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サービス終了したゲーム世界から、元部下たちが現実へ帰ってきた  作者: てへろっぱ


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第66話 二つ目の地球の俺が一分だけログアウトしたら、向こうでは『俺』がそのまま会議を続けていた

《「昨日、世界そのものから通知がございました」》


 EARTH/Bの如月蓮から届いた文章を、俺たちはもう一度読み直した。


 向こうのセレフィナは、地球側の蓮がサービス終了を告げる前から、三十日後に地球との接続が切れることを知っていた。


 理由はWORLD CORE。


 少なくとも、そう考えるのが一番自然だった。


「向こうにもWORLD COREがある、と考えていいのかな」


 俺が尋ねると、ノアはすぐには頷かなかった。ここ数日で何度も繰り返してきたように、似た現象があることと、それがこちらと完全に同じ存在であることは分けて考える必要がある。


「同じ名前かも分からない。向こうのセレフィナが『世界そのもの』って説明しただけだから」


「じゃあ、こっちのWORLD COREに聞く?」


「それはいいと思う。ただしEARTH/Bを直接調べさせるのはなし。こっちの記録に、似た仕組みが複数世界に存在し得るかだけ聞く」


「了解」


 王権端末を起動し、管理者通信を開く。


「WORLD CORE。確認したいことがある」


《はい》


「お前と同じような世界自己維持機構は、別の世界にも存在する?」


 少しだけ間が空いた。


《存在する可能性があります》


「可能性?」


《私は他世界の自己維持機構を常時観測していません》


《ただし境界設備の規格上》


《世界単位の維持機構は複数登録可能です》


 つまりWORLD COREは、この世界だけに一つ存在する特別な神様のようなものではないらしい。


「もし別の世界に似たものがあっても、それはお前?」


《いいえ》


 今度の答えは早かった。


《独立した存在です》


「記憶も共有してない?」


《はい》


「考え方も?」


《保証されません》


 俺は隣にいる四人を見る。


「そこも人間と似てるんだな」


 セレフィナが頷いた。


「同じ仕組みから生まれたとしても、別の世界で別の経験を積めば、別の存在になるということでしょう」


「俺と向こうの俺みたいに?」


「あるいは、蓮様とREGNA様のように」


 その名前で、会議室の空気が少し変わった。


 留守番。


 俺がログアウトしている間、アステリアに残っていた《世界内人格形成体――REGNA》。


 俺と九十九・七パーセント近い人格を持ちながら、それでも俺ではなかった存在。


 もし向こうにも同じ仕組みがあるのなら。


「……向こうの俺がログアウトしてる間も、誰かいるのかな」


 俺が呟くと、ノアが画面から顔を上げた。


「可能性はある」


「でも、それを確かめるために管理者機能を探させるのは駄目だよね」


「絶対駄目」


 即答だった。


「じゃあ、どうやって確認する?」


 しばらく誰も答えなかった。


 ところがミーナが、意外なほど簡単な方法を口にした。


「向こうの皆様へ、お尋ねになればよいのではないでしょうか」


「リゼルたちに?」


「はい。蓮様がログアウトなさっている間に、蓮様とお話ししたことがあるかどうか。それなら、危険な機能を探す必要はございません」


「……一番簡単だった」


 難しく考えすぎていた。


 システムの内部を解析する前に。


 そこに生きている本人たちへ聞けばいい。


 リゼルが僅かに笑った。


「先ほど向こうの私へ《自分で聞いてください》と伝えたばかりですからね」


「こっちも同じことしないと駄目だな」


 ただし、こちらから今すぐ追加通信は送らない。


 さっきEARTH/Bの蓮から届いた報告には、《また返事を送る》とは書かれていなかったものの、向こうでは俺たちの数分が数時間になる。すでに四人と話を続けている可能性が高い。


