第54話 建国八百年前の遺跡で日本語を見つけたら、三十一年前に失踪した大学院生の名前が刻まれていた
冬木玲子さんから預かったノートと、失踪する一週間前に榊原直哉が残した手紙。
《向こうへ行く方法が、分かったかもしれません》
《もし俺が戻らなかったら、失敗したとは限りません》
《向こうへ着いた可能性もあります》
《あの子を探しに行きます》
その文章を読んだ翌朝。
俺は政府の世界間技術検証施設で、リゼル、セレフィナ、ノア、ミーナの四人と一緒に大きな地図を眺めていた。
昨日の夜、WORLD COREへ問い合わせて分かったことは二つ。
三十一年前、榊原直哉は本当に地球からエルグランドへ渡っている。
そして最後に確認された時、三環樹紋を持つ少女と一緒に行動していた。
問題は、その場所だった。
「ここ?」
地図上で点滅している光点を見て尋ねると、セレフィナが頷いた。
「現在のアステリア王国領から西へ約百六十キロ。旧西境地方にございます《灰白丘陵》です」
「行ったことある?」
「私はございます。ただし、現在は居住区域ではありません」
リゼルも地図を覗き込みながら説明を続けた。
「建国以前の遺跡が多く残る地域です。大規模な都市跡はありませんが、年代不明の石造施設が点在しているため、王国が保護地域へ指定しております」
「三環樹紋も?」
「はい。昨日、冬木様から見せていただいた紋様と同じものが複数確認されております」
これまで王国では、それを《三環樹紋》と呼んでいた。
三つの輪。
中央に一本の木のような線。
誰が作ったのか。
何を意味するのか。
分からない。
ただ、アステリア建国より千年以上前の遺跡から見つかる古い印として知られていた。
その紋様を、三十三年前に地球の榊原が画面越しに見ていた少女も石で何度も作っている。
そして榊原自身は、その少女を探してエルグランドへ渡った。
「WORLD COREが最後に確認した地点は、遺跡のど真ん中?」
「正確には少し違う」
ノアが地図を拡大した。
王国側の現代地図とWORLD COREの古い座標記録が重ねられる。
「地下」
「地下?」
「今の地表から十三メートルくらい下」
「三十一年前に転移した人が、いきなり地中に埋まったってことじゃないよね?」
「違う。当時は今より地面が低い」
「よかった……」
異世界転移一発目で土の中に出たのなら、三十一年間行方不明どころか、その場で話が終わってしまう。
ミーナが地図を見ながら静かに言った。
「長い年月で土砂が堆積し、現在は地下になっているのでしょう。問題は、その場所が既に発掘済みかどうかですね」
「そこなんだよな」
俺たちが見つけたからといって、千年以上前の遺跡を勝手に掘るわけにはいかない。
アステリアは今や人口三億人を超える国家だ。
考古学者もいる。
文化財保護制度もある。
当然、遺跡を管理する部署まで存在する。
セレフィナは既に調査していたらしく、資料を一枚表示した。
「幸いと申しますか、該当座標には既存の発掘施設がございます。《第三灰白遺跡》と呼ばれている場所です。ただし――」
「ただし?」
「百八十七年前から、最深部だけ開けられておりません」
俺は嫌な予感がした。
「何で?」
「入口が存在しないためです」
「それ、部屋なの?」
「内部空間があることだけは、魔力探査によって確認されております」
横でノアが楽しそうな顔をした。
「行こう」
「その顔で言われると怖いんだけど」
「開けられるかもしれない」
「壊さずに?」
「努力する」
「開ける前から壊す可能性を残すな!」
◇
午後。
俺たちは転移門を経由してアステリアへ入り、そのまま王国側が用意した小型の移動艇で灰白丘陵へ向かった。
今回はいつものような大人数ではない。
俺たち五人のほかに、王国考古院から三名、遺跡管理官が二名。それに地球側から水城さんと技術担当者が一人。
