表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サービス終了したゲーム世界から、元部下たちが現実へ帰ってきた  作者: てへろっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/22

第9話 この世界を、現実として受け入れる

書き直し消去予定


《あなたは、この世界を現実として受け入れますか》


 白い空間に、二つの選択肢が浮かんでいる。


《はい》


《いいえ》


 その下に表示された警告は、選択の意味をはっきりと伝えていた。


《はいを選択した場合、ゲーム管理者としての保護を失います》


《以降、この世界での死は現実の死となります》


《いいえを選択した場合、領主権限を停止し、元の世界へ帰還します》


 ゲーム管理者としての保護。


 俺は、その言葉へ意識を向けた。


 新しい説明が表示される。


《接続者レグナには、運営期間中、仮想身体再構築機能が付与されていました》


《仮想身体が死亡した場合、登録地点で再構築されます》


《現実認定後、再構築機能は停止します》


 ゲーム時代。


 俺は何度も死んだ。


 魔物に囲まれた時。


 敵国の軍へ一人で突っ込んだ時。


 城壁から落ちた時。


 画面が暗くなり、一定時間後に王城で復活した。


 経験値や装備の耐久値は減った。


 それでも、死ぬこと自体は大きな問題ではなかった。


 だから無茶ができた。


 住民二十人の砦を守るため、一人で敵軍を引きつけたこともある。


 勝てなくても構わなかった。


 俺が死んでいる間に、住民が逃げられればよかった。


 けれど、リゼルたちにとっては違った。


 俺が敵に斬られるたび。


 魔物に飲み込まれるたび。


 高い場所から落ちるたび。


 彼女たちは、俺が本当に死んだと思っていた。


 その後、何事もなかったように王城へ戻ってくる俺を、どんな気持ちで見ていたのだろう。


「陛下」


 リゼルが俺の顔を見ている。


 彼女には選択肢が見えていない。


 白い少女と、何もない空間だけが見えているらしい。


「何を問われているのでございますか」


 俺は表示された内容を、そのまま伝えた。


 この世界を現実として受け入れれば、領主権限を維持できる。


 世界境界管理塔を操作できるようになる可能性もある。


 その代わり。


 この世界で死ねば、二度と復活できない。


 説明を聞き終えたリゼルの表情から、色が消えた。


「お断りください」


 迷いのない答えだった。


「リゼル」


「お断りください」


 もう一度、先ほどより強く言う。


「領主権限など必要ございません。世界境界管理塔も、大裂界も、我々が対処いたします」


「四十七回失敗したんだろ」


「今後も試みます」


「結界が崩れるまで、三十六時間しかない」


「それでもです」


 リゼルは俺の前へ回り込んだ。


 白銀の鎧。


 俺が一時的に所有権を持っている装備。


 黒い腕から守るためとはいえ、今の彼女は文字通り、俺の所有物を身につけている。


「陛下御自身が危険を負われる必要はございません」


「俺がいいえを選んだら、どうなると思う」


「元の世界へお戻りになられます」


「領主権限は止まる」


「はい」


「大裂界を閉じる方法も分からないままだ」


「我々が探します」


「間に合わなかったら?」


 リゼルは答えなかった。


 王都の結界が消える。


 侵蝕体が降りてくる。


 王都に暮らす四百万人。


 周辺都市を含めた二千万人。


 その先にいる三億人。


 全員が危険に晒される。


「それでも、陛下が失われるよりは」


「俺一人と、三億人だぞ」


「我々にとっては、比べるべきものではございません」


 リゼルの声が震えていた。


「三百年間、お待ちいたしました」


 彼女の手が、俺の服の袖を掴む。


「戻ってきてくださると信じておりました。何度、諦めるべきだと言われても。何度、もうお亡くなりになっているはずだと言われても」


 強く握り締めた指が白くなる。


「ようやく、お会いできたのです」


