episode13・強豪との練習試合(3)
若菜の登場に西優のベンチはざわつく。そのざわめきは投球練習を始めるとさらに大きくなる。
「結構いい球だな」
「でも、あいつの方が速いかも」
慌てる様子の選手たち、しかしその中で一人不適な笑みを浮かべる男がいた。
「(なるほど、彼女が河内の言ってた投手か、確かに男子をも凌ぐ豪速球、最後のライバルになりそうだ)」
その男こそ、西優学園の監督を務める老将、牧野和宏。彼は選抜にて2度の優勝経験を持つ名将、河内の母校・赤部学園と、西優の両校を初出場で優勝に導く快挙を成し遂げるなど、輝かしい実績を誇るが、今年で70歳を迎える彼も老いには勝てず、今年限りでの勇退を学校側から提示されていた。
「(俺の勇退も後2年延ばせないものか)」
選手に耳打ちした後、ベンチで彼は悲しそうに呟くが、その呟きを聞くもの誰もいない。この回、西優は3者凡退であった。
「よし、追加点をいれていくぞ!」
今井の掛け声で気合いを入れるラムタラナインこの回の先頭は代打の真弓、粘って四球を選ぶ。
再びランナーが出たことで、誰よりも声を出す今井。今日の今井は今までに比べると気合いの入り方が違っていた。若菜はその理由を今井に尋ねる。
「俺は、中学の時西優のセレクションを受けたんだ」
今井は若菜に自分の過去を話す。彼は最終テストまで通過したが落選し、この学校を選んだのだという。
「あのとき、甲子園とは縁のない近場の学校で、気楽に野球をしようって決めたんだ、だけど……」
そこから、今井は若菜の方をみていう。
「お前や上杉、他にも有望な1年生が入った今なら雪辱できるかもしれないと思えたんだ。そして、そのチャンスが実現した。仮に二軍が相手だとしても、俺は雪辱を果たしたい」
今井の瞳を見た若菜は何も言えなかった。ただ、この試合にかけるキャプテンの思いを知った若菜は更なる気合いを入れた。
この回は無得点に終わり、2-0で7回表に突入したとき、牧野が動いた。先頭打者に対して代打を出す。その様子を見た今井がタイムをとってマウンドに駆け寄ってきた。
「2軍でも十分かと思ってたけど、やっぱり1軍じゃないとな、相手にとって不足なしだね。氷室、上杉お前らバッテリーに俺の思いを託したよ」
今井はそういって若菜と真弓に声をかける。
「キャプテンだけじゃないぞ!」
「俺たちだって勝ちたい」
二塁手と一塁手の先輩がこれに同調する。さらに遊撃手の島岡もこれに同調する。
1軍が登場したことで、ラムタラナインのボルテージも最高潮に達し、終盤の攻防へと突入していった。