リゼルが護衛を五十人ほど同行させようとしたが、遺跡内に五十人も入れば調査どころではないので、外周待機へ落ち着いた。
「昔と比べれば減りました」
本人は真顔でそう言った。
「最初の一万二千人を基準にしないでね」
「承知しております」
本当に分かっているのかは怪しい。
灰白丘陵は名前の通り、白っぽい岩と乾いた草の広がる静かな場所だった。
遺跡と聞いて巨大な神殿でもあるのかと思ったが、実際に地表へ残っているのは崩れた石壁や柱の土台ばかりで、遠目にはただの岩場にも見える。
「ここが第三灰白遺跡です」
考古院の責任者である老齢の男性が案内してくれる。
名はグランツ。
俺を見るたび緊張しているので、最初に「普通に話してください」とお願いしてある。
あまり効果は出ていない。
「発掘開始は建国暦百三十二年。推定年代は建国以前およそ八百年から千二百年の範囲ですが、複数時代の構造物が重なっておりますので正確な年代特定には至っておりません」
「三環樹紋は?」
「こちらです」
案内された石壁に。
あった。
三つの輪。
中央。
木のような一本線。
「同じだ」
冬木さんのノート表紙に描かれていたものと、ほとんど変わらない。
もっとも、こちらは長い年月でかなり摩耗している。
セレフィナが触れないよう少し距離を置いて眺めながら言った。
「この地方だけで四十二例確認されております」
「そんなに?」
「他地域を含めれば百を超えます。ただし、文字体系としては解析できず、宗教的意匠であるという説が現在は有力です」
「違う可能性が出てきた?」
「はい」
三十三年前。
少女が地球側へ何かを伝える時にも使っていた。
単なる宗教紋章とは限らない。
ノアは遺跡を見るより先に、携帯型の探査装置を起動していた。
「蓮」
「何?」
「座標合ってる」
「榊原さんが来た場所?」
「この下」
指差す。
その先には。
何もない石床があった。
◇
第三灰白遺跡の最深部は、想像していたより整備されていた。
長年発掘されているだけあって、足場や照明が設置され、危険な場所には補強まで入っている。
問題の《開かない部屋》は、その一番奥。
石造りの円形空間の向こうにあった。
「……扉なくない?」
「ですから、入口が存在しないと申し上げました」
目の前にあるのは巨大な一枚岩。
だが魔力探査では、その向こうに縦六メートル、横九メートルほどの空洞が存在しているという。
「壊して開けなかったんですか?」
水城さんの質問に、グランツさんが首を横へ振った。
「歴史的価値の高い構造物です。また、一枚岩を破壊した場合に空間自体が崩落する可能性もございましたので、歴代の調査隊はいずれも保存を優先しました」
「ちゃんとしてる」
「当然でございます」
少し誇らしげだった。
ノアが壁へ近づく。
「触っていい?」
「破壊なさらないのであれば」
「しない」
「本当に?」
「蓮」
「ごめん。念のため」
ノアが一枚岩へ手を当て、魔力を流す。
数秒。
首を傾げた。
「魔法じゃない」
「じゃあどうやって開けるの?」
「分からない。でも」
壁の一部を指す。
「ここだけ材質違う」
見た目では何も分からない。
考古院の人たちも集まり、携帯照明を斜めから当てる。
そこで。
俺にも。
見えた。
幅十五センチほどの黒い部分。
石に埋め込まれている。
「これ……金属?」
「未知合金として記録されています」
グランツさんが説明する。
「過去にも分析を試みましたが、周囲の石材を損傷せず取り外す方法が見つからず、そのまま保存されております」
ノアが探査装置を近づける。
突然。
装置の表示が変わった。
「電気」
「え?」
「微弱だけど、反応してる」
「千年以上前の遺跡だよ?」
「だから変」
地球側の技術担当者も調べ始める。
数分後。
「……端子に見えます」
「端子?」
「かなり腐食していますが、金属片の一部に規則的な導電構造があります。少なくとも自然物ではありません」