 俺たちは、一通受信可能であることだけを維持して待つことにした。


     ◇


 待ち時間の間に。


 俺は夕食を食べた。


 今日はミーナに言われる前に。


「蓮様」


「食べてるよ」


「まだ何も申し上げておりません」


「絶対言おうとしたでしょ」


「お野菜も召し上がってください、と」


「そっちだった」


 会議室の隅に用意された軽食を食べながら、俺は時計を見る。


 こちらでは午後八時十九分。


 さっきの通信から十四分ほどしか経っていない。


 EARTH/Bでは三時間以上。


「向こう、もう夜明けてたりする?」


「現地時間による」


 ノアもサンドイッチを食べながら答える。


「時間比だけじゃ、向こうの時計が何時かは分からない」


「そうか」


 セレフィナは食事を取りながらも、別端末でアステリア側の通常業務へ返事をしていた。俺が覗き込むと、世界の危機とはまったく関係のない《西部水路改修予算》という文字が見える。


「今それもやってるの?」


「締切が本日ですので」


「世界が増えても予算締切は待ってくれないんだ」


「水路も待ってはくれません」


 もっともだった。


 リゼルも地球滞在中の近衛騎士団から届いた報告を確認し、ミーナは明日の勤務予定を調整している。


 向こうの世界が三十日後にどうなるか分からなくても。


 こちらの世界の日常は止まらない。


 たぶん。


 向こうも同じなのだろう。


 サービス終了まで三十日。


 その間にも税の締切は来るし、食事は必要だし、誰かは仕事へ行く。


 だからこそ、ミーナが言った《全部を救うための時間にしない》という言葉が、今になってさらに重く感じられた。


「来た」


 ノアが言った。


 食事を始めてから十一分後。


 こちらでは。


 向こうでは約二時間半。


《INCOMING MESSAGE REQUEST》


《SOURCE:EARTH/B》


《SENDER CHARACTER ID:REGNA》


「受け取る?」


 ノアが俺ではなく全員へ尋ねる。


 一通のみ。


 文字データのみ。


 これまでと同じ安全条件。


 各担当者の確認を取り、受信する。


 隔離領域。


 形式確認。


 異常なし。


 表示。


《さっきの続きです。》


 俺は箸を置いた。


《四人と話しました。》


《サービス終了については、全員知っていました。》


《セレフィナだけじゃありません。》


 その一文に、こちらの四人が顔を見合わせる。


《正確には、昨日の夜にセレフィナが最初に知って、リゼル、ノア、ミーナにも知らせたそうです。》


《俺には、今日話す予定だったと言われました。》


 俺は少しだけ笑った。


「向こうも先に四人で相談したんだ」


「当然ではないでしょうか」


 こちらのセレフィナが答える。


「世界が終了する可能性を知った直後、何の確認もせず蓮様へお伝えする方が危険です。まず事実確認を行い、可能な対策を整理してから御報告すると思います」


「セレフィナも同じことする?」


「おそらく」


「三百年違っても似るところは似るんだな」


「初期の性格が近いのであれば、判断傾向も似るのでしょう」


 ただし同じ人ではない。


 それも忘れない。


 続き。


《それから、あなたに言われた通り聞きました。》


《「俺がログアウトしている間、何をしている?」》


《四人とも、最初は意味が分からない顔をしました。》


 俺は七年前の自分を想像した。


 NPCへ突然、


《俺がログアウトしてる時、何してる?》


 と質問する。


 確かに妙な質問だ。


《リゼルには、「蓮さんと同じ時間を過ごしています」と言われました。》


 俺の指が止まる。


《俺は、ログアウト中はいないと説明しました。》


《すると四人とも黙りました。》


《かなり長い間、誰も喋りませんでした。》


「……気づいてなかった?」


 俺が呟く。


 ノアが答えた。


「向こうの四人から見たら、ずっと蓮がいるなら気づけない」


 こちらもそうだった。


 俺がログアウトしている間。


 彼女たちの前には留守番がいた。


 そして俺がログインすれば。


 いつもの俺が戻ってくる。


 向こうから見れば、同じ人間がずっと生き続けていたようにしか見えない。


