episode18・梅雨とライバルの予感(2)
野球部に雑誌の取材が来ることが判明してから取材が来るまでの二日間、幸運にも快晴となり野球部は屋外で練習できることとなった
「ラムタラ、ラムタラ」
ランニングの掛け声もいつも以上に大きい、人気雑誌の取材ということで部員たちの気合いはみなぎっていた。
「ダッシュが鈍いぞ!」
「送球が悪い!」
ノックの打球を打っている柏木は珍しく声を出す。彼は部員たちの気合いが空回りし始めていることに気がついていた。
気合いが入ってるつもりでも、浮き足立ったりしていると力みなどに繋がり、結果として気合いが空回りしてしまうもの、柏木の目からは部員たちは取材ということで浮き足立ってるように見えていた。
「うわー、みんな気合いが入ってますね」
ブルペン投球練習のボールを受けていた真弓がグラウンドを見て言う。
「それはそうだろう」
先程まで投げ込みをしていた早瀬が真弓の発言に反応してくる。早瀬によると、デンベーの球児たちへの影響力ははかり知れず、取材を受けること自体がステータスと言えるとのことだった。
「あれ、氷室は?」
いつものスケジュールなら投球練習に来るはずの後輩が来ないことで、早瀬は訝しむ。(妹以外には)ドライな性格の彼であったが、後輩のことを気にかけるようになるなど、早瀬はエースに指名されたことで、精神的に成長したようだ。
「若菜なら、今日は部室でシャドーピッチングしてるよ」
敬子が二人の前に現れて、若菜の居場所を話す。敬子によると屋内にいたいということで、舞が見守るなか、シャドーピッチングに打ち込んでいるとのことだった。
「舞とマンツーマンでシャドーピッチング!?」
よし、俺もといわんばかりに部室に向かう早瀬の右肩を敬子がつかむ。
「はいはい、早瀬くんはさっさとロードワークにいってきなさい、今日は1/3でいいから」
取材の時間にロードワークで離れていたでは笑い話にもならない、敬子は早瀬のために、あえてロードワークの距離を短く指示する。
「わ、わかったから……。投手の肩を乱雑に扱わないで」
早瀬の言葉を聞いて、肩の手を離す敬子。早瀬はそのまま、ロードワークへと向かっていった。
「肩の関節が柔らかくて、肘が深く入ってるね」
シャドーピッチングを見ている舞は若菜のフォームに関してそう評する。
「お兄ちゃんよりも速いのは、そこが理由なのかも」
要は大きく引けば大きく前に力を出せると言うことであり、若菜の速球は関節や筋肉の柔軟性によるところが大きかった。
「関節や筋肉の柔軟性を十二分に活かして男女の体格差を補っているけど、体のケアは入念にね」
プロにも柔軟性のあるフォームの投手はいるが、そういうタイプは故障に悩まされるケースが少なくない。舞はそう言って若菜を寝かせる。
「え、舞どうしたの?」
いきなり寝かされたことに驚いた若菜は舞の方を見る。
「お兄ちゃんに試したいマッサージがあるんだけど……。いきなりはその」
舞はほほを赤らめてそう言うと、若菜の体を実験台にしてマッサージを始める。
「そ、そんなちょっと待っ……!!」
若菜の悲鳴は白球にかき消されたのだった。
早瀬がロードワークから帰ってくると校門には若菜がいた。
「先輩、今夜は舞がいいことをしてくれるかもしれませんよ?」
その言葉に良からぬ想像をしている早瀬に若菜があきれぎみに言う。
「最初のうちはともかく、あとからしっかり効いてきてきますから」
若菜の発言が何のことなのか分からぬ早瀬であった。