俺は。
その黒い板を。
見る。
魔導具ではない。
かといって。
現在の地球技術でもない。
「榊原さん?」
ノアが首を横へ振る。
「分からない。でも可能性ある」
「電気を流したら開く?」
「やってみたい」
「遺跡管理官の許可取ってからね」
ノアがグランツさんを見る。
グランツさん。
俺を見る。
「何で俺を見るの?」
「陛下の御判断を」
「俺は考古院の責任者じゃないよ」
「しかし」
「壊れた時に俺のせいになるから、自分たちの手続きで決めてください」
グランツさんは一瞬困った顔をしたが、やがて頷き、他の考古学者たちと相談を始めた。
十五分後。
低出力。
段階的。
異常発生時は即停止。
その条件で試験が許可された。
「ノア」
「何?」
「最初から最大出力は禁止」
「分かってる」
「本当に?」
「蓮、私を何だと思ってる?」
「研究者」
「合ってる」
「だから心配なんだよ!」
◇
地球側の小型電源から、最低限の電流が流される。
最初。
何も起きない。
二段階目。
変化なし。
三段階目。
黒い金属板の奥で。
何かが。
小さく鳴った。
カチッ。
「今の何?」
ノアがすぐ手を上げた。
「止めて」
電流を切る。
全員。
待つ。
数秒後。
一枚岩の表面へ。
細い線が浮かび上がった。
三つの輪。
中央。
一本の木。
「三環樹紋……」
セレフィナが呟く。
そして。
紋様の下。
今まで石の模様にしか見えなかった場所へ。
文字。
浮かぶ。
俺。
最初。
読めなかった。
いや。
違う。
「これ……」
読める。
見慣れた。
文字。
「日本語だ」
全員が俺を見る。
石壁へ現れたのは。
千年以上。
誰にも。
読めなかった。
文字。
《榊原直哉》
俺。
息。
止まる。
その下。
《地球より》
さらに。
一行。
《ここに来た》
誰も。
しばらく。
何も言わなかった。
三十一年前に日本から失踪した大学院生。
その名前が。
アステリア建国より八百年以上前の遺跡に。
日本語で。
残っている。
「……本当に来てた」
分かってはいた。
WORLD COREから。
聞いた。
それでも。
本人。
文字。
見る。
重み。
違う。
水城さんが静かに息を吐く。
「これは、かなり大きな物証になりますね」
「冬木さんに見せたい」
「記録を正式に取った後、ご本人の希望を確認しましょう」
「お願いします」
リゼルは文字を見つめたままだった。
「三十一年前」
「地球ではね」
「こちらでは、千年以上前」
「……そうなる」
地球。
エルグランド。
時間。
同じ速度ではない。
それは分かっていた。
でも。
ここまで。
実物。
見せられると。
改めて。
変な感じがする。
◇
文字が浮かび上がったあと。
一枚岩の中央から。
低い振動音。
始まった。
「開く?」
俺が聞くと、ノアが探査装置を確認する。
「たぶん」
石壁。
左右へ。
動く。
壊れる。
のではない。
何百トンもありそうな岩が、音もほとんど立てずゆっくり沈んでいく。
「これ、古代遺跡の技術?」
「少なくとも、現在の王国でも同じ方式は使っておりません」
セレフィナ。
少し。
驚いてる。
入口。
開く。
中。
暗い。
空気。
流れる。
考古院の人たちが先に環境測定を行い、安全が確認されてから中へ入る。
部屋は。
思ったより。
狭かった。
中央。
石の机。
壁。
三環樹紋。
そして。
一番奥。
妙に。
場違いな。
物。
あった。
「……箱?」
金属製。
長方形。
錆びている。
でも。
形。
どう見ても。
古代遺物。
というより。
「工具箱みたい」
地球側の技術担当者が言った。
ノア。
近づく。
「蓮」
「開けないよ、まだ」
「言ってない」
「顔が言ってる」
今回は。
考古院側も。
慎重。
写真。
位置。
魔力値。
材質。
全部。
記録。
その後。
外部から確認した限り、危険な魔力反応も罠もなし。
「開封許可が出ました」
グランツさん。
