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サービス終了したゲーム世界から、元部下たちが現実へ帰ってきた  作者: てへろっぱ


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第67話 世界に足りない〇・四%が『REGNA』だったので調べたら、必要なのは犠牲ではなく『俺の代わりをやめること』だった

《不足領域名称》


《REGNA》


 表示された二行を前にして、俺たちはしばらく誰も口を開かなかった。


 向こうのアステリアで、サービス終了までに自然到達できると予測されている自律維持率は九十九・六パーセント。


 あと〇・四パーセント。


 土地でも、魔力でも、食料でも、国家制度でもない。


 最後に世界が自分だけで維持できないと判断している領域の名前が、《REGNA》だった。


「……これだけ見ると」


 俺は言葉を選びながら画面を見る。


「向こうのREGNAがいなくなれば百パーセントになる、みたいにも読めるよな」


「そうは読まないで」


 ノアの返事は強かった。


 声を荒らげたわけではない。それでも普段より明らかに低く、即座に否定する響きがあった。


「まだ《不足》の意味が分かってない。REGNA本人が邪魔って意味なのか、REGNAに依存している何かが残ってるって意味なのか、それすら確認してない」


「うん。だから確認しよう」


「それがいい」


 ノアは少しだけ表情を緩めた。


 あちらのREGNAは、一時世界管理者の候補に選ばれている。


 こちらの世界で、三百年前の留守番が引き受けたものと同じ名前の役割だ。


 その事実を知った直後に、《不足領域――REGNA》と表示された。


 もし俺たちが結論を急げば、


《REGNAが管理者になれば世界は救われる》


 という答えへ簡単に飛びついてしまう。


 でも、その道をこちらでは既に一度通っている。


 留守番は世界を救った。


 だからといって、同じ犠牲を別の世界へ正解として渡したくはなかった。


「こっちのWORLD COREに聞こう」


 俺が言うと、セレフィナが頷いた。


「まず、こちらの世界でも過去に《REGNA》が自律維持上の不足領域として扱われていたのか。そこから確認するのがよいでしょう」


 王権端末を開く。


「WORLD CORE」


《はい》


「向こうの話じゃなくて、お前自身の記録について聞きたい」


《了解しました》


「この世界でも昔、《REGNA》が自律維持上の不足領域だったことはある?」


 返答は、予想以上に早かった。


《はい》


 ノアが椅子を寄せる。


 セレフィナも記録端末を開いた。


「いつ?」


《世界内人格形成体REGNA生成以降》


《長期間》


「サービス終了直前も?」


《はい》


 やっぱり。


 俺は無意識に拳を握っていた。


「不足していたって、どういう意味?」


 今度はすぐに答えが来なかった。


 WORLD COREの表示欄に《照合中》という文字が出る。


 十数秒後。


《現在語彙への変換を行います》


《不足していたのはREGNAの存在ではありません》


 そこで一度表示が止まった。


《世界がREGNAを》


《外部存在RENの代替として必要としていた状態です》


「……代替」


 俺が読み上げる。


 ノアが画面へ近づいた。


「もっと詳しく」


《当初REGNAは》


《REN不在時の世界継続を補助するため》


《RENの行動傾向・記憶情報・世界内権限を参照して形成されました》


 知っている。


 留守番は俺がログアウトしている間、俺の代わりとしてそこにいた。


 俺と似た考え方をして、俺ならしそうなことをして、四人から見れば同じレグナとして生きていた。


「だからREGNAが必要だった?」


《はい》


《RENが外部へ離脱しても》


《世界側がRENの存在を前提とした機能を継続するため》


《REGNAが使用されました》


 セレフィナが静かに息を吐いた。


「つまり、世界そのものが蓮様個人へ依存していた部分を、REGNA様が肩代わりしていたのですね」


《概ね正しい理解です》


 俺は少し嫌な気分になった。


 俺が頼んだことではない。


 留守番が望んで始めたことでもない。


 世界の仕組みが。


《レグナがいないと困る》