 リゼルが顔を伏せる。


「再会した翌日に、再び失う可能性など、受け入れられません」


 俺は何も言えなかった。


 三百年。


 数字として聞くことはできる。


 だが、その長さを実感することはできない。


 俺にとっては七年だった。


 会社へ入り、何度か部署が変わり、引っ越しを一度した。


 時々ゲームを思い出しながら、それでも普通に生活していた。


 リゼルは、その間ずっと待っていた。


 国を守りながら。


 仲間を失いながら。


 俺が戻る保証など、どこにもないまま。


「約束はできない」


 俺が言うと、リゼルが顔を上げた。


「絶対に死なないとは言えない」


「でしたら」


「でも、死ぬつもりもない」


 俺は白い少女を見る。


 顔のない管理端末。


 こちらを急かす様子はない。


 選ぶまで、何年でも待つように立っている。


 指輪を見る。


《王都防衛結界の残存時間――三十六時間十四分》


 数字は止まっていた。


 この空間では、外の時間が流れていないらしい。


 考える時間はある。


 それでも、答えは変わらなかった。


「リゼル」


「はい」


「俺は、今までアステリアをゲームだと思っていた」


 十五年間。


 画面の中で国を作った。


 数字を増やした。


 イベントを攻略した。


 NPCの好感度を上げた。


 それが彼らの人生だとは考えなかった。


「お前たちの気持ちを、決められた反応だと思っていた」


 サービス終了の日。


 リゼルが手を伸ばしたことも。


 セレフィナが涙を堪えていたことも。


 ミーナが泣いていたことも。


 すべて運営が用意した演出だと思っていた。


「でも、違った」


 リゼルたちは生きていた。


 俺がいなくなったあとも。


 季節を越え。


 子供を育て。


 病気になり。


 争い。


 誰かを失い。


 それでも国を残した。


「今ここで、いいえを選んだら」


 俺は浮かんでいる選択肢へ目を向ける。


「結局、俺はまた、お前たちをゲームのデータとして捨てることになる」


「そのようなことは」


「俺にはそう思える」


 危険だから帰る。


 死ぬ可能性があるから、領主権限を手放す。


 普通なら、正しい選択なのかもしれない。


 俺はこの世界の人間ではない。


 アステリアの国民に対して、命を懸ける義務もない。


 だが、一度見てしまった。


 画面の数字ではない人々を。


 三百年間、俺の言葉を守り続けた国を。


 怪我をしたまま、俺を迎えに来たリゼルを。


「お前が言ったんだ」


「私が?」


「俺がゲームだと思っていたことは、お前たちにとって現実だったって」


 リゼルが僅かに目を見開く。


「だったら今度は、俺の方が認める番だ」


 この世界はゲームではない。


 ここにいる者たちは、NPCではない。


 アステリアは、俺が遊んでいた国ではない。


 彼らが三百年間、生きてきた国だ。


「俺は、この世界を現実として受け入れる」


「陛下」


「それでも、無茶をするつもりはない」


 袖を掴んでいるリゼルの手へ、自分の手を重ねる。


「一人で勝手に死ぬようなこともしない。何かを決める時は、お前たちと相談する」


「本当に、でございますか」


「ああ」


「御自身を犠牲にする方法が表示されても、勝手に選ばれませんか」


 領主自身を門の接続点にする方法。


 リゼルには話していないはずだ。


 俺の表情から何かを感じ取っていたのかもしれない。


「選ばない」


「私どもへ、隠し事をなさいませんか」


「努力する」


「約束してください」


「できるだけ」


「陛下」


「分かった。危険な選択肢は、ちゃんと話す」


 リゼルは俺を見つめたまま、すぐには手を離さなかった。


 やがて、ゆっくりと頭を下げる。


「御意のままに」


 納得したわけではないのだろう。


 それでも、俺の選択を受け入れてくれた。


 俺は《はい》へ指を伸ばした。


 触れる直前。


 白い少女から、最後の確認が流れる。


《現実認定後、接続者レグナは保護対象から除外されます》