言う。
「誰が開けますか?」
全員。
俺。
見る。
「また俺?」
「日本語の記録でございますので」
「それ理由になる?」
とはいえ。
俺も。
気になる。
手袋。
借りる。
蓋。
ゆっくり。
持ち上げる。
中。
紙。
ない。
当然。
千年。
保たない。
代わりに。
石。
いや。
「記憶結晶?」
ノア。
すぐ。
分かる。
王国でも使われる。
情報保存用の魔導結晶。
ただし。
かなり。
古い。
横。
小さな。
金属板。
また。
日本語。
《榊原直哉》
《記録 十一》
「十一?」
「前にも十個ある?」
探す。
でも。
箱。
これだけ。
ノアが結晶を解析し、読み出しだけなら安全と判断する。
俺たちは。
遺跡の中。
榊原直哉が。
千年以上前に残した。
記録。
再生した。
◇
映像ではない。
音声。
最初。
雑音。
次。
男。
声。
『……これが残るか分からない』
日本語。
生。
初めて。
聞く。
榊原直哉。
『紙は駄目だった。こっちだと保存方法が全然違う。あの子に教えてもらった結晶を使ってる』
声。
若い。
二十代。
はず。
『冬木先生がこれを聞いてるなら、俺は多分帰れてない』
一度。
笑う。
『怒ってるだろうな』
「怒ってた?」
俺。
小さく。
言う。
水城さん。
「後で確認しましょう」
続き。
『まず、時間の話』
全員。
集中。
『こっちと地球は、一定速度で時間がずれてるわけじゃない』
やっぱり。
『接続してる時は差が小さくなる。切断すると、こっちの時間が一気に先へ進む』
ノア。
すぐ。
記録。
始める。
『正確な理由は分からない。でも、多分、窓を開けてる間だけ二つの時間が引っ張られて近くなる』
俺。
思い出す。
ゲーム。
十五年間。
ログイン。
通信。
大量。
常時。
世界。
繋がっていた。
だから。
時間差。
比較的。
安定。
サービス終了。
窓。
閉じた。
七年。
地球。
三百年。
エルグランド。
『俺がこっちへ来た時点で、地球との同期はほぼ切れた。冬木先生たちと話してた頃から、こっちでは何十年も過ぎてる』
「何十年?」
俺。
聞き返す。
榊原は。
地球。
三十一年前。
渡った。
でも。
画面越しに。
少女。
見た頃から。
転移まで。
地球では。
二年くらい。
向こうでは。
すでに。
何十年。
少女。
十歳。
だったら?
次。
答え。
来る。
『あの子には会えた』
声。
少し。
変わる。
『最初に見た時は子供だった。でも、俺がこっちへ着いた時には、もう俺よりずっと年上になってた』
部屋。
静か。
『こっちの人間は地球人より長生きする種族もいる。あの子もそうだった』
だから。
生きていた。
『俺を見て、最初に笑った。そのあと怒られた』
一度。
笑う。
『勝手に来るなって』
俺。
ちょっと。
笑う。
「そりゃ言うよな」
『でも、待ってたとも言われた』
そこで。
声。
少し。
止まる。
『ただ』
『あの子が待ってたのは、俺じゃなかった』
俺たち。
動かない。
『地球から、誰かが来ることを待ってた』
次。
『俺が最初だと思ってた』
『違うかもしれない』
◇
録音は続く。
『三環樹紋。俺は最初、あの子が作った印だと思ってた』
目の前。
壁。
同じ。
紋。
『違った』
『あの子も、誰かから教わったらしい』
セレフィナ。
目。
細める。
『意味は教えてくれなかった。正確には、俺の言葉に変換できなかった』
『三つの輪』
『一本の木』
『あの子は、それを《門の印》みたいな意味で使ってた』
「門」
ノア。
小さく。
言う。
『俺が作った転移装置も、ゼロから作ったんじゃない』
『あの印がある場所だけ、地球側の信号が強く取れた』
俺。
壁。
見る。
だから。
ここ。
榊原。
来た。
『こっちには、最初から地球との接続点があった』
「最初から?」
水城さん。
声。
低い。
『俺たちが穴を開けたんじゃない』
『元からあった穴を、偶然見つけただけだ』