 から。


 俺がいない時間に、代わりを作った。


「その依存が、自律維持率を下げてた?」


《はい》


「じゃあ、こっちではどうやって解消した?」


 そこが一番重要だった。


 留守番は後に、俺とは別の独立した《住民》としてWORLD COREに認められている。


 その事実は既に分かっている。


 でも。


 何がきっかけだったのかまでは、詳しく調べていなかった。


《複数要因があります》


「見せて」


 古い記録が開く。


 何百年も前。


 俺がまだゲームとして《エルグランド・サーガ》を遊んでいた時代。


 最初の項目。


《外部人格参照率》


 数字が並んでいる。


 初期は高い。


 ログインを始めたばかりの頃ほど、留守番は俺の記録を強く参照して動いていた。


 ところが。


 年月が進むにつれて。


 少しずつ下がっている。


「何で?」


《REGNA固有経験の蓄積》


 俺が知らない経験。


 俺がログアウトしている間に食べたもの。


 話したこと。


 失敗したこと。


 笑ったこと。


 四人と過ごした時間。


 俺の記憶にはない人生が増えるたびに。


 留守番は。


 俺のコピーではなくなっていった。


 次。


《意思決定差分》


 俺なら選ばなかった選択を。


 留守番が選んだ記録。


 最初はほぼゼロ。


 それも。


 少しずつ増える。


「……こいつ、俺と結構違うことしてるな」


 数字を見る限り、後半になるほど差が大きい。


 ノアが横から言った。


「当たり前」


「何が?」


「別人だから」


「はい」


 素直に認めた。


 次の項目。


《住民側個体認識》


 その言葉だけでは分からなかったが、説明を読んで意味が分かった。


 アステリアの住民が。


 REGNAを。


《外部の蓮の代用品》ではなく。


 目の前にいる一人の人間として認識しているか。


 その割合。


「……これ」


 セレフィナが表情を変えた。


 ある時期を境に。


 急激に上がっている。


「何があった?」


《記録を検索します》


 古い文章が表示された。


 発言者。


 初代近衛騎士団長。


 リゼル・アルフェリア。


「私ですか」


 現在のリゼルが、小さく呟く。


 三百年以上前の彼女が。


 留守番へ言ったらしい。


《陛下がどちらであろうと》


《今日、私と話してくださったあなたの言葉を》


《明日の陛下が覚えておられないことがあります》


《ですから私は》


《今日ここにいるあなたを》


《今日ここにいる方として覚えております》


 俺は。


 読み終えてから。


 隣を見る。


 リゼルは、少し困ったような顔をしていた。


「覚えてる?」


「……はい」


「そんな前のことなのに?」


「忘れません」


 短い返事だった。


 それ以上は聞かなかった。


 たぶん。


 俺が簡単に踏み込んでいい記憶ではない。


 WORLD COREの記録は続く。


 セレフィナ。


 ノア。


 ミーナ。


 全員。


 時期は違う。


 言葉も違う。


 でも。


 いつしか彼女たちは。


 ログインしている俺と。


 ログアウト中にいる留守番の違いへ。


 完全ではなくても。


 気づき始めていた。


 そして。


 違うと知った上で。


 どちらかを偽物として捨てることはしなかった。


「それで住民認定された?」


《一要因です》


 まだ。


 足りないらしい。


 次に表示されたのは。


《世界権限依存》。


 俺がゲームから操作していた。


 建築。


 配置。


 資源投入。


 戦争時の特別処理。


 当時。


 俺しか押せないボタンが。


 世界側には大量に存在した。


 俺がログアウトしている間。


 留守番が。


 その一部を代理で処理していた。


 つまり。


 そこでも世界は。


 REGNAを《蓮の代わり》として必要としていた。


 それが。


 年月とともに減っていく。


「どうして?」


 今度はセレフィナが答えた。


「制度化したからだと思います」


「制度?」


「蓮様の御判断を待つ必要がないように、私たち自身で決定できる範囲を少しずつ増やしました。もちろん当時は、蓮様に背くためではありません。お戻りになるまで国家運営を止めないためです」


