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サービス終了したゲーム世界から、元部下たちが現実へ帰ってきた  作者: てへろっぱ


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第52話 ゲーム開発より六年前の通信元を調べたら、基幹コードは『異世界からの返事』を読むために作られていた

『ここは、ゲームじゃない』


 ゲームが作られるより六年前、地球からアステリアへ送られていた十二秒の音声記録。


 その最後の一言が流れ終わっても、検証室ではしばらく誰も口を開かなかった。


 俺たちは今まで、《エルグランド・サーガ》というゲームが偶然か何かの理由で異世界と繋がったのだと思っていた。地球側の運営会社が世界を作ったわけではないことも、昨日WORLD COREとの会話で分かっている。


 だが、順番そのものが違ったらしい。


 ゲームができたから、アステリアと繋がったのではない。


 アステリアと繋がった何かが先にあって、その六年後に《エルグランド・サーガ》が始まった。


「小松原さん」


 壁面モニターの向こうで固まっている元運営社員へ声を掛けると、小松原さんはようやく我に返った。


「本当に、この日付より前にゲームの開発は始まっていなかったんですよね?」


『少なくとも、《エルグランド・サーガ》という企画は存在していません。サービス開始の四年ほど前に社内企画が立ち上がった記録までは、以前確認しています』


「じゃあ、その二年前」


『会社自体はございましたが、別のオンラインサービスを運営していた時期です。まして六年前となれば、会社の前身組織がようやくできた頃です』


 ますますおかしい。


 ノアは十二秒の音声そのものより、付随していた通信情報を夢中で調べていた。とはいえ、今回は勝手に何かを起動するのではなく、解析するたび水城さんへ確認を取っている。


 この数か月で、ちゃんと地球側の手順を覚えたらしい。


「ノア。送信元の場所までは分からない?」


「座標はない。でも、地球側の機械情報が少し残ってる」


「三十年以上前の機械まで分かるの?」


「今の機械の型番は分からない。でも、接続方式は分かる」


 空中へ表示されたのは、俺にはほとんど意味の分からない数字と記号の羅列だった。


 水城さんたち地球側の技術担当者がそれを記録し、小松原さんへ転送する。


 数分後。


 小松原さんの顔色が変わった。


『……これ、見たことがあります』


「どこで?」


『ゲームの基幹システムです』


 俺たち全員が画面へ視線を向けた。


『正確には、ゲーム本体ではありません。《エルグランド・サーガ》のワールドデータを読み込む、一番古い通信ライブラリの識別形式と似ています』


「通信ライブラリ?」


『プレイヤーの操作をサーバー側へ送り、変化した世界情報をクライアントへ返す部分です。ただ……』


 小松原さんは手元の資料を何度も確認しながら、困惑したように続けた。


『私が入社した頃には既にブラックボックス化されていました。古すぎて、誰も大きく触りたがらなかったんです』


「オンラインゲームなのに?」


『古いゲームでは、珍しい話ではありません。何年も継ぎ足したシステムには、動いているから触るな、という部分がどうしてもできます』


「それで十五年以上運営したの?」


『二十年以上です』


「急に怖くなってきた」


 俺が十五年間遊んだ世界を、運営側はかなり年季の入った謎のプログラムで支えていたらしい。


 ノアだけは妙なところで納得していた。


「地球人も同じ」


「何が?」


「動いてるから触らない」


「お前も古代魔導具でやってるだろ」


「私は分解する」


「もっと危ない!」


 少しだけ空気が緩んだ。


 だが、小松原さんの表情はまだ硬い。


『気になることがあります。この通信ライブラリには、社内で《レガシーブリッジ》という通称がありました』


「橋?」


『はい。何と何を繋ぐ橋なのか、私はゲームクライアントとサーバーのことだと思っていました』


「違った?」


『もし今の記録が本物なら……』


 小松原さんは十二秒の音声波形と、三十年以上前の接続情報を見比べた。


『最初から、地球とアステリアを繋ぐための橋だった可能性があります』


     ◇


 そこからは、日本政府を通じてアークライト・オンラインの合併先企業へ改めて協力要請が行われた。


 以前、共同管理者になっていた高城真琴さんを探した時にも、旧会社の資料を確認している。今回は個人情報ではなく、さらに古い技術資産の来歴が対象だった。


 幸い、会社の吸収合併時に「知的財産権関連資料」だけはかなり細かく保存されていた。


 一時間半ほどして、最初の回答が届く。


「ありました」


 水城さんが資料を大画面へ表示した。


《旧基幹ライブラリ取得記録》