ゲーム会社。
研究者。
俺。
誰も。
世界。
繋いだ。
わけじゃない。
既に。
あった。
道。
見つけた。
だけ。
『問題は』
榊原。
一度。
息。
『誰が作ったか』
『あの子も知らない』
『WORLD COREも分からない』
「WORLD COREと話した後だ」
ノア。
言う。
そう。
この記録。
榊原が。
WORLD CORE。
名前。
付けた。
後。
『ただ、一つ分かった』
雑音。
少し。
増える。
『三環樹紋のある場所を地図に並べると、全部ばらばらじゃない』
ノア。
突然。
顔。
上げる。
既に。
考えてる。
『点じゃない』
『線だ』
「ノア」
「待って」
地図。
出す。
王国。
三環樹紋。
位置。
百以上。
表示。
録音。
続く。
『全部を繋ぐと』
ノア。
線。
引く。
一つ。
二つ。
三つ。
無秩序。
見えた。
遺跡。
でも。
地形。
古代地図。
重ねる。
「……これ」
セレフィナ。
気づく。
『中心がある』
ノア。
止める。
画面。
中央。
一点。
全て。
そこへ。
向かってる。
俺。
場所。
見る。
「……王都?」
「正確には」
ノア。
拡大。
現在。
王都。
旧王城。
さらに。
地下。
「ここ」
俺。
知ってる。
「嘘だろ」
何度も。
行った。
場所。
ゲーム開始。
初日。
俺が。
最初。
領地。
選んだ。
土地。
「アステリアの建国地点」
セレフィナ。
呟く。
そう。
俺。
ゲーム。
始めた。
十五年前。
資源効率。
地形。
防衛。
水場。
全部。
数字。
比べて。
最初。
拠点。
置いた。
場所。
そこ。
三環樹紋。
全て。
中心。
榊原。
録音。
最後。
『もし、この記録を見つけた人がいるなら』
一度。
雑音。
『中心を掘ってくれ』
『俺は行けなかった』
『あの子に止められた』
俺。
「何で?」
当然。
録音。
返事。
しない。
でも。
次。
『あそこは』
声。
低い。
『最初の門だ』
録音。
終わる。
◇
誰も。
すぐ。
話さなかった。
目の前。
地図。
三環樹紋。
遺跡。
線。
全部。
アステリア。
建国地点。
集まってる。
「偶然?」
俺。
聞く。
セレフィナ。
すぐ。
答えない。
「蓮さんが最初にあの土地を選ばれた理由を、もう一度伺っても?」
「ゲーム開始時の候補地で、一番効率良かったから」
「具体的には?」
「川が近い。鉱山もある。平地も広い。防衛補正も高かった。あと」
思い出す。
「初期ボーナス」
ノア。
「何の?」
「分からない」
「分からないボーナス?」
「《土地相性・極高》って出てた」
当時。
新規プレイヤー。
救済。
くらい。
思った。
「そこだけ?」
「たぶん」
小松原さん。
遠隔通信。
繋ぐ。
確認。
依頼。
数分。
『如月さん』
「はい」
『初期土地選択に《土地相性》という正式パラメータはありません』
「……え?」
『少なくとも仕様書には存在しません』
俺。
昔。
画面。
思い出す。
《土地相性――極高》
確かに。
見た。
「じゃあ何?」
『分かりません』
また。
それ。
ノア。
王権端末。
見る。
「WORLD COREに聞く」
「うん」
管理者通信。
開く。
《アステリア建国地点について質問》
《三環樹紋の中心?》
返事。
《はい》
即。
「知ってたの?」
《はい》
《何がある?》
少し。
間。
《境界起点》
「最初の門?」
《はい》
俺。
背中。
ぞく。
《俺が最初にあの土地を選んだのも関係ある?》
今度。
長い。
間。
そして。
《はい》
「……」
「蓮?」
ノア。
俺。
画面。
見せる。
《どうやって?》
返事。
《地球側変換システムへ》
《推奨値を追加しました》
「お前か!」
WORLD CORE。
黙る。
「蓮さん」
セレフィナ。
「世界維持機構に怒鳴らないでください」
「だって、俺が効率で選んだと思ってたのに!」
《候補者の中で》