 俺がいないと道路一本直せない国では困る。


 俺がログアウトしたら予算が止まる国では困る。


 俺がイベントに参加しないと災害対応できない国では困る。


 だから。


 彼女たちは。


 俺がいない間にも。


 自分たちで決められる国を作った。


「それが、自律維持率を上げた?」


《はい》


 WORLD COREが答える。


《RENまたはREGNAのみが実行可能だった世界必須処理が》


《住民側制度へ移管されるごとに》


《依存度は低下しました》


 俺は画面を見ながら。


 ようやく分かった気がした。


「向こうの〇・四パーセントって」


 口にする。


「REGNAが足りないんじゃない」


 ノアが頷く。


「たぶん逆」


「世界がまだ、REGNAを必要としすぎてる」


 セレフィナが続きを言った。


 WORLD COREへ確認する。


「不足領域《REGNA》とは、《REGNAが存在しないと困る世界機能が残っている》という意味?」


《概ね正しい理解です》


 俺は。


 思わず椅子へ深く座り直した。


「じゃあ一時世界管理者にしたら」


《不足機能を一時的に補完できます》


「でも自律化は?」


《進みません》


 はっきり。


 出た。


 ノアが目を閉じた。


 俺も。


 少しだけ。


 力が抜けた。


 一時世界管理者。


 それは。


 答えではなかった。


 時間を稼ぐ方法。


 世界が自分で立てるようになるまで。


 誰かが支える方法。


 こちらでは。


 留守番が。


 その役目を引き受けた。


 でも。


 向こうには。


 三年以上ある。


「……間に合うかもしれない」


 俺が言う。


「〇・四パーセントを、REGNAに背負わせるんじゃなくて」


 セレフィナが頷く。


「REGNA様がいなくても動く世界へ変える」


「そして」


 ノアが続ける。


「REGNA本人は、蓮の代わりをやめる」


 その言葉が。


 一番。


 胸に残った。


     ◇


 そこからは。


 世界を救う方法ではなく。


 三百年分の業務引継ぎを調べる作業になった。


 しかも。


 量がとんでもなかった。


「一万九千七百二十二件?」


 俺は表示された数字を二度見した。


「現時点で確認できたものだけです」


 セレフィナが答える。


「昔、REGNA様または蓮様の権限に依存していた行政・世界管理処理のうち、その後アステリア側へ移管されたものです」


「そんなに俺に依存してたの?」


「国家運営ゲームでしたので」


「ゲームだから普通だと思ってた……」


「私たちにとっては普通ではなかったというだけですね」


「すみません」


「責めているわけではありません」


 セレフィナは笑った。


「当時の蓮様には知りようがありませんでしたから」


 項目を見る。


 大規模建築承認。


 国境線更新。


 緊急資源配分。


 重要NPCの役職変更。


 特殊施設起動。


 災害復旧。


 外交イベント。


 軍団編制。


 俺にとってはゲーム画面のボタン。


 向こうにとっては。


 王がいなければ決められない。


 国家の権限だった。


「これ全部、向こうでも確認してもらう必要ある?」


「そのまま一覧を渡すのは反対」


 ノアが言う。


「ゲームのバージョン違う。制度も違う。こっちで一万九千件あったからって、向こうも同じとは限らない」


「じゃあ何を渡す?」


「調べ方」


 なるほど。


《こちらでは何を変えた》


 ではなく。


《あなたたちの世界で、REGNAにしかできないことを探してください》


 と伝える。


 答えではなく。


 見つけ方。


「それなら向こうで選べるな」


「はい」


 セレフィナも同意した。


「加えて、もう一つ重要な点があります」


「何?」


「REGNA様ご本人の意思です」


 俺は。


 黙った。


 そうだった。


 世界の〇・四パーセント。


 そんな言い方をしていると。


 つい。


 REGNA本人を。


《解決すべきシステム項目》


 みたいに考えそうになる。


 でも。


 向こうのREGNAは。


 既に。


 自分が地球の蓮ではないことを知っている。


 十一年前から。


 黙っていた。


 誰かが困ると思って。


 自分も困ると思って。


 それでも。


 蓮の代わりを続けた。


「本人に聞かないとな」


「はい」


「何をしたいのか」


「それが最優先です」


 ミーナが。


 静かに言った。


「世界を救うためだからといって、その方に別の役目を押し付けてしまえば、結局また《蓮様の代わり》をさせることになりますから」