《それでセレフィナに聞かれました。》


《「今朝、王宮の執務室で西部穀倉地帯の報告書へ署名をなさったことを覚えていますか」と。》


《覚えていません。》


《その時間、俺は仕事へ行く電車の中でした。》


 こちらの俺は。


 思わず自分の通勤を想像した。


 地球で電車に揺られている間。


 アステリアでは。


 俺によく似た誰かが。


 国家の書類へ署名していた。


《リゼルにも聞かれました。》


《「昨夜、訓練場で私と話した内容を覚えていますか」と。》


《知りません。》


《ノアには、三日前に一緒に試作魔導具を壊したと言われました。》


《ミーナには、昨日の朝、俺が朝食を残したと怒られました。》


 そこで。


 こちらのミーナが少しだけ眉を寄せた。


「朝食を残されたのですね」


「気になるのそこ?」


「大切な部分です」


「向こうの俺だよ?」


「それでもです」


「ミーナは世界を越えてもミーナだな……」


 少し笑った。


 でも。


 文章は、そこで終わらなかった。


《四人に頼んで、過去一か月の行動記録を見せてもらいました。》


《俺がログインしていない時間にも、REGNAは普通に活動しています。》


《ゲームのログにも残っていました。》


《俺は今まで、NPCの自動行動ログだと思って読み飛ばしていました。》


 俺も。


 似たようなことをしていた。


 ログアウト中の報告。


 自動処理。


 イベントログ。


 ゲームならそういうものだと思う。


 疑う理由がない。


《セレフィナが提案しました。》


《一度ログアウトして、短い時間だけ待ってみてほしい、と。》


 俺は画面を見る。


「もうやったのかな」


 次の一文が答えだった。


《やりました。》


     ◇


《四人と相談して、俺は一分だけログアウトしました。》


 一分。


 EARTH/B側の地球時間。


 アステリア内部では、それより長い時間になる。


《ログアウト前、セレフィナに頼みました。》


《俺が消えた後、もし俺がその場に残っていたら、質問を一つしてください。》


《「あなたは誰ですか」と。》


 会議室が。


 静かになった。


 俺は無意識に、王権端末の端へ表示されている《WORLD CORE》の文字を見る。


 七年前。


 俺はこんな確認をしなかった。


 留守番がいることすら知らなかった。


 向こうの俺は。


 サービス終了まで三十日を残した段階で。


 自分ではない自分を。


 確認しようとしている。


《一分後、ログインしました。》


《四人ともいました。》


《それからセレフィナに、ログアウト中の記録を見せてもらいました。》


 次。


 会話記録。


 向こうのセレフィナが保存した文章が、そのまま転載されていた。


《セレフィナ:蓮様。確認のため、一つお尋ねしてもよろしいでしょうか》


《REGNA:何?》


《セレフィナ:あなたは、どなたですか》


 俺は。


 息を止める。


 返答。


《REGNA:急にどうした》


《セレフィナ:お願いいたします。お答えください》


 少し。


 間があったらしい。


 そして。


《REGNA:俺はレグナだよ》


 ここまでは。


 普通だった。


《セレフィナ:地球にいる如月蓮様ですか》


 返答。


《REGNA:……ああ、そういうことか》


 俺の背中が。


 僅かに冷たくなる。


 向こうのREGNAは。


 驚かなかった。


《セレフィナ:ご存じなのですか》


《REGNA:前から》


「前から……?」


 ノアが小さく呟く。


《セレフィナ:では、あなたは》


 そして。


 次。


《REGNA:地球の蓮じゃない》


 誰も。


 すぐには話さなかった。


 俺は。


 三百年前の留守番が残した言葉を思い出す。


《これは俺の記憶だけど、蓮の記憶じゃない》


 同じ。


 ではない。


 似ている。


 でも。


 別の人間として。


 向こうのREGNAも。


 自分を認識している。


《REGNA:あいつがログインしてる時は、俺はいない》


《REGNA:あいつが帰った後、俺が続きをやってる》


《REGNA:昔は区別できなかった》


《REGNA:でも今は分かる》