《境界適合率が最も高かったため》
「また勝手に使ってる!」
《ごめんなさい》
「謝るの早いな!」
ノア。
笑う。
リゼル。
口元。
押さえてる。
俺。
頭。
抱える。
十五年前。
俺が。
最初。
アステリア。
始めた。
場所。
偶然。
じゃない。
世界。
少し。
誘導。
してた。
「でも」
ミーナ。
地図。
見る。
「もし陛下が、別の土地をお選びになっていたら?」
WORLD CORE。
質問。
《別の候補地を選んでいたら?》
《その土地で接続を継続しました》
俺。
止まる。
「……無理矢理じゃないんだ」
《はい》
《推奨しただけです》
セレフィナ。
微笑む。
「最終的に選ばれたのは、蓮さん御自身ということですね」
「なら、まあ……」
完全に。
納得。
じゃない。
でも。
少し。
違う。
◇
遺跡から戻る前。
俺は。
榊原の。
金属板。
もう一度。
見る。
《榊原直哉》
《地球より》
《ここに来た》
三十一年前。
地球。
出た。
一人。
八百年以上。
前。
ここ。
いた。
最初に。
少女。
探した。
WORLD CORE。
話した。
そして。
俺たちが。
千年以上後。
同じ。
場所。
立ってる。
「これ、冬木さんに見せたら泣くだろうな」
水城さんが頷く。
「まず正式な発掘記録を作成します。そのうえで、可能な限り早くお見せしましょう」
「お願いします」
帰り。
移動艇。
乗る。
ノア。
ずっと。
地図。
見てる。
「ノア」
「何」
「今日、王都の地下行かないからね」
「分かってる」
「本当に?」
「考古院の許可いる」
「成長した!」
「もう申請した」
「早い!」
セレフィナ。
横。
ため息。
「ノア。王都地下の調査は考古院だけではなく、王城管理局、都市基盤局、魔導網管理院、歴史保全局との調整が必要です」
「全部送った」
「……いつの間に?」
「移動艇乗る前」
セレフィナ。
額。
押さえる。
「後ほど私も確認いたします」
「仕事禁止の家じゃないからね」
俺。
言う。
「ここは移動艇でございます」
そうだった。
仕方ない。
好きに。
してもらう。
◇
夜。
俺は。
自宅。
ゲーム。
昔の。
スクリーンショット。
探した。
十五年以上。
前。
PC。
残ってた。
初期。
アステリア。
まだ。
村。
以下。
建物。
数個。
俺。
画面。
拡大。
中心。
最初。
領主館。
建てた。
場所。
今。
旧王城。
地下。
《最初の門》
「……ずっと下にあったのか」
十五年間。
ゲーム。
してた。
七年前。
サービス。
終わった。
三百年。
向こう。
進んだ。
それでも。
誰も。
気づかなかった。
王権端末。
通知。
来る。
ノア。
《許可降りた》
「早すぎる!」
次。
《明日》
「明日!?」
さらに。
《朝八時》
「会社!」
返信。
《仕事》
数秒。
《有休》
「勝手に決めるな!」
ノア。
《残ってる》
「何で俺の有休残数知ってるの!?」
今度。
セレフィナ。
《蓮さん》
「嫌な予感」
《明日の地下調査につきましては》
《日本政府側からも正式な立会要請がございます》
「仕事より強いやつ来た……」
最後。
リゼル。
《明朝七時にお迎えに上がります》
「もう決まってる!」
ミーナ。
《朝食はこちらで御用意いたします》
「完全に逃げ道塞がれた!」
俺。
ベッド。
倒れる。
明日。
ゲーム開始初日。
俺が。
何も知らず。
選んだ。
土地。
その下。
三十年以上前の榊原が。
《最初の門》
と呼んだもの。
掘る。
たぶん。
また。
何か。
出る。
「何も出ないって可能性ないかな」
王権端末。
一度。
光る。
《WORLD CORE》
《あります》
「会話聞いてたの!?」
続き。
《ただ》
《可能性は低いです》
「言わなくていい!」
明日。
俺たちは。
アステリアが建国されるより。
さらに古い。
最初の門を。
開けることになった。