 俺は。


 返事ができなかった。


 その通りだった。


《管理者になれ》


 でも。


《管理者になるな》


 でも。


 俺たちが勝手に決めたら同じだ。


 REGNAは。


 自分で選ぶ必要がある。


     ◇


 EARTH/Bへ送る文章は。


 思ったより短くなった。


《こちらの過去記録を確認しました。》


《不足領域REGNAは、REGNA本人が不足しているという意味ではない可能性が高いです。》


《こちらでは、世界がREGNAを「地球側の蓮の代わり」として必要としていた状態そのものが、自律維持上の依存として記録されていました。》


《一時世界管理者は、その不足を一時的に補うことはできますが、自律化そのものを進める方法ではありませんでした。》


《こちらの世界で依存が減った要因は、大きく二つです。》


《一つ。REGNAにしかできなかった処理を、住民・制度・組織へ移したこと。》


《二つ。REGNA本人が、地球側の蓮の代用品ではなく、一人の独立した住民として認識されるようになったこと。》


 そこから先は。


 俺が書いた。


《だから、こちらのやり方を真似しないでください。》


《まずあなたたちの世界で、REGNAにしかできないことを調べてください。誰かに渡せるものは渡す。制度にできるものは制度にする。》


《それと、REGNA本人に聞いてください。》


《世界のために何をするかではなく。》


《これから、自分がどう生きたいのかを。》


 最後に。


 一文。


《俺たちは、REGNAへ一時世界管理者になることも、ならないことも命じません。そちらでも、本人に決めさせてほしいです。》


 全員で確認する。


 送信。


 通信路は閉じた。


「向こうでは?」


「今から待つと」


 ノアが計算する。


「こっちの十分で二時間半くらい」


「また待つしかないか」


「待てる?」


「それくらいは」


「成長――」


「禁止って言ったよね」


 ノアが少し笑った。


     ◇


 返信を待つ間。


 アステリア側では既に別の作業が始まっていた。


 セレフィナが、三百年間にREGNA依存から住民制度へ移した処理を分野別に分類。


 ノアはWORLD COREの自律維持率推移と照合。


 リゼルは当時の近衛記録から、留守番本人が「蓮ではない」と認識され始めた時期の資料を集める。


 ミーナは。


 少し変わったものを調べていた。


「生活記録?」


「はい」


 昔の。


 留守番が。


 何を食べ。


 何時に寝て。


 何を好み。


 何を嫌ったか。


 そういう記録。


「何でそれを?」


「一人の住民として認められたのであれば、仕事以外の生活も重要だったのではないかと思いまして」


 なるほど。


 世界から見たREGNAは。


 管理機能。


 権限。


 人格データ。


 そういう言葉で記録されている。


 でも。


 本人は。


 飯を食って。


 眠って。


 休みの日もあった。


 一人の人だった。


「見つかった?」


「少しだけ」


 ミーナが。


 古い記録を開く。


《REGNA様 本日朝食 黒パン二枚》


《卵料理 一皿》


《果実茶》


《蜂蜜 追加》


「甘いの好きだった?」


「蓮様よりは」


「そこも違ったんだ」


「はい」


 ミーナは。


 懐かしそうに笑った。


「ですが、蜂蜜を追加したことを翌日の蓮様へ申し上げましたら、《俺そんなに甘いの食べた?》と仰っておりました」


「覚えてないからね」


「ええ」


 少し。


 胸が痛かった。


 俺が知らない時間を。


 こいつは。


 ちゃんと生きていた。


 今更だけど。


 もっと知っておけばよかったと思う。


     ◇


 返信要求が来たのは。


 こちらで十二分後だった。


 向こうでは。


 約三時間。


《SOURCE:EARTH/B》


《SENDER:REGNA》


 今度は。


 地球側のプレイヤー。


 如月蓮から。


 安全確認。


 受信。


 文章を開く。


《返事を読みました。》


《そのあと、四人にも見せました。》


《REGNA本人にも伝えました。》


 どうやって。


 と一瞬思ったが。


 次に書いてあった。


《俺がログアウトして、セレフィナから読み上げてもらいました。》


《REGNAから返事があります。》


 そこで。


 文章が区切られる。


 引用。


《地球の蓮へ》


 俺は。


 少し姿勢を正した。


 俺ではない。


 向こうの。


 留守番。


《あんたの世界の俺が何をしたのかは、詳しく聞いてない。》