《肉体損傷、病気、老化、死亡は、すべて不可逆となります》


「分かってる」


《元の世界へ帰還する権利は維持されます》


《ただし、死亡後の帰還はできません》


「それも分かった」


《最終確認》


《あなたは、この世界を現実として受け入れますか》


 俺は《はい》を選んだ。


 音はしなかった。


 光も起きない。


 一瞬、何も変わらなかったように思えた。


 次の瞬間。


 胸の奥が強く脈打った。


「ぐっ」


 体が前へ傾く。


 リゼルがすぐに支えた。


「陛下!」


「大丈夫だ」


 心臓の音が、やけに大きく聞こえる。


 息を吸う。


 冷たい空気が肺へ入る。


 足の裏に床の硬さを感じる。


 今までと同じはずなのに、すべてが急に重くなったように感じた。


 体温。


 呼吸。


 鼓動。


 疲労。


 自分の体が一つしかないことを、強制的に理解させられる。


《世界認識を更新しました》


《仮想身体再構築機能を停止》


《接続者情報を統合します》


《地球側個体名――如月蓮》


《世界内登録名――レグナ》


《同一個体として登録しました》


《建国領主レグナを、現実存在として承認》


 指輪の光が赤から白へ変わる。


 続けて、白い少女の体にも変化が起きた。


 何もなかった顔へ、細い線が走る。


 目。


 鼻。


 口。


 少しずつ、人間に近い顔が作られていく。


 白かった髪には薄い銀色が混ざり、閉じられていた瞼がゆっくり開く。


 瞳の色は青だった。


「管理対象の現実認定を確認しました」


 今度の声は、部屋全体からではない。


 少女自身の口から聞こえた。


「世界境界管理塔第七端末、制限を解除します」


 声に僅かな抑揚がある。


 先ほどまでは設備の一部にしか見えなかった。


 今は、人間の少女とほとんど変わらない。


「君は?」


「第七境界管理端末です」


「名前はないのか」


「識別番号以外は設定されていません」


 少女は淡々と答えた。


 リゼルが俺と少女の間へ立つ。


 警戒しているらしい。


「陛下へ何をなさいました」


「接続者の認識状態を、現実基準へ更新しました」


「御身体への影響は」


「以降、負傷すれば傷つきます。病に罹患すれば発症します。死亡すれば蘇生しません」


 リゼルの表情が険しくなる。


「元へ戻しなさい」


「できません」


「方法を探しなさい」


「不可逆処理です」


 リゼルの手が剣へ伸びる。


「待て」


 俺が止める。


「俺が選んだ」


「ですが」


「端末を壊しても戻らない。それより、今できることを確認する」


 リゼルは少女を睨んだまま、剣から手を離した。


 少女はまったく気にしていない。


「現実認定により、建国領主権限の制限が解除されました」


 白い空間へ、巨大な地図が浮かび上がる。


 アステリアが存在する大陸。


 海。


 周辺の島々。


 更に地図が小さくなり、世界全体が表示される。


 俺がゲームで見ていた範囲より、何十倍も広い。


 大陸は一つではない。


 海の向こうにも、いくつもの土地が存在していた。


 地図の上に、七つの白い点が浮かぶ。


「これは?」


「世界境界管理塔です」


 一つだけが光っている。


 俺たちが現在いる第七塔。


 残り六つは、暗くなっていた。


「六施設は機能停止しているんだな」


「はい」


「修理すれば、大裂界を閉じられるか」


「七塔のうち四塔を再起動すれば、世界境界封鎖機能を使用できます」


「全部直す必要はない?」


「最低稼働数は四です」


 現在動いているのは一つ。


 あと三つ。


「場所は分かるのか」


「現実認定前は開示できませんでした。現在は可能です」


 三つの光点が拡大される。


 一つは、アステリアの遥か北。


 雪と氷に覆われた大陸。


 一つは、西の海の底。


 一つは、南東にある巨大な砂漠の中央。


 どれも簡単に行ける場所ではない。


「一番近いのは?」


「第四管理塔です」


 北部の氷原にある塔が赤く表示される。


「移動時間は」