《取得時期――エルグランド・サーガ企画開始二年前》


《取得元――境界情報処理研究プロジェクト》


「境界……」


「大学と民間企業が共同で行っていた研究のようです」


 研究はゲーム会社とは無関係だった。


 目的は《遠隔環境から受信した未知形式データを、人間が理解可能な仮想空間として再構築する技術》。


「待ってください」


 俺は説明文をもう一度読んだ。


「未知形式データを、仮想空間として表示する?」


「はい」


 水城さんも同じところを見ている。


「世界を作る技術ではありませんね」


「外から来た情報を、世界みたいに見せる技術?」


「そのように読めます」


 ノアがすぐ反応した。


「変換機」


 昨日、WORLD COREが説明していたことと同じだった。


 地球側のゲームシステムは、アステリアを作っていない。


 観測。


 解釈。


 入力。


 出力。


 双方の情報を、双方が理解できる形へ変換していた。


「研究プロジェクトの開始時期は?」


「初回接続記録の約一年半前です」


「じゃあ、ゲームよりずっと前から」


「はい」


 セレフィナが静かに資料を読んでいた。


「この研究者たちは、最初から異世界へ接続しようとしていたのでしょうか」


「それは違うようです」


 水城さんが次のページを開く。


 研究テーマは、複数の観測機器や遠隔地の計算装置が吐き出す膨大なデータを、人間が直感的に理解できる形へ変換すること。


 例えば、気象情報を仮想的な地形として表示する。


 ネットワークの状態を街のように見せる。


 機械同士の通信を、仮想空間内の物体の動きへ置き換える。


 そんな技術だったらしい。


「普通の研究ですね」


 リゼルが言う。


「少なくとも、最初は」


 水城さんが頷いた。


「問題は、この研究の途中です」


 ある日。


 実験用システムへ、送信元不明のデータが入り始めた。


 研究者たちは最初、装置の不具合だと思った。


 ところがデータは毎日変化する。


 昨日なかった建造物が現れ、人に似た反応が移動し、季節らしき周期まで存在する。


 研究者たちは、それを自分たちのプログラムが偶然生成した仮想世界だと考えた。


「……最初は、地球側もゲームだと思ったんだ」


「ゲームというより、シミュレーションに近い認識だったようです」


 俺と同じだ。


 目の前の向こう側に、本物の生活があるとは思わなかった。


 研究記録には、こんな文章まで残っていた。


《自律生成環境の発生を確認》


《内部個体は入力刺激へ非定型反応を示す》


《学習アルゴリズムの予期せぬ創発と推定》


「全部、プログラムの結果だと思ってる」


 俺が言うと、ノアが少し不満そうに画面を見る。


「失礼」


「向こうは知らなかったんだから」


「蓮も?」


「……俺もです」


 何も言えなくなった。


     ◇


 転機は、初回接続の日だった。


 正確には。


 地球側が《これは単なるシミュレーションではない》と疑い始めた日。


 研究者たちは、仮想空間として表示されていた世界へ簡単な刺激を送った。


 光。


 音。


 図形。


 決められた順番。


 反応を観察し、人工知能のようなものが存在するのか確認するためだった。


 最初は反応なし。


 しかし。


 三十七分後。


 世界側の一地点で、同じ図形が再現された。


「返事した?」


「そのようです」


 次に地球側は、別の図形を送る。


 また返ってくる。


 順番を変える。


 向こうも変える。


 さらに数字。


 単純な規則。


 そして。


 最後。


 地球側が意図的に間違った並びを送った。


 向こう側は。


 その間違いを訂正して返した。


「……それは」


 セレフィナが小さく息を吐く。


「偶然では説明しにくいですね」


「研究者もそう判断したようです」


 水城さんが当日の内部記録を表示する。


《受信側に知性が存在する可能性》


《実験を中断》


《対象への追加刺激を禁止》


《倫理審査を要請》


「ちゃんとしてる」


 思わず口から出た。


 分からないものだからこそ。


 勝手に触らない。


 その判断をした人がいた。


 そして、その直後。


 例の十二秒が送られている。


『――聞こえるなら』


『――返事を――』


『ここは、ゲームじゃない』


「これ」


 俺は気づいた。


「アステリアへ言ってたんじゃない?」


 全員が俺を見る。


「どういう意味でしょう」


「最初は、向こうへ《ここはゲームじゃない》って伝えたんだと思ってた。でも違う」


 音声記録をもう一度聞く。


 雑音。


 途中の言葉が欠けている。


「これ、自分たちへ残した記録なんじゃない?」