《聞いたら、たぶん真似したくなるから。》


「……頭いいな」


 思わず言った。


 続く。


《一時管理者の話は、今は断った。》


 ノアが。


 小さく息を吐いた。


《三十日後まで絶対に受けないと決めたわけじゃない。》


《本当に他に方法がなくなったら、その時また考える。》


《でも少なくとも、今すぐ俺一人で決めるのはやめる。》


 こちらのリゼルが。


 黙って頷いた。


《それと。》


《あんたたちが言ってた「蓮の代わりをやめる」って話。》


 少し。


 文体が変わる。


《正直、怖い。》


 誰も口を挟まない。


《十一年前に、自分があいつじゃないって分かった。》


《でも、それからずっと俺はレグナだった。》


《リゼルたちにとっての陛下で。》


《国にとっての王で。》


《あいつがいない時間を埋める役だった。》


《それをやめたら。》


 そこで。


 改行。


《俺に何が残るのか、分からない。》


 胸の奥が。


 重くなる。


 当たり前だった。


《代わりをやめればいい》


 外から見れば。


 簡単に言える。


 でも。


 十一年間。


 それが。


 本人の人生だった。


 偽物だったわけではない。


 役を演じただけでもない。


 国を運営し。


 四人と話し。


 生きてきた。


《だから、四人に聞いた。》


《俺が蓮じゃなくなっても、ここにいていいのかって。》


 俺は。


 画面を見る。


《リゼルには怒られた。》


「怒ったんだ」


 こちらのリゼルが、少しだけ困った顔をする。


《「十一年分のあなたまで、蓮さんの所有物にしないでください」と言われた。》


 俺は。


 何も言えなかった。


《セレフィナには、今まで俺が署名した書類を全部無効にする気かって聞かれた。》


《ノアには、七年前に二人で爆発させた工房の修理代をまだ返してもらってないって言われた。》


「向こうの私、何してるの」


 こちらのノアが呟いた。


「爆発させたのノアじゃない?」


「REGNAと二人って書いてる」


「共同責任だ」


《ミーナには》


 そこで。


 少しだけ長く。


 文章が空いていた。


《「明日の朝食は何になさいますか」と聞かれた。》


 こちらのミーナが。


 目を細めた。


《意味が分からなくて聞き返した。》


《そしたら》


《「明日の朝もいらっしゃるのでしょう?」と言われた。》


 会議室が。


 静かになった。


 世界。


 〇・四パーセント。


 自律維持。


 管理者権限。


 そんな大きな言葉を。


 全部。


 関係なくするみたいな。


 一言だった。


《それで、少し分かった。》


《俺が蓮じゃなくても。》


《明日の朝飯を食う場所はあるらしい。》


 俺は。


 小さく笑った。


「よかったな」


 届くはずのない相手へ。


 呟いた。


 文章は。


 最後に。


 もう少しだけ続いていた。


《一個、相談。》


《世界の仕組みとかじゃない。》


《もっと個人的なこと。》


《俺は今まで、ずっとREGNAって呼ばれてきた。》


《でも、地球のあいつもREGNAだ。》


《これから別人として生きるなら。》


 一度。


 改行。


《自分の名前を、自分で決めてもいいと思う?》


 俺は。


 画面を見たまま。


 すぐには答えなかった。


 三百年前。


 こちらの留守番へ。


 俺たちは。


 それを聞かなかった。


 何と呼ばれたいのか。


 自分を。


 何者として生きたいのか。


 聞く機会すら。


 持たなかった。


 だから。


 今度は。


 間違えたくなかった。


「……俺に決めさせる質問じゃないな」


 俺が言う。


 リゼルが頷く。


「はい」


「名前を決めていいかどうかも」


 セレフィナが続ける。


「本来、誰かの許可を必要とすることではございません」


 ノアが。


 一番簡単に言った。


「好きに決めればいい」


 そして。


 ミーナが。


 少し笑った。


「明日の朝食までに決まらなくても、問題ありませんね」


「うん」


 俺も笑った。


 向こうの世界に足りない。


 最後の〇・四パーセント。


 それを埋める最初の一歩は。


 管理者になることでも。


 世界を背負うことでも。


 自分を消すことでもなかった。


 十一年間。


 誰かの代わりとして生きてきた一人の男が。


 初めて。


 自分の名前を。


 自分で選ぼうとしていた。

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