 俺は。


 そこを何度も読み返した。


「昔は……?」


 こちらのWORLD COREへ、今すぐ質問したくなる。


 留守番も。


 最初から自分と俺の違いを理解していたわけではなかったのか。


 でも。


 今は向こうの話だ。


 混ぜない。


 最後まで読む。


《セレフィナ:いつから、ご存じだったのですか》


《REGNA:約十一年前》


 十五年プレイしている向こうの蓮。


 そのうち。


 十一年前から。


 もう一人のREGNAは。


 自分が地球のプレイヤーではないことを知っていた。


《セレフィナ:なぜ、私たちへ仰らなかったのですか》


 少し長い間。


 記録上。


 返事がなかった。


《REGNA:言ったら困ると思った》


《セレフィナ:誰が、ですか》


《REGNA:みんな》


《REGNA:俺も》


 胸の奥が。


 重くなった。


 留守番とは。


 違う。


 同じ仕組みだと決めてはいけない。


 それでも。


 似ている。


 あまりにも。


《セレフィナ:昨日、世界から通知が届いた件については》


《REGNA:知ってる》


《セレフィナ:地球との接続が切れることも?》


《REGNA:知ってる》


《セレフィナ:いつから》


《REGNA:昨日》


 そこで。


 会話記録はさらに続いていた。


《セレフィナ:では三十日後、何が起こるのでしょう》


《REGNA:まだ分からない》


《セレフィナ:世界は消えますか》


《REGNA:WORLD COREは、消えるとは言ってない》


 向こうでも。


 同じ名称だった。


 WORLD CORE。


「名称まで一緒……」


 水城さんが低い声で呟く。


 でも俺は。


 続きを読む。


《セレフィナ:では、何を警告されたのですか》


《REGNA:地球側の管理経路が全部切れる》


《REGNA:その時》


 一度。


 会話が途切れる。


《REGNA:今のままだと、世界の自律維持が足りない》


 俺は。


 ノアを見る。


 ノアも。


 俺を見ていた。


「向こうにも自律維持率がある」


「たぶん」


 こちらのアステリアは。


 現在。


 百パーセント。


 俺がいなくても。


 留守番がいなくても。


 世界だけで存続できる。


 でも。


 向こうは。


 まだ。


 そこまで行っていない。


 会話記録。


《セレフィナ:どの程度不足しているのでしょう》


《REGNA:九十七・八パーセント》


「高い」


 俺が言う。


「でも百じゃない」


 ノアが答えた。


 二・二パーセント。


 数字だけ見れば僅か。


 でも。


 世界全体の二・二パーセントだ。


《セレフィナ:不足分を三十日で補えるのですか》


《REGNA:分からない》


《REGNA:でも》


 ここで。


 REGNAは。


 別の情報を口にしていた。


《REGNA:WORLD COREから、一個だけ代替案を出されてる》


 俺の指が。


 止まる。


 読まなくても。


 嫌な予感がした。


《セレフィナ:どのような》


《REGNA:一時世界管理者》


 リゼルが。


 目を閉じた。


 ノアは。


 無言で唇を噛む。


 セレフィナは。


 表情を変えない。


 でも。


 机の上で組んでいた指に。


 少しだけ力が入っていた。


 同じ。


 こちらで。


 三百年前。


 留守番が選ばれた。


《TEMPORARY WORLD ADMINISTRATOR》。


 向こうでも。


 同じ選択肢が。


 既に提示されている。


《セレフィナ:候補者は》


 返答。


《REGNA:俺》


 分かっていた。


 それでも。


 文字として見ると。


 重かった。


     ◇


 送られてきた文章には。


 EARTH/Bの蓮がログインした後の話も書かれていた。


《ここまでが、俺がログアウトしていた間の記録です。》


《ログインした後、四人から全部聞きました。》


《正直、まだ整理できていません。》


《俺がいない時にいる俺。》


《十一年前から、自分が俺じゃないと知っていた俺。》


《そして三十日後、世界を維持するための候補になっている俺。》