 小松原さんが画面の向こうで動いた。


『……確かに』


「接続先に送った音声じゃなくて、実験ログとして録音した?」


 水城さんが資料を確認する。


「音声ファイルは《送信情報》ではなく、《接続時受信情報に付随》としか記録されていません。送受信の方向は確定していません」


 昨日。


 俺たちは。


 地球からアステリアへ送った声だと思った。


 だが。


 もしかすると。


 研究者は。


 未来の誰かへ警告を残したのかもしれない。


「WORLD COREに聞けば分かる?」


 ノアが言う。


 俺たちは管理者通信を開いた。


《昨日確認した十二秒の音声は、あなたへ送られたもの?》


 返事。


《いいえ》


「やっぱり」


《地球側接続経路に保存されていた記録です》


「じゃあ、アステリア側では誰も聞いてない?」


《はい》


 リゼルたちに向けた言葉ではなかった。


「誰に向けた音声だったか分かる?」


《不明》


 そこまでは分からない。


 だが。


 研究資料の続きに。


 答えに近いものがあった。


     ◇


 初回接続から十二日後。


 研究プロジェクトは、一時凍結されていた。


 理由。


《接続対象を仮想環境と断定できないため》


 倫理審査。


 外部有識者への相談。


 実験参加者の限定。


 かなり慎重に進めようとしていたらしい。


 ところが。


 その三か月後。


 研究は終了している。


「何で?」


「予算打ち切り、とあります」


 よくある話に見える。


 成果が説明できない。


 再現性が低い。


 得体が知れない。


 研究費を出す側からすれば、続けにくかったのだろう。


 ただ。


 終了報告書の最後。


 一文だけ。


 妙だった。


《接続プログラム一式は破棄せず、封印保存とする》


「封印?」


「技術文書としては少し不自然な表現ですね」


 水城さんも眉を寄せた。


 さらに、その下。


《本システムは世界生成器ではない》


《受信したものを、我々が理解できる形へ変換しているだけである》


 ノア。


「正解」


「最初の研究者は分かってたんだ」


 少なくとも。


 最後には。


 世界を作っているのではない。


 向こうに最初から何かがある。


 そこまでは辿り着いていた。


 そして。


《将来、本システムを別用途へ転用する場合》


《接続先を架空世界として扱わないこと》


 俺は。


 嫌な予感がした。


「これ、ゲーム会社は読んでないの?」


「そこを確認しています」


 結果は。


 十分後に出た。


 アークライト・オンラインの前身企業が取得したのは、研究成果一式ではなかった。


 特許の一部。


 変換プログラム。


 通信ライブラリ。


 動作確認用データ。


 それだけ。


 倫理審査記録。


 内部実験ログ。


 音声。


 終了報告書。


 肝心の警告部分は。


 引き継がれていなかった。


「じゃあ運営会社は、本当に知らなかった?」


『少なくとも、私の知る限りでは』


 小松原さんが答える。


『我々はレガシーブリッジを、古い分散型ワールドシミュレーターだと教えられていました』


「世界を生成してると思ってた?」


『はい。膨大なワールドデータを自動生成し、プレイヤーの操作に応じて状態を変化させるシステムだと』


 実際は。


 逆だった。


 生成。


 していない。


 向こうにあるものを。


 読んでいた。


 アステリア側の現実を。


 ゲームの数字へ。


 クエストへ。


 イベントへ。


 NPCの会話へ。


 変えていた。


「俺」


 頭を抱える。


「月額料金払って異世界の行政やってたの?」


 ノアが即答した。


「そう」


「しかも十五年?」


「そう」


「給料は?」


「ない」


「課金して働いてた!?」


 セレフィナが口元を押さえた。


「蓮さん。私どもとしては大変ありがたいことですが」


「せめて逆に払って!」


「王国からでよろしければ」


「そういう意味じゃない!」


 リゼルまで笑っている。


 三十年以上前から続く世界間通信の謎を調べているはずなのに、急に俺の十五年間がとんでもない無償労働に見えてきた。


     ◇


「まだ一つあります」


 水城さんが言った。


 取得資料の中に。


 古いプログラムの名称一覧が残っていた。


《境界情報変換基盤》


《BUILD 0.8》


《接続対象識別名》


 そこに。


 英字。


《ELGRAND》


 俺。


 見る。


「……エルグランド」


 ゲーム名。


《エルグランド・サーガ》。


「ゲーム会社が付けた名前じゃなかったの?」


 小松原さんがすぐ確認する。