「現在のアステリアの転移技術を利用した場合、最短で九日」


「間に合わない」


 結界が残っているのは三十六時間。


 移動だけで九日かかる場所へ行く余裕はない。


「別の方法は?」


「建国領主権限による直接転移が可能です」


「すぐに行けるのか」


「はい」


 リゼルが割り込む。


「安全は確認されているのですか」


「第四塔は百七十九年前に機能を停止しています。内部状況は不明です」


「却下です」


「まだ行くとは言ってない」


「陛下は行くおつもりです」


「選択肢として確認しているだけだ」


「先ほどの約束をお忘れですか」


「忘れてない」


 少女は俺たちのやり取りを静かに見ていた。


「直接転移には、同行者を一名まで登録できます」


「私が参ります」


 リゼルが即答する。


「同行者の死亡も不可逆です」


「承知しております」


「待て。勝手に決めるな」


「陛下がお一人で向かわれることは認められません」


「俺もまだ行くとは決めてない」


 話を戻す。


「大裂界を一時的に止める方法はないのか」


 少女が地図を消す。


 代わりに、黒い亀裂が表示された。


 裂け目の向こう側。


 巨大な目。


 無数の黒い腕。


「外部侵蝕体は、建国領主権限を利用して世界境界管理塔を掌握しようとしています」


「それは分かってる」


「現実認定前、建国領主権限には外部接続を完全に拒絶する権限がありませんでした」


「今はある?」


「はい」


 新しい項目が浮かび上がる。


《世界外接続管理》


《接続要求――四百九十八万三千二百十件》


《接続要求元――外部侵蝕体》


《対応を選択してください》


《許可》


《拒否》


《遮断》


「拒否と遮断は何が違う」


「拒否は接続要求ごとに応答します。遮断は接続元との経路そのものを切断します」


「遮断すれば、大裂界も閉じるのか」


「現在開いている大裂界は閉じません。ただし、外部侵蝕体による領主権限への接続は停止します」


「結界への攻撃は?」


「一時的に弱まる可能性があります」


「危険は?」


「遮断処理を実行した場合、外部侵蝕体は第七塔の位置を完全に認識します」


 今も、この塔へ侵入体が入ってきている。


 だが、正確な位置までは掴まれていないらしい。


 遮断すれば。


 俺の権限を奪うため、相手はこの塔へ直接攻撃を仕掛けてくる可能性がある。


「それでも、王都への攻撃は弱くなる」


「予測値では、中央防衛結界の消費を現在の四割まで低下させられます」


 残り三十六時間。


 消費が四割になれば、単純計算で九十時間近くまで延びる。


 三日以上。


 その間に、別の管理塔へ行くこともできる。


「遮断する」


「陛下」


 リゼルが俺を見る。


「塔が狙われる」


「王都よりましだ」


「陛下がいらっしゃる場所でございます」


「だから、俺たちは塔から出る」


 遮断処理を行い、領主転移で旧統治室へ戻る。


 塔の位置が知られても、俺たちが残る必要はない。


「第七端末。遮断した後、お前はどうなる」


「第七塔の防衛を継続します」


「一人で?」


「私は設備です」


 少女は何の迷いもなく答えた。


「破壊された場合、機能を停止します。それだけです」


 リゼルが僅かに目を細める。


 俺も、その言葉が気になった。


 先ほどまでなら、ただの設備として受け入れられたかもしれない。


 だが、今の少女には顔がある。


 声もある。


 こちらの言葉を理解し、自分で答えている。


「一緒に移動できないのか」


「第七端末は、第七塔から離脱できません」


「本体がある?」


「はい」


「投影体のようなものは作れるか」


 少女が一度沈黙した。


「建国領主権限が許可すれば、簡易端末を作成できます」


「作ってくれ」


「用途を指定してください」


「俺たちと一緒に来て、管理塔の情報を伝える」


「承認されました」


 少女の体が白い光へ包まれる。


 光が小さくなり、手のひらほどの白い板へ変わった。


 直後、部屋の中央に同じ姿の少女が再び現れる。


「本体との接続を維持した簡易端末を作成しました」