 俺は。


 その三行を読んで。


 七年前の自分だったら。


 どうしただろうと思った。


 たぶん。


 混乱した。


 責任を感じた。


 そして。


 自分の代わりに残る存在へ。


 何とかしろと。


 無意識に期待してしまったかもしれない。


 でも。


 向こうの俺が続けて書いた文章は。


 少し違った。


《あなたが最初の手紙で書いていた意味が、やっと分かりました。》


《「こちらでは、それをやってしまった人がいました」》


《たぶん、このREGNAと同じような人なんですよね。》


《だから具体的な方法を教えなかったんですね。》


「……気づいたか」


 俺は小さく呟いた。


《教えなくてよかったと思います。》


《もし最初から聞いていたら、俺はたぶん、REGNAに管理者になってもらえばいいと考えていました。》


 それを。


 読めただけでも。


 教えなかった意味はあった。


《でも今は、それを正解にしたくありません。》


 次。


《REGNA本人とも話しました。》


 俺は。


 画面へ少し身を乗り出した。


《ログイン中、REGNA本人と直接話す方法はまだ見つかっていません。》


《だから四人に伝言を頼みました。》


《俺からは》


《「勝手に一人で決めるな」》


《と。》


 思わず。


 笑いそうになった。


「似てる」


「どちらがですか?」


 リゼルが聞く。


「俺と向こうの俺」


「同じお名前ですから」


「そこじゃなくて」


 でも。


 たぶん。


 少し似ているのだろう。


《REGNAからも返事が来ました。》


 続き。


《「分かった」》


《それから》


《「地球の俺にも同じことを言っとけ」》


「……俺にも?」


 次の文章。


《「お前も一人で何とかしようとするな」》


 俺は。


 何も言えなかった。


 会ったこともない。


 二つ目の地球にいる。


 俺ではない如月蓮。


 さらに。


 その人間がログアウトした後に生きている。


 もう一人のREGNA。


 どちらからも。


 同じことを言われている。


 リゼルが。


 隣で僅かに笑った。


「世界を越えてまで注意されてしまいましたね」


「笑うところ?」


「少しだけ」


「セレフィナまで笑わないで」


「申し訳ございません」


 全然申し訳なさそうではない。


 ノアも。


 ミーナも。


 少し笑っていた。


「俺、そんなに一人で抱えるように見える?」


 四人全員が。


 同時に。


 頷いた。


「聞くんじゃなかった」


 それでも。


 不思議と。


 少し楽になった。


 俺たちだけが。


 向こうを救う必要はない。


 向こうには。


 向こうの蓮がいる。


 向こうのリゼルたちがいる。


 そして。


 向こうのREGNAまで。


 既に。


 自分で考えている。


 俺たちがするべきなのは。


 答えを与えることではない。


 使える情報だけ渡し。


 必要なら一緒に考えることだ。


     ◇


「九十七・八パーセント」


 ノアが。


 会話記録へ戻る。


「問題はこっち」


「残り二・二パーセント?」


「うん」


 向こうのWORLD COREは。


 世界が消えるとは言っていない。


 ただし。


 サービス終了時に。


 地球側から供給されていた何らかの管理機能が切断される。


 現在。


 世界の自律維持率は九十七・八パーセント。


 足りない二・二パーセントを。


 一時世界管理者で補う案が提示されている。


 こちらで起きたことと。


 よく似ている。


「でも向こうは三十日ある」


 俺が言う。


「地球側で三十日。ゲーム世界側ではもっと長いよね」


 ノアが計算する。


「向こうの時間倍率がこっちの昔と近いなら、数年」


「二・二パーセントを数年で上げられないかな」


「分からない」


「こっちの自律維持率が百になった過程は?」


「調べられる」


 ノアの声が。


 少し変わった。


 研究者の顔。


「いつ百になったか。何が自律化された時に何パーセント上がったか。三百年分の記録が残ってれば、向こうで使えるものがあるかもしれない」


