いくつか質問していくから、答えてほしい」
神楽坂の取材は順調に進んでいき、そのまますべての質問が終わる。
「さて、取材を受けてくれてありがとう。謝礼替わりになるかはわからないけど、今年の西東京地区の有力校について話そうか」
神楽坂はそう言うと、柏木に声をかける。柏木は今井を連れて、若菜たちのもとへやって来た。4人に対して神楽坂は夏に立ちはだかるであろう壁について話し始めた。
最有力は今年の選抜に出場した中森商業、選抜を沸かせた強力打線は健在で春に不安だった投手力も1年生によって解消された今年は深紅の旗を狙えると目されていた。
今年の下馬評では確固たる対抗がおらず、二番手はこの前練習試合で勝利した西優を含めた数校が群雄割拠の様相を呈しているようだ。
「僕はラムタラ学園をダークホースに考えているよ、練習試合での勢いがあれば、いいところまで勝ち上がれるんじゃないかな。まあ、母校贔屓もあるんだろうけどね、それでは失礼させてもらう。あらためて今日はありがとう」
「今日は暗くなってきたのでここまで!道具を片付けて解散」
かくして、野球部の一日が終わる。取材に来たことを除けば、全く普段と変わらない一日だが、大会の足音は確実に近づいてきていた。
高校野球の大会はトーナメント式、一度負けたらそこで夢が途切れる。憧れの舞台、甲子園への思いを叶えられるのは僅か1校のみの狭き門。
しかし、トーナメントを勝ち上がるには組み合わせの運も必要である。前半から強敵と戦い続け、疲労が蓄積したところで余力のある伏兵に足をすくわれるというシーンは決して珍しい話ではないのだ。
「おい、大変なことになったぞ!」
ラムタラ学園野球部の、夏の運命を決める組み合わせ抽選の日、島岡が若菜たちの教室に勢いよく入ってきた。
島岡はトーナメント表を見せ、ラムタラ学園の赤丸を指差す。
「1回戦の朱鷺目高校は、はっきりいって格下。2回線は鏡巡高校か南海学園の勝者だが、どちらもそんなに強くない。問題は3回戦だ」
島岡が指差した3回戦の相手、そこはシード校でこう記されていた。
--中森商業--