『社内資料では、開発初期からプロジェクト名が《ELGRAND》になっています。名称の由来は……』


 数秒。


『不明です』


「研究側の名前が、そのまま残った?」


「その可能性が高いですね」


 水城さんがさらに古い資料を開く。


 だが。


 そこにも。


 由来。


 ない。


 それどころか。


 初回接続より前の研究資料では。


《接続対象A》


 そう呼ばれていた。


 ELGRANDという文字が。


 初めて現れるのは。


 例の。


 初回接続。


 その翌日。


「誰が名付けた?」


 作成者欄。


 破損。


 名前。


 ない。


 本文。


《受信情報中の反復音声から、対象識別名を暫定設定》


「受信?」


 昨日の十二秒とは。


 別。


 接続先。


 向こう側から。


 何か。


 音が届いていた。


《音声復元率――十二パーセント》


《推定発音――ELGRAND》


「アステリア側の誰かが言った?」


 リゼルが首を横へ振る。


「エルグランドという名称を、私は存じません」


 セレフィナも同じだった。


「少なくともアステリア王国、周辺諸国、古代語のいずれにも、その名称は心当たりがございません」


「ノアは?」


「知らない」


 なら。


 どこから。


 届いた。


 WORLD COREへ確認する。


《ELGRANDという名称を知ってる?》


 返事。


《はい》


 全員の動きが止まった。


《何の名前?》


 数秒。


《私が維持している領域の名称です》


「……世界の名前?」


《近いです》


 アステリアは国。


 その外に。


 広大な世界。


 ゲームでは。


 大陸も。


 他のプレイヤー国家も。


 存在した。


《エルグランドはアステリアを含む?》


《はい》


《他の国も?》


《はい》


 俺は。


 以前。


 古いネットカフェの端末を見つけた時。


 考えた。


 アステリアが本当なら。


 他のプレイヤーが育てた国も。


 本当に存在していたのではないか。


「じゃあ」


 聞く。


《ゲームで表示されていた世界全体が、エルグランド?》


 返事。


《一部です》


「一部!?」


 ノアが。


 ものすごく。


 嬉しそうな顔になる。


「ノア、その顔やめて。絶対調べたいって顔してる」


「調べたい」


「今日は行かないからね」


「まだ何も言ってない」


「顔が言ってる!」


 世界。


 俺たちがゲーム画面で見ていた範囲すら。


 全部ではなかった。


     ◇


 そこから先は、さすがに一度調査を止めることになった。


 分かったことが多すぎる。


 ゲームより六年前。


 地球側の研究者たちは偶然、エルグランドと接続した。


 最初は仮想世界だと思った。


 だが、向こう側から知的な反応が返ったため、実験を止めた。


 研究終了後、一部の技術だけが企業へ渡り、警告や実験記録は引き継がれなかった。


 そして数年後。


 世界を読むための変換機は。


 世界を作るゲームエンジンだと誤解されたまま。


《エルグランド・サーガ》になった。


「事故じゃん」


 俺がまとめると、水城さんが少し苦笑した。


「かなり特殊ではありますが、大筋では」


「三十年以上続く事故?」


「そう表現すると非常に恐ろしいですね」


 しかも。


 そのゲームを。


 俺は十五年やった。


「ゲーム会社、悪者じゃなかったんだな」


「現時点の資料では、意図的に現実世界をゲームとして公開した証拠はありません」


 セレフィナが静かに頷いた。


「それは重要です。地球側の方々が事情を知らずに行っていたのであれば、我々もその前提で考えるべきでしょう」


「うん」


 知らなかった。


 俺も。


 運営も。


 たぶん。


 ほとんどの人が。


 ただ。


 最初の研究者だけは。


 気づいていた。


「その人たちは今?」


「そこを調べています」


 研究プロジェクト。


 三十年以上前。


 参加者。


 十一名。


 すぐに個人へ連絡するわけにはいかない。


 まず存命状況。


 公開論文。


 所属。


 研究記録。


 正式な手続き。


「急がなくていいですよ」


 俺が言う。


「三十年以上前の話だからって、いきなり家に押しかけたりしないでくださいね」


 四人。


 見る。


「何で我々を見るのでしょうか」


 リゼルが少し不満そうだ。


「実績?」


「蓮さんの御自宅へ伺った一件を、まだ」


「一万二千人連れてきたことは一生言うと思う」


「全員を玄関へ連れてきたわけではございません!」


「そこじゃない!」


 久しぶりに。


 普通に。


 笑った。


     ◇