「全部同じとは限らない」


「分かってる」


「じゃあ」


 俺は。


 四人を見る。


「調べてもらえる?」


 命令。


 ではなく。


 相談。


 ノアだけでなく。


 セレフィナが先に答えた。


「既に、王国側の世界基盤院へ照会を開始しました」


「もう?」


「お話を聞いている間に」


「早いなあ」


「三百年間、自分たちで国を運営しておりますので」


 いつもの。


 でも。


 今は少し頼もしく聞こえる言葉だった。


「ただし」


 セレフィナが続ける。


「こちらから《こうすれば救える》とは伝えません。まず私たちの世界が、何によって自律維持率を上げたのか。それを事実として整理しましょう」


「うん」


「向こうで使うかどうかは、向こうの方々が決めることです」


「それでいい」


 俺たちは。


 二つ目のアステリアを。


 俺たちのアステリアにしない。


 向こうの世界には。


 向こうの人たちがいる。


 同じ名前でも。


 同じ顔でも。


 別の人生がある。


 だから。


 助けるというより。


 情報を渡す。


 選ぶのは向こうだ。


 そう決めた。


     ◇


 こちらで。


 さらに十三分。


 向こうでは。


 三時間以上。


 新しい通信要求が届いた。


「またREGNA?」


 俺が聞く。


 ノアがヘッダを見る。


「違う」


「誰?」


 送信元。


《EARTH/B》


《CLIENT:ELGRAND_SAGA》


 そこまでは同じ。


 ただし。


《SENDER CHARACTER ID》


 ではなかった。


《SYSTEM MESSAGE》


「システム?」


 元運営担当者が立ち上がる。


「ゲーム側からの自動通知?」


「分からない」


 七系統ロックは維持。


 受信するのは。


 ヘッダ情報だけ。


 その中に。


 本文を開かなくても確認できる。


《MESSAGE CATEGORY》


 があった。


《WORLD CORE RELAY》


「WORLD CORE……」


 向こうの世界自己維持機構が。


 ゲームシステムを経由して。


 こちらへ何かを送ろうとしている。


「受け取る?」


 ノアが聞く。


 今度も。


 俺一人では決めない。


 技術。


 安全。


 行政。


 地球。


 アステリア。


 全て確認する。


 文字のみ。


 一回限り。


 返信なし。


「受け取ろう」


 認証。


 隔離。


 検査。


 安全。


 表示。


 文章は。


 驚くほど短かった。


《EARTH/A WORLD COREへ》


「俺じゃない?」


 宛先は。


 こちらのWORLD CORE。


 続く。


《予定切断まで》


《B側世界時間――三年四か月十一日》


 向こうのゲーム世界では。


 三十日の地球時間が。


 三年以上に相当する。


「時間はある」


 俺が言う。


 でも。


 最後の二行を見て。


 その言葉を飲み込んだ。


《自律維持率――97.8%》


《予測自然到達率――99.6%》


「……足りない」


 ノアが呟く。


 三年以上。


 何もしなくても。


 九十九・六パーセントまでは行く。


 それでも。


 最後。


 〇・四パーセント。


 届かない。


 さらに。


 もう一行。


《不足領域――一件》


 一件だけ。


 世界が。


 自分だけでは維持できないものが残っている。


「何が足りない?」


 誰も。


 向こうへ返信していない。


 それなのに。


 まるでこちらが聞くことを予測していたかのように。


 最後の項目が。


 表示された。


《不足領域名称》


《REGNA》


 会議室が。


 静まり返った。


 土地でも。


 魔力でも。


 気候でも。


 国家機能でもない。


 向こうのアステリアが。


 自分だけでは維持できない。


 最後の〇・四パーセント。


 それは。


 世界の中にいる。


 もう一人の《REGNA》そのものだった。

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