「見た目は変わらないんだな」


「大きさを変更しますか」


「そのままでいい」


 リゼルはまだ警戒している。


 それでも、塔に一人で残すよりはいいと思ったのか、反対しなかった。


「遮断処理を始める」


《世界外接続を遮断しますか》


《実行後、接続元は第七管理塔の位置を認識します》


《実行しますか》


「実行」


 白い空間が大きく揺れた。


 壁も。


 床も。


 天井も。


 すべてに黒い亀裂が走る。


 塔の外から、何かがぶつかる音が響いた。


 先ほど暗闇で見た黒い腕が、扉の隙間から何本も伸びてくる。


 リゼルが俺の前へ出た。


「攻撃はするな」


「承知しております」


 少女が両手を広げる。


 白い光が塔全体へ走った。


《接続要求を遮断》


《世界外経路を切断します》


 黒い腕が一斉に止まる。


 空間の中で固まり、次の瞬間、先端から崩れ始めた。


 煙ではない。


 細かな黒い粒となり、何も残さず消えていく。


 大裂界へ続いていた見えない何かが、切れた。


《世界外接続の遮断を完了》


《外部侵蝕体による領主権限への干渉――停止》


 指輪の表示が切り替わる。


《王都防衛結界の残存時間を再計算》


 三十六時間。


 四十二時間。


 五十八時間。


 数字が増えていく。


 最後に止まったのは。


《王都防衛結界の残存時間――九十二時間四十一分》


「四日近くまで増えた」


 リゼルが息を吐く。


 初めて見せる、はっきりとした安堵だった。


 だが、少女は塔の上方へ顔を向けた。


「外部侵蝕体が、第七塔を認識しました」


 遠くから。


 低い音が響く。


 一度。


 二度。


 三度。


 世界そのものを叩くような音。


 白い壁に、新しい黒い亀裂が走った。


《第七塔外壁への攻撃を確認》


《予測防衛可能時間――十七時間》


「九十二時間じゃないのか」


「王都結界の残存時間です」


 少女が俺を見る。


「第七塔は、十七時間後に破壊されます」


 第七塔が壊れれば、現在動いている世界境界管理塔は一つもなくなる。


 四つの塔を起動するどころではない。


「第四塔へ直接転移する」


 俺が言うと、リゼルがすぐに頷いた。


「お供いたします」


「第七端末も来てくれ」


「簡易端末として同行します」


「塔が壊れる前に第四塔を起動する。起動したら、第七塔の機能を移せるか」


「可能です」


「それなら、まだ間に合う」


 世界境界管理塔。


 北部氷原。


 百七十九年間、停止したままの第四塔。


 そこに何があるかは分からない。


 それでも行くしかない。


 少女が直接転移の準備を始める。


 白い床へ、新しい円が描かれていく。


「転移前に確認します」


 少女が俺を見る。


「建国領主レグナ。現実認定後、初めての世界境界管理任務です」


「大げさだな」


「任務失敗時、第七塔は破壊されます」


「分かってる」


「第四塔の内部状況は不明です」


「それも聞いた」


「死亡した場合、再構築は行われません」


 リゼルの視線が俺へ向く。


 俺は頷いた。


「分かってる。それでも行く」


 少女は僅かに首を傾けた。


「確認しました」


 白い円が強く光る。


《転移先――第四世界境界管理塔》


《同行者――リゼル・アルフェリア》


《簡易端末――第七境界管理端末》


《直接転移を開始します》


 白い光が足元から昇る。


 視界が消える直前。


 少女が、感情のない声で告げた。


「なお、第四塔には現在、一名の生存反応があります」


「生存者?」


「はい」


 百七十九年間、停止していた塔。


 誰も辿り着けないはずの場所。


「登録情報を照合しました」


 少女の言葉が続く。


「生存者は、三百二年前に死亡したと記録されている人物です」


 光が視界を覆う。


 最後に表示された名前を見て、俺は息を止めた。


《第四塔管理者》


《登録名――エルグランド・サーガ運営管理者》


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