 調査を終え、自宅へ戻ったのは午後八時過ぎだった。


 風呂に入り、遅い夕食を済ませてから。


 俺はベッドへ座ったまま王権端末を開いた。


 今日の記録。


 大量。


 全部読む気にはならない。


「今日はもう終わり」


 端末を閉じようとして。


 通知。


 一件。


《WORLD CORE》


「また夜?」


 昨日も。


 寝る前。


 来た。


 開く。


《質問があります》


「世界維持機構が質問?」


 少し迷ったが。


 危険な操作ではない。


 返信。


《何?》


 間。


《ゲーム》


《楽しかったですか》


「……」


 予想してなかった。


 WORLD COREに。


 ゲーム感想。


 聞かれた。


「何て答えればいいんだよ」


 十五年。


 長い。


 文句。


 いっぱいあった。


 アップデートが遅い。


 イベント報酬が渋い。


 バランス調整がおかしい。


 メンテ延長。


 何度も。


 掲示板で愚痴った。


 でも。


 十五年。


 続けた。


 サービス終了の日。


 最後まで。


 いた。


 だったら。


 答え。


 決まってる。


《楽しかったよ》


 送る。


 少しして。


《よかった》


 返ってきた。


「何でお前が安心するの」


 今度はこちらから。


 聞く。


《何でそんなこと聞いた?》


 返事。


 長い。


 十秒。


 二十秒。


《最初の接続者が》


《最後に聞いたからです》


 俺。


 起き上がる。


《何を?》


 WORLD CORE。


 答える。


《いつか》


《この窓の向こうを》


《誰かが世界としてではなく》


《遊びとして見る日が来るかもしれない》


 次。


《その時》


《向こうの人が》


《楽しいと思える場所なら》


《少しだけ安心できる》


「……」


 最初の研究者。


 接続を。


 止めた人。


《その人と話したことあるの?》


《一度だけ》


 俺の指が止まる。


 昨日。


 WORLD COREは。


 最初の接続者が。


 誰なのか。


 識別できないと答えた。


 でも。


 話したことがある。


《何を話した?》


 返事。


《彼は》


《私に名前を聞きました》


《私は答えられませんでした》


《だから彼が》


 表示。


《ELGRAND》


《そう呼びました》


「……」


 ゲームタイトルの。


 元。


 最初の地球人が。


 付けた。


 WORLD COREの。


 世界領域。


 名前。


《その人の名前は?》


 もう一度。


 聞く。


《識別情報はありません》


 やっぱり。


 分からない。


 でも。


 続き。


《ただ》


《彼が最後に残した情報があります》


「またあるの?」


《音声ではありません》


《文字です》


 画面。


 一行。


 三十年以上前。


 ゲームも。


 アステリア王国との交流も。


 何もない時代。


 最初に。


 世界の向こうを見つけた人間。


 その人が。


 WORLD COREへ。


 最後に残した文章。


《もし、いつか本当に向こうと話せる人が現れたら》


《俺たちが勝手に世界だと思ったり、ゲームだと思ったりしたことを謝ってくれ》


 その次。


《それから》


《向こうにも、こっちにも》


《ちゃんと人がいたと伝えてくれ》


 俺は。


 しばらく。


 画面を見ていた。


 三十年以上。


 遅い。


 本人が。


 まだ生きているかも。


 分からない。


 それでも。


 伝言は。


 届いた。


《分かった》


 俺は。


 返す。


《必ず伝える》


 WORLD CORE。


《ありがとう》


 そこで。


 通信。


 終わる。


 俺はベッドへ横になりながら、今日聞いた話をもう一度考えた。


 ゲームだと思った俺。


 シミュレーションだと思った最初の研究者。


 ワールド生成機だと思った運営会社。


 みんな。


 少しずつ。


 間違えた。


 でも。


 間違えたあと。


 気づいた人は。


 次へ伝えようとした。


「じゃあ俺も、そうすればいいか」


 三十年以上前の最初の接続者。


 まず。


 その人を。


 探そう。


 もし生きているなら。


 聞きたいことが。


 山ほどある。


 そして。


 たぶん。


 一番最初に。


 伝えなければならない。


 あなたが見つけた世界は。


 今も。


 ちゃんと。


 続いている、と。